行き場を無くした雷   作:四季乃

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お久しぶりです。前の投稿からだいぶ日が空いてしまいすみません…
テストやら大会やらに追われて、PCに触る暇もなく…

さて、今回は前回の続きであります。もう少し明るくなれ!秋!


第九話

 

 

side 黄泉

 

「秋!ご飯出来たよ」

 

秋の部屋となった一室の扉を開けると、荷物の少ない部屋の中、秋はベットの上で手を組んでいた。考え込んでいるようで、難しい顔をして微動だにしない。

 

私が入って来たのに気づいた秋は少し顔をあげると、笑った。まるで、さっきの考え事を頭の隅に追いやるように。

 

「どうしたの、秋」

 

「い、いえ。なんでもありません」

 

「秋?」

 

私はもう一度秋の名を呼んだ。秋は本当に何でもないですと、首を振って部屋を出て行った。

 

 

 

私が食卓へ戻ると、いつも通りの秋の顔がそこにあった。さっきの面影はどこにもない。私の顔をみると、秋は優しく微笑んだ。神楽はというと、早くしろと目で要求してくる。

 

目の前の食卓に並んでいるのは、秋が好きだと言った、トマトメニューである。トマトのグラタンに、トマトのムース、トマトソースのたっぷりかかったハンバーグに、トマトのスープ。本当にトマト尽くしである。

 

「おお、今日はまた一段と凄いな」

 

振り向くと、お父さんが立っていた。いつからそこにいたのか全く気がつかなかった。こういう所でも関心させられるところは多い。

 

「え、ええ。秋の歓迎会なの。秋がトマト好きだって言ってたから」

 

「そうか。これはうまそうだ」

 

「えぇ。本当に… もう死んでもいいです」

 

うっとりした顔で秋は目の前に並んでいるトマト料理を眺めている。

 

「いや、死なないで!まぁ、いいや。食べよ。いただきます!」

 

「いただきまーす!」「「いただきます」」

 

秋はトマトのムースを一口食べ、泣いた。奈落はスープを含み、微笑みながら頷いている。神楽はというと、もう片っ端から食べている。そのスピードたるや、凄まじいものである。

 

「いいなぁ…秋、今日からこんな美味しいご飯毎日食べられるんだよ」

 

神楽は一息つきながら、言った。

 

「いや、ご飯は当番制だからね!」

 

私の素早い否定に秋は笑った。

 

「分かっていますよ。明日は、私が腕を振るって差し上げましょう。この素晴らしい歓迎会のお礼に」

 

「ほぅ。それは楽しみだ」

 

「ええ。ご期待ください」

 

「えー!私も食べたい」

 

「神楽も来たらいい」

 

「え?来ていいんですか?」

 

「あんた、それを狙ってたでしょ」

 

それからしばらく、楽しい会食は続いた。

 

 

「今日は泊まって行けばいいのに」

 

神楽は夕食の片付けが終わると、帰ると言い出した。確かに、急な引っ越し&歓迎会で泊まる用意はしてきていないようだ。

 

「ううん。お父さん、今日帰るって言ってたから。夕飯用意しとかないと」

 

「そっか」

 

神楽のお父さん。土宮雅楽殿は、神楽のお母さんの敵である悪霊を探す旅をしているため、家にいることがあまりない。帰る時期もバラバラでいつ帰るかはほとんど分からない。だから、会えるときに会っておきたいと思うのは、子として当然のことだろう。

 

幸い、今日は雨が降る気配はない。月も満月に近く、十分に明るい。痴漢等の危険性は心配していない。むしろ神楽を襲った痴漢等を心配しなければなるまい。

 

「じゃあね。黄泉、秋。また明日!」

 

神楽は手を降り、走って帰って行った。走り去る神楽の背を見送りながら、少しだけ私は寂しかった。小さい頃はお姉ちゃんと呼び、どこに行くのも付いてきていた神楽が、少しずつ自分から自立していくことが。

 

欲を言えば、久しぶりに一緒にお風呂入ったりしたかった。

 

「…秋、お風呂入ろ」

 

「はい」

 

秋が一人でお風呂に入らなくて済むってことで、今日は我慢するか。

 

そう思うことにした。

 

 

side 秋

 

黄泉は本当に感情が顔にすぐに出る人です。私は、そういうことに敏感なのかは知りませんが、黄泉を見ていれば何を考えているかは大体想像がつきます。

 

ですから、今の黄泉が考えていることも、ほとんどと言っても過言ではないと言える程、当たっていると思います。

 

おそらく、私とお風呂に入るということ自体が嬉しいのではなく、私が一人で入ることが無くなったという事が嬉しいのでしょう。

 

こう言ってしまうと何だか変ですが、黄泉は優しい人だな。と一人で勝手な解釈をしまいます。でも、私が思っていることですから、問題ないでしょう。

 

黄泉が楽しそうに鼻歌を歌いながら、浴槽に浸かっているところを見て、私はほっこりと顔を緩めた。

 

黄泉にはそれが、風呂に使ってリラックスしていると思えたらしい。

 

「いいでしょ、うちのお風呂。対策室のシャワールームなんかより」

 

黄泉は頭を風呂の淵に頭を乗せながら言った。

 

「そうですね。こうして、足を伸ばして浴槽に浸かれると疲れも幾分かとれるような気がします。シャワールームでは流石に出来ませんからね」

 

私がそういうと、黄泉は満足そうに頷いた。それから、私を見て少し顔をしかめた。

 

「ねぇ、秋。ここは別に銭湯とかじゃないから、別にいいんだけど、タオルは巻かなくてもいいんじゃない?そんなに恥ずかしい?」

 

「あ…すみません。シャワールームでは一人だったもので」

 

