行き場を無くした雷   作:四季乃

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第六話

乗り込んだ車の中はいつもとは少し空気が違っていた。

 

「なぁ、秋の退魔刀って重いんだろ?どうやってそんな重いの使いこなしてんの?」

 

「え、ああ。これ重いですか?」

 

秋は鳴神を見せながら言った。

 

「ちょ、一騎女子にそんな質問ないでしょ」

 

「だって、岩端のおっさんが重いって言ったんだぜ?やっぱ、修行か?修行したのか⁉」

 

「さ、さぁ。その辺は記憶がまだ」

 

「あ、そうか。すまん!」

 

「ほら!言わんこっちゃない」

 

秋に興味津々の一騎を黄泉がストップをかけているこの状況を、神楽は少し驚きながら観察していた。

 

いつもこんな感じで、賑やかではあるのだが、少しばかり男性陣が賑やかな気がする。やはり、秋のおかげだろうか。

 

「おい、桜庭」

 

「何だよ、岩端のおっさん」

 

「お前、俺のことそんなに気にしてくれてたのか…」

 

ぽっと頬を赤らめて岩端は言った。

 

「気にしてない!断じて気にしてない!てかどうしてそうなった!?」

 

桜庭は首をブンブン降り、死にそうな顔の前で手を交際させている。

 

その状況をみて、秋は小さく吹き出した。

 

「秋?」

 

「ごめんなさい。あまりにも楽しそうな会話だったので、つい」

 

神楽が尋ねると、笑いを堪えているような声で、でも楽しそうな声で秋は言った。

 

「楽しくねぇよ!むしろ俺の命が危ねぇ!」

 

桜庭の必死そうな声が、秋を含めた一同の笑いを誘った。

 

 

車の中の楽しい談笑とはうってかわって、現場に着いたときには対策室メンバーの顔は引き締まっていた。

 

現場は肌寒い冷気に包まれ、薄い霧が発生していた。

 

まさに、何か出てきそうな雰囲気。素晴らしい演出です。

 

「紀之、状況は?」

 

秋が自然発生した冷気と霧に無意味な賞賛を送っている時には、黄泉はすでに状況の確認を飯綱から受けていた。

 

「今回はかなりデカブツだ。ここから北北東を悠々と進行中。その1キロ先に県道がある。いつもは交通量なんて無いに等しいが、破壊したら国土交通省がうるさいな」

 

管狐の目を通して飯綱紀之は土蜘蛛の動きと、周りの状況を完結に報告する。一般人がいないことは何よりだが、注意はし過ぎてなんぼだ。それに、他の省庁は何かと理由を付けて文句を言ってくるのだから、始末が悪い。

 

人の仕事は黙って見ていればいいものを。

 

黄泉は毎回思っている。警察や消防が道路や橋を破損させてもうるさく言わない国土交通省は、なぜか環境省には厳しい。

 

確かに破損させている量はうちが一番多いんだけど

 

「分かった。管狐を下げて」

 

黄泉が飯綱に指示を出し、岩端に指示を仰いだ。現場責任者は言わずもがなの岩端だ。岩端は一度考えた様な素振りを見せ、周りを囲んでいる対策室メンバーをぐるりと見回して言った。

 

「今回の獲物はカテゴリーB“土蜘蛛”だ。生半可な攻撃はまず通用しない。だが今回は秋の初陣ということで、秋と黄泉が先行し、その他は後方支援だ」

 

「えー… また後方支援?」

 

岩端の作戦内容を聞いて、神楽が不本意そうに呟いた。

 

神楽としては、そろそろ主役をはらせて欲しいところだが、その辺はまだ黄泉の許可が出ない。剣術にも甘いところがある。それが黄泉の不安を煽り、許可を出し兼ねているのだろう。

 

「まだ早いわよ。舞蹴拾弍號、使いこなせるようになったらね」

 

「使えるもん!」

 

「じゃ、使えるとこ見せて」

 

神楽の抗議を半分流し、黄泉は獅子王を抜刀。霊獣鵺“乱紅蓮”を召喚する。大きさは二メートルはありそうな乱紅蓮は短い咆哮をし、静かに主人である黄泉の命令を待っていた。

 

黄泉は乱紅蓮の肩の辺りを二三回撫でた後、まるで馬に跨がる様に軽々と乱紅蓮に飛び乗った。

 

「秋も乗る?」

 

黄泉は乱紅蓮の上から秋に手を差し伸べている。

 

「いえ、私はこれがありますから」

 

だが秋はその申し出を断った。

 

記憶を取り戻したとはいえ、以前の通りに戦えるか分からない。だとすれば、簡単なものから確認していくしかないだろう。

 

