行き場を無くした雷   作:四季乃

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もう一ヶ月近くになりますが、ご無沙汰しております
あらためてあけましておめでとうございます

今年はもう少し定期的に投稿していければと思います



第五話

「おいおい…マジかよ」

 

岩端は信じられないものを見たかの様な顔をして呟いた。その視線の先にいたのは、先日黄泉達に殺されるかもという脅しをかけられ、ハラハラしながら連れて帰ったあの少女だった。

 

泥だらけだった黒い狩衣は洗濯中なのだろうか。今は白い狩衣で、袖のところをタスキでたくし上げていた。

 

『白澤秋』と名乗った少女は、対策室に連れてこられたときの、血の気がなく、夢にうなされ辛そうにしていた面影は全く無い。それどころか、意思に満ちたしっかりとした眼差しを真っ直ぐ対策室メンバーに向けていた。負い目は感じているようだが、それを感じさせない程の強い眼差しだった。

 

そして秋の右手に握られているのは、見間違えの仕様がない。先日、岩端が眠っている秋のベッドの隣に立てかけた鳴神だった。

 

希薄ではあるが、霊力が上がったような気がする。持ち主の手にかかれば、ここまで変わるか。岩端は素直に驚いていた。事実、岩端が持ったとき、鳴神の重量は相当のものだった。男性で“相当”と感じるのだ。あれが秋の愛刀だとすれば、どれだけの筋力と技術が要求されるのだろうか。いい武器も使いこなせなければ、ただの鉄の塊と変わりない。

 

しかしそれはそれ。これはこれだ。いくら将来有望な退魔師だとしても、あの危険少女を信頼して仲間に出来るかといえば否だ。

 

先日目を覚ましたことは室長から聞いていたが、よもやこの少女が対策室のメンバーとして共に戦うことになろうとは思いもしなかった。

 

室長が天然チックであるのは承知の上だ。今までだって、それで振り回されたのも少々ある。だが、今回のことは許容の範囲外だった。事前に何か通達があればまた変わったかもしれないが、秋が自己紹介するまで何も聞かされていなかったのはやはり辛いものがある。

 

最初から知っていたらしい黄泉や神楽を除いた他のメンバーも、口々に不満を漏らしている。

 

(無理もないか。俺だってお前らの気持ちぐらいは分かるさ)

 

「室長、質問いいか?」

 

対策室メンバーの為、という口実を胸に抱いて、手を軽くあげ、発言の許可をとる。室長は笑顔で一度頷いた。

 

(ああ、この笑顔が怖いんだよな)

 

俺はそんな室長の笑顔を見て見ぬ振りした。

 

「そいつは、一応俺たちに刀を向けた奴だぜ?それを俺たちの仲間に入れて、安全だという確証はあるのか?それに、そいつを入れた場合、俺たちに何かメリットは発生するのか?」

 

そうだ!そうだ!と周りからまるで政治家のような野次が次々と飛ぶ。だが、そんな野次を気にせず、室長はいつも通りの笑顔で答えた。

 

「刀を向けたのは、記憶の混乱が原因よ。メリットなら、あなたが一番理解できるんじゃない?戦力はときに戦術を上回るものよ」

 

「確かにな。だが、暴発する可能性がある戦力は戦力とは言わない。ただ邪魔なだけだ」

 

「暴発する可能性は無いわよ」

 

「その根拠は?」

 

「私が秋は危険でないと判断したわ。実際刀を向けられたのは、私と神楽だけ。その二人が問題無いと判断したのよ?それに私たちの敵は悪霊。敵対する相手がそもそも違うわ」

 

室長を見てられないと言いたげに黄泉が途中から質問をかっさらっていった。最後のは、説得させるための口実のようにも聞こえるが、対策室のエースがそう断言するんだ。多分本当に記憶の混乱だったんだろう。

 

俺はそう解釈することにした。

 

女の子を寄ってたかっていじめるのは、気が進まないしな。うん。断じて室長の目が怖かったからではない。それに、秋の意思の強い眼差しも気になった。

 

しかし、岩端の様に飲み込みのいい連中ばかりが揃っているわけでもない。黄泉が言っても納得のいかないものはいるらしく、ボソボソと文句が聞こえる。

 

(これだから、最近の若いもんは…)

 

岩端は気付かれない様に溜息を吐いた。

 

