笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 梶ヶ谷燐桐。
 來栖麗羅。

 どうもこの作品の中で、その関係性が奇妙な形の二人です。

 お互いが相手にどのような想いを抱いているのか。
 または無関心なのか。
 
 それでは今回もよろしくお願いします!






92話 音ノ木愚音隊の戦争

 

 

 

 最初の作業は単純だった。

 

 昆虫でいう所のトンボに似た形の無人機が夜空を浮遊している。

 二枚の羽根は音もなく微少ながら光速に振動するが、旋回の理由はそれではない。

 

 制限距離の限界からリモコンされる遠隔操作での飛行。

 上空を向く背中に上下左右三六〇度見回せる小型カメラの映像は、全て自動的に遠方のモニターに映し出される仕組みだ。

 

 無人機の腹には『NISHIKINO-VsWp04』と刻印されているのだが、機体の影に月明かりが完全に遮られているせいで、その文字は誰の目にも捉えられないだろう。

 

 安全の確認を無線で受け取った金髪オールバックの男、梶ヶ谷燐桐はその廃ビルに近づいた。

 彼の両サイドを歩くのは、同じく規定のない私服姿の結城雅人と氷室亞月だ。

 

 靴底とコンクリートの地面がぶつかる足音が三人分続く。

 しかし、それは彼らが歩く方面からのみの話だ。

 

 川を背にして建つビルの三方向。

 正面から彼ら三人が近づいているとして、他の二方面からはその数の一〇倍近くの人数が、夜の暗闇に紛れて影のように近づいていた。

 

 大勢が参加する潜行作戦に携わるその全てが、音ノ木愚音隊である訳ではない。

 むしろ、音ノ木愚音隊から駆り出されたメンバーは、その三人のみ。

 

 もはやこの場において、彼ら三人は下っ端の底辺。

 いつ捕らえられても、またいつ殺されてもおかしくはない状況に置かれる、まさに生贄のようなものだった。

 

「入り口付近に見張りはいません」

 

 右耳のインカムに指を添え、梶ヶ谷は現状報告を忘れない。

 

「扉は閉まっているようですが、窓が粉々に割れています。足下にさえ注意すれば、侵入は楽勝かと」

 

 そう報告すると、次なる指示が飛ばされる。

 ジェスチャーで梶ヶ谷が合図すると、他方面から攻める集団の中の一人、ゲームコントローラーのようなリモコンを操作し出す男がいた。

 

 二匹。

 いや……二機、と表した方が適確だろう。

 

「駆動犬〈ドライブドッグ〉、入ります」

 

 鉄屑の破片と破片が金属チェーンで繋がれ、それが錆の目立つ歯車で身体を動かされているような機械。

 顔や身体はドーベルマンが意識され、二足歩行に駆ける動作も本物そっくりだが、やはり機械かな、目の部分が不気味に赤く点滅している。

 

 鉄とコンクリートの組み合わせに足音すら鳴らさず走れる二機の駆動犬の腹にもやはり似たような表記、『NISHIKINO-VsWp07』と彫られている。

 

 臭いを追跡する仕草を取る本物の警察犬のように時折立ち止まっては、割れたガラスをジャンプしてくぐり、廃ビルのフロント階へと侵入した。

 

「しっかし、西木野総合病院ってのは何てもんを発明しやがるんだ」

 

 ボソリと、氷室亞月が呆れるように言葉を吐いた。

 結城雅人が身を屈めながらポキポキと首の関節を鳴らす。

 

「実際には病院が一から製造している訳じゃねえよ。世界の巨大有数企業とやらが裏に付いてんだろ? 大震災や津波とかの災害が起きた場合、瓦礫だらけの被災地を調査するための無人駆動車、なんて世界を救済する目的意識を建前に、軍事材料として用いられている汚ねえ部分は確かにあるがな」

 

 実際、その作品が世に出回れば、大規模な災害が引き起こされた事態の中、大活躍してくれること間違いなしだろう。

 何年か前に引き起こされたあの惨劇――東日本の中心部を震源とした大地震で、比較的被害の小さかった範囲では極秘に試作品が投入されていたと聞く。

 

 倒壊した家の瓦礫に押し潰されている人を見つけたとか。

 洪水被害で道が濁流になった時、上空から逃げ遅れた人達を救助できたとか。

 

 そんな功績が数々挙げられた作品だ。

 

 西木野という名前に関しては、技術発展の最先端を走る世界各国から預けられた試作品たちの回収場としての役割しか担っていない。

 

「無駄口を叩くな」

 

 鶴の一声。

 気配を押し殺す潜められた声だが、梶ヶ谷燐桐のリーダーたる威厳が放たれる威圧があった。

 

