色々と忙しかったり、ネタに悩んだりしているうちに、気がつけば一年以上が経過しておりました。
書き始めた物語はやはり、完結させねばなりませんね。
亀更新ではありますが、これからはちょこちょこ更新していくつもりでいます。
お付き合い願えれば、幸いです。
Side:秋
その日の夢は不思議だった。
真っ白な空間に気づけば私は立っていた。上も下も分からなくなりそうな程真っ白な空間。そしてまたふと気づくと、目の前にこの空間と同じ髪の色で、しかし目の色は鮮やかな赤色の少年が立っていた。
少年はなぜか悲しそうな顔をしていた。鮮やかな赤い目が少しだけ曇っていた。
「よぉ。どうだ?こっちの世界の生活は。少しは慣れたか?」
想像していたより、少しだけ低い声で少年は聞いた。
「こっちの生活… ?」
わけが分からず、私は聞き返した。
「あぁ…そっか。お前は知らないんだったな」
少年は少し淋しそうに何もない真っ白な空間を見上げた。まるで、遠い過去を思い出すかのように。
「貴方は… 一体誰なんですか… ?」
私の問いかけに、少年は昔の回想から戻ってきた。そして、優しく言った。
「俺は、
「柳」と名乗った少年はそれだけ言うと、白い空間の霧に紛れるように、消えてしまっていた。
◇
遠くの方に陸がかろうじて見える。風が水面を揺らし、時たま来る大きな波が乗っている船をも大きく上下にゆらす。光を反射して光る水面はキラキラとして穏やかだった。
今、対策室メンバーが待機しているのは日本海沖である。普通の人たちが見れば、ただのお気楽な遊覧船だろう。だが、その船に乗ってるメンバーは片手に刀や、ガトリング砲などを所持してる。近くで見れば、海上保安庁に補導されかねない佇まいをしているのだ。
そんな対策室メンバーがなぜこんなところにいるかというと、近頃この海域近辺で多数の難破船や行方不明者が出ている。しかも見つかった死体や、船などの残骸を解析した結果から、悪霊の仕業だと断定され、対策室に除霊命令が下ったのである。
しかし、当のメンバーたちはお遊びモード全開である。元々ストッパーになるような性格の真面目なメンバーはいなし、唯一それに当てはまりそうな秋も黄泉他のメンバーに連れられ、あれやこれやと海の中に連れ込まれてしまっている。
「秋、神楽、準備いい?」
黄泉と神楽、秋はシュノーケルを装着し、手にはモリを構えている。まるでどこかの海女さん現代版のような感じである。
「本当にやるの…?」「こんなことしていて、本当にいいんでしょうか… 」
黄泉以外はあまり乗り気では無いようだが。
(珍しい… 神楽ならノリノリだと思ったのですが)
「おーい、お前らの収穫で今日の晩飯が豪華になるかどうかはかかってるんだから、しっかりやれよー!」
しかし船の上から、桜庭が追い打ちをかけるので、神楽の憂鬱さも御構い無しといった感じである。これは、秋が一人で止めようとしても無駄である。と早々に察知した秋は、こうして遊びに興じているというわけである。
「大丈夫だよ、秋。どうせ奴が出るのは夜。それにその辺に浮いている悪霊狩りながらの食料調達なんだから」
ビシッィと親指を立てて神楽は言った。
(いや、私の指まで勝手に立てないでください…)
黄泉に無理やり立てられた親指を戻しながら、秋は穏やかな海を見渡した。元々死亡事故が多発している場所なので、悪霊が多い。そう、黄泉も言ったように、その辺に腐敗したカテゴリーDがわんさか出没しているのである。
「ねぇ、黄泉。やっぱり私夜まで船の中にいる」
神楽はそう言うと、船に取り付けられた梯子で海から上がり、そのまま船内に入っていってしまった。
「やっぱりダメだったか… 」
「やっぱりとは?」
秋の問いかけに、黄泉は短いため息を一つ漏らした。
「神楽はカテゴリーDがどうしてもダメなのよ。神楽は優しいから。だからそれを慣らす為にもって思ったんだけど、やっぱりダメねってこと」
そういえば、顔色があまり優れなかったようにも見えたし、何となく元気がなかったのもそのためかと秋は納得した。
(ん?ということは、当初の目的は果たせなかったわけで。すなわち、魚取りは終了?)
