そういえば忘れていました。
予告……と言うのはすでに第八章が開幕しているのでおかしいのですが――。
第八章では、
『高坂穂乃果』
『音ノ木愚音隊』
という二つのテーマを中心に展開していきます。
それでは今回もよろしくお願いします!
誰しも守りたいモノはあったはずだ。
殺人者。
放火魔。
誘拐犯。
詐欺師。
どんな悪党にだってそれはあるだろう。
家族か、親友。
形でなくとも、己の信念や尊厳といった類もありだ。
ある人物は、その両手で億単位に集まる群衆達の生命を屠ってきながら、その全てを抱擁する優しさと癒しの愛嬌を兼ね揃えた少女を、永遠に守り抜くと誓った。
ある人物は、村一つを一晩で焼き払うも、復讐に挑む一人の幼き乞食の少年を、罪滅ぼしにもならないと理解しながら必死に養護し続けた。
ある人物は、電話一本の簡単な詐欺で騙せた老婦人のもとに訪れると、自分に孫ができたようだと喜ばれ、来る日来る日に美味しいご飯を出してくれる彼女に、謝罪も含めた世話焼きを始めた。
最初はくだらないものかと思っていた。
誰かを守りたい。
何かから救ってやりたい。
そんな感情や肩入れしてしまう人物など、人生において余計なお荷物にしかならないと。
ただ、どうしても。
それは必然的な運命なのだろうか。
守りたい存在が転がっている。
救済してやりたいと思える在処が現れる。
冷酷に、声をかけることもなく目も向けてやらず、ただ平然と見て見ぬ振りを貫いて通り過ぎれば、変わることなく自分は自由なはずだった。
分かっていながら、ソレはいつの間にか自分の内側に浸透するように入り込んでいて、また自分も、ソレを無視できない過程を過ごした上の立場にいる。
きっと誰しもそうだった。
生まれながらの性もきっと影響しただろう。
性善説が生きるとして、彼らの行為にはきっと運命という言葉よりも強固で適確な道があった。
守りたい。
救いたい。
見つけ出してやりたい。
手を取ってやりたい。
引っ張っていってやりたい。
ずっと隣にいてやりたい。
素晴らしいじゃないか。
涙が出てしまう光景だ。
例え自分を犠牲にしようと。
自分が持っていた大切な何かが失われようと。
ソレだけは。
その存在だけは消したくない。
想いを――。
世界という大規模な枠の中、その片隅に作られた極小の地で生まれた、とある一つの絆。
かつて、少女はそれを目にしていた。
祝福すべき美しい景色を、かつて少女は目の前に立っていた。
それを――。
「――――――――ギャハッ!」
少女は嗤った。
「おいおィ……お前ら全員、みんなが友達とか恋人なンつッた奇怪な糸で紡がれている訳だろォ? だッたらそれを守り抜くためとか、せめてこいつだけは助けてやりたいとかの理由探して立ち上がッてこいよ」
白虎が牙を魅せていた。
やや髪を長く伸ばした少年とも見える。
銀髪を夜風に揺らし、真っ赤な瞳は視線を動かすたびに閃光を走らせている。
工場地帯のとある駐車場だったか。
一面が大粒の石礫で敷き詰められた路面の上で、複数人の男女が寝そべるように力なく倒れている。
全員が頭部や腹部に傷をつくり、決して少量とは言えない出血をしている。
ある者は自分の獲物であったはずの刃物で脚やら肩を刺され、苦痛に歪められた表情で身体を痙攣させていた。
そこらの石礫に鮮血が迸る。
重ねられた廃車によりかかって倒れる女など、醜くも左側頭部の毛髪が無残に引き抜かれていて、車体の窓に真っ赤な膜を敷いていた。
足下から呻き声が漏れる。
茶髪にイヤリングを装飾した女が血反吐を撒き散らしながらうつ伏せに倒れていた。
五臓六腑を掻き乱される勢いで、先程、少女からの猛攻を身に受けた。
すでに呼吸もままならない状態の彼女は、横向きに倒された視線で何を捉えているのか、己も把握できないほど朦朧としている。
衰弱しきっている女の頭を。
銀髪の少女は容赦なく、真上から踏みつける。
「ぅあ……」
