日常系を描こうとすると内容が短くなる。
西海です!
「ふゥ……」
夕霧の姿をたまたま見かけたまでは良かったが、まさかあの……殺戮メイドまでもがその場にいたとは――。
というかあいつらが知り合いだとは……思いも寄らない偶然だった。
どういう経路で知り合ったんだか。
店内の狭い廊下を早足で歩き、自分達の部屋の扉を開け、ステージ上で清楚な和風の演歌(?)を歌う海未を始め、見慣れたメンバー全員の顔を確認すると、俺は安堵の息を大きく漏らした。
ソファに座り、息を落ち着かせようとコーヒーを啜る。
気づかない間に、額には若干の汗が滲んでいた。
「ウチとにこっちの初デュエット! いや~ウチ、この曲をにこっちと歌うのを夢に見てたんよ!」
「ほんと、たま~に子供っぽくなるわよね、あんたは。まぁ良いわ。この私と組めるんだから、精々楽しませてよね!」
海未の後には、希とにこがそれぞれマイクを持ち、ステージに上がる。
どうやらこの場でデュエット曲を披露するらしい。
「いいねデュエット! 海未ちゃん! ことりちゃん! 私達もいつもみたいに、三人で歌おうよ!」
「うんっ!」
「良いですね」
……よし。
一旦、さっきの出来事は忘れよう。
あのボサボサの金髪と紫色の瞳を思い出したら、背筋に濡れた氷を滑らされたような悪寒がする。
「ねぇ、美雪」
クイ、と。
隣に腰掛ける真姫が、俺のパーカーの袖を指で摘み、気を引くように引っ張る。
「どうした」
「いえ、ね……その――」
言葉を詰まらせながら、目線をやや外しがちで口元をモゴモゴさせる真姫に、俺は眉を潜める。
すると――。
「あ、あたし達も一緒に、デュエットしない……?」
……なぜ、誰かに聞かれたら困るように、顔をグイと寄せて囁くように言ったのか。
だが真姫のことだ、もしかしたら切り出し方が分からなく、それは一つの照れ隠しだったのかもしれない。
「……つッても俺、あンまデュエット曲は知らねェんだけど」
「一つの歌で、歌詞を交互に歌っていく、みたいなものでいいのよ。サビの所は、二人で一緒に。……どう?」
どうかと聞かれるも、しかし俺に断る理由はない。
そういった誘いを受けて、こちらもちょっと嬉しかったりした、なんて絶対に口には出さないが。
そして、希とにこのデュエットを見て、聴いて、思った。
楽しかったら、何でも良いじゃないか。
多少お互いの息が合わない箇所があったって、それを笑顔やら、愉快な感情でカバーすればいい話じゃないか。
そのはず、なのだが――。
「……そうだな。ンじゃ、お互いが知ッてる曲をまず、探さないとな」
俺が手元に機器を寄せながらそう言うと、尻目に、真姫のパァッ、と輝く程に晴れた表情が映った。
「デュエット、ね……。今後、そういう組み合わせをμ's内で試みるのも、良いかもね」
向かいの席で、絵里がボソッと呟く。
確かに、希とにこを見ていて思ったが、現在のユニットの三人とは違い、二人の場合なら、そのメンバー同士の距離感や思い入れというものが、第三者にはより深く伝わるだろう。
「おぉ、二年生組が凄いにゃ……」
「やっぱり関係が長いから、自然と息がぴったり重なっちゃうんだろうなぁ」
「それは凛とかよちんも一緒にゃーっ!」
「きゃっ!? り、凛ちゃ~ん。急に抱きついてきたら危ないよ~」
穂乃果と海未、そしてことり。
この三人がマイクを持ってステージに上がり、三人組のユニット形式での歌は――やはり昔からの付き合いが長い幼馴染みということもあってか、それぞれが相手の出方を考え、呼吸を合わせ、その完成度はレベルが高いものだった。
まだ聴いた訳ではないが、もしかするとその点では、凛と花陽も同じかもしれない。
……となると、俺と真姫はどうだ。
改めて、そんな憂倶が心に訪れる。
「さっ、美雪。お次はあたし達の出番よ」
「あ、あァ……」
これは合宿の時も思われたことだが――。
メンバーの中で、真姫は最も、俺に『近づこうとしてくれる』奴だと思っていた。
凛とはまた違う。
凛の場合、一定のラインを越える関係性にある相手にはしつこく付きまとい、またその朗らかな性格から、自然と相手も近寄ってきて、自然のままに仲良くなれる。
真姫の場合は、意識されていた。
特に俺にはよく気を遣ってくれて、いらない世話まで焼こうとしてくれるし、その恥ずかしがり屋で意地っ張りであるという面倒な性格からはあまり思えない、率先とした共同作業にも、俺と取りかかろうと近寄ってくる。
違和感は感じていた。
一度は自分達のユニットから離れ、俺の元に訪れたこともあった。
それに――。
「ほら、美雪。マイク」
「サンキュ」
「おっ! なんや珍しい組み合わせやなぁ」
「そりゃ、真姫ちゃんは美雪ちゃんのことを随分とお気に入りとしてるからにゃー」
「なっ!? ちょ、ちょっと凛! 変なこと言うんじゃないわよ!」
それに、だ――。
俺の方があまり、西木野真姫を良く思えていない、という点もある。
「ン……」
やがて、前奏がスピーカーから流れ始め、ミラーボールから反射される光の河川が、室内を照らした。
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結果だけを纏めると、無事に歌い終わった。
特に失敗した箇所はなかったし、呼吸を外して声がバラバラになることも、音程を外すこともなかった。
歌い終わった後は全員がよく褒めてくれたし、得点だって高かった。
そこだけを言えば、平均点以上の満足した結果なのではないかと思う。
真姫も、
「楽しかったわ。あたしの我が儘に付き合ってくれて、ありがとうね」
と言っていた。
そして――。
「美雪の、歌っている時の表情をすぐ真横で見られるなんて、あたしは幸せ者だわ♪」
……そうだろう。
それはよく見れたことだろう。
マイクを片手に歌っている最中、真姫は画面の歌詞でなく、思い切り顔をこちらに向け、俺の横顔をジッと見つめながら歌っていたのだから。
俺の方はそれに妙な恥ずかしさを覚えて視線を合わせまいと意識していたが、途中でチラと横目に見ると――。
どうもその時の真姫。
歌を歌っている時に浮かべる表情ではない、悦楽に浸るうっとりとした笑顔をしていた。
前から思っていた。
他のメンバー達と比べると、どうも俺にだけ、真姫は接触の仕方が異なっている気がするのだ。
それは、なぜか。
また。
真姫の、あの表情を見た途端――ゾワッ、と全身に鳥肌が立ち……。
一瞬、恐懼するような冷たい息が、俺の口から漏れたのは、なぜか――。
友人達との、初めてのカラオケ。
それから俺は、ある一人と目を合わせることができなくなった。
美雪が真姫ちゃんのことを良く思えていないという点は、以前にも何回か似たような描写で表していましたが……。
その理由として、読者様達のほとんどの方は、察しがついていると思います。
それを考えると、美雪の考えは少しおかしいのではないか、と思われるかもしれませんが――。
仕方のないことだと、僕は思います。
美雪だって、人間なのですからね――。
それでは、次話もよろしくお願いします!