「音ノ木愚音隊が結成されて以来の重要任務だ。ここまでレベルの――いや、世界の違う仕事を俺達が任せられたことに、もう少し自覚を持て」

 

 そうだ。

 

 その自覚、そして覚悟を持つことだ。

 でなければ――。

 

 

「死ぬぞ」

 

 

 直後だった。

 

 犬の連続した鳴き声が、廃ビルの中から聞こえる。

 侵入者を威嚇し、また主人に緊急事態を必死に知らせようとする、番犬の鳴き声。

 

 だが梶ヶ谷達を含む、廃ビルを囲んだ周囲の人間たち皆が事態を把握していた。

 

 鳴き声の合図は、駆動犬が登録者リストに存在しない人間――つまり敵を発見した合図。

 

「来るぞ」

 

 梶ヶ谷の警告と同時に、すでに電気も水も復旧されていないはずの廃ビルの中から照明の明かりが漏れ出す。

 複数人の人間が口々に叫び、廊下や階段を走り回る音が聞こえた。

 

 反対に音もなく、二機の駆動犬が廃ビルから抜け出し、梶ヶ谷達の横を通り過ぎて元の居場所へと帰っていく。

 

 正真正銘、開戦の合図だった。

 

「銃は!?」

「装備完了です!」

「モタモタするな! とっ捕まえろ!!」

「近くにいるはずだ!」

 

 廃ビルのフロントに照明が灯される。

 映画のワンシーンでよくあるような、そんな光景が梶ヶ谷達の前に展開されていた。

 

 一般人、と呼ぶべきではない身なりの男達が、少なくとも二〇人以上。

 ホテルのロビーぐらいの広さを構えるその中から、マシンガンやらショットガンやら、武器の所持規制が厳しい日本では異端すぎる獲物を両手に構えた野郎どもが一斉に飛び出してきた。

 

 これは、もともとの話で言えば音ノ木愚音隊には無関係な事件だ。

 ただ、音ノ木愚音隊が組織の傘下にあったというだけで、梶ヶ谷達の三人は命懸けの戦争に巻き込まれた。

 

 それも、最も発見されるのが最速に位置する生贄のポジションに配置されて。

 

『学校へ行かなければ職にも就かねえ。親孝行なんざ考えたこともねえお前らは所詮、人間の屑だ。泥糞野郎に人権があるなんざ考える方がおかしいって話だぜ。お前らは俺達が世話してやんねえと生きていけねえ道を歩いてるんだからよ、ちっとはお役に立とうとしてくれよ』

 

 上の言っていたことは間違いじゃない。

 

 確かに自分らは人間の屑だ。

 泥水に塗れたクソ野郎だ。

 

 それが分かっているから、梶ヶ谷はもちろん、結城も氷室も、任務に同行した。

 

 闇の裏社会で生きる意味を知ったのは随分と前の話だ。

 それでも、自分達が暗闇に暗躍する悪党を名乗るには初心者すぎると理解している。

 

 上を前にしたら自負もプライドも何も存在しない。

 世の中のためになんざ願ってはいないが、せめて自分達の主人の薬程度の存在にはなろう。

 

 幸運なら、生き延びるか。

 

 いつ死んだって構わない人生だ。

 親も友人も、悲しむ奴は一人もいない。

 

 それでも、人間は――。

 

「俺達の仕事は『時間稼ぎ』だ。だが生き延びるぞ結城、氷室」

 

 梶ヶ谷が先頭に立つ。

 すぐに、二人は前線に並んだ。

 

「できたらな」

「努力はするぜ」

 

 両手に構える、『NISHIKINO-AsWp014』。

 トリガーは一般的だが、三つのパイプ管のような銃口がうねり、それぞれからサブマシンガン程度の噴射が敵を襲う。

 

 作戦、始動の瞬間だった――。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『NISHIKINO-GvWp05』。

 新世代的デザインの自動運転システム搭載車両は、闇夜に照らされる月明かりの下、浅瀬の川がせせらぐ土手の斜面に、直立としてバランスを保ちながら停車されている。

 

 エンジンを吹かせるパイプすら見当たらないスマートな造りをしたバイク型に構成される機械の隣には、一人の少女が芝生の短い土手に寝転がり両腕を枕にして、艶めかしくのぞいた両脚を組んでいた。

 

「……まだかしら」

 

 少数の星が小さく瞬く夜空を仰ぎながら、彼女の心境は非常に静かなものだった。

 

 ただ、待ち人の帰りを待つ。

 それはデート前にある集合場所に立つ心境ではないのだが。

 

 だが、確かに緊張はあった。

 数分前まで、命を捨てにいった思い人のことを思うと、無事に帰ってきてくれるのかとザワザワ胸が騒いでいた。

 

「――……、」

 