「おいおいどうしたァ? さッきまでは良い声で啼いてたじゃねェか雌豚さンよォ。一〇分前にあッた威勢の良い男勝りで頼もしかッた姿はどこに行ッちゃッたンですかァ?」
靴底で女の頬をグリグリと押し潰す。
砂利の路面にも圧迫され、下を向く横の顔に、凹凸と刺々しさの過酷な痛みがあるはずだ。
「ゆる……し、て…………」
弱々しく吐かれる懇願の声に、少女は耳も貸さない様子だった。
さらに強く踏み付け、表情は目を剥き、拷問を趣味とする地獄の鬼が悦楽に浸る恐ろしい笑みを浮かべた。
「まだ早ェだろッ! こッちは全然満足してねェし、数で考えりゃ全く割に合わねェッてのッ!!」
「っ……」
「なンだァ? マジでもうリタイアですかァ? だが悪ィなァ、ゴングを鳴らす審判や法の書を片手に携える警察も、今のこの場には存在しねェンだ。吹ッかけられたのは俺の方だからなァ……、俺の気が済むまでやらせてもらうぜェ……ギヒヒッ!!」
夜の街。
工場地帯から赤や緑といった照明の光は届くが、時間的にもすでに機械の稼働も停止されている。
風に乗り、悪意に満ちた少女の言葉が澄むように響いた。
少女の不気味な甲高い笑い声が聞こえる度、すでに意識の堕ちた者達の身体も、トラウマに怯えるように震え出す。
その時だった。
「や、め……ろ…………」
「…………あァ?」
微かに聞こえる声。
後方からだった。
この場で少女が最も最速に叩き潰したはずの男。
年代は少女や倒れている女と、さほど変わりはしないだろう。
そこらに屯っているようなヤンキーの身なりで、染髪と装飾品をばっちり決め込んだ男だった。
片目を潰され指を折られと重傷の彼は、自らの血に塗れ、本数の足りない指を開く右手を必死にと伸ばしながら、少女へと視線を向けている。
「はぁ……はっ……ガハッ、か、……」
折られた歯の隙間から黒い血を流し、見るに堪えない無残な姿でもって、うつ伏せに倒れながら震える顔を上げ、少女の下に敷かれる女を見ていた。
少女は嗤う。
「あァ……そッかそうだッたなァ! テメェらが一組目のカップル様だッたかァ!? ギャハハハハハハッッ!! クッソ面白ェ!! 恋人の一人も守れやしねェ男に!? 倒された恋人に駆け寄ッて抱いてやることもできずにいる女かァ!! そンなもンだろテメェらの絆ッてのはよォ! ……所詮は中学生のガキが大人の真似して出しゃばりすぎただけのお遊びだ、カップルでヤンキーの自分らカッコイイなンて思えた一時の優越感に浸れる娯楽でしかねェ」
確かにそうだろう。
随分と見せつけてくれた。
お互いが愛し合っていますと、相手のために尽くしていますと。
それでいて不良グループと絡んで、何の関係性もない奴を無差別に叩いていくことがカッコイイことだ、と。
酔いしれていただけだ。
かっこよさの勘違いをしていただけだ。
だが、それが彼ら彼女らの生き方だった。
少女は。
その全てを壊した。
「そういやァ……『歌』、だッけかァ?」
思い出して少女は言う。
男は途端に背筋が凍り、靄として正体の掴めない不安感を匂いとった。
ゴロン、と。
足蹴りにして、小さな穴から吹き抜ける弱い風のような呼吸をする女を仰向けに転がした。
「この女……確か将来の夢は『アイドル』、だッたよなァ?」
「……っ」
「ギャハハハッ!! 笑わせるぜおいッ! 真夜中まで彼氏と遊び呆けて、無差別に喧嘩ふッかけてるようなクズ野郎が将来はアイドルだァ!? ギャッッッハハハハハハハハ!! 無理だ無理! こンな碌でなしに人気なンか出る訳ねェだろうが!!」
アイドル。
それは一つの偶像だ。
大衆が望む姿を持ち、誰もが期待するパフォーマンスを魅せる。
汚濁した部分など決して表に出してはならず、常に清廉潔白であり続けなければならない。
ペッ、と。
腹ばいに倒れる男は赤い唾を吐き捨てた。
「……言ってろよ」
「あ?」
「この、クソ野郎が……お前には一生分からねえよ、そいつの良さってのはな」
声が震えていた。
反論すれば、また自分が蹴り回されることを知っていたから。
その上での反抗。
