行き場を無くした雷   作:四季乃

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第二話

 

 

記憶喪失の少女を何とか起こすことなく、対策室まで無事運ぶことが出来た時には、メンバー全員がほっと胸を撫で下ろした。

 

都心に本拠地を構える環境省超自然災害対策室。表向きは、ビルを丸ごと使った環境省の支部の一つである。

 

不景気で膨大な負債を抱える日本が、省庁の中の一支部にビルを一個ずつ買い取るという資金は到底ない。それでも、対策室がこうしてビルを一個持っているということは、それだけ事態が国にとっても重要視されているということだろう。

 

本部はここ東京にあるが支部は全国にあり、その支部毎にプロの退魔師が対処に当たっている。支部間での情報の共有はもちろん、応援要請や、人員育成もこの東京本部が一挙に行っている。

 

その現東京支部の長であり、現環境省超自然災害対策室長であるのが、車椅子に乗った女性、神宮寺菖蒲室長である。掴み所がなく、少々天然素質もあるようだが、作戦の指揮は的確であり、それが神宮寺室長に皆がついていく理由でもあるだろう。

 

その室長が見つめる先には、対策室のエージェント達が、必死になって連れて帰ってきた、記憶喪失の少女がいた。黒く長い髪とは違い、白い肌に、整った顔。同じ女である神宮寺でさえも、見惚れてしまう美しさがあった。

 

だが薄っすらとではあるが、古傷があちこちに見られる。恐らく戦闘による切り傷だろうと、対策室専任医師は診断した。記憶の方は、一部記憶の損失らしいので、数日で戻るだろうということだった。

 

「それで、いきなり刀を向けられたっていうのはなぜ?」

 

報告によると、対策室に動向を願った途端に刀を向けられたという。しかも敵意を持って。

 

我々に対するどこかの組織からの牽制なのかと神宮寺は密かに思っていた。

 

「分かりません。ただ、敵意の他に、私は恐れも混じっていたように感じたのですが…」

 

黄泉自身も困惑しているようで、悔しそうな表情を浮かべた。

 

もう一つ気になるのは、この少女が持っていたという刀。『鳴神』と呼ばれた刀は確かに退魔刀だった。しかも、黄泉の『獅子王』並か、それ以上の霊力が込められている。

 

『獅子王』は平安時代、『鵺』を封印する為に打たれた刀でそれを代々諌山家が継承してきた。だが、そんな獅子王以上に強い霊力を込められる刀鍛冶がいるとすれば、それは恐らく、無名の刀匠か、名のしれた刀鍛冶の秘刀なのかもしれない。

 

もしかしたら、異世界?

 

そんな考えも浮上したが、あまりにもバカバカしいものだったので、神宮寺は一瞬でそれを破棄した。時空をこえるなど、今時小学生でもしない想像である。

 

「だとしたら、刀はこの娘の近くに置いておいてあげなさい。もし刀が近くになくて、またそれを呼んだらそれこそ一大事になるかもしれないわ」

 

「了解した」

 

刀を持っていた、岩端が少女のベッドのすぐ隣に刀を立てかけた。それを確認すると、神宮寺は対策室メンバーに向き直っていった。

 

「お疲れ様、みんな。この娘の対処は上と話し合って決めるわ。取り敢えず、黄泉ちゃんと神楽ちゃんは残ってくれる?」

 

「分かりました」

 

「それ以外は一応、状況終了ってことで帰っていいわよ」

 

「「了解しました」」「「ナブー」」

 

指示を受けた二人以外のメンバーはすぐに医務室を足早に出て行った。命令だということもあるが、帰れるということが彼らにとっては娯楽の始まりといってもいいだろう。

 

命を落とすことが多い退魔師は、休息の時間を物凄く大切にする。楽しめるうちに、楽しんでおく。好きなことをしておく。これが、退魔師たちの暗黙の了解になっている。もし死んでも悔いが残らないように。死んだ退魔師に未練などが残り、カテゴリーDとなってしまった場合、対処に物凄く手がかかるからだ。

 

飯綱と桜庭の場合はダーツ等で賭け事をすることがその一環と言える。

 

今日はどこで何を賭けるんだろう?