「あ、ううん!別に気にしないで!そうだよね。やっぱ慣れてないとさ。日本人なら誰でも大丈夫だと思ってたけど、皆がみんなってわけじゃないものね!」

 

「いえ、違うんですよ。羞恥ではありません。ただ、どうしても憚れるかと思ったからで」

 

「何を憚るの…?」

 

私は立ち上がり、胸に巻いていたタオルを解いた。そこにあったのは、年齢相応のきめ細かい肌などではなく、心臓があるはず場所に痛々しいまでの大きな傷が十字に走っていた。

 

「これ、は…」

 

「私がこれに気づいたのは、ここに来てからです。従ってどうしてこのような傷があるのかは分かりません」

 

これも記憶喪失に関係があるのか。そこまでは分からなかった。ただ、確実に心臓を狙い、抉った傷跡だということは想像に難く無い。

 

私には一応脈はある。それに、対策室で検査をしてもらったにも、心臓はあるべき場所にきちんとあり、機能していた。

 

では、この傷は一体何が原因でついたものなのか。傷を見つけてから、今までずっと考えているが答えは出ていない。ただ、確実なのは、致命傷にならないほどの浅い攻撃では無かったということだ。そうでなければ、傷がここまで深く残ったりはしない。

 

「そう。ごめん」

 

「黄泉が謝ることはありませんよ。別に傷を見られたからと言って、私が死ぬわけでありませんし」

 

私は笑って言った。それに安心したのか、黄泉も笑った。

 

「そうだ黄泉、今日は私が背中を流しますよ!トマト料理のお礼です!!」

 

「へっ!?」

 

黄泉は戸惑ったように、間抜けな声を出した。

 

「私は、今まであんなに美味しいトマトを食べたのは初めてです!今度レシピ教えてください。それで、対策室の皆さんに食べてもらいましょうよ!」

 

私は小さくガッツポーズを作って黄泉に見せた。

 

「ね?」

 

「分かった。じゃあ、明日色々教えてあげる。ムースが出来ればあとは難しくないし」

 

この後結局、二人で洗いっこになったのは、言うまでもない。

 

 

 

Side:秋

 

「ねぇ、秋はさ、両親の記憶ってある?」

 

お風呂から上がり、部屋でゴロゴロしていると、黄泉が枕を抱えて、部屋を訪ねてきた。

 

少し話しない?

 

そう笑って言った黄泉の顔は、修学旅行で寝られない学生のようだった。

 

初めは、対策室メンバーの失敗談や、面白話し。そのうち恋ばなに発展したのは、女子の特徴だろう。今は黄泉は好きな人はいないとか、でも絶対いい人と結婚するんだとか。私は曖昧ではあるが、親しい間柄だった人はいるとか。そんな話で盛り上がった。

 

話も次第に落ち着き、気づけば家族の話になっていたのである。

 

「両親、ですか。私には、両親記憶があるにはあるのですが、人霊、あなた達がカテゴリーDと呼称している物に堕落してしまった、両親の記憶の方が鮮明に思い出せるんですよ。まったく、困ったものです」

 

秋が苦笑気味に言った。しかし、黄泉は何も言わなかった。今まで秋の顔を見ながら話を聞いていた黄泉は、天井に視線を移した。

 

「私は、親を悪霊に喰われたわ。そのときの記憶はほとんどないの。だから秋よりはいいかもしれない。でも、ごく稀に思い出すことがあるのの」

 

黄泉は恐ろしい夢を思い出したように、少しだけ身震いした。吐き出された声は少しだけ震えていた。

 

「悲鳴が聞こえて、真っ暗な空間なのに、赤い血が飛ぶのが見えるのよ。それで眠れない日がある。… 秋もそうなんじゃないの?」

 

天井を見ていた黄泉の視線が再び私へと注がれる。その目は先ほどまでの怯えではなく、ただ単純に友を労わる目だった。

 

「… えぇ。そうかもしれません。熟睡すればあの夢を見てしまう。それが私は怖い」

 

「私たち、似てるわね」

 

クスッと黄泉は小さく笑った。それにつられて私もつい笑みをこぼした。

 

「でも、これからはゆっくり寝られるでしょ?もし、不安ならこうして一緒に寝られる。お互い様よ」

 

「はい。… ありがとうございます」

 

布団の中で差し出された手を、私はしっかりと握り、この世界に来てから初めて深い眠りについた。

 

 

 

Side:秋

 

その日の夢は実に穏やかな、微笑ましい夢だった。内容まではよく覚えてないが、しばらくぶりにホッとする夢だったことは覚えている。それは単に黄泉のおかげと言っても過言ではないだろう。

 

しかし、それと、これとは全く関係ありません!

 

「黄泉、なぜ今朝が納豆なのですか… 」

 

昨日のキラキラしているように見えた食卓は、今の私には黒々としたオーラが霧のように充満しているように見える。

 

「昨日は秋の好きなものだったからね。たまには、こういうのも食べないと、体壊すわよ?」

 

まさに、鬼の形相にしか今の私には見えない!

 

「食べて見ないと分からない!さ、一口」

 

言われるがまま、口に納豆を数粒流し込み、気合と共に流し込んだあと、私は泣きながらお手洗いに直行した。

 

「これだけは、やっぱり無理ですー!!」

 

あぁ、何かとてつもなく不安になってきました。私はここで果たして生きていけるのでしょうか… 少なくとも納豆が毎日続く生活では、私は死んでしまうような気がします。

 

 

 

 




次回からは少しずつ秋の過去にも触れていこうと思います。

亀更新ではありますが、どうかお付き合いください。

ではまた次回、皆様と会えることを祈って…

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