久しぶりに、こんな連続投稿をしました。
一日に三回の更新は、この作品を書き始めた最初の方――第一章辺り以来だと思います。
それではアナザーストーリー12話目、よろしくお願いします!
東野カナが歌う、『たとえどんなに……』は、私――夕霧靜霞のお気に入りの歌。
歌詞に注目して、その言葉に心を打たれたという訳ではないけれど……。
私に経験のない恋物語の描写を、女性視点で神妙に描いているし、何よりメロディが好き。
だから、今日のカラオケでも、今、その歌を歌っている。
歌唱力には自信があった。
声を潤っていて、周囲の空気に浸透するような透明さがあるし――私ほどの容姿でこれだけ歌の実力があれば、歌手にだってなれたのかもしれない。
そんな、今更見出せない可能性が頭に浮かんだけど、歌っている時くらい、何も面倒な考えはせず、自分の世界に浸っていたい。
マイクを握る左手の指に力が入り、一本だけピンと立てている小指が酷く冷えているみたいに感じた。
「~~~♪」
あぁ、本当に私って、才能に恵まれているわよね。
勉強も運動もできて、字も上手ければ歌のレベルも高い。
おまけに才能とは関係なしに、生まれ持った端正な容姿と妖美な身体。
これ程のパーフェクトガール、使ってもらえないのが本当に惜しい。
今の、音ノ木坂学院で話題沸騰中の、スクールアイドルに関してだって――。
「――~~♪」
元から私は、歌うことが好きだった。
音楽を奏でて、気持ちを表現することだって得意だった。
芸術の分野でも、私の実力は周囲から逸脱して上位クラス。
それは昔からで、音楽はもちろん、絵画でも、写真でも、小説の執筆だってする。
芸術って、本当に素晴らしいものだと思うわ。
だって、とても魅力的で、その世界に一度でも呑まれれば、凄く幻想的な光景を見られるし、人に雅趣でしょうと自慢もできる。
その中でも、特に私は歌が好き。
聴くのは勿論、自分の喉を震わせて、歌うことがとても好き。
「~~……――~~♪」
けど、今日はいつもみたいな一人カラオケとは違って、純粋に歌を楽しみに来た訳じゃない。
言うなれば、ただのストレス発散だった。
あの日以来――。
私は……。
「~~♪ ――――……」
そして、曲が終わる。
終盤の伴奏がじょじょに小さくなり、やがて消費カロリーが表示されると、得点場面へと移り変わった。
得点は――。
「おォ、すげェすげェ。九七点たァ、大したもンじゃねェか。あいつらでも、こンな高得点は叩き出せなかッたぜェ?」
…………え?
この、声って――。
瞬発的に身体を反転させて、室内をステージ上から見渡す。
歌い出す前には、絶対にいなかった存在。
今日の学校でも、会いたいと思いながら勇気が出せず、顔を合わせられなかった相手。
ソファの一箇所に、目の焦点を合わした。
「よ、夜伽ノさん!?」
銀髪の髪に、赤い瞳。
私が見惚れ、また最も見たくない顔が、そこに存在している!!
黒のパーカーに灰色のスラックス。
彼女のプライベートを垣間見れた気がして一瞬気分が舞いそうにもなるが、私の心境は途端に焦りを加速させた。
「な、何でっ!? と、というかこの部屋――え!? あれ!?」
「慌てるなよ夕霧靜霞。まァ確かに無許可で他人の部屋に侵入したことは謝るが、別に赤の他人ッて訳でもねェンだ。構わねェだろ?」
ソファに深く座って細長い脚を組み、腕を背もたれに乗せて大きく構える彼女の姿に、それから感じる謎の威圧と緊張に、唾を飲み込むも一歩後退ってしまう。
幸い、次の曲は入力していなかったみたいで、続きが流れることはなく、画面にはとある歌手が新曲の宣伝をし始めた。
「え、あ……いや……」
だ、駄目だ……。
予想だにしていなかった急展開に、思考はおろか本能さえも働かず、私の中の全てが置いてけぼりを食らっている。
そんな私の様子を見て、夜伽ノさんは面白そうに見て、口角を上げた。
「まァ、そう怯えンなよ。学校じゃいつ会えるか分からねェし……いつか、お前とはゆッくり話す必要もあッた訳だしなァ」
「あ、――あ、ぁ…………」
いや~それでも急すぎるわよ~!
というか夜伽ノさんもカラオケとか来るのね!
ちょっと意外!