その溜息が聞こえたわけではないだろうが、秋が自己紹介以来始めて口を開いた。

 

「納得いかないのは最もです。私の行為はそれ程のものです。ですから、私があなた達に敵意を向けた場合、背後から撃っても、斬っていただいても構いません」

 

清々しいまでに凛とした声だった。

 

だが、揺るぎない宣言は、同時に一部の対策室メンバーにとって格好の攻撃の口実である。

 

例え、秋が見方から攻撃を受けても、秋が敵対行為らしき動きをしました。と言えば、秋が殺されても誰も反論出来ない。秋の行為が敵対行動だったという証言者がいれば確実に。

 

つまり秋はこの時点で、見方にも敵を作ったということになる。見方に安心して背を任せられない隊員程、弱く脆い者はいない。同時にとてつもなく恐い行為であることを、元軍人である岩端にはよく分かっていた。

 

(その意思の高さに完敗した。ここは俺が一肌脱ごうじゃないか!)

 

いい男以外で、こんなにも感情を動かされたのは初めてだった。

 

「おい、お前らは寝ぼけて殴っちまった奴を恨むのか!?秋は刀を向けただけだ。攻撃してねぇだろうが。それに記憶が無くて不安な時に、刀持った黄泉がいるんだぞ?刀構えたくもなるだろうよ」

 

どういう意味よ!と横から黄泉の怒りの声が飛んでくるが、この際無視する。黄泉も本気で怒ってはいまい。…多分。

 

メンバーはといえば、満更でもない様子で頷いている者もいる。今度はそっちに黄泉の怒りが飛び火したようだが、元はと言えばお前らが悪い。俺は知らん。

 

「そんな秋をお前らは責めるのか?寄ってたかっていい大人が、高校生いじめんのか?それ以上に情けねぇもんはないと思うがな」

 

そこまで言うと、俺は秋の方に向き直る。黄泉に刀を向けられているメンバーは頭の中から除外した。今そっちを気にしたら、俺にまで火の粉が飛んできそうだ。

 

俺は頭の中で短く念仏を唱え、滅多に見せない笑顔で秋に言った。

 

「ようこそ、環境省超自然災害対策室へ」

 

 

 

岩端さんの笑みは正直言って恐ろしいの一言だった。私は今まであれ以上の恐い笑顔を見たことはない。

 

だが、岩端さんのおかげで助かったのは事実だ。あの言葉で、対策室のメンバーは私のことを一応は認めてくれたらしい。

 

皆口々に、「確かに黄泉はこわいからな」とか、「黄泉にいじめられたらいつでも来なさい」とか、優しい言葉を口々に私にかけて、自分の部署に戻っていった。

 

黄泉さんはそんなに怖いのでしょうか…

 

少し不安になったのは事実である。だが、あの一悶着の後、直ぐに黄泉が走ってきて、

 

「良かった」

 

と呟いたときの笑顔を見れば、そんな少しの恐怖など、どこかに飛んで行ってしまった。

 

 

秋の自己紹介のほとぼりも冷め、メンバーが所定の場所に戻った時に、桐が室長室のドアを思い切り開いた。焦ったわけではないのだろうが、顔色から緊急性だけは読み取れた。

 

「カテゴリーB土蜘蛛出現!」

 

その報告に、退魔師たちは一気に顔を引き締めた。

 

ああ、これがこの人たちの本当の顔なんでしょうね。

 

秋は対策室のメンバーの顔をみてそう思った。と同時に、懐かしく思えたのは偶然ではないだろう。

 

「土蜘蛛たぁ、また面倒なのが来たな」

 

「そう言うなよ、岩端のおっさん。秋の腕試しには丁度いい獲物じゃねぇか」

 

机の上に置いてあったアタッシュケースを担ぎながら短髪の桜庭は、秋を見ながら言った。

 

「…そうかも知れないな。さて、神楽を拾って現場に直行しますか」

 

飯綱がそう言ったのを聞いてから、今まで感じていた違和感の意味をやっと理解した。今日は神楽がいない。

 

「気になってはいたんですが、今日神楽は?」

 

神楽にもさん付で挨拶をしたら、黄泉同様、名前だけで呼んでくれとのことだったので、それに甘えている。敬語もやめてくれと言われたが、こればかりはおこがましいので譲れない。

 

「今日は学校よ。ちなみに私は今日は休校日」

 

少々胡散臭い黄泉がここにいる理由は、申し訳ないがスルーしておく。その方がいいだろう。余計なことには首は突っ込まない。

 

鉄則ですよね?

