「ですから、今の政治は変わって、あなたが望んだ理想的なものになったんですよ」
少年、黒野夜月は一人の中年男、満本賢次に話す。
「確かに、あなたは昔選挙を辞退することになってしまいました。ですが、あの後、あなたの意志を継ぐものが現れて、その人が選挙で支持を集めました」
夜月の話に賢次は「そうなのか………」と言い少し嬉しそうな顔をする。
「あなたがいてくれたから、今の素晴らしい政治があるんです。そしてーー」
台詞を続けとようした夜月を賢次は止める。
「もういいよ。それが聞けただけでもう……。ありがとう少年。もう心残りは無いよ」
そう言った瞬間、賢次の体は光だし、光が消えていくと同時に、賢次の姿も消えてしまう。
夜月はしばらくの間、その光を眺めていた。
「おーい。やーづきー」
不意に自分を呼ぶ声がする。夜月はその声がする方を向く。
「よう。虎徹」
夜月は声をかけてきた少年、大南虎徹に軽く返事をする。
「よう、じゃねえよ。お前、今日バイトじゃないのかよ?」
「ああ。バイトならさっき終わったところだ」
「ふーん。なんのバイトしてるかって聞いても、どうせ教えてくれないから聞かないでおくよ」
そう言って、虎徹は小さく笑う。
「けど、一ついいか?」
「別にいいけど、なに?」
「お前、さっき何やってたんだ?一人でなんかしゃべってただろ?」
刹那。夜月の身体は硬直する。そして、額から汗が流れ始めた。
「………最近の流行りの曲を鼻歌交じりに歌ってただけだけど………」
そんなの、もちろんウソだ。
「そうなのか?」
「そうなんだよ」
「そんなふうには見えなかったけど………」
「それは気のせいだ」
間髪入れず夜月は虎徹の台詞を無理矢理止めた。そして「それより」と夜月は言葉を続ける。
「お前、なんでこんなとこでのんびりしてていいのかよ。どこか行く途中じゃないのか?」
すると虎徹は突然何かを思い出したかのように慌て出した。
「やっべ!今日、楽しみにしてたシリーズものの、新作ゲームの発売日だったんだ!じゃあな、夜月」
別れの台詞を言い、虎徹はすぐさま、目的地まで走り始める。夜月はその背後姿を見送っていた。
夜月と虎徹の距離がニ0メートルほど離れたところで、虎徹が突然、脚を止め振り返り、手をメガホンのように口にあてる。
「夜月ぃぃぃ!一人で鼻歌交じりで歌うのが悪いわけじゃないけど、さっきのお前、なんか変人っぽかったぞぉぉぉ!」
虎徹はそう言い残し、また走り始める。
(うるせえ。余計なお世話だよ)
だが、それは仕方ないことなのだと夜月は思っている。
夜月と虎徹は良き親友だ。だが、親友でも話せないことなんていくらでもある。だから、虎徹は夜月の事情を知らないのだ。
虎徹は夜月が一人でいたと思っていても仕方ない。なぜなら、夜月が虎徹と会うまでに話していた男、満本賢次は幽霊なのだから………。
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