炎で焼き尽くす! The Fire Emperor 作:海原に住まう者
あれから4年の月日が流れた。
俺は13歳になり、パルタス族として危険種を狩る日々をおくっている。今では特級危険種(主にエビルバード)も楽々に倒すことができる。
時間はかかったが
そして今日も、いつものように朝から長のマンツーマン指導をうける。
今は俺専用のテントの中でグータラしているが、もうそろそろ長が
そのため俺は再度、装備しているものを確認する。
「剣も研いだし、予備の短剣も腰にある、服もばっちり……今日もきまってるぜ」
あとは奴が来るのを待つだけだ。
「……きた」
奴の気配を感じる。どうやらテントの周りで俺の様子を伺っているようだ。
だが動きが丸見えだぜ。これでも俺は『覇気』の訓練もしているんだ!
完璧ではないが、長程度のなら見聞色の覇気で感知できるほどまで使いこなせることができるぜ!
「……ん? 数が増えた?」
そんなことを思っていると、突然気配が二つに増えた。
一人は長と分かるが、もう一人が誰かが分からない。というか、元来この見聞色の覇気は気配を感じるだけで、特定の相手を見極めることはできない。
俺が長だと分かったのは毎朝起こしに来るのが長というだけで、覇気を使って感じ取ったわけではない。
「だが、数が分かるなら俺のもんだ。これでも俺は村の中でも実力者だからな」
ついでに一番強いのは狩猟である長だ。
超級危険種じゃない限り倒せるのなんていないと思うほど長の実力は凄い。
――ぱきっ
『隙ありだ!』
「甘いぜぇ!」
小枝が折れる音がした刹那、俺は瞬時に抜刀して突っ込んできた長の攻撃から身を守った。
「へへっ、毎度同じパターンにひっかかる俺じゃないぜ!」
「どの口が言いやがる。やっとこさ俺のスピードについてこられたんだろうが」
剣と剣がこすれあい、俺と長は互いににらみ合う。
やはり真正面からきやがったか。だが、物思いにふけってるところで仕掛けるとはな。やけにタイミングがよすぎる気がするが……初めて長の斬撃をまともに防ぐことができたぜ。
日々の鍛錬のおかげだ。
「このまま押し切ってやる……!」
俺は剣を握りしめ、腕に力を込める。
「へぇ、今日はやけにせめてくるじゃねぇか。だが、今日はいつもとは違うぜ?」
「あぁ? 何のこと……ッ!?」
その瞬間、テントの出入り口から何者かが突っ込んできた。
そういえば長の他にもう一人いたことを忘れてたぜ。
「って、エスデスかよ!?」
突っ込んできた者の正体、それは素手で殴りかかろうとするエスデスの姿だった。
「気を抜くな!」
「やべっ!?」
エスデスの登場に驚いた俺は剣に込める力を緩めてしまい、長の力に押され体制を崩してしまった。
「いくよエース!」
「ちょ、たんまエスデ「やぁ!」ぶふぉ!?」
そして防御の体制をとれないまま、俺はエスデスのパンチを顔面に直接食らい吹っ飛んだ。
「はははっ! お前もまだまだだな!」
「ダメだよエース、途中で気を抜いたら」
「く、くそ、卑怯だぞ……!」
鼻血を流しながら倒れている俺に、二人が見下ろしながら俺にそう言ってきた。
「何を言いやがる。これも強くなるためだ、しっかりと身につけろ」
「……ちっ、分かったよ」
舌打ちをして不満そうに起き上がろうとすると、エスデスが微笑みながら俺に手を差し出した。
「サンキューな、エスデス」
「ふふっ、どういたしまして」
それを素直に受け取り、俺は立ち上がった。
そしてそのまま朝練をしようとテントから出ようと「ちょっと待てやエース」することはできなかった。
「何だよ? 早く朝練を始めようぜ」
「いや、その前に聞きたいことがある……お前、なに俺のエスデスに手出してやがるんだ?」
「またそれかよ!? 過保護にもほどがあるぞ!」
「親が子を思ってなにが悪い! つーかこの前も言っただろうが! エスデスには触れるなよと!」
「今回は仕方ないだろ!」
まったくこの親父は! 少しエスデスに触れたぐらいで怒りやがって。
大体、今回はエスデスの方から手を差し出してきたわけで、俺からやったわけじゃないだろ!
娘を思うのは親として当然だと思うが、そのせいでエスデスは俺以外の子供とは喋られないんだぞ!
