相変わらず不定期な更新で申し訳ありません。
さて、今回はちょっとほのぼのです。
Side:秋
「あの、これは… 何でしょうか?」
「見て分かるでしょ?納豆よ」
私は目の前の丼に入れられた大量の納豆を見て、倒れそうになるのを必死で食い止めた。
「食べなきゃダメですか?」
「もちろん!」
「ではまた後でという「ダメ」… はい」
ーーーなぜこんな状況になっているかというと、それは数日前まで遡る。
◇
土蜘蛛の討伐から一週間程立った後、皆でお茶をしている時、黄泉がそういえばと、おもむろに聞いてきた。
「秋の住む場所ってどうなってるの?」
私はお茶を少し啜ってから、机の上に湯呑みを置いて言った。
「ここですよ?」
記憶を失っている私がもちろん自分の家など知っている筈がないので、ここ数日は対策室の空き部屋を間借りして、ベッドなどを支給してもらったところを自室としていた。
実際昼間は対策室の任務があるし、食事は食堂で済ませられる。シャワールームもビルの中にあるので、自室に戻るのは本当に寝る時だけだ。
だからそれなりの家具などはいらないし、それならばここでいい。という話に室長となったのである。室長はワガママを言っていいと言ってくれたが、雇われの身である私がそこまで頼ることも何だかおこがましいような気がした。
と、一通りのことを黄泉に説明すると、黄泉は一気に顔面蒼白になった。
「ダメよ!ここは男と女の比率がおかしい場所なんだから!いつまかり間違って、変なやつが押し入ってきたらどうするのよ!!」
「い、いえ。私、いつ指令が来て出動するか分からないので、熟睡はしていないんです。だから部屋に誰か入って来てもすぐ対処出来ますし…それに鍵もかけられますし」
一回寝てしまうと、体を慣らすのに私の場合は最低でも三十分は必要になる。“何時如何なる時も戦闘出来る状態でいる事”これが私の覚えている仕事場の教訓だ。
おそらく記憶を失う前の私もこんな感じだったのだろう。熟睡しなくても全く疲れを感じない。慣れというのもあろうが、熟睡出来ないのはあの夢を見たくないと、精神が熟睡を避けているとも思える。
「ダメだよ、秋。それじゃ秋の体がもたないって!」
しかし、私の気持ちを知ってか知らずか、神楽まで黄泉側に付く始末である。私にとってはかなり不利な状況だ。
「だって、熟睡してしまったら体も動かないじゃないですか…」
「「熟睡しない方が動かない!」」
「ハモらなくても…」
まぁ、考え方は人それぞれですが…
「よし、そうと決まれば秋の荷物運び出すわよ!」
「りょーかい!」
私が反論をする暇を与えない為か、猛スピードで対策室を飛び出していった。チラリとではあったが、黄泉の手には私が部屋として使っている会議室のマスターキーらしきものが握られていた。
室長もそっち側ですか…
なぜ、ここまでしてくれるのでしょうか。私は記憶が無くて、言わば一番危ない存在かもしれなのに。
「おい、秋!」
一人悩んでいると、机の向かい側に座っていた桜庭一騎さんが、いつのまにか大量の段ボールの空箱を持って私の目の前に立っていた。そして段ボールを私の机に積み上げてから、少し強い口調で言った。
「お前、未だに俺たちに申し訳ないとか思ってるんじゃないよな?そう思ってるんなら、違うぞ。黄泉はお前を連れ出す為にあんな茶番をうったんだ」
「あの、桜庭さ ーーー」
私が言おうとした言葉は、桜庭の首を振る仕草に遮られた。
「お前は、まだ俺たちに遠慮してる。でも、お前は俺たちの仲間だ。だったら少しは甘えってもんを見せろ。てかいいんだ、見せて」
この時は、桜庭の言葉の意味が分からなかった。
「おーい桜庭!段ボールまだか?こっちは粗方済んだからさぁ」
開いた扉から飯綱の呼ぶ声が聞こえた。