 

「なるほど。しかし、学校を抜け出してくるのは少々、難しいのでは?」

 

「大丈夫。その辺は抜かり無いわよ」

 

黄泉が意味ありげな笑みを浮かべながら取り出したのは、携帯電話だった。ポチポチと高速で押されていくボタンたちを数秒眺めていると、目の前にスッと画面が差し出された。

 

画面には『お母さんの具合が急変した。急いで来なさい 父』とだけ書いてあった。

 

「これは…神楽のお母さんは入院しているんですか?」

 

「これは私たちが学校を抜けてくる時に使う招集メールよ。それと神楽にお母さんの話は禁句ね」

 

最後に黄泉がなぜ付け加えたかは、分からないが。聞いていけないのであれば、無理をして聞こうとは思わない。そんな悪趣味は私には無い。

 

私が頷いたのを確認し、黄泉は自分の退魔刀『獅子王』を手にとった。私も手近に置いておいた鳴神をつかむ。他のメンバーはもうすでに退室しており、下からは車のエンジン音が聞こえた。

 

「さて、準備出来た見たいだから行こうか」

 

「はい」

 

初任務。私は上手くこなせるのだろうか。私は自信を持たせるように鳴神をしっかりと握った。

 

 

何で私だけ秋の紹介の場面に立ち会えないのだろうか。

 

神楽はイラつきながらも目を閉じていた。確実な睡眠時間を毎日取れるか微妙な退魔師にとって、寝られる時に寝ておくというのは常識中の常識だ。

 

秋が来てから、一度も招集がかかっていないので、ここ二、三日はきちんと睡眠時間を確保出来ているが、寝ておいて損はない。

 

怒りを沈めつつ、もう一度寝ようかとウトウトし始めたところだった。

 

「土宮〜、英語の宿題、見ーせて!」

 

神楽の前の席に腰掛け、懇願してくるのは、同じクラスの柳瀬 千鶴((やなせ ちづる)である。

 

「ごめんね、土宮さん。私もいい?」

 

真鍋 美紅(まなべ みく)もまた申し訳なさそうに、そう言った。必死そうなその表情を見た途端、神楽の眠気は一気に吹っ飛んだ。

 

学生生活を真面に送れない神楽にとって、千鶴と美紅は数少ない友人であり、黄泉の他に唯一心を許せる存在だった。

 

そんな友人の頼みであれば、貸さない道理がどこにある。友人で無くても、頼まれれば貸すのだが。

 

宿題のノートを出そうと、カバンに手をかけたその時、机の上に置いてあった携帯からバイブ音が鳴った。

 

その瞬間、神楽は悟った。そして同時に恨んだ。

 

(どうして、今!)

 

携帯のバイブが鳴れば、普通はメールの確認をするだろう。そして、メールの確認をして、その内容が急な場合は今すぐこの状況を離脱しなければ、むしろ怪しまれる。

 

つまり、神楽は数少ない友人とのこれから始まるであろう楽しい談笑を、パスし、巨大悪霊と戦わねばならないのだ。

 

これ以上に悲しいことはない。だが、これもお勤め。仕方が無い。

 

「ごめん、呼び出し」

 

「土宮ん家って、お母さん入院してるんだっけ?」

 

「やっちん!」

 

千鶴のあだ名を美紅は強く呼ぶ。だが、神楽はその静止を「いいよ」と一言で労い、一度頷いた。

 

「ノートは机の上に置いておいてくれればいいから!」

 

それだけいい、神楽は剣道の竹刀を入れる袋に入っている舞蹴拾壱號を掴んで、勢いよく教室を飛び出した。

 

そこで偶然先生に遭遇し、慣れてしまった事の行き先を説明。涙ぐみながら送り出してくれる先生の顔に、心が痛みながら神楽は学校の前に止めてある、どう考えても普通の自家用車ではない車に飛び乗った。

 




さて、次回からは本当にやっと原作入りとなります
遅いわぁ!←はいすみません。その通りです

少しづつ暗い影が見え始める…かも?

では次回もまたお会い出来ることを祈って…

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