昨年はほとんど投稿できなかったので、今年は少しずつ投稿していこうと思います。
こんな四季乃ではありますが、本年もよろしくお願いいたします。
Side:黄泉
今回のターゲットは『骨鯨』と呼ばれる悪霊だ。カテゴリーはB。ランク付は強敵から、ABCDとされているので、今回はかなりの危険が伴う除霊である。
また、戦場が海上ということもあって、足場も悪い。しかもなお面倒なことに、この骨鯨は銃撃や斬撃といった物理的攻撃は通用しないということを、命からがら帰り着いた漁師たちが語っている。一応対策室でも確認したが、過去の資料を確認するところ事実のようで、まさに対策室にとって最悪の相手ということだ。
対策室のエージェントの主要攻撃方法は主に銃撃や斬撃である。辛うじて黄泉の乱紅蓮は、唯一骨鯨に有効であろう咆哮波を使うことが出来るが、攻撃時の踏ん張りが船では支えきれないということで、除外された。
すると残された方法は黄泉と神楽が扱うことが出来る法術の不動明王火界呪だけだが、なにぶん火力が足らない。
今回の相手の全長はおよそ5m。少し小さいジンベイザメ程ある。いささかというより、全く足りないのである。
しかしそうなると、一体どうしようか。と対策室での会議が沈黙した時、「あの…」と控えめに秋が手を挙げた。
「私なら骨鯨を焼き切れると思います」
控えめに手を挙げたくせに、その後の発言はとても堂々としていた。
これも実力の成せることかと、黄泉は少しだけ唇を噛んだ。
「なぜ、そう思うの?」
秋の申し出に神宮寺室長は尋ねた。おそらくその答えを知っている上で。
「私の攻撃… 黄泉は見ていたから分かると思いますが、主に高圧の雷を使います。しかも、対象は水に浸かってる訳ですから、電導率もいつも以上でしょう。骨だけの相手なら充分に焼ききれると思います」
実に論理的である。しかしこの作戦でいくとなると、いくつかの問題が浮上する。
「そんな高圧電流を海上で流した場合、貴女は大丈夫なのかしら?」
「問題ありません。私は高圧電流の中にいても感電することはありませんから」
「それは私も同意するわ」
黄泉は秋の意見に同調し、何点か付け加えた。
「確かに土蜘蛛を倒したとき、高圧電流で作った蛇を土蜘蛛に絡ませましたが、秋は土蜘蛛に乗ったままでしたが、その後の任務にも支障はありませんでした」
理由は分からない。だが秋も明確に言わない所からして、秋本人もよく分かっていないのだろうと黄泉は思った。ニコリと秋が微笑んだ。それに微笑みを返すと、秋は室長へ向き直った。
「ただ、問題は陸地の近くでは電線がショートを起こす心配がありますから、陸地から少し離れなければなりませんが… 」
対策室に沈黙が流れた。
なぜなら、今回のターゲットは日本海沖に出没する。つまり太平洋のように広い、陸からの距離が充分に取れない場所ということである。韓国や中国との領海問題にも影響が及ぶのはなるべく避けたいと思うのは、必然だろう。
だが、そこで手を挙げる者があった。
「俺はいけると思うぜ」
元軍人。岩端である。
「日本海って言ったって、そこまで狭いわけじゃない。高圧電流一発かましたところで陸地一体が停電ってなるわけじゃない。それに、例えそうなったとしても、それしか手段が無いのであれば、やるしかねぇだろ」
岩端の意見を受け、一斉に室長に視線が集まる。一拍の間を置いて、神宮寺室長は笑って言った。
「… その通りね。一応近くの電力会社には迅速に対応してくれるように通達しておくわ」
桐が直ぐに机の上にあった電話のボタンをプッシュし、(おそらく電力会社に)連絡を通達していた。それに従って岩端、桜庭、飯綱、ナブー兄弟は作戦会議をするため、自分の机に座り資料を引っ張り出し始めた。
それを見て、室長は未だ動かない秋に向かって穏やかな顔で言った。
「秋ちゃん、貴方に今回は大役を任せることになるけど、失敗しても自分を責めないで。貴女は対策室のエージェントの一人なんだから」
「はい。最善を尽くします!」
過去の癖だろうか。秋の右手は自然と完璧な敬礼の形になっていた。
◇
Side:黄泉
乱紅蓮に乗って飛び上がって見ると、そこには大きな骨組だけの鯨がいた。体当たりして船をひっくり返そうとしているらしく、船の斜め下方向から何度も骨の体をぶつけている。骨が砕けないのが不思議なくらいだ。
だが、ゆっくりもしていられない。
「神楽、火界呪の詠唱行くよ!」「了解!」
黄泉の言葉に応呼するように、乱紅蓮が一気に骨鯨に向けて下降した。そのスピードに負けぬよう、高速で詠唱を行う。
「ノウマク・サラバ・タタゲティ… 」
火界呪の詠唱など、最近は獅子王に頼りきりでほとんどしていない。正直不安だった。神楽一人の火界呪じゃ火力が足らず、隙を作ることすらままならないだろう。
だから今は、やるしかない!
