さて、今回からオリジナルの少し長編ものが続きます。
といっても四話程なのですがw
気づけば四月・・・ということで、今年度もよろしくお願いします!
side:秋
どこを見渡しても白しか存在しない。上下が分からなくなるような真っ白な空間。しかしなんとなく懐かしい空間。気がつけば私はそこに立っていた。
あぁ、前にも来た事のある場所だ。
そうゆっくりと私は認識する。
「よう、久しぶりだな。秋」
声のした方へ振り向くと、前と変わらない白髪、赤眼の少年が立っていた。
「あなたは、
「ああ」
柳は静かに頷いた。
「あなたは一体何者なんですか?」
「詳しくはまだ言えない」
私から目をそらしながら辛そうに彼は言った。私は彼が話してくれるまで待とう。そう思った。人には、時に話せない秘密を持っているものだ。それを無理やり聞き出すのは、その人の、そして私の真意ではない。
「だが、俺はお前に謝らねばならない」
彼は真っ直ぐな視線を向けてそう言った。彼の赤い瞳が私を直視する。
「なぜ?」
私の問に少しだけ言葉をつまらせた柳は、少しの間をあけてから真っ直ぐ私の目を見た。
「俺は、この前の骨鯨戦においてお前の体を少しの間拝借した。お前に許可なく体を使ったことは、本当に申し訳ないと思っている」
静かに柳は頭を下げた。
「私があの戦闘の後に記憶の欠落があったのは、そのせいですか」
「ああ。本当にすまない」
再び柳は頭を下げた。
なぜだろう。彼が苦しんでいる表情は、私自信の心までキュッと狭めた。
「あなたがそうまでして、私の体を使った理由は教えてもらえないのですか?」
柳の言葉は裏返せば、私に許可をとってから体を使うということもできたのだろう。それをしなかったということは、今回は緊急を要したということだ。今回のようなことがまた起きないとは限らない。原因が分かれば、私も少しは彼に協力出来るはずである。
それに、と私は黒い着流しと白髪が対照的で、何となく自分と似ている彼を見つめて言った。
「私は今回、黄泉や神楽に心配をかけてしまいました。ただでさえ、記憶の欠落がある私が、また記憶を失ったとなればそれは必然的な反応でしょう。私は黄泉たちに、また同じような心配をさせたくは、ないです」
正直、彼が何者なのか、どうして私の夢の中に出てくるのか。その理由はおそらく彼が教えてくれるまで分からないだろう。だが、黄泉たちを巻き込みたくない。
それが私の真意だ。
「・・・分かった。詳しくは話せないが、少しだけ俺の行動理由を話そう。これは、許可なく体を借りた対価だと思って欲しい」
「ええ、分かりました」
彼は一つ短い息を吐いた。これから伝えようとしている言葉を選んでいるのか、それとも話すこと自体を未だ躊躇っているのか。たっぷりと三分間程の静寂の後、彼はポツリポツリと語りだした。
「俺は、殺生石を探している。殺生石は悪霊に対して、凄まじい力を与える。またそれだけではなく、周囲の低位悪霊を呼び寄せるという特徴も併せ持つ。退魔師にしてみれば、早いところ封印してしまいたい代物だろう」
「えぇ、それだけを聞けばそうですね。今回の骨鯨がその殺生石を持っていた、ということですか?」
「あぁ、そういうことだ。お前がみたあの赤い結晶がその殺生石だ。この石は悪霊だけでなく、人間にも平等に力を与える。悪霊化するという対価をもってな」
「人間を、悪霊化――――?まさか」
一瞬、頭を父上や仕事仲間が悪霊化したことがフラッシュバックした。
まさか、父上たちが悪霊化した原因というのは・・・
「やめろ、秋」
そう考えた瞬間、柳の声に思考を止められた。まるで、心の中を読まれたかのように。
「そのことはまだ考えるな。殺生石は、
「それは、私にはできぬことなのですか?」
「無理だ。人間のお前には、殺生石の瘴気はあまりにも強すぎる」
「人間の私?では、あなたは何なのですか・・・」
幾度の問に答えてくれた柳だったが、最後の問いには答えてくれなかった。
柳から邪気は感じられない。だが、人間とは違う何かが感じられるのは、うっすらとではあるが、以前から感じていた。
「それは、いずれ話そう。とにかく、お前は絶対に殺生石に接触するな。骨鯨のように遭遇した場合は、俺がお前の体を借りる。そこは理解してくれ」
頼む、と柳はまた頭を下げた。柳に頭を下げられると、こちらが気まずい気分になる。私の体を使ったとは言え、柳に救われたことは確かなのだから。それに、殺生石を封印したほうがいいというのは、私にも理解できる。
「分かりました。しかし、これだけは守ってください。黄泉と神楽には、迷惑をかけないと」
「承知した。彼女たちや、お前に負担をかけない方法で殺生石を封印することを誓おう」
「もう一つだけ質問をしてもいいですか?」
