アニメ編でいう一期の終盤と差しかかりました!
今回もどうぞよろしくです!
九月二日。
通常授業の時間割が再開され、いよいよ俺達三年の卒業も、刻々と近づいてきていた。
だが、卒業前に学院で行われる行事はまだ残されている。
体育祭。
学院祭。
主に大きいものではこの二つだろう。
卒業資格を得るための試験や、準社会進出的勉強の面接試験やテーブルマナーは省いても構わない。
また、そこで――。
俺が……俺達が最も重要に捉え、真正面から向き合うべきものは――。
「もうすぐ学院祭ね」
絢瀬絵里の言う、その学院祭だ。
「μ'sの現順位が変わらず三位。『ラブライブ!』の出場権をかけた全国生中継ライブを披露できる枠内のギリギリ範囲ってところよ」
放課後の部室。
秋季大会を間近に控える運動部の声がグラウンドから響くが、対して部室の中に集まる一〇人は神妙な雰囲気を纏わせ、同時に感じ取っていた。
絵里は続ける。
「三位以下の高校もまだ諦めてはいないでしょうし、私達もこれ以上、順位を落とすことは許されない。まさに崖っぷちの状況よ」
『ラブライブ!』という全国スクールアイドル達にとって夢の祭典であるその催し物は、高校野球でいうところの甲子園大会だ。
今の時期は本戦出場をかけた予選が行われていて、その佳境――最後の追い込みの頃合いがとうとう到来した。
「美雪」
「ン……、あァ」
絵里に促され、横長のテーブルの端に座る俺はノートパソコンを開いた。
起動されると、俺はすぐに一つのページを開く。
「これを見てくれ」
画面をくるりと回転させ、部員の全員にそれが見れるように置く。
『ラブライブ!』の公式ホームページから全国スクールアイドルらの予選順位が表示されるサイトを『東京』の枠に飛ばし、その輝く装飾が施された『A-RISE』のページをクリックする。
「A-RISEはやっぱり、不動の一位やね」
「多分、これからもそれが揺らぐことはないでしょう……っ」
もはや感心するように希が言うと、その道に詳しいドルオタの花陽が力強く判定する。
だが、それは部員の全員が分かりきっていることだろう。
現在二位に位置する『Sexy・Charm』も素晴らしい面子とパフォーマンスだが、それでもきっと、A-RISEを出し抜いて頂点へと下克上する場面は訪れない。
もはや予選の段階でA-RISEには勝てない。
本戦直前に行われる全国生中継ライブで蹴落としてやる方法しかないのだ。
「そのA-RISEだがな……」
俺はA-RISEのページに掲載される数多くのURLから一つを選び、それをクリックする。
サイトが移行した途端、全員が反応を見せた。
「こ、これは……っ」
「さ、さすがA-RISEね……」
「な、七日間……連続ライブ……っ!?」
まるで劇場版の予告のような大迫力演出でもって、その背景を背にA-RISEの三人がコメントを残す。
下方の字幕と共に流されるそれは、『A-RISEスペシャル企画、七日間連続ライブ決定!!』というものだった。
「もう、やっていることが完全にプロ並みですね」
一線を引かれた違う世界の住人を見る風に、海未が言う。
スクールアイドルはプロではない。
所詮、学校という枠内に収まった活動をしている部活動のようなもの。
世間に根付いたその考えを見事なまでに覆す、A-RISEの莫大イベント。
彼女ら三人はもはや油断という言葉を知らなければ、情けや手加減の意味すら持ち合わせていない。
何が何でも、地区予選を一位で通過するつもりでいる。
自分達より下位の者達は引き付けてやらない覚悟と意地が見える。
幼馴染みであるはずの統堂英玲奈が、随分と遠い存在に思えた。
そんな想いを抱けるほど、俺もスクールアイドル世界に馴染んできたと捉えてもいい訳だが……。