 夜風が凪ぐ。

 分厚い革製のショートパンツを履いているはずだが、涼しい手触りの風が股間の辺りを吹き付ける度に、ジュンッと熱く内側がうねる。

 

 それならばと身体を起こし、姿勢を伸ばしてみるのは賢い行動ではない。

 真空状態のペットボトルや缶のような容器に入れられた液体にも、重力というものは働くのだ。

 

「……燐くん」

 

 憂いに沈むように呟かれた名前。

 その紫髪を下敷きに身体を倒す少女――來栖麗羅の片思いは、一〇年以上も前からの物語だった。

 

「…………」

 

 例えば、今。

 可能性は望めないが、見上げた夜空に一閃の流れ星が現れたとして――。

 

 自分の恋が実るよう願えば。

 思い人が、危険な職業から足を洗ってくれるよう願えば。

 

 それは叶うだろうか。

 

 來栖麗羅は重い息を吐く。

 彼女自身、それが叶えばどれだけ幸せなことかと――そんなビジョンは幾度となく想像したことはある。

 

 だが、現実は現実だ。

 たった一人だけが構築する夢の世界は現実味を帯びないまま、ただただ置き去りを食らいながらありのままの景色に身を委ねる。

 

 まして、それを成就させるための努力、過程を伴わない人間に、その他の何ができるというのか。

 

 いや――。

 

 彼女自身、引き返そうとも思わなかった。

 來栖麗羅だって、それ程の力を身に付けてしまったのだから。

 

「……あの星座、ネットで見たことあるわね」

 

 独り言に意味は持たない。

 期待する方がおかしいのか。

 

 ただ、今日の仕事は大きかった。

 音ノ木愚音隊へ、部下達には極秘で伝達された招集指令。

 

 西木野総合病院の管理下、その本棟から外れた区画のとある実験施設の地下に保管されていた、次世代型メンタルウェポン。

 それを駆動させた装備を含む、街外れにひっそりと立つ、幽霊会社所有の廃ビル拠点の強襲作戦。

 

 名目はそうだが、上層部が実際に思案していることなど、音ノ木愚音隊程度のヤンキー集団が理解できるはずもない。

 來栖麗羅が把握している部分でも、強襲作戦という名のただの復讐劇――以前、上の方々が政治的圧迫やら何やらで相当痛めつけられたらしい。

 

 復讐するなら勝手にしろ。

 どれだけの大事件に展開しようと構わない。

 

 だが、そこに自分の思い人が巻き込まれていたらどうだ。

 なぜ、たかが一つの暴走族程度の集団の幹部が加わらなきゃいけないのか。

 

 それに、今回の任務は規模が大きすぎた。

 難易度のレベルも高すぎる。

 

 命の奪い合い。

 準近未来型の武器に装填された弾をぶっ放し、味方か相手か、どちらかの人数が完全に消滅するまでの戦争。

 

 路地裏で絡んできた大人達を相手にする拳の喧嘩とは訳が違う。

 音ノ木愚音隊に入隊してから、ここまで危険度か拡散できない仕事はなかった。

 

 來栖麗羅が片思いを続けている相手――梶ヶ谷燐桐も、本気での命の張り合いは、これが初めてだろう。

 相手が喧嘩にナイフや警棒、スタンガンの用いようと、多少の怪我でいつも済んでいただけだ――命の危機までは感じていなかった。

 

 もともと、梶ヶ谷燐桐は腕っ節が強い。

 そこらのヤンキーにひれ伏す程度の実力ではないのだ。

 

 だが、銃という武器を扱うのなら話は別だ。

 來栖麗羅も当然、梶ヶ谷から話を聞かされた時、さすがに背筋に冷たいものが走った。

 

 懇願した。

 抱き付き、涙を溜めた瞳に不安と焦燥を浮かべ、眉も口も歪ませながら必死に引き留めた。

 

「……引き留めておくべき、だったわよね」

 

 そもそも、梶ヶ谷燐桐はなぜ、いつから、そんな危険が絶えない荊と有刺鉄線が転がる道を歩んでいくようになったのか。

 

 來栖麗羅はそれを思い出そうとし――また悔やむ結果になることを知り、思考を捨てた。

 

 思い出すだけで辛いことだ。

 自分にも非があった分、彼を否定できない。

 

 あぁ――。

 

「嫌ねぇ、ほんと……」

 

 恋とは、辛い。

 解けた片腕を伸ばし、右手でショートパンツの革越しに股間辺りをまさぐる。

 

 そんな時だった。

 

 

「こんな夜遅くに、女の子一人で出歩いていちゃ駄目でしょう」

 

 

 甘美な響きが頭上でした。

 寝転がる彼女はさらに首を後方に傾け、逆さ視点で土手の頂を見上げる。

 

