相変わらずの亀更新に毎回付き合って下さりありがとうございます。
あれ?と思ったらもう一度前のお話を読み返したり、もう最初から読むわ!!ってしていただけると幸いです。
side:秋
薄暗く、ジメジメと湿っている、なんとなく気味の悪い場所。そんなところでいつも仕事をしているから、恐怖は感じない。この世界の一般の人々はゾンビ、対策室ではカテゴリーD、私の記憶では人霊と呼称されるものにも、慣れきってしまっている。
しかしそれが適応されるのは、私や黄泉などの実戦に慣れている人に限る。あまり見慣れていない人にとって、カテゴリーDが襲いかかってくる情景は、ホラー映画のそれ以上だろう。
目の前に広がっている光景というのは、まさしくホラー映画などで主人公がピンチに立たされているシーンと同様だろう。一人の女性の背後には、パッと見では数え切れないくらいのカテゴリーDがひしめいているのが分かる。
しかし、私たちは奴らに手出しをできないでいた。その理由は―――。
「黄泉、秋!あの女の人は、土蜘蛛のときの人だよね?なんでこんなところに!!」
目の前の状況を理解していない訳ではないだろう。賢く、小さき時から除霊に関してご両親から叩き込まれてきた神楽のことだ。あの女性がもうすでに死亡していて、悪霊化していることなど分かりきっているだろう。
それでも、それを認めようとしないのは、骨鯨との戦闘の前に海でカテゴリーD狩りをしたときの態度からも容易に想像がつく。
優しすぎるのだ。神楽は強い。実力は日に日に目に見えて向上しているのがわかる。先ほどの天井嘗にも好戦してのけたことからも明らかである。しかし、死人にとり憑くカテゴリーDだけは、例え死んでいると分かっていても、元々は人間だったという認識を捨てきれないのだろう。
「神楽、彼女はもう死んでる!人の世に死の汚れを撒くものを退治するのが、私たちの仕事でしょ!!斬って!神楽!!」
必死な黄泉の声が、暗い通路に響き渡る。その声に反応したかのように、カテゴリーDたちが一斉に私たち目掛けて走り出した。
「秋!!」
黄泉が必死な顔で私を振り返る。しかし、私は極限まで手出しをするつもりはなかった。慣れは必要である。特にカテゴリーDは苦手意識を持つ退魔師も少なくはない。
「だって、元は人間なんでしょ!?」
「人間は死んだら物です。それに、あなたがカテゴリーDが呼称するあれらは、除霊しない限りずっとあのままです。けして開放されることはありません。神楽、それでもあなたは斬れませんか?」
私は舞蹴拾弐號を固く抱えたまま動こうとしない神楽に優しく問いかけた。しかし同時にこの問いかけは私自信にも向けたものであっただろう。あの夢でみた記憶。悪霊化した両親や仲間たち。
私は彼らを解放できたのだろうか。もし、私が上手く除霊できていなければ、彼らの体は未だに悪霊に囚われたままだ。
「けして、解放されることはない」
「ええ。そうです。私は、そんな彼らが哀れでなりません。無論、彼らに非がないとは言いません。悪霊を集めるような死に方をしてしまったのですから。しかし、その罪も赦されることが必要だと思うのです」
私はキリスト教の信仰者ではない。だが、カテゴリーD化してしまった人たちには同情せざるを得ないのだ。
「赦し・・・」
神楽がそう呟いた瞬間、暗闇の奥から知らない声が響いてきた。
「喰霊開放!