 

黄泉はそんなことを考えながら、去って行く飯綱の背中を見送った。

 

「一応、さっきも言ったように上に相談してみるけど、多分うちで預かることになると思うわ。そういうことで、二人にこの娘頼めるかしら?」

 

「ってことは、一緒に戦え…と?」

 

黄泉が神宮寺のまるで近所のスーパーに買い物を頼むように軽く言った言葉を半分流すように、重いトーンで言った。

 

「室長!私たち、一応刀向けられてるんですよ!不味くないですか?」

 

咄嗟に、神楽からフォローをいれてくれる。こういう気が直ぐに聞くようになったとは、成長したなぁと思う。

 

二人に刀を向けられたという事実は、対策室のメンバー全員が知っていることだ。そんな危険人物を組織の中に入れるというのは、メンバーの除霊に対しての士気低下に繋がると黄泉は思っている。

 

第一、黄泉としてもどこまで心を許せるかは分からない。これからどうこの娘が変わっていくかが、一緒に戦うかどうかの観点にはなるだろうが。

 

「まぁ、最終的にはそうなるわね。大丈夫よ。」

 

しかし、黄泉が渋るのも気にせず、最後は室長ならではの天然+能天気さで乗り切られてしまった。

 

「そのときはお願いね」

 

精一杯の室長の笑顔と隣に立っている桐さんの無表情に負けた二人は、仕方なく了承しざるを得なかった。

 

 

「室長、少女の持ち物の検査が全て終了しました」

 

二人を見送った医務室には、神宮寺と桐だけになっていた。

 

「分かったことは?」

 

「はい、持っていた身分証明書を確認しましたところ、名前は白澤秋。年齢は17歳。総務省防霊本部実行部隊。階級は少佐」

 

「総務省除防霊本部?」

 

桐の淡々とした報告に神宮寺は首を傾げた。

 

現在の日本政府には総務省除霊実行本部などという組織は存在しない。

除霊に携わっているのは、うち‘環境省’。あとは‘防衛省’だけの筈だ。しかも、防衛省は思案中で、未だ活動を開始していない。つまり、実質的に活動しているのは、うちだけということになる。

 

しかも、少佐という階級。階級は軍隊にしかないはずだ。もちろん、対策室にもない。あったとしても、室長という最高責任者がいるだけだ。

 

しかもこの組織が今の日本にあったとして、少佐という階級をこの歳で拝命したということは、相当の実力者ということになる。

 

「おかしいわね。何もかも、今の日本にはない組織だわ。偽装とも考えにくいし」

 

「ええ。ですから先程、環境省の方に、今回の概要を記した書類と意見書を提出してきました」

 

無論、事前に神宮寺が作っておいたものだ。元より、記憶喪失の少女『白澤秋』は対策室で預かるつもりでいたからである。

 

あの『白澤秋』が持っていた退魔刀を持っているあたりで、神宮寺は退魔師であると、ある程度予想していた。退魔刀は所有者の霊力にされるものなので、結果的に『白澤秋』もかなりの霊力を持っているということになる。

 

まれに、強い霊力を持った一般人もいるが、もし『白澤秋』がそうだったとしても、強い霊力はそれだけで、悪霊を呼び寄せてしまう。

 

どちらにしても、環境省で『白澤秋』を保護することは、確定していたのである。

 

「上はなんて?」

 

「神宮寺室長に一任すると。ただし、その少女の身元調査も並行して行うこと。ということでした」

 

要は、面倒だから処置はそっちでしろ。ただし警察事にはするな。ということだ。上は一般市民に多数被害が出て、悪霊の存在を知られる事態には非常に積極的に指示を飛ばすが、それ以外の細々としたものは、全て室長に権限を譲渡してくる。

 

忙しいのか、本当に面倒なのかは定かではないが。

 

面倒事を押し付けられた様な形になったが、神宮寺には最高の状態となった。計画していたことがまんまと叶ったということである。

 

「そう。それじゃ、これから忙しくなるわよ。先ずは、この娘の誤解を解かないとね」

 

神宮寺はもう一度少女に向き直ると、優しい笑みを浮かべて今度こそ病室を出て行った。

 

 




やっと二話目で名前が出てきた主人公「秋」ですが、黄泉との険悪なムードを改善出来るのでしょうか…
はっきり言って心配です。作者が。

※更新は一週間ごとになると思います。金曜か土曜にはしていくつもりです

ご意見、ご感想お待ちしております

ではまた次回お会い出来ることを祈って…
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