え?まさか…これって…
「おい、秋。早くいかないと、黄泉たちにお前の私物全部俺たちの前に曝け出されるぞ」
ですよねー!そういう展開ですよねー
「ま、待ってくださいー!荷物の整理はせめて本人のいるところで!というより、私はまだ、移動するとは言っていません!!」
◇
顔面蒼白になって対策室を出て行く秋の背中を、桜庭は微笑ましく眺めていた。
もう少し馴染んでくれると、俺としても助かるんだが…
何というか、子供の成長を見守る親のような心境である。桜庭は、そう考えて、少し吹き出した。
「おい桜庭!段ボール!!」
もう一度飯綱の声が聞こえた。もうそろそろ行かないとマズイだろう。秋の私物も片付けられただろうか。少し惜しい気もしたが、桜庭は積み上げた段ボールを再度抱えて、秋の自室に向かった。
◇
Side:黄泉
荷物の整理は極めて簡単だった。元々荷物自体が少ないというのもあるが、秋の性格上整理整頓がされていて、荷物の識別に苦労をしなかったおかげもあるだろう。
積み上げられた段ボールは、先ほど全て引っ越し業者に引き取ってもらって運んでもらった。今頃はもう秋用に割り振った部屋に運び込まれている頃だろう。
「あの、黄泉。それで私はいったいこれからどこで生活すれば?」
秋が私の後を歩きながら、泣きそうな顔で聞いてくる。記憶が無い状態でこのやり方は少し無理矢理過ぎたかと少し反省する。
「まぁ、着いてくれば分かるわよ」
「もったいぶらずに教えてあげればいいのに」
やれやれと神楽が肩を竦めた。
秋が対策室のビルの中で暮らしていることを知ったのは、昨日だった。任務が終わり、秋が私たちを見送ってくれた。もう、医務室にいる必要は無いのだから、どこで寝ているのだろうか。少し気になった。
私と神楽は帰った振りをして、こっそり秋の後をつけた。秋はビルの中に戻り、元は会議室として使っていた部屋に入っていった。しばらくすると電気は消え、静かな寝息が聞こえた。
秋は、ここで一人で寝てるのか…
私と神楽は帰ればいつもではないが、一人じゃない。だけど、秋は違う。仕事が終われば、ここで一人で寝るのだ。寒い部屋だろうな。
気づいたら、黄泉は家に向かって走っていた。
私は帰ってから、お父さんに相談した。友達を居候させて欲しいと。詳しい説明は省いた。それでも、お父さんは快く承諾してくれた。
「私とお前だけでは少し寂しいだろう。それに、対策室の子なら、一緒にお勤めも行けるだろう?」
私は、この時もう一度、私を拾ってくれたお父さんに泣いて感謝した。
しかし、秋の説得方法を考えておくのをすっかり忘れていた。あの硬い性格の秋のことだから、絶対にうんと言わないだろう。だから、こうして強硬手段に及ぶしかなかったのである。
「… 悪かったと思ってるわよ。…あのさ、秋。好きなものは?」
「え… ト、トマト… ですが」
「よし、今日はトマト尽くしでいくわよ!」
「ちなみに、秋。嫌いなものは?」
「な、納豆です… 」
秋の返答を聞き、メモ帳にスラスラと書いていく。
明日の朝ごはんは納豆ね。ちらっと考えて、明日の朝ご飯を想像する。
きっと秋、顔面蒼白になるだろうな。まぁ、そんな秋を見るのも楽しいからいいか。
「あ、あの黄泉?」
私が小さく笑うと、そろそろ泣き出すのではないかという表情をして、秋が聞いてくる。
「何でもないわ。… ほら、着いたわよ」
「久しぶりだねぇ、ここに来るのも」
「神楽もご飯食べてくでしょ?」
「うん!」
状態を飲み込めていない秋だけが、キョトンとした顔で突っ立っている。
「ようこそ。諌山家へ。今日からここがあなたの家よ」
私は家の前に立って、手を広げて言った。
「え?えぇ?」
「だから、今日から秋は黄泉の家に居候するんだって」