「ところで……」
組んでいた脚を直し、体勢を前屈みにすると両手を組み、両肘を太股の上に乗せる格好を作る夜伽ノさんは、ふと言う。
「始業式初めの日に、早速一人カラオケか? 俺が言えたことじゃねェが、もう今年は受験生なンだしよォ。学校が早く終わッたそういう日には、ちゃッちゃと帰ッて勉強した方がいいンでねェの?」
何か最もなことを言われた。
けれど、彼女の今の発言で、私の頭もようやく、回転を始めた。
というのは、一つ、内容に奇妙な瑕疵を見つけたから。
「いや……一人、じゃないけれど」
「ン? あ、そうなのか」
そう。
いつも私は、カラオケと言えば美紗との二人か、一人で来る。
だが確立で言えば、圧倒的に一人で歌っている時の方が多いわね。
けれど、今日だけは違う。
相手は美紗じゃないけれど、私が半ば強引に連れて来てしまった、もう一人がいる。
そんな時に丁度、部屋の扉が開いた。
「夕霧さん、ドリンク持って来ました」
入ってきたのは、一人の少女。
歳は私とあまり変わらないくらい。
「……?」
そこで、私は怪訝に思う。
炭酸が注がれたグラスを片手に持って部屋に入ってきた金髪の少女を、振り返った夜伽ノさんが見た途端、一瞬にして顔を青ざめ、岩のように固まってしまっている。
「あ、あれ……。よ、夜伽ノ、さん……?」
驚くことに、その子も夜伽ノさんを見ると、表情に驚愕を浮かべた。
あら、まずいわ……自己紹介は済ませたのに、この子の名前が……。
えっと――。
「あ……」
この金髪の、外国人である少女。
メイちゃんと出会ったのは、つい数十分前のことだった。
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「はぁ~~~」
時間は午後の一時。
二学期開始の幕開けとなる始業式を終えて放課後、家に帰ると親が不在で、私服に着替えた後は喫茶店で昼食を取った後、私はとある公園のベンチに腰掛けていた。
「最近、ここに来ても一向にネフティスは顔を見せてくれないし……」
噴水を取り囲むベンチ。
夜とは違い、明るい今時は多くの子供達が公園内の遊戯で無邪気に遊び、噴水のショーを眺める老夫婦の姿も見られた。
「あの私の馬鹿な行動で、もう見限られちゃったのかも……」
私を救済するとか言っておいて……。
でも、ネフティスなら今の私の状況を把握していてもおかしくはない。
でも確かに、夏祭りのあの時。
高台から眺めた大きな花火の打ち上げ最中――。
私は焦りすぎた。
そして求めすぎた。
だから、あんな結末を作り上げてしまった。
「んあぁ~~」
もう嫌になる。
倒れ込むように腰を曲げ、ベンチに座りながら頭を抱えた。
「夜伽ノさん、怒ってるかしら……。いえ、もしかしたら私のこと、気持ち悪い女だって思ってるかも……。女同士なのに、いきなりキスとかしちゃった訳だし――」
でも、夜伽ノさんの唇。
少し冷たくて、柔らかくて――。
「って、違う違うそうじゃないわよ」
両手で丸く押さえ込んだ頭をブンブンと横に振る。
「あぁ……もうほんと、嫌……」
こんな事態を巻き起こしてしまった自分が。
夜伽ノさんに申し訳なくて――。
すると、そんな時だった。
「あ、あの……大丈夫、ですか?」
遠慮がちに、小さく向けられた心配そうな声は震えていて。
それでも、私はふと気づき、抱えていた頭を離して視線を上げた。
「まぁ……」
そんな感嘆する声を出す。
テレビの中でしか見たことのない容姿が、目の前にいた。
肌の真っ白な西洋人。
ボサボサで、癖のある前髪もだらしなく目元を隠しているけど――ほんの少し光沢の色が艶を出している、肩までの金髪。
前髪から覗く二つの眼光は、私が惚れた人に似て少し尖っていて、色彩は黒ずんだ不気味なものを感じさせる、濃厚な紫色。
ノースリーブの灰色トップスとデニムのサロペットを重ねて着ていて、足には白のスニーカーを履いている。
私からだと見上げる格好でもって、太陽の光で逆光が効いているも、その少女の表情はよく見れた。
「……あぁ、うん。大丈夫よ、ありがとう」
「そ、そうですか? なんか、お腹を痛そうにしていたので……」
それなら頭を押さえるんじゃなくて、お腹辺りを押さえているはずでしょう。
少し面白い発言に、私は思わずクスッと笑ってしまう。
「いいえ、本当にもう平気よ。優しいのね、あなた」
「い、いえ! 優しいだなんて、そんな私みたいな人間が……」