男は、自分の恋人を悪く言われたのが許せなかった。
そして。
少女は笑う。
「良さ、ねェ……」
顔を下げ、まじまじと、血と汚れに塗れた女の顔を見つめる。
薄目を開け、冬の白い息のように冷たい呼吸をする女は、同じく恋人の男を見ているようだった。
助けを乞うように。
同時に、恋人の無事を確かめるように。
「そりゃつまり……」
少女は右脚を上げた。
曲げた膝を高く、靴底を水平に――。
「アイドルに必要な、俊敏な踊りができるこの脚のことか?」
直後。
バギャッ――!!
「あああぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」
痛恨の一撃。
断末魔は辺り一帯に荒波を立てる。
その光景に、男は息を詰まらせた。
信じたくないと片目を剥いた。
一閃を貫く弓矢の如く射られた少女の靴底は、女とは思えない力で、倒れるその女の左足を破壊した。
「おーおー……こりゃ凄ェ。間違いなく骨はイカれちまッたなァ。こりゃもう踊れねェぞ」
少女は振り向く。
ニタァ、と牙を剥く笑みに、男を見下ろした。
「これで、お前の恋人の良さッて所が一つ、消滅した訳だ」
引き金だった。
「うああぁぁああああああああああああああああああああああっっっ!!! があああああああああっっ!! ぐああぁぁああああああああああああああああああっっっ!!! あぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」
やめてくれと言うか。
それでも身体を動かせない自分を呪っているか。
男の哀しい悲鳴は誰にも届かず、少女はまた女を見下ろした。
「ンでェ……?」
しゃがむ。
片膝を立て、右手を女の喉元に置いた。
締めるように握ると、女の潜った喉の筋肉繊維がまばらに分かる。
「アイドルを目指すくらいの歌唱力、か……」
ブチンッ――なんて、嫌な音がした。
「かっ……」
それが、女の最後の声。
喉の糸なんて簡単なもので、実に脆い。
親指の爪先で、少女は女の声帯を殺したのだ。
「やめろ! 頼むやめてくれぇ!!」
「なァンだ、ちゃンと声出るンじゃねェかよ」
懇願の絶叫を少女は振り向きもせず、適当にあしらう。
下半身に、声。
アイドルの歌唱と演舞に必要な二つの必須条件を壊された恋人に、男は涙を流しながら救いを求める。
「頼む! 俺が悪かった! もともとは俺が巻き込んだんだ! やるなら俺にしてくれ! そいつには手を出さないでくれ!!」
「随分と必死だなマゾヒストくンよォ。だとしたら、こいつの夢を奪ッているのは俺じゃねェ。こンな事態に恋人を巻き込ンだ、テメェが原因だろうがよォ」
少女はまたゆっくりと立ち上がった。
死んではいないだろうが、混沌とした闇に意識を眠らせた女を見下しながら、右手に付着する少量の血を舌で舐め取る。
「自分の世界を見せたかッたのかァ? 自分はこンな苛烈な世界に足を踏み入れてるンだぞどうだカッコイイだろうッて言いたかッたのかァ? それとも。自分一人で踏み込む度胸がなく、嫌がる恋人を無理矢理に道連れにしたのかァ?」
悪魔はとまらなかった。
神話の神々や呪術を扱う幽霊。
そんなものより最も恐ろしいのは人間だと。
だが、そんな考えが現代人に根付いていようと――。
その光景は、本当に一人の人間が作りだしたものなのかと疑う。
少女は本当に人間か。
何の獲物も携えず、バックに何の勢力も存在しない体勢のまま、二〇を越える相手を容赦なく薙ぎ倒し、その中には出血多量で救急が必要な被害者もいる。
過剰防衛とか。
数の上での有利不利とか。
そんな程度の話ではなくなった。
ただ単に、少女の大きさが桁外れなだけだった。
「けど、まァ……」
悪魔は続ける。
少女の――『夜伽ノ美雪』という殻で覆われた悪魔は一部の力を解放したように、深淵の奥底に眠っていたパワーを覚醒させたかのように、それを外見にさえ表す。
その笑みは――。
まさしく、『狂笑』。