「まぁ、二人だけでも狩りはするけどね」
(ですよねー)
その後暗くなり、除霊(黄泉曰く狩り)が出来なくなるまで、秋と黄泉はモリで魚や悪霊を突きまくった。
◇
「はぁ… なんか、仕事の前にかなり疲れました」
空はすっかり真っ暗で、夜空にはロマンチックに星たちが輝いている。昼間除霊したおかげでこの近辺は平和そのものだった。
秋は水着からいつもの黒い袴に着替え、船のふちで空を眺めていた。時折頬に当たる潮水とそよ風が気持ちよく、船内の休憩場を抜け出して来ていた。今、対策室メンバーは体力温存のため、船内で爆睡しているはずである。
「穏やかな海ですね。こんな日常が続けばいいのに」
静かに上下する水面を眺めながら、秋はポツリと呟いた。
すると突然頬に冷たいものが触れられた。秋は短く悲鳴をあげた後、腰に携えてあった鳴神を鞘から引き抜き構えつつ、その場から遠ざかった。そして、今いた場所を睨みつけると、
呆気に取られた桜庭がいた。
「あ、すまん」
苦笑ぎみに桜庭は手に持っていたジュースの缶を振って見せた。おそらく頬に触れていた冷たいものの正体はあれだろう。それを察した途端、秋は顔が熱くなった。
「あ… あぁあ!す、すみません!私、ビックリして、… あ、刀!」
秋はしばらくワタワタした状態で、刀を鞘にしまった。
「あの、桜庭さん!私…」
正気を取り戻した秋はシュンとした様子で桜庭に言った。
「あーいや。さっきのは俺が悪い。気にするな」
「でも、刀…また」
「いいって!声かけなかった俺が悪いんだから。ほらっ」
桜庭は秋にさっきまで持っていた缶を放った。
「あ、ありがとうございます」
しばしの沈黙が流れた。秋は先ほどのことで緊張して、ガチガチになっていた。ジュースの缶も開けられず、握り締められている。
気まずい空気を壊したのは桜庭だった。
「寝とかなくて大丈夫か?今日は多分長いぞ?」
「あ、大丈夫です。私任務前にはあまり寝ないので」
「前にもそんなこと言ってたな。体が起きないとか」
「ええ。多分昔からの習慣なんです。睡眠時間は少なくても体を壊すなんてことは無いし、お休みの日は半日寝てたりしてますから」
「そうか、まぁあんまり寝溜めは体に悪いらしいから、定期的な睡眠時間は取っとけよ」
そういうと、桜庭は後ろ手を降りながら船内に戻っていた。
(心配かけましたかね… )
秋は桜庭からもらったジュースの缶を開けていないとこに気づいた。ずっと握りしめていたためかすっかり温まってしまっていたが、せっかくなのでいただくことにした。
プシュッという音が静かな海に響いた。
◇
Side:黄泉
ドォォオオオン!!!
もの凄い音と揺れで目が覚めた。周りを見ると他のメンバーも同じのようだ。私たちは、側に置いておいた自分の愛用の退魔武器を手に取り、デッキへと向かった。
昼間は顔色の神楽もすっかり良くなったようである。今回のターゲットがカテゴリーDではないと分かっているのもあるだろう。だが、いつかは克服してもらわなければならない。黄泉は隣を走る神楽の顔を見ながら、そう願った。
デッキにはすでに秋と岩端さんがおり、周囲の状況把握を行っていた。
「秋!」
絶えず大きく揺れる船の上で秋はレーダーを使って周囲の悪霊の数の把握をしていた。私が声をかけると、少し安心したように顔を緩ませ、また厳しい顔つきに戻って言った。
「黄泉!急いでください。対象が罠にかかりました。私と桜庭さんは先に陸に行きますから!」
それだけを言い残し、秋は私の横を駆け抜け用意されているボートに飛び移った。すぐさま威勢のいいエンジン音が響き、遠ざかっていく。
ドォォオオ…
今度は船の真下から突き抜けるような振動が伝わってきた。もう、時間が無い。黄泉は直感で悟った。
秋が横を駆け抜けていく際に、耳元で囁いていった言葉が黄泉の頭に響いた。
『信じています、黄泉。神楽にもよろしく』
「分かってるわよ!私たちはこんなのにやられる玉じゃないわ!」
黄泉は獅子王を抜刀し、乱紅蓮を召喚する。
「黄泉、今日は張り切ってるじゃん」
舞蹴拾弍号を構えながら、隣で神楽が笑って言った。
「まぁそりゃ信じられてるし?神楽にもよろしくだってさ」
「余裕だねぇ、秋は。一番危険なポジションなのに」
「そんなポジションだからよ。私たちがどれだけ上手くやれるかによって、秋の危険度も変わってくる。いい?絶対にプラン以上に上手くやるわよ」
「もちろん!」
黄泉の言葉を分かっているかのように、乱紅蓮も短く
黄泉と神楽は乱紅蓮の背中に飛び乗り、星たちが輝いている空に飛翔した。
二人が空に上がったのを確認した岩端が叫んだ
「作戦、開始ぃぃ!!」
では、また次回、お会いいたしましょう。
ご感想、ご意見、お待ちしております。