好きなように書く艦これ小説~タウイタウイのうさぎ姫~ 作:はあしー
第二羽:反撃のプロローグ
昏い、昏い、どこまでも。
叡智を築き正義を語り英雄を謳う。
凄惨を極めた戦の傷はむしろ精神に負いて。
殺意の波動は凶弾となり命を穿つ。
生への渇望により湧き出る衝動を抑えることができなかった。
兵器としての天啓を受け、戦うことでしか意味を成さぬこの体で打ち止めとは、もはやゴミクズの価値でしかないのだ。
だが、共に散りゆく兵士達に果たして価値はないのだろうか。
せめて志ある者だけでも。
どうか命を。
・・・そんなことはもう分かっていたのに。
静寂を破るように巻く激流は幼女に集う。
後の歴史語りから悲劇と叫ばれたその物語の終焉は欠片の光さえも塗りつぶされた海底にあった。
戦により散ったはずの鉛色の思念は現世に降り立ち、性的な肉体を得た。
煌々とした真紅の髪から肢体にかけ瑞々しい光の雫が伝う。一糸纏わぬ姿で、僅かながらに起伏を確認できる華奢な肉付きがとても愛らしいく感じる。鈍い蛍光色の膜が海に溶け出し、幼女の朱色く染まる乙女の柔肌が露出する。胎児のように小さく丸まっていた彼女は嗜めるように身体を動かす。
手探りの記憶の中でもう一度決意を。
生まれた意味を導くために再度彼女は拳を握る。
その掌にはかつての戦友からの贈り物である襟止めのピンが収まっていた。
「うえぇ!?」
少々幼いが人形のように整った顔立ち、ぷっくり頬っぺたに水晶よりも大きくキラキラと輝きを放つ瞳は汚れた心を持つ紳士には暴力的な魅力を誇るだろう。
見た目通りの鼓膜がとろけるような声音を発した彼女は突如深海から投げ出された。
比較的新しい戦火を残す海にどぼーん!と塩っぱい海水を跳ね上げて顔を出した素っ裸の彼女に、第一艦隊の面々は苦笑する。
「新艦ね。戦力になるといいけれど」
空母機動部隊エース、一航戦・加賀は水面をぷかぷかと浮いている幼女を持ち前の鋭いジト目で観定しながら呟いた。
初見では威圧的に捉えてしまいがちな少々怖い顔つきの加賀であるが、本人に自覚はない。
胸当てと袴という空母特有の格好である加賀は潮が掛かったサイドテールを払いながら、
「あなた、艤装は?」
と、端的に伝える。
加賀は下駄という古典的なデザインの推進機を吹かせ試しに、と海面を滑る。
しかし真紅の髪を持つ幼女は航行に必須である推進機だけではなく凡そ兵装という物を何一つ持ち合わせてはいなかった。当然、全裸なのだから。
「ん・・・?」
「一体なにがぴょん・・・」と、疑問を思考している幼女は戸惑いを隠しきれずにいた。
つい今しがた幼女は覚醒したのだ。悠久の過去より眠りについていた様な曖昧な感覚はすぐには払拭されない。
しかし自らの使命は答えを求めるまでもなく、すでに決定していた。
自分は何のために生まれたのか。もしそこに意味があるのなら今度こそやり遂げたい、と。
真紅の幼女はそこで一旦思案を止め、まず状況把握をしようと改めて目の前で佇む女達を見つめる。
「私は一航戦、加賀よ」
幼女の思案に気が付いたのか加賀は艦名を口にする。
「卯月でーすっ!うーちゃんでっす!」
あっと声を上げ名乗り返す。
真紅の幼女は睦月型駆逐艦四番艦、卯月の意志を受け継いだ幼女であった。
「・・・そ、そう」
表情がくるくると変化して如何にも感情の上下が測りやすいな、と感じさせる真紅の幼女はパッと顔を
明るくした。噛み砕いた口調や太陽よりも明るい笑顔はどうやら天性の物らしく、傍から見ていて微笑ましい。
対して加賀は、彼女自身の厳しい性格も相まって後輩からはかなりよそよそしい態度でこられるのだ。
直球の笑顔を返されるという慣れないコミュニケーションに少しばかり頬を紅潮させたじたじになっていた。
「・・・・・・」
そこまで二人のやり取りを傍観していた二航戦、蒼龍は加賀の普段見ることのできないレアな照れ顔を横目で見つめながら「これはまた凄い子が来たわね・・・」と内心驚きながらも口角を緩めて笑っていたのだ。
卯月が着任し更に騒がしくなった泊地。
しかし、彼女が最弱の駆逐艦というレッテルを貼られ、無能な艦だと呼ばれるのはそう未来の出来事ではなかった。