「「タタラカンマン!!」」
二人の声が重なり、それに応じて二本の炎の渦がうねりながら骨鯨へと向かっていった。大きな炎が骨鯨の後頭部を包み込んだ。
キェィィィイイエエエ
甲高い悲鳴があがる。体を船から離し、大きく仰け反った骨鯨。しかし黄泉達を乗せた乱紅蓮は止まらない。降下の勢いは先ほどの火界呪で多少死んだが、それでも依然として風でバタバタと髪が揺れる。
乱紅蓮は燃えていない骨鯨の下方の胴体を足場に、数m後方にいる対策室の船の方に飛び、多少の振動を残して着船した。
それを確認した岩端が勢いよくエンジンをふかした。好調なエンジン音に伴い、船体が大きく上下する。骨鯨との間は急速に開いていった。
ーーーーーー 。 だが、
突如として発生した爆音と、縦長の水飛沫と共に、骨鯨が宙に舞っていた。その大きさたるや、まるで龍のようである。月光に照らされて、剥き出しの骨格がキラリと輝いた。
「やっぱり効かないか!」
黄泉が短く舌打ちをして、獅子王を鞘に戻す。それに従って乱紅蓮も消えた。この後の作戦は、もうあらかじめ決めていた場所におびき寄せることでしかない。
要は、鬼ごっこである。鬼は骨鯨。捕まったら、『死』という面白くも何ともないペナルティを科せられる。
「黄泉、これ使え!」
猛スピードで船をかっ飛ばしている岩端が、操縦室から数本の瓶を放ってきた。黄泉はそれを、危うくキャッチした。
見れば、真っ黒な瓶に『火気厳禁、岩端特製』と書かれてある。
「岩端さん、これは?」
「俺特製、火炎瓶だ。通常の火炎瓶の三倍の威力で作ってある。いつもは森の中とか、街中とかで使えねぇけど、ここならむしろ好都合だろ!」
「ありがと!」
前を見ながら、運転し続ける岩端の背に礼をいい、振り返る。
そこには、200m程に迫った骨鯨が怒りを露にしながら、迫っていた。
「黄泉、俺も加勢する。もう一度二人で火界呪いけるか?」
隣を見ると、いつのまにか飯綱が立っていた。背後には数えきれない程の管狐が目をギラギラさせて、骨鯨を睨んでいる。
「俺の管狐の狐火でフェイントをかける。その直後に俺と、黄泉と神楽の三人分の火界呪と火炎瓶を投げ込む。いいな?」
「ええ!」「うん!」
飯綱は二人が頷いたのを確認すると、霊力を一気に管狐たちに集中させる。すると、管狐たちは青白い光を一匹一匹が放ち始めた。次第にその光は強さを増し、ものの数秒で目を細めなければならない程に発光した。
「行けっ!!」
飯綱の声と共に、眩い狐火が一斉に骨鯨へと向かって行く。それが骨鯨に到達したかを見届けない内に、飯綱は振り返った。そこには火炎瓶を片手に印を組んでいる二人がいる。
「詠唱!」
その声を合図に、一斉に火界呪の詠唱が始まる。
ーーーー。その次の瞬間、暗い夜の海を青白い光が照らした。先ほど飯綱の管狐が放った狐火が、骨鯨に到達したのだ。およそ50メートル程先だろう。そしてその次の瞬間、
「「「タタラカンマン!!!」」」
揃った声と共に、赤い炎が渦を巻いて青い炎に包まれている骨鯨へと飛んだ。そして看破を入れずに、飯綱が岩端特性の火炎瓶を放った。
骨鯨が数種類の色の炎に包まれて、青白い炎が縦に伸びた。そのまま青い炎は骨鯨を焼き切るかのように見えた。
だが、現実はそう甘くはなかった。
骨鯨は大きく仰け反ると、体を海中に沈めた。大きく水蒸気が上がり、辺り一面真っ白な水蒸気に包まれて、周囲の確認が出来ない。
ただ、エンジン音だけは快調に聞こえるので、岩端が頑張って船を進めているのだろう。
もう少しで秋が待機しているポイントのはずだ。
(結局何もできなかった…)
黄泉は唇を噛み締めた。無力さと、悔しさが込み上げてきた。
船の甲板を音が出るくらいに握りしめて、水蒸気に覆われた水面を睨みつけた。何か異変はないか。骨鯨がどこにいるのか。それだけを感じ取るために、全神経を集中させて、睨みつけた。
しばらく、気味の悪い沈黙が続いた。気がつけば、船は停止していた。
「岩端さん!」
船が止まった原因を尋ねようと、岩端の名前を呼んだ瞬間だった。
ーーーーーー船が大きく、音を立てて、上下に揺れた。
そしてようやく水蒸気が切れて、明るい月と一緒に頭上に現れたのは、紛れもない。ーーーあの骨鯨だった。
さて、今回はオリジナルストーリーでお送りいたしました。
あの状況から秋はどのような行動に出るのか。楽しみにしていただければ幸いです。
それでは、また次回お会いしましょう。
感想、ご意見、お待ちしています。