秋は思い出したばかりのタントラを間違えないように唱え、印を組んだ。

 

「オン!」

 

その一言の後に、周囲に風が発生した。木々を揺らしながら突風が吹き抜けていった。その発生源を、対策室メンバーは奇妙そうな顔をして、もしくは、多少の警戒心を抱いて眺めていた。

 

「良かった…成功です」

 

だがその原因たる秋は、ホッとしたようで息を長く吐いていた。

 

「… 秋、何?今の」

 

恐る恐る黄泉は秋に質問を投げかけてから、気づいた。

 

うっすらと霊力が秋の体全体を包み込んでいる。

 

「いわゆる、身体強化です」

 

輝かしい笑みで秋は言った。

 

 

秋の爆発的な霊力の増加に唖然としていた黄泉は、しばらくその状況を飲み込めずにいた。

 

霊力で身体強化など、どれだけの霊力があれば可能なのだろうか。少なくとも今の私では無理だ。

 

黄泉は秋を見ながらそう思った。でも決して、僻んでいるわけではない。ただ、純粋にすごいと思った。これが自ら死を選べるだけの強さの証明なのだろうか。力があるから、死なない。そう自負することが出来るだけの力量。

 

確かに秋にそれは可能なことかもしれない。

 

だが黄泉は浮上してきた考えをすぐに否定した。強いから死なない。それは、常にイコールではない。

 

黄泉は実力のあった退魔師が死ぬ場面を一度見ている。だからこそ分かる。秋は強いのではない。力があるから死なない。そう確信しているから、例え書類上であっても死ぬことを恐怖しない。

 

だからこそ黄泉はあの時、秋を仲間に入れることを拒まなかった。あそこで手を離したら、本当に秋が遠い場所に行ってしまう気がした。

 

いくら身体強化をしても、限界はある。戦闘に使う霊力を温存するのも戦いの内だ。

 

黄泉は一度乱紅蓮から飛び降りて、秋の手を掴んだ。一瞬驚いた顔をした秋を無理やり乱紅蓮に乗せる。

 

「黄泉?私、走りますよ?この乱、紅蓮… でしたか?と同じスピードは出せますし」

 

「いいから、乗ってなさいって。眺め良いわよ、風も気持ちいいし。それに、戦闘に万全の体制で望むのも私たち対策室の退魔師(エージェント)の仕事よ」

 

黄泉は半ば無理やり秋を乱紅蓮に乗せた。

 

そう。うちは秋の前に所属していた組織とは違う。秋を、強いから死なないなんて思わせた連中とは確実に違う。私は、死なせないわよ。秋。

 

黄泉はそう胸に刻み、乱紅蓮を土蜘蛛に向けて疾走させた。

 

「取り敢えず、その身体強化を解いて。霊力消耗するから」

 

「ええっ!?せっかく成功したのに」

 

「それじゃ私が乱紅蓮に秋を乗せた意味が無いでしょ!」

 

半分ボケに突っ込みを入れる漫才の様なスピードで、黄泉は秋に突っ込んだ。

 

 

「今回は秋の腕試しみたいなものだから、やり方は秋に任せる」

 

黄泉は真っ直ぐな眼差しを秋に向けて言った。

 

「任せる、ですか… 」

 

ここは、私の力量を出来るだけはっきりさせておいた方がいいでしょう。私自身、どこまで以前通りに動けるか分からないところでもありますし。

 

一通り覚えている戦術、戦略を洗いざらい検討し、秋は今回のターゲットに見合ったものを導き出す。

 

「では、手始めに対象の足を全て斬り落として動きを止めましょう。その後は私が一人でやらせていただいてもよろしいですか?」

 

「今回は秋の腕試しだから、私に秋の作戦に口を出す権利は無いわ。でも… 」

 

黄泉は一呼吸おいてから、少し強い声で言った。

 

「私が危険だと判断した場合は、問答無用でフォロー入れるからね!」

 

もはや、断る余地すらこの時点で秋には与えられなかった。黄泉の戦闘を見ていないから何も言えないが、これだけ格の高い霊術を使役しているところからみて、霊力は相当だろう。となれば、断る理由は秋には元々ない。

 

「ええ、お願いします」

 

秋は笑顔で黄泉に言った。だが、どうして黄泉がそこまで強い声で言ったのかは秋には分からなかった。

 




ようやく原作らしくなってきた…

ホッとしている作者であります

もう少しすると敵と、秋の目的がはっきりしてくると思います
お付き合い願います

ではまた次回、お会い出来ることを祈って…
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