「お父さん! 私たちに大事な話があるんでしょ!」
すると突然、エスデスが少し怒りながら長にそう言った。
「おぉそうだった、すっかり忘れてたぜ」
そう言いながら長はその場に座ると、俺とエスデスにも座るように言ってきた。
そして長はしばらく目を閉じていると、今度は神妙そうな顔つきで俺達を見てきた。
狩り以外はいつもおちゃらけている長がここまで真剣になるとは、どうやらかなり深刻な話ぽいな。
「二人とも、心して聞けよ」
長の言葉に、俺とエスデスは自然と真剣な眼差しになり注意深く耳を傾けた。
そして長が口を開いた瞬間、俺は一瞬だけ放心状態になるほどの衝撃をうけた。
「――ここからそう遠くない場所に『氷海』という所がある。そこに『超級危険種』が出現した」
「「ッ!?」」
超級危険種――危険種の中で最も危険度が高いと称される怪物中の怪物。
中には一国を滅ぼすとされる奴もいるらしい。
だがどうしてこの地域に超級レベルが出現したんだ? 確かに危険種が多い地域ではあるが、今まで超級が現れた例なんて過去にもなかったはずだ。
「それでどんな奴だったの?」
「……わからん」
エスデスの問いに、長はそう呟いた。
そしてさっき以上に深刻な表情で言った。
「今回現れた奴は今まで見たことのない危険種――つまり『新種』だ」
「「し、新種!?」」
「あぁ。聞いた話によると、黄金のような外殻にクリスタルのような結晶が生えているらしく、風と光を操るとのことだ。
――すでに討伐に向かった他の村では30人以上が死んだらしい」
作り話と思うほどの事実に、俺とエスデスは唖然とした。
「そこで近隣の村同士が共同で討伐するという話になった。
……噂では、北方異民族のクソ共も参加するとのことだ」
「北方異民族までも参加するのかよ……」
北方異民族とは、俺達の住んでいる北方の中で最も支配力の強い民族のことだ。
だが近隣の集落を襲撃しているため、俺達パルタス族はそいつらのことをかなり毛嫌いしている。
「つーわけで、俺達の村からも何人か屈指の実力者を向かわせることになった。
その中にお前らが入っている」
「わ、私とエースが!?」
「落ち着けよエスデス」
驚きのあまりエスデスはその場に立ち上がって叫んだが、エスデスの顔にはどこか嬉しそうな表情が見えた。
俺は正反対にクールを装っているが、自分も討伐隊に入っていることに内心かなり驚いている。
「本当は死んでも困らない優秀な奴を連れて行きたいが、死ぬ確率が低いことを優先すると、危険察知能力が長けているお前たちの方を選んだ。
……悪いな。めんどうな役を背負わしちまって」
「まぁ、たしかに面倒な役だな。だけど――」
「村のためだもん。私もエースも精一杯がんばるよ!」
申し訳なさそうな表情で謝るように言ってきた長に対し、俺達は笑顔で返事をした。
「……ありがとな二人とも。だが無茶はするなよ? 俺も行くからヤバいときはすぐに後退しろ。いいな?」
「勿論そのつもりだ」
「そう簡単に死なないわよ。私とエースのタッグは最強なんだから!」
「いやいや、相手は仮にも超級危険種だからな? そこら辺の特級危険種と一緒にするなよ?」
「……特級危険種をそんな雑に扱うお前も十分おかしいぞ、エース」
「えっ、そうなの?」
特級危険種ってそんなに強かったか?
「……いや、何でもない。とりあえず明日の朝一に村を出る。それまで準備をしとけ」
「「りょーかい(はーい!)」」
そう言い残した長とエスデスはテントから出て行った。
にしても超級危険種か……話によると特級と超級はかなり差があると聞いたが。
「死なない程度にやるか」
それにエスデスは少し浮かれ気分だったし、俺がちゃんと監視してないとな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――翌朝
俺とエスデスと長、その他数十人の実力のある村の人が集まり、周りには俺達を見送ろうとする人たちがたむろっていた。
「お前ら、準備はできたか?」
長の問いかけに討伐隊に選ばれた人はそれぞれ返事をした。
「……もう一回言うが、今回の戦いで死ぬ奴が出てきてもおかしくない。
今のうちに家族と話したい奴がいるならしてこい」
しかし今度は誰も返事をしないで、討伐隊の人たちは長の方をジッと見つめていた。
それぞれ色んな感情が読み取れる目をしていたが、誰一人として恐れている目をしている者はいなかった。
「返事はない、か……じゃあ後のことは頼んだぜ」
『あぁ、わかってる。
……倒すことも大事だが、一番肝心なのは生きて帰ることだ。お前らも無理はするなよ』
「へっ、お前が言える立場かよ」
長はこの村で二番目に地位のある人と話した後、討伐隊の方を再び見た。
「――いくぞッ! お前ら!」
――オオォォォ!!!