「答えられるものならばな」
「あなたは、なぜ私の夢に出てくるのですか?」
私の問に彼は少しだけ考えていたようだ。おそらく彼としては、私に謝るということが今回の目的だったのだろう。殺生石のことまで話すことは、考えていなかったのかもしれない。それを話してしまった今となっては、少し考えることがあるのだろう。
「俺はお前であり、お前は俺でもある。だから、俺はお前の夢に出てくるとこもできるし、お前の体を借りることもできる。詳しいことは、まだ話せないが」
「分かりました。ありがとうございます、柳」
正直、今の秋の言葉で今持っている疑問がなくなったかと言われれば、否だ。だが、柳とて今の状況が快いものではないのだろう。それは彼の表情を見ればわかる。
それに、彼の苦しい顔を見るのは、なぜかとても辛い。
それも含めて、私は今の柳の回答でとりあえずは納得することにした。
「いや、こちらこそすまない」
柳のその言葉を聞き終わるか否かのところで、私の意識は薄れていった。
◇
side:黄泉
私は、みんなで夕飯を食べたあと、久しぶりにお父さんの書斎に呼び出された。話される内容は何となく分かっていたので、少しだけ緊張してお父さんの書斎の戸をノックして入った。
最近の学校の話や、対策室の話、秋や神楽の話など、たわいもない雑談を挟んでから、お父さんは私の近くにある細長い箱を指差し、開けてみなさいと優しい笑みを浮かべて言った。
箱をそっと開けると、中には美しい蒼の着物がきれいに畳まれて入っていた。少し袖の部分を手にとって眺めてみても、上等のものであるがよく分かった。
「私の妻が着ていたものだが、もう丈も合う頃だろう」
「いいんですか!?ありがとうございます!」
「あー、それとだ。飯綱君との縁談の話だが、どうだ?本人たちの意見を尊重しないのは、私の本意でもないのでな」
お父さんは咳払いをしてから、そう言った。
「この縁も、父上が良かれと思ってのこと。快く、お受けさせていただきます。」
私は持っていた着物を箱に戻してから、丁寧にお父さんに頭を下げた。
◇
私が不思議な夢から覚めると、時間は朝の6:30。今日は平日だから、黄泉は学校だろうと寝ぼけながらに考える。黄泉が学校に行っている平日は、私は大体対策室で書類作成をしていることが多い。一応、職員として雇ってもらっているので、平日は桜庭や飯綱たちと同等の扱いなのである。
少しだけつまらないな、と思いながら階段を下り、ダイニングの扉を開けようとしたその瞬間、背後に突然重力がかかった。
「秋ー!おーはよっ!!」
満面の笑みを私の背中の上で浮かべながら、私に飛びついてきた。
どうしたのでしょう。朝は不機嫌な黄泉が、今日はとても上機嫌です。
「おはようございます、黄泉。何かあったのですか?」
「んー?なーんでもなーい」
そう言うと、私の背を離れ、朝食の準備をしに台所へと向かった。
絶対何かあるでしょう・・・
そう思いながらも、私も黄泉の後を追い、台所へと向かった。
「今日はどうするの?最近はあんまり仕事してないから、書類もそんなにないでしょ?」
「そうですね。今日は図書館に行って調べ物をしようかと思ってます」
ここ数日は悪霊の出現率が低く、おかげで対策室は平和そのものである。
「そう。私は学校だから、対策室に行くのは4時すぎだと思うわ」
「分かりました。それまでには、私も対策室に戻っていると思います」
穏やかな朝はこうして過ぎていく。
普通は忙しい朝が、諌山家ではとても落ち着いた唯一の時間でもある。
いつまで私はこんな穏やかな生活を送ることができるのだろうか。
あまりにも幸せすぎて、逆に不安になってくる。記憶が曖昧だからこそ、この平和な時間が、私にとっては違和感を感じせざるを得ない。
◇
黄泉と途中まで一緒に登校をし、私は対策室直轄の図書館へと向かった。
夢の中で柳が言っていた『殺生石』というもの。私が柳に体を渡さなければならないこの石のことについて、少しでも情報を得ておこう。そして、柳という謎の存在について分かれば、私の欠落している記憶も戻るのではないか。そう思ったのである。
私は手近にあった、端末を使って殺生石に関する事柄が書かれている本を片っ端から集め始めた。
柳の正体が少しだけわかってきました!
まだまだ過去がよく分からない秋。早いとこ、知りたいんですけど、秋さん!!
と作者本人も早いとこ彼女の過去を明らかにしたいところでありますw
ではでは、また次回お会いしましょう!
毎回感想をいただき、ありがとうございます。
感想を一ついただく度に、ちゃんとこの話を完結させねば・・・と思わせていただいています。
感想、ご意見お待ちしていますので、今後共よろしくお願いします。