「古代ギリシャ神話とかにも描かれているように、偶像崇拝される神様ッてのは、基本的にその美麗な姿を壁画に彫刻されているもンだ。アイドルも同じで、まずその『顔』があるから、世間から注目を浴び、人気が出て、崇拝される」
男にはもう、少女が何をしようと考えているのか、分かってしまった。
だから必死に許しを乞い、制止を願う絶叫を夜空に向ける。
糾弾するでもなく、銀髪の悪魔はただ聞く耳を持たない。
また同時に、銀髪の悪魔も。
その男も、そして世界も認めるのだ。
殻に覆われている訳ではない。
その中に何者かが隠れている訳でもない。
右脚を再び高く振り上げたその少女。
きっと悪魔でも堕天使でもない。
それは、きっと『人間』だ。
それは、きっと『夜伽ノ美雪』なのだ。
「――――――っっっ!!??」
誰かが叫ぶ。
誰かが泣く。
踏み潰された頭蓋骨の振動は地面へ波動し、周囲の石礫さえも波紋を描いて吹っ飛んでいく。
一斉に飛び散る真っ赤な鮮血は工場地帯からの照明の光を屈折させ、捉えられない一瞬の間にアートを描いた。
夢の剥奪。
際限のない悪意。
それらを見届けた『彼』は、少女へ向けてこう言葉を放った。
「何やってんだ……、お前」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ふと、俺は目を覚ます。
腰や尻を柔軟なソファが守ってくれていた。
見上げる天井には明るい照明に、四枚羽根のシーリングファンが回転している。
チラと視線を動かせばカーテンが閉められていて、壁の時計を確認してからようやく、今が夜なのだと理解できた。
「……あァ」
眠っていたのか。
安心できる満腹感と暖かいリビングに、改めて我が家の価値というものを実感する。
「……随分、長い夢を見たな」
また、妙にリアリティだった。
人の発言や動作が事細かに再現された夢など、あまり見られたもんじゃない。
夢というものは、嫌な、忘れたい過去といったものを鮮明に思い出させてくれるという説があるが、まったくありがた迷惑な話だ。
意識して初めて気づく背後からの水音がキュッと締まると、パタパタとスリッパを鳴らす足音が近づいた。
「お目覚めですか、美雪」
肩紐のみの長いエプロンをかけた、海未の姿。
ようやく、俺は事態を思い出した。
「……悪い、海未。料理まで作ッてもらッた挙げ句、食器洗いまで――」
「良いのですよ。もともとの話、私が強引に事を進めてしまっただけです。それよりどうでしたか? 料理の方は」
「食事している時も言ッたろ。美味かッたよ。あァいう和風一本の料理は、うちでは珍しくて新鮮さがあッたしな」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいですよ」
綺麗に笑うと仕草で髪が揺れる。
エプロンと、額に巻かれた三角巾がよく似合っていた。
「……美雪?」
「あ?」
少し屈み、海未が眉を潜めて俺の顔を覗き込んできた。
上着のシャツの首下がはらりと下がり、浮き出た鎖骨が妙に艶めかしく見える俺はおかしいのだろうか。
「少し、汗をかいていますね」
「ン? ……あァ」
言われて気づく。
額や首筋、感じてみれば背中に汗が滲んでいて、シャツが気持ち悪く張り付いている。
「……風呂に入りたい」
「くすくす、それにまだ眠そうですね。お湯は沸かしてありますので、どうぞ入ってきてください」
「え……そ、そこまで――」
「心配なさらずとも、しっかりと掃除もしておきました。ちゃんと道具や石鹸なども揃っていたので、大変便利でしたよ」
「……世話焼きまでは頼ンでねェぞ」
どうも、俺が眠っていた間に海未は随分なお仕事を済ませてくれたらしい。
ありがたいのもあるが、少し申し訳なくなって肩幅が縮む。
「……つゥか、お前いつまでいるの」
「あら、私はこのまま泊まっていこうかなと思っていたのですが」
「……は?」
「冗談ですよ。明日も学校で早速授業が開始されますし、今日のところはこれで帰ります」
……今日のところは?