「分かりきッていることだろうが、地区予選通過組の三組の一つは、こいつらに握られている。残りは二枠。何とかしてそこに留まりたいが、絵里の言ッたように、俺達は崖ッぷちに立たされている訳だ」
背水の陣を組まされたこの状況。
いつ蹴落とされてもおかしくはない――例えるなら、城の殿が曲者に狙われていることをあらかじめ知っているが故に、おちおち眠ってもいられない不安感が満ちているのだ。
「Sexy・Charmという壁を乗り越えて二位に躍り出られることが最も良いンだが、今からそのために新しいことにチャレンジしている時間もなければ、そンな一か八かのリスクも背負えない。わざわざ夏祭りにユニットのライブをしたのに、二位の壁を越えられなかッたンだからな。確かなのは、絶対に四位以降の高校をこれ以上近づけてはならないッてことだ」
そこから、絵里が引き継いだ。
「けれど当然、四位以降の高校だって最後の最期まで追い上げようとしてくるはずよ。だから私達が今すべきことは――」
「目の前の目標に全力で取り組む。そんな教科書通りで簡単なことでしょ」
にこの言葉に絵里は頷く。
「そして、その目標は?」
「音ノ木祭の二日目の、学院祭。それ一つじゃない」
「その通りよ、真姫」
真姫の言った『音ノ木祭』。
それは昔からの伝統だった。
初日の金曜日に体育祭。
二日目の土曜日に学院祭――いわゆる文化祭。
二日連続に渡るイベントは、その日付を跨ぐ際の『着せ替え』が多忙極まりないものだ。
競技に取り扱う道具や放送機具、また恒例の国旗や得点板を各所に用意しなければならない。
そして体育祭本番が終了すれば、父兄や地元の一般客が退場した後、制限時刻までに翌日の学院祭の催し物を準備しなければならないのだ。
アイドル研究部というのは、活動内容そのものは運動部じみているが、音ノ木祭で役目を務められるのは二日目の学院祭だ。
μ'sは学院祭でステージを用意し、そこでライブを行うことになっている。
「くぅ~っ! 今からでも楽しみだなぁ!」
椅子から立ち上がり、穂乃果が我慢できないとポーズを取って尻尾を振る――あ、尻尾は錯覚か。
「ねえねえ! 新曲やろうよ!!」
「……あァ?」
俺の反応からワンテンポ遅れ、メンバー全員が予想外といった驚きのアクションを取る。
「で、でも穂乃果? 学院祭まで時間がないわ。歌詞も、踊りも全然やっていない曲を今から準備するのは……」
「わ、わたしもちょっと、自信ないかも……」
絵里の意見に便乗に、花陽も苦笑しながら控えめに意を伝える。
「でもでも! こないだ真姫ちゃんに新曲を聴かせてもらった時、『これだ!!』って思ったんだよ!」
両手を広げて主張する穂乃果に、隣席の凛が「うにゃっ!?」と彼女の腕を避ける。
「学院祭だし、お客さんもいっぱい来るんだよね!? だったらわたし達のライブもたくさんの人に見てもらって、わたし達もそこで最高のパフォーマンスをしたいと思うんだ! 真姫ちゃんに聴かせてもらった新曲も、一番始めにやれば凄い盛り上がると思う!!」
……随分と気合いが入っているな。
高坂穂乃果とはこういう奴だが、いつも以上に――。
そして、いつも的外れで皆が予想だにしない意見を飛ばす彼女も、今日は一理を捉えている。
今年の音ノ木祭――体育祭も学院祭も、例年以上の来客数が期待されているのだ。
何しろ、この古き良き伝統と歴史を持つ音ノ木坂学院が今年いっぱいで廃校になるのだという案件は、すでに街全体に話が広がっていた。
今年で最後になるのなら――、と。
ものは例しといった感覚で、今まで音ノ木坂学院を来訪したことのない人々も大勢集まるだろうとの見解だった。
「確かに、一理あるね」
まず希が賛成の意を見せた。
「まぁこのスーパーにこにーが出てあげるっていうんだから、それなりのステージにしなくちゃね!」
「凛も盛り上がる方が好きにゃー!!」
にこと凛も続いて手を挙げる。