神楽が苦笑しながら、補足した。
「ど、どうし「待った」… 」
「秋。私たち仲間よね?」
「は、はい」
「私たち、友達よね?」
「… はい」
「じゃぁ、いいじゃない」
秋の暗い雰囲気を、私はスパッと切り捨てた。 清々しい笑顔と共に。だが、秋は首を振って否定した。
「ですから、どうしてそうなるんですか…?私は、これ以上あなた達に甘えることは出来ません。今だって、対策室という居場所をもらっただけでも十分なのに… 」
それを聞いた瞬間、私の頭には会議室で寝ている秋がイメージングされていた。
あの時の秋は、どんな顔をして寝ているのだろうか。記憶が無くて、目覚めて早々敵を作って。元気そうに、楽しそうに笑っているが、本当は不安でしょうがないのではないのだろうか。不安に押しつぶされそうになるのを、必死に耐えているのではないだろうか。
「じゃあ対策室の仕事が終わってからの秋の場所は?寝るまでの居場所は?… あの会議室とは言わせないわよ。あれはただの空間であって、居場所ではないわ」
「空間があれば、私は寝られます。それに、対策室という居場所が、どれ程、私にはありがたいか」
難しいとは思ってはいたが、ここまで難攻不落な要塞精神だとは思わなかった。もう少し簡単に説得できると高を括っていた私は歯ぎしりをした。
「… もう、素直になればいいのに。お互いに」
今まで何も言わないで話を聞いていた神楽は、呆れたようにため息を吐いた。
「黄泉は秋に、来てほしいって。秋は黄泉に、行きたいって。それだけでいいじゃん。ね?」
そういうと神楽は二人の手を取り、握らせた。
「わ、私は… 行っていいんでしょうか… ?」
「この家の人が言ってるんだから、ダメなわけないでしょ」
私は苦笑して言った。
「… ありがとう、ございます」
「ん。素直でよろしい!」
丸く収まった二人を見て、神楽が満足そうに頷いた。
◇
「君が、秋君か」
「は、はい」
書斎で椅子にもたれかかっている諌山奈落を前に、秋は少し緊張していた。霊力もさることながら、威圧感というか、存在感というか、取り敢えず、圧倒されていた。
「すみません、事前にご挨拶にもあがらず、こうしていきなり来てしまって」
だが、奈落はそんな秋の緊張を解す為か、優しい笑みを浮かべて言った。
「いや何分、この話を聞いたのが昨日の事だったからね。気に病むことは無いよ」
奈落はちらりと黄泉を見て、少し苦笑した。
「この家は私と黄泉の二人暮らしでね。神楽ちゃんがいなくなってからは、静かすぎて寂しいくらいだ。これからは、自分の家だと思って生活してくれて構わない」
「あ、ありがとうございます!」
◇
秋は奈落の言葉を思い出しながら、妙な心の温かみを感じていた。家族の温かみ。投げかけられる優しい言葉。久しぶりに味わったこの感覚は、一生忘れないだろう。
おそらくもう死亡しているであろう家族。もう二度と味わうことの出来ない感覚。
無い記憶を辿っても、思い出されるのは生きていた頃の家族の記憶よりも、夢で見た愚物と化した方が鮮明だった。
どうしてあんな姿になっていたのか。どうして私を襲ったのか。そして顔の思い出せない少女は誰なのか。そして、私はどうして記憶を失っているのか。
分からないことばかりだ。解決策を見出そうにも、手がかりが少なすぎて、どこから手を出していいのかすら、分からない。
「私は一体これからどうすれば…」
このほのぼのは次回までで一応終了ですが、ちょくちょくいれていこうかと思っています
相変わらず不定期ですが、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
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