私の言葉に、金髪の少女は「はわわ」と慌てるように首を振り、両手を顔の前に翳して隠す仕草を取る。
何があったのかは知らないけれど、そこまで自分を卑下することもないでしょうに。
でも――。
助かった。
一人が辛かった。
誰かと一緒に――という思いが、少なからずとも、私の中にあったのでしょう。
「ねぇ、あなた名前は?」
「あ、……め、メイです」
「そう。どこの国かしら?」
「い、イギリス……」
その証拠に、
「ねぇ、メイちゃん。隣、座ってくれない? 少しお話しましょうよ」
普段の私なら、自ら他人を誘うなんて、滅多にしないこと。
夏祭りでの夜伽ノさんの件だって、本当に珍しいことだったのだから。
それから私は、しばらくメイちゃんと、何でもないような話を続けた。
「あなたって本当に面白いわねっ。買い出しを頼まれて外に出たのに、何を買うのか聞いてくるのを忘れたって……ふふっ」
「わ、笑わないでください夕霧さん! わ、私だってもう、このまま手ぶらで帰れるのは許されない状況なんですから」
「携帯で連絡を取れば良いじゃない」
「わ、わたし……携帯電話とか、持ってなくて……」
「なら、この公園の公衆電話とかでも」
「さ、財布まで忘れてしまったみたいで……」
「私のスマホ、貸してあげるわよ」
「あ、相手の電話番号、分からないんです……」
泥沼やないか!
思わず突っ込みそうになる。
「へぇ~。それで本職がメイドさん、だなんて言われてもねぇ」
「め、メイドなのは本当ですよ! 毎日毎日、一生懸命働いてます!」
ということはつまり、メイド喫茶みたいな場所で働いているのかしらね。
何だか、注文をはき違えるわお皿を割るわ、みたいな光景が容易に想像できてしまう。
そんな様子が彼女から見られた。
天然なのか馬鹿なのか――メイちゃんのアタフタと落ち着かない言動が、逆に私を冷静にさせてくれた。
「私も……今は結構、悩んでることがあってね」
他人には絶対に言えないことだったはず。
それも、特に親しい訳でもない、顔を合わせてほんの十数分しか経っていない相手に――。
それでも、メイちゃんは困り果てた様子でいた私を心配して、声をかけてくれた。
ネフティスが私と試行錯誤を共にしてくれた時のように、ほんの少し、彼女に私は救われた。
だから、気が緩んでいたのかもしれない。
自暴自棄になっていたとは、信じたくなかった。
「告白、ですか……。同性の人に……」
他人事と言えばその通りだけど、メイちゃんは深刻そうな口調でそれを呟く。
首をカクンと傾げ、隣に座りながら、俯く私の顔を覗き込もうとしている。
「気持ち悪い、って思ったかしら」
「そんなっ! 絶対に思いませんよ、人の真剣な気持ちを邪曲なものだなんて。それに、イギリスにはそういったカップルは、数え切れないほど存在しますよ」
緊張は十分に解れたのか、メイちゃんの話し口調もだいぶ滑らかなものになっていった。
会話の始め辺りでは、「あぅう……」とか「う~」なんて恥ずかしがるように呻っているだけだったんだから。
「わたしは、恋というものをした経験がないので……誰かを好きになる、という感情を理解するのが難しいのですが――。でも、人にそういう想いを抱けるというのは、とても……えっと、素晴らしいことなんじゃないかなって、思います」
必死に言葉を紡ぎ、励ますように言ってくれる。
「誰かを心から想えるということは、それだけの暖かい心を持っている人じゃないと、できないと思いますから……」
トクン、と。
胸を撫でられたように、優しく押された気がした。
今まで、友達なんてろくに作れなかった。
恋人という存在にも、憧れるだけで行動には移さなかった。
それも、私が全て突き返してきた。
素直になれなかったとか、不器用だから、とか――そんな言い訳をしなければ誤魔化すこともできない私の意志でもって、今の立場を作り上げてきた。
何て冷たい女だと。
自分という存在に見惚れるだけの、なんて小さな人間だと。
そんな私自身の考えを根刮ぎ覆す、メイちゃんの――初対面の人の意見。
それに、私はきっと『救済』される――。
「ねぇ、メイちゃん」
「は、はい……?」
おもむろに立ち上がる私を見上げ、メイちゃんはキョトンとする。
そんな彼女を手を掴み、引っ張るように立ち上がらせた。
「な~んか、今の靄のかかった気持ちを一気に晴らしたい気分なのよね。カラオケにでも付き合ってよ。私が奢るわ」
強引に、そう決定した。
さて、今日はこれまでです。
明日から、またよろしくお願いします!!