炎で焼き尽くす! The Fire Emperor 作:海原に住まう者
「へ~、お前がその危険種を専門に狩っている村の住人なのか」
「うん。正確には、私はその村の長の娘なの」
「マジか!? エスデスってお姫様だったのか!?」
「い、いや、さすがにそこまでじゃないけど……」
あの後、俺は少女――エスデスから肉(尻尾の先っちょ)を少し分けてもらい、どうにかこうにか命をつなぐことができた。
そこからエスデスとはお互いについて色々と話し合い、現状のように仲良くなった。
「そういえば、あなたの名前を聞いてなかったわね。なんて名前なの?」
「名前? ……あっ」
そういえばまだ自己紹介してなかったな。すっかり忘れてたけど、これって前世の名前使ってもいいのかな?
……いや、新しい人生なのに前世と同じ名前ってのもなんか過去を引きずってるぽいしな。
やはり新しい名前にするべきだよな。どんな名前にしようか……
「?」
「あぁ、ごめん。なんかド忘れしてるぽくてさ」
「自分の名前なのに? なんか変わってるね、あなたって」
「そ、そうかな? ははは……」
確かに名前を忘れるってのも変な話だが、俺としては過去の決別の意味合いとして名前を変えたいわけなんだよ。
でも中々いい名前が考え付かないんだよな。今は頭の中でアニメキャラとかドラマキャラとかの名前を思い出している最中なんだが、なんかしっくりとこないんだよな。
「……本当に思い出せないの?」
「わ、わるい、どうもそうらしい」
するとエスデスが俺の顔を覗きながら、 心配そうにそう言ってきた。
しかも反射的に名前を忘れたと言っちゃったし。どうにかして早く言わないと……
「それじゃあ私がつけてあげる!」
「……はぁ?」
「だから、私があなたの名前を付けてあげるって言ってるの!」
俺が必死に考えていると、エスデスが突然そう言ってきた。
いきなり何を言っちゃてるんだこの子は……と俺は一瞬思ったが、ある意味これはいい機会だと考えた。やはりこの世界にあった名前を考えるなら、下手に変な名前を自分でつけるよりも、この世界の住人に聞いた方がいいからな。
「じゃあ、お言葉に甘えるか」
「やったー! ええと、それじゃあ……」
満面の笑みで喜んだエスデスは、俺のために必死に名前を考え始める。
「(なんか、俺って幸せだな……)」
そんな光景を見ながら、俺はまるで父親のようにエスデスを眺める。
途中、ポチとかサザーランドとか物騒なのが聞こえてきたが。まぁそれは考えないようにしとこう。
「……よし、決まったわ!」
それから数分後、エスデスがそう叫んだ。
「あなたの名前は『エース』よ! どう、かっこいいでしょ?」
「エースか……うん、いい名前だ。ありがとう」
たしかルフィの義理の兄だったよな。強かったし、俺も好きなキャラだったから覚えてる。死んじゃったのは少し……いや、かなり悲しかったけど。
爺さんの言っていた俺の『帝具』ってやつも炎系のやつだったし、なんか縁を感じるな。
「じゃあ改めて自己紹介するか。
――俺の名前は『エース』。年は(たぶん肉体年齢だと)9歳だ。よろしくエスデス」
「うん! よろしくね、エース!」
この瞬間、俺はこの世界で初めて生を受けた気がした。そして、初めて会った人がエスデスで良かったと心底思った。
最初はこんな極寒地に送り込んだ恨んだが、今は感謝してるぜ爺さん!
「行こうエース! 村の人に紹介するわ!」
そう言うと、エスデスは待ちきれんばかりに俺の手を引いた。無論、俺はそれに抵抗せず成すがままにエスデスの後についていった。
ついでにエスデスの仕留めた獲物も、俺がちゃんと綱を持っているぞ。
なんか忘れてたぽかったし。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
エスデスに手を引かれ20分、俺はエスデスが住んでいるという『パルタス族』の村に到着した。
しかし、ここで少し問題が起きた。
「お前、どこの村のもんだ?」
到着して早々、俺は村の長にしてエスデスの父親に尋問された。
しかも正座をさせられながら、周りには村人たち付きで。
「だから、気が付いたら吹雪の中に倒れていたんですよ」
「んな嘘はいいから早く言いな。俺だってあまり子供を痛めつけたくはない」
「だから知らないんだって!」
ご覧のとおり、村の人たちは俺の話をまったく聞いてくれないのだ。
エスデスがいれば少しは聞き入れやすくはなるだろうが、生憎と彼女は別のところにいる。
一難去ったかと思えばまた一難……正直、もうこの世界に疲れ始めた。
「……はぁ、これ以上は無駄のようだな。なら今度は質問を変えるが、なぜお前はエスデスと一緒にいたんだ?」
「腹が減ってたからエスデスの「気安く名前で呼ぶな!」……あなたの御嬢さんが仕留めた猛獣の肉を食べようとしたら、御嬢さんが断ったので強行手段に出たまでです。その証拠に、その猛獣の尻尾の先っちょが無いでしょ?」
俺がそう言うと、長も含め村の人たちもエスデスが狩った猛獣の方へと目を向ける。
すると猛獣の解体をしていたエスデスがビクッとなった。可愛いけど、ナイフの先に巨大な目玉が無ければもっと可愛かった思う。
「……どうやら、これは本当らしいな」
「嘘なんて一回もついてませんよ「だがな……」な、なんですか今度は?」
これで疑いの目は晴れたと思ったが、長はさっき以上にするどい眼光を俺に向けてきた。
まだなんかあるのかよ? と、ダルそうな目で長を見た途端――
「強行手段とはどういう意味だ!? 俺のエスデスにいったい何を……ま、まさか、破廉恥なことをしてエスデスを脅したのか!?」
「いきなりなにを言うんだあんたは!?」
なにを言い出すかと思えば、このおっさん頭がおかしいだろ!?
