夏の夕立は突然です。さっきまでカラッと晴れていたのに、突然にザっと大粒の雨が落ちてきます。もちろんほとんどの人は傘なんて持っていません。なぜなら今日は夏の真っ盛りですから、持ち歩くだけ変な目で見られてしまいます。
でも、今日は生憎の雨でした。さっきまで晴れていて、お日様が顔をだしていたのに、今はどんより雲の空。降りしきる雨は大粒で、地面をたたいてたたいて、水たまりをたくさん作っていきます。
そんな雨の中を軽快な足取りで歩く少女がいました。鼻歌を口ずさみ、綺麗な水色の髪を揺らしながらカラカラと下駄を鳴らす、そんな可愛らしい少女です。そうです、彼女こそ多々良 小傘ちゃんでした。
今日は見ての通り、お散歩にはあまり向かない日ではありました。それでも多々良 小傘ちゃんなら大丈夫。今日も今日とて彼女は紫色の傘を大きく広げて、商店街への道を歩いていきます。普段は茄のようだと言われる傘も大活躍です。
小傘ちゃんの耳にだだだだっと音が聞こえます。それは彼女の持つ傘を雨が打つ音です。なんだか、豪快で景気がいいような、そんな不思議な感覚に彼女はなりました。これがデキル女性の余裕というものかもしれません。
「あれ?」
おや、と小傘ちゃんは立ち止まります。見ると商店街の一角にある八百屋での軒下で雨をよけながら、空を見上げている少女が二人いました。一人は黒いワンピースに赤いリボンを付けた、金髪の少女です。もう一人は青い髪にキャミソールに短パンと動きやすそうな恰好をしている少女でした。
名前をルーミアとチルノと言います。ルーミアの手にはビニール袋が掴まれていて、膨らんでいます。中に入っているのはお菓子でしょうか、それともお使いで頼まれたものかもしれません。
ルーミアはその眼を空に向けながら、じっとしています。一方のチルノはふぁああと大きな欠伸をしています。どうみても二人は雨で帰れず、立ち往生しるようです。
そこで小傘ちゃんはにんまり笑います。彼女はカラカラ下駄を鳴らしながら、二人に近づいていきました。
☆☆☆
傘の下がにぎやかになりました。小傘ちゃんは真ん中で傘の柄を持ってささえています、その両脇にチルノとルーミアが歩いていました。三人もいるのに彼女達は傘の下でしっかりと守られています。
小傘ちゃんはドヤぁと自分の傘の大きさを誇りました。口には出しませんが、にやけた口元がとても得意気です。その時にチルノが「なすび」と謎の単語を言いましたが、小傘ちゃんの耳には届きませんでした。雨音で消されてしまったのでしょう。
三人は商店街を歩いていきます。行き交う人々は傘も持たずに濡れていることが多いです。それは夏の真っ盛りでは仕方がないことなのでしょう。ただ、小傘ちゃんは彼ら、彼女らを心配そうに見てしまいます。そのあたり、純朴なのかもしれません。
おや、前から誰かが歩いてきます。小傘ちゃんが見ると、それはどことなく見覚えのある顔でした。それは一人の少女です。頭は癖のある金髪で、ショートボブ。肌は白いですが、雨に濡れた髪が張り付いています。そして少し透けたシャツの上から何故かエプロンを着ていました。
その少女も目つきは少し怖いです。前髪が僅かに長く、顔色が暗い印象になってしまっています。それに髪が顔に張り付いていることで一層怖くなっていました。彼女は小傘ちゃんを見つけると、傘に「嫉妬」するかのように爪を噛みます。よくよく見ると、腕にビニール袋をかけているので彼女もお使いの帰りだったのでしょう。サツマイモの頭が見えました。
彼女の名前は水橋 パルスィと言います。そこで小傘ちゃんもあっと思いだして、料理人の人だと分かりました。今のパルスィはそんな肩書で認識されているのです。
パルスィは濡れています。それに空からは雨が降り続いていました。小傘ちゃんは流石に見捨てることはしません。そもそも「見捨てる」なんて思いつきもしませんでした。
でも、傘は満杯です。これ以上入れては元も子もありません。つまり、
――本日のクライシスです。小傘ちゃんの傘でみんなを守れるのでしょうか?
「ふ、っふふ」
雨は降り続いています。でも四人は傘の中で仲良く、雨宿り。そうです、小傘ちゃんはやりきったのでした。それは簡単な方法で解決することを明晰な頭脳を持つ小傘ちゃんにはわかっていました。最初の笑い声は彼女の物です。
傘はパルスィが持っています。実は小傘ちゃんの半身なので、あまり他の者に預けるとまずいですが、この場合は仕方ありません。でも、それでは二人の少女か小傘ちゃんが外に出なければならないでしょう。
でも大丈夫。小傘ちゃんはルーミアをおんぶしました。そしてチルノをだっこしています。あとかと、片方だけでいいことに気が付きますがこれでいいのです。なんといっても小傘ちゃんは今日一番の得意顔ですから!
小傘ちゃんははあはあと言いながら、よろよろとなりながら歩きます。パルスィは濡れているのでだっこもおんぶもできません。だっこされているチルノは「頑張れっ! タウリンよ!」 と最近覚えた言葉で応援します。
ルーミアは無言でぎゅっと抱き付いてきます。小傘ちゃんの手がチルノをだっこしているのでそうしないと落ちるのです。
ところで夏の雨は短いことで有名です。少しずつ、少しずつ雨が弱くなっていきます。
さっきはだんだんと水たまりが広がっていましたが。今は晴れ間が広がっていきます。厚い雲がちりじりばらばら、青い空が顔を出して覗き込んでいます。そうすると小さく、小さく蝉の声が聞こえてきました。
商店街を抜けるころのことです。とある交差点にさしかかりました。そこまで来ると、みーんみーんと蝉の元気な合唱が聞こえます。そう、ここまで来ると小傘ちゃんの体力は限界だったので彼女はパルスィに傘を閉じてもらいました。
傘に遮られていた視界が広がっていきます。見上げると入道雲が遠くに見えて、さっきまで雨を降らしていた「わるい雲」は空の端っこにいました。それにお日様もにっこり顔をだしています。
でも、小傘ちゃんは言いました。
「虹だわ!」
青い空にかかる七色の橋がすうっと空の果てまで――伸びていました。