 緩やかな夜風に長い茶髪を揺らす、一人の少女。

 白い制服に身を纏い、肉感のある透明な両脚から下着がギリギリ見えそうな位置で、丈の短いスカートが風に舞っている。

 

 來栖麗羅は、その少女の端正な顔立ちを見た。

 大人びていて、同時に純情な可愛さも兼ね揃えたその容姿。

 

「……優木あんじゅ」

「こんな所で何をやっているのかしら、レイちゃん?」

 

 A-RISEの一角。

 Sexy・Charmの王将。

 

 二人が顔を合わせるのは決して初めてではない。

 その再開に、優木あんじゅはおかしそうにクスリといたずらな笑みを浮かべ、來栖麗羅は舌打ちを一つに顔を顰めた。

 

「……あなたこそ、お一人様に見えるけど?」

「あら、私はすぐそこに車を待たせているわ。土手に汚らしく寝転ぶあなたが見えたから、ちょっと声をかけたいって停めてもらったのよ」

 

 上半身を起こし、斜面に尻をつきながら首を回すと確かに、さっきまで見えなかった位置にリムジン級の身長と艶を持つ車体の屋根が見えた。

 

「へぇ……、さすが、お嬢様学校ね」

「何もUTX学院の生徒全員にお迎えがある訳じゃないのよ? 私や、ツバサや英玲奈の三人はA-RISEだから、っていう理由があるの」

「ますます高貴なご身分ね。お嬢様達が集う学院内ですら特別扱いって――」

「まぁね。中学時代の自分からは想像もできなかった現状だから、私自身もたまに、現実味ってのを見失うわ」

「……確かにねぇ」

 

 お互いのエロチックな色気が匂う口調や響きの声に惹かれたか、周囲の虫たちの羽音や鳴き声がやや大きくなった気がする。

 

「それで、そこで何をしているの?」

「月光浴くらい静かにさせてよ」

「……あら、そう。キャラじゃないことするのね」

「たまには良いじゃない。もうすぐ『ラブライブ!』出場権をかけた、生中継ライブの開催日よ。現在三位にいる音ノ木坂学院のμ'sはともかく、私達Sexy・Charmとあなた達A-RISEは、絶対と言っていいくらいの確立で、それに参加する。おかげで最近は練習づくしなのよねぇ。まだこの歳なのに肩とか腰に色々なダメージが効いてきちゃうのよ。だから良いでしょたまには、柄にもなく黄昏れてても。静かな空間を本能が欲してるの。あなたにも分かるでしょ?」

「そうね。よく分かるわ」

 

 ザザァ、と土手下の川が波打った。

 

 優木あんじゅはその場で身を翻した。

 フワリと、遠心力か何かでスカートが誘惑的に浮く。

 

「でももう遅いわ、そろそろ帰った方が良いわよ。親御さんも心配するわ」

「……どうかしらね」

「良い人よ、あなたのお母さんは」

「あなた、一度しか会ってないからそんなことが言えるのよ」

 

 それきりだった。

 

 優木あんじゅは何も言わず足を進めだし、待機するリムジンへと戻って行く。

 來栖麗羅も視線を夜空に切り取られた半月に戻し、ふぅっと息を吐く。

 

「――またね、レイちゃん」

 

 風と一緒にそんな声が耳をなぞったが、バタンと閉められるドアの音の後、静かにエンジンを吹かして砂利道を走り出す音に、來栖麗羅は見向きもしなかった。

 

「こんな道、たまたま通りかかる訳ないじゃない」

 

 やがて音は遠くなっていく。

 久々の再開での会話の中、お互い楽しそうに、友達という存在と話せて遊べることを純粋に嬉しく思えていた中学時代の光景は、微塵にも残っていなかった。

 

「っ――あ、……」

 

 そして、來栖麗羅は気づいた。

 音もなく近づく、優木あんじゅの乗ったリムジンが走り去っていった方向に見える、三台分のバイクの照明に。

 

「帰って……きて、くれた……っ」

 

 今度こそ嬉しそうに。

 誰もが見たことないであろう、少女が素直に歓喜の感情を表に出せる、安堵を通り越した涙の表情。

 

 立ち上がり、隣に停車する近未来バイクすら置いて土手を駆け上がると、両手を振ってその照明ライトへ満面の笑顔を向けた。

 

 

「燐くーーーーーんっ!! おかえりーーーーーーーーっっ!!!」

 

 

 奥底に封印されていた、綺麗な人間としての芽が再び顔を出した、その瞬間を見た。

 

 

 







 『ラブライブ! μ's Live in theater』

 今日、見に行きます!!
 楽しみですね~(^^

 それでは次話もよろしくお願いします!


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