どうやったらこんな発想にいたるんだよ!?
「つーかそんな最低なことするわけないだろ!」
「いいややったね! じゃないとエスデスがお前みたいなクソ餓鬼に負けた理由がつかん!」
「誰がクソ餓鬼だ! 俺にはエースという立派な名前があるわ! よぉく覚えとけこの『ヒゲ』!」
「ひ、ヒゲだと!?」
「ダサい剃り方しやがって! 顎がしゃくれて見えるぞ!」
「な、なん、だと……ッ!」
自分のセンスを馬鹿にされたことがよほど堪えたらしく、長はその場に手をついて
周りにいる村の人たちも俺と同じ気持ちだったらしく、クスクスと笑っていた。
「ヤハハハッ! 勉強して出直してこい!」
「こ、この餓鬼ィ!」
すると長はなにをとち狂ったのか、腰に差していた剣を抜いて涙目になりながら俺に向けて振りかぶった。
それを見た村の人たちは長の暴走をとめようと、長を抑え始める。
「どけぇ貴様ら! この餓鬼を斬らないと俺の怒りが収まらん!」
『お、落ち着いてください長殿!』
『気をたしかに!』
『相手はまだ子供ですよ!』
「うるせぇぇぇええ!!!」
しかし長は力ずくで押さえつけていた村の人を振り払い、俺の方へと近づいてきた。
……って、なんで俺は冷静に見ているんだ!?
「お、落ちつけ! なにもそこまでキレることでないだろ!?」
「お前には分からん! 俺の汗と涙の試行錯誤を!」
「し、試行錯誤!?」
その言葉に、村の人たちもざわめき出す。
「そうだ! 狩りの時間を犠牲にしてまで、いったいどれだけの時間をこのヒゲに費やしか……それを侮辱した貴様だけは絶対に許さんッ!」
「……お前、実はアホだろ。周り見てみろよ」
「お前にアホと言われる筋合い…は……な…い…」
言い終わる前に、長の勢いが失速した。
なぜなら村の人たちが一斉に長の方へと侮蔑の目をむけていたからだ。
「お、お前ら、なんだその目は?」
『だって、いつも俺達には厳しくするくせに』
『自分だけ仕事サボってヒゲの手入れをしているなんて』
『その割に全然かっこよくないし』
『恥ずかしくないんですか?』
『……失望しましたよ、長』
「(ガーンッ!)」
村の人たちが口々に長の悪口を言い放つ。
その光景に唖然している長は持っていた剣を落とし、いつの間にか俺の隣にいたエスデスへと目を向け、弁解するようにエスデスに話しかけた。
「ち、ちがうんだエスデス。これは何かの間違い「お父さん」……な、なんだ?」
「そのヒゲ、ダサいよ」
「エスデスゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウッ!!!!(がくっ)」
しかしそれも残念な結果に終わった。
エスデスが冷淡にそう言い放った途端、長は娘の名前を叫びながら電池が無くなったロボットのようにバタリと倒れた。
「なんか、可哀そうなことしたな」
「なにが可哀そうなのよ? 仕事をサボったお父さんのせいだ。エースのせいではない」
『『『『うんうん』』』』
エスデスに続くように村の人たちも頷く。
「村のリーダーをそんな粗末に扱っていいのか? まぁ村の人たちがそれでいいなら、これ以上何も言うつもりはないが……」
「なに言ってるのよエース、あなたもこの村の住人よ?」
「……えっ?」
一瞬、俺はエスデスの言ったことが理解できなかった。
「だから、もうエースも村の住人なの! どうせ行くあてもないんでしょ?」
「確かにそうだけど、いいのか? 俺がこの村にいても」
「なに言ってるのよ! いいに決まってるじゃん!」
「でも、村の人たちの意見はどうなんだよ?」
「皆も私と同じよ。そうでしょ?」
エスデスは周りにいる村の人たちを見て、そう言う。
『そうだな。異論はないと思うぜ』
『長はともかく、俺達はなんら問題ないぜ』
『つーかエスデスから肉を奪い取ったんだろ? 力量としては十分なもんだろ』
「あ、あれは油断しただけで、万全な状態なら私の方が上だぞ!」
『でも取られたんだろ?』
「――!」
エスデスが顔を真っ赤にすると、村の人たちは笑い始めた。
俺も皆と同じように笑った。
本当はすぐにこの村から出ようと思ったが、皆がここにいてもいいと言うならお言葉に甘えようと思う。
……だが、本当に村のリーダーたる長を無視してもいいのか?
『『『「大丈夫。まったく問題ない(わ)」』』』
「心を読まれた!?」
さすが危険種専門の狩猟民族だ。やることが人外すぎるぞ!
その後、村の人たちは俺のために歓迎の宴を開いてくれた。
その途中で目を覚ました長がまた暴走したが、エスデスと村の人たちが必死に説得してくれたおかげでどうにか納得してくれた。
そうして、俺は本当の意味での村の住人――パルタス族の一員となった。