ということは、いつか海未は監視役として、俺の家に泊まり込みを続けるつもりなのだろうか。
いや、さすがに不可能だろう。
話が大袈裟すぎるし、海未の家では稽古などがあるのだから。
脱いだエプロンを畳んでソファに置き、三角巾は自前なので鞄に仕舞い込んでいる。
カラオケと同じ私服姿に鞄を背負い、また家から預かりものだったという細長の袋の紐を肩に提げた。
「そういや、預かりものッて言ッてたな。平気なのか」
「そう、ですね……。時間も遅いですし、また日を改めて行こうかと思います」
「悪いな……。あァ、送るか」
「いえ、構いませんよ。一人で帰れます」
「外は結構暗いが……」
「夜道が怖いだなんて、子供じゃないのですから」
「いや、そうじゃなくてだな……」
夜道の幽霊とか、そういった類のことを言っているのではない。
「ほら、襲われたりとかしたら、なァ」
「あぁ、それも心配ご無用ですよ」
なぜか、胸を張って。
己を誇る表情で、海未は玄関に構えた。
「そこらの野蛮な連中が襲ってきたぐらいで、簡単に伸されるような園田ではありませんので」
……頼もしいな。
海未が靴を履いた、そんな時だった。
「……あら?」
「……誰だ」
インターホンが来客を告げた。
チャイムが二度、リビングから聞こえてくる。
一度戻ってからモニターを確認するのも面倒臭い。
俺は靴の踵を踏み、海未の傍らを通って玄関の扉を開けた。
見るも、無人かと思った。
庭から門の外に人影は見当たらない。
「ン……?」
……いや。
暗闇を照らす街灯の下。
ほんの一瞬だが。
慌てるように道を走り去っていく、長い髪を揺らした少女の影が見えた。
それも、奇妙な尖り帽子を頭に乗せ、揺れる長髪は――東洋人とは思えない、緑色をしていたような……。
……いや、見間違えか――?
「チッ……、いたずらか」
すると続けて、俺のズボンのポケットにあったスマホが振動した。
「……メール?」
見て、俺は思わず「うっ……」と声を詰まらせる。
新着件数のメッセージが二〇件ほど、それも全てが柊蒼太郎から送られていた。
『お腹、空きました……』
「……あァ、完ッ全に忘れてたわ」
「? 何を忘れていたのですか、美雪?」
「いや、何でもねェよ」
やはり海未に言われた通り、まだ眠気が残っているのだろうか。
どうも視界がハッキリしない。
朧気で、グニャッと歪に景色が映った。
「……はァ」
いや、もう意識してしまおう。
もう考えてしまおう。
なぜ。
どうして俺は、今頃になって。
あの時の記憶を、思い出した――?
夜伽ノ美雪という人物の過去は未だ謎が深いですね。
それでは次話もよろしくお願いします!