彼女らの性格上、積極的な面がある分、そんな自分さえも引っ張ってくれる高坂穂乃果という人物には、磁石のように惹き付けられてしまうのかもしれない。
ただ単に、ノリが合っているだけかもしれないが。
「今度の学院祭で最高のステージを披露すれば、きっと『ラブライブ!』の出場だって叶えられる! 一つの壁を乗り越えれば、きっとどんな壁も打ち壊せるようになれる! そう思わない!?」
「ら、ラブライブ…出場……っ」
それが、高坂穂乃果の凄いところだ。
つい数秒前まで、提示された目標におののく様子の花陽も、今は瞳を輝かせ、その潤いの中には微かに燃え始めた闘志さえも映る。
「ま、あたしはどっちでもいいけど。この真姫ちゃんにかかれば、新曲なんて楽勝だし」
「真姫ちゃんのどっちでもいいは賛成ってことにゃ」
「……ちょっと凛」
確かにそれは同意見だ。
真姫の性格を見ていると、たまにそんな生き方は疲れないのかと疑問に思えてくる。
「ですが……」
ふと、海未が不安げに口を開いた。
「新曲だけならまだ良いのですが、ステージ発表での曲は一つではありません。既存の曲だっておさらいをしなければならないのですよ……?」
「気合いだよ気合い!!」
「き、気合いって……」
そこで海未は机上に髪を垂らしながら身を乗り出し、何人か跨いで向こうにいる、ことりを見た。
「ことりは、どう思いますか?」
「…………、」
「? ……ことり?」
「えっ? あ、あぁ……わ、わたしは、良いんじゃないかなって思うよ?」
「だよねだよね!!」
「……はぁ、やれやれです」
するとこの場合、ことりと海未も賛成派でいい訳か。
「エリちはどう思う? 新曲について」
「まぁ、そうね」
希が隣の絵里に問いかける。
絵里は右手を顎にやり、考え込む姿勢を取るも、返答に時間はいらなかった。
「会場が盛り上がって、私達が注目されるのは良いことだし――後は私達が努力を積み重ねるだけ。反対する理由はないわ」
「! じゃあ――」
嬉しそうに穂乃果が跳び上がろうとした時、絵里が試すように挑発的な笑みを浮かべた。
「でも、そうと決まれば練習はいつもに増して厳しくなるわよ。特に――穂乃果!」
「は、はい!!」
大きく名指しをされ、穂乃果はビシッと姿勢を伸ばして敬礼のポーズを取る。
「あなたには人より努力してもらうわ。何せあなたはセンターボーカルなんだから。これからの日々に研鑽を積み上げて、最高のステージとして私達を引っ張っていってちょうだい」
「――!!」
そうだ。
今までのライブ。
そこそこ経験は積み上げてきたが、その中で最も多く主役――センターの位置に座してきたのは、高坂穂乃果だった。
それは特に、誰がそう決めた訳ではない。
メンバー内で行われる投票結果があった訳でもない。
最初からそうだった。
μ's結成以来、高坂穂乃果はリーダーだった。
それは誰しもが認めたことで。
決して覆らない真実。
誰もが彼女を信頼した。
誰もが彼女に期待をしている。
そんな彼女はいつも、眩しい程に明るい笑顔と元気さあり余る溌剌な性格で、メンバー達を先導してきた。
今、この場にもそれがある。
新曲をやろうと提案し、根拠も確証も保険もないが、やればできると彼女が口にするだけで、全員がその気になっている。
高坂穂乃果にはそのような力がある。
俺も、それは十分に感じ取れていた。
あの日――校舎の廊下で唐突に、初対面同然の俺をμ'sに勧誘してきた、あの瞬間から。
俺は高坂穂乃果に、人とは違う、突飛して優れているような――そんな何かを感じていた。
全員が注目を浴びせている。
穂乃果はそれを見渡した。
仄かに香る、その光った可能性はキリッと表情を固く締め、力強く頷く。
「うんっ!」
水色を帯びた綺麗な瞳に、満ちた志気と確かな闘魂が漲らされていた。
昨日のラブライブ!のライブシアター、凄く楽しかったです!
それでは次話もよろしくお願いします!!