そして長が号令を出した後、俺達は村を出た。
後ろでは泣いて祈っている人もいれば大声で喝を入れる人もいた。
討伐隊の人も村に残る人も、みんなそれぞれの思いを胸に抱えて今回の討伐へと向かっているはずなのだが――
「どうしたのエース? もう緊張してるの?」
「……まぁな」
「はははっ! 大丈夫だよ、エースは私が守るから」
「そういうお前が一番危なっかしいんだよ……」
張りつめている空気の中、エスデスの表情は相変わらず楽しそうだった。
まったく少しは緊張感ぐらい持てよ。相手は仮にも超級危険種で、しかも新種かもしれないんだぞ。
おまけに死者はすでに70人を超えたそうじゃねぇか。
弱肉強食を心構えにしている俺達パルタス族とて、仲間の死はそう簡単に乗り越えられるものじゃない。
前世が日本人だった俺はなおさらだ。長やエスデス、他の村の人たちとは違って「こいつが弱かったから死んだ。それだけだ」で割り切れるほど俺の心は強くない。
だから俺は一つだけ自分で心構えしていることがある。
――この世は弱肉強食。ゆえに強者が弱者を守る。
いつも長やエスデスに言うと笑われるが、大事な人を守りたい俺が100%守りきるためにつくった俺自身のルールだ。
だから俺は大事な村の人を、最終的に村の住人として向か入れてくれた長を、そして死んで初めて理解できた知人がいないこの世界での『孤独感』を埋めてくれた『エスデス』を、全力で守りたい。
「なぁ、エスデス」
「ん? いきなり改まってどうしたの?」
「……お前のことは、俺が絶対に守るからな」
「っ!!!」
俺はエスデスの眼を見ながら、はっきりとした声で自身の心構えを告げた。
すると何故かエスデスの顔はみるみる紅潮し、もじもじと俯いたまま何も言わなくなった。
「えーと、なんか気にでも障ったか? それなら謝罪するが……」
「そ、そうじゃないよ!? ただ、その……いきなりだったから少し驚いただけ。気にしないで」
「……まさか照れたのか?」
「――!」
俺がそう言うとエスデスの顔は真っ赤になり、口をパクパクさせていた。
「はは~ん、図星というわけか」
「ち、違うわよ! 誰がエースなんかに言われて照れるのよ!」
「はいはい。そういうことにしてやるよ」
「……も、もう知らない!」
エスデスは頬を膨らませながらプイっと顔をそむけた。
いつもは狩りだの鍛錬だの、女の子っぽさを見せないエスデスだが、この瞬間だけはときめいた。
まさかエスデスが『ツンデレ』だったと誰が思うだろうか……?
そんなことを思いながら、討伐隊は目的地の氷海へとどんどん進んでいった。
途中で他の村から来た討伐隊と合流したり、機嫌がよくなったエスデスと話したりして、とても今から超級危険種と戦うという空気には感じなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
~氷海:着~
村を出発して半日、俺達は目的地の氷海の手前の集落に到着した。
すでに他の村から来た討伐隊もそれぞれの場所に陣地をおいて、そこで休憩していた。
「俺は村のリーダー同士の話し合いがあるから、お前らは適当にくつろいでろ」
長はそれだけを言い残し、一際大きい建物の方へと歩いて行った。
「ふ~ん、色んな村から来てるんだね」
「そうだな。ザッと20ぐらいはあるかな」
俺とエスデスは着いて早々他の村の討伐隊を観察し始めた。
しかしどこの討伐隊を見回しても、子供は俺とエスデスの二人しかいなかった。
「でもみんな弱そうだね!」
「声がデカいわ!」
「むぐっ!?」
いきなりエスデスが爆弾発言したため、俺はすぐにエスデスの口を手で封じた。
だが運よく聞こえていなかったのか、周りを見渡す限り誰もこちらに目を向ける人はいなかった。
「……ぷはっ! いきなり何するのよエース!?」
「お前こそいきなり何を言い出すんだこのアホ! もし聞こえでもしたらどうするつもりだ!?」
「だって本当のことだもん!」
「このドアホォォォ!!!!」
「(ゴツン!)いたぁ!」
俺がエスデスの頭にげんこつを落とすと、エスデスは少し涙目になりながら此方を睨みつけてきて何か反論しようとしてきたが、エスデスが口を開く前に周りに聞こえない程度に怒鳴りつける。
「いいかエスデス、世の中には本当のことでも言っていけないことがるんだよ! あの人たちだって一生懸命努力してやっとこさ討伐隊に選ばれるほどの実力をつけたんだよ! 少しは相手のことを考えて発言しろ! つーか、もう絶対に俺以外の人の前で言うんじゃねぇぞ! わかったか! いや、わかれッ!」
「は、はいぃ……」
エースの突然の説教に驚きながらも、エスデスは心の中で「発言するときは気を付けよう」と誓った。
そしてエスデスの素直な返事に満足したエースは「荷物を下ろしてくる」といい、一番隅っこの小さな合掌造りの家へと歩いて行った。
それを眺めるパルタス族の討伐隊は、心を一つにして思った。
『(いや、お前が一番失礼だろ……)』
その後、話し合いが終わった長がみんなに連絡事項を伝え、その日はお開きになった。
誤字・脱字があったら教えてください。
PS:まさかたったの三話でお気に入りが20件を超えるとは……まったくの予想外でした。
あたたかいご感想・ご指摘にも感謝です!