その声が響いたと思った瞬間、爆風と何かが叫ぶ音が聞こえた。
「白叡、喰らえ」
命令の声に従い、カテゴリーDが次々と駆逐されていく。そして、その正体が目の前をかすっていった。
大きな犬のような龍、とでも形容しようか。
黄泉に聞いていたことがある。神楽の家、土宮家には先祖代々受け継がれている霊獣がいる。その名は『白叡』。悪霊を喰らう呪われた霊獣。それは代々土宮家当主の体内に封印され受け継がれる。体の中に霊獣を封印された当主は霊獣に魂を喰われるため、常に短命であるらしい。
私はそんな霊獣、白叡がカテゴリーDを次々と駆逐していく姿をただ呆然と眺めていた。強者が弱者を一方的に駆逐される光景というものは、強者側に立っているとこんなにもスッキリとするものなのだろうか。
そんな光景に、私は見とれていたのかもしれない。
◇
暗い空間にごった返していたカテゴリーDは数分のうちに、すっかり百叡に捕食されてしまった。白叡に喰われた奴らが、除霊されたのかは分からない。だが、悪霊から支配されたのは確かだろう。
除霊が完了した私たちは、地下の出口からほど近いところにあった神社にいた。空の中心にあったはずの太陽はもう西に傾き、綺麗なオレンジ色を空一面に映し出している。
私たちの前には、土宮家当主の土宮雅楽殿が立っていた。その顔は険しい、という形容意外を許さない顔であった。
しばらく神楽の方を見ていたが、ふと視線をずらし私と視線が交差した。
「君は、見ない顔だが」
まさか自分に話題が振られるとは思っていなかったので、驚きのあまり反射で右手をピシッと伸ばして敬礼をしてしまった。
「はっ!ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は白澤秋。先日から対策室でお世話になっています」
どうにか自分の名前のあとに階級を入れることを食い止め、ぎこちなく右手を下ろした。
突然の敬礼に対してさほどのリアクションも取らずに、土宮雅楽はそうか。とだけ呟いた。しかし私を少しだけ注意深い目でじっと見つめていた。そして私ではなく、私の何かを睨みつけるようにして言った。
「封印を外すなよ。外れたときは、白叡で喰わねばならなくなる」
「封印・・・?」
私は土宮氏の言っている意味が分からなかった。封印とはなんのことだろう。私の記憶の欠落部に関係していることなのだろうか。詳しく聞こうと思ったところで、土宮氏は神楽の方へ向き直ってしまった。
「神楽、手を出しなさい」
「はい」
おもむろに言った土宮氏に従い、神楽は手の甲を差し出した。土宮氏はそんな神楽の両手に、舞蹴を思い切り叩きつけた。
「退魔師の家系に生まれた意味とその責任の重さは知っているな」
表情を変えないままで、土宮氏は神楽に言った。
「はい」
「ならば、精進せよ」
神楽の返事を聞くと、もう一度舞蹴を神楽の手に叩きつけ、刀を放った。
「土宮殿!」
その光景に耐えられなくなったのだろう。黄泉が土宮氏に少しばかりの抵抗を試みようとする。しかしその抵抗は虚しくあしらわれ、土宮氏は背中を見せた。
「強くなれ」
その一言だけを残して。
私も過去に父上から同じように叱責を受けたことがある。我々退魔師はいつ何時も負けは許されないのだと。負けは死を意味する。それ同時に退魔師の敗北は、一般の市民を危険にさらすということに直結する。
あの叱責は神楽を思ってのことだろう。はたして神楽にその意義は伝わっているのだろうか。
後で、お父さんのことについて聞いてみることにしましょうか。
しかし、私にとってより気になるのは、土宮氏が言った言葉の方であった。
『封印を解くな』
その言葉はどのような意味があるのだろうか。そのままの意味ならば、私には何かしらが封印されているのだろう。あの土宮氏が何かを暗示するようなことを言うとは考えにくい。だとすれば文字通りの意味合いと取るべきだろう。
私の記憶の欠落と何か関係があるのだろうか。
そんな思考を巡らせていたが、今は心の中に閉まっておくことにした。とりあえず、神楽の励まし会と、初フォアード祝賀会をやらねばなるまい。
今回、神楽に助けられたのは確かなのだから。
「神楽、黄泉。今日はパーティーしましょう」
「なんの?」
「無論、神楽の初大活躍祝賀会ですよ!今日は、本当に神楽には助けられましたからね」
戸惑っている黄泉に対して、満面の笑みで私は答える。
「でも、私は・・・」
「神楽、誰しも最初から立派にお勤めを遂行できていた訳ではありません。皆挫折や色々な人から叱責を受けて、今の退魔師になっているんです。だから、初めから上手くやろうと思わなくていいんですよ」
「そうね。カテゴリーDは誰しも抵抗があるものよ」
「秋や黄泉も?」
「私は、父上に何度も怒られながら稽古をつみました」
「私も、なかなか上手くいかない時期もあったわ」
私と黄泉は苦笑混じりに、自分の過去を振り返りながら言った。
「だから、今日はお祝いをしましょう。神楽の活躍に」
「そうね。今日は私が頑張るわよ!」
行きましょう。そう私が手を差し伸べると、神楽は涙まじりの笑顔で、元気よく頷いた。
皆様からいただける感想やご意見で、私はこの作品をかけていると思います。
事実感想を見ると、モチベーション上がりっぱなしですw
今後共、お付き合いください。
それではまた次話、お会いできることを祈って。