笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 さて……。

 今回もよろしくお願いします!!笑



 少し後書きに読者様に読んでもらいたい文章もありますので――。






94話 新世代の開拓地

 

       

 

 

「え? 海未ちゃん、美雪ちゃんとどこか行くの?」

「お出掛け? お買い物かな?」

 

 部室を後にし、下駄箱で靴に履き替えて昇降口を出た後、俺の背後で穂乃果とことりの疑問の声が聞こえた。

 

「はい。少々用事がありまして――」

「スクールアイドルのことかな?」

「まぁ……そう、ですね」

 

 真面目な海未のことだ。

 ことりの質問に対し、返事がたじろぐ。

 幼馴染みに堂々と嘘を付いている自分に嫌気が差しているのだろう。

 

 かと言って、『夜伽ノ美雪の私生活を監視しに行きます』と正直に言った所で笑われるかドン引きされるかのどちらかだ。

 

「そっか~。それじゃ、気を付けてね」

「……え?」

「あれ?」

「……ん?」

 

 校門を出た時の穂乃果の発言に、海未とことりが怪訝な声を上げ、それに穂乃果も不思議そうに首を傾げる。

 そんな描写の形が、校舎方面の太陽に伸ばされる影で表されていた。

 

「えっと……いつもの穂乃果ちゃんなら、『穂乃果も行くー』なんて言うと思ってたんだけど」

「えぇ、まったく私も同感です。穂乃果も今日は、何か用事があるのですか?」

 

 そんな会話を耳に、俺は下りの階段の前で身を翻すように振り向いた。

 二年生組の三人の後から、今ちょうど校門から出てきた残り六人のメンバーも見える。

 

 これから気温は寒く下がっていくのだろうが、まだこの時間帯の太陽はやや高く、空も眩しく青い。

 

「用事じゃないんだけどね……ちょっと、これから放課後は自主練習に費やそうかな~、なんて思ってるんだ。なんたって穂乃果はみんなのリーダーだからね!」

「…………は、はぁ」

「そ、そうなんだ……」

 

 その会話に俺も意外だと感じた。

 普段から面倒臭がり屋の高坂穂乃果の口から『自主練習』なんて単語が飛び出したことに。

 

「あーひどい! 穂乃果の癖に意外だーって思ってるでしょ!!」

「い、いえそんな……ですが、そうですか。えぇ、良いことだと思いますよ。あなたは昔から、何か熱中できることが見つかれば、それにとことん打ち込むタイプでしたからね。そんな面は、非常に良いと思います」

「わっ! 海未ちゃんが褒めてくれた! えっへへ、クゥ~~ン――」

「そのやる気を少しでも学業の方に回してくれても良いとは思いますが」

「そ、そんなこと言われるから元々ないやる気がさらに削がれるんだよ! ふぇえ~ん! ことりちゃ~ん!!」

「ほ、ほのかちゃ~ん、ちゃんと立って~」

 

 力なくヨヨヨと倒れ込む穂乃果を支えることりは困ったように笑っている。

 そんな二人の光景を、海未は腕を組みながらふんっ、と呆れるように見ていた。

 

「ふぇ?」

 

 ポンポンと。

 ことりの胸に置かれる穂乃果の頭を、希が右の掌で優しく撫でる。

 

「えぇ意気込みやったで穂乃果ちゃん。でも無理はアカンよ。μ'sの活動じゃいつも、穂乃果ちゃんは人一倍頑張ってるんやからね」

「そうね。いつかのPV撮影の時のように、常にうまく行くとはいかないんだから。今度こそ車に跳ねられるわよ?」

「ま、真姫ちゃんが怖いこと言うよぉ……うわーん希ちゃ~ん!」

「おーよしよし。大きな赤ん坊やなぁ」

「ふんっ、おかしな人」

 

 そんな調子で一〇人。

 揃ってから皆で階段を降り、信号の十字路で各々解散といつもの形になった。

 

「それでは美雪、帰りましょうか」

「……俺ン家に? お前ン家?」

「こちらの方面なのですから、美雪の自宅に決まっているじゃないですか」

 

 同じ帰路を歩くはずのにこは、今日は希や真姫と一緒にどこかへ寄り道するらしい。

 俺と海未は二人、歩道の真ん中を並びながら歩いて行った。

 

「今日の夕飯は――」

「待て、お前まさかまたウチで飯食うつもりか?」

「冗談ですよ。監視役と言っても、放課後にあなたが帰路についている間しか実行できませんので。勝手な寄り道をしないようにと見張るだけです。ゲームセンターやボーリング場などに入り浸るなんて論外ですし、ましてや怪しげなお店に入られても困りますので。可能性としては、練習後の放課後が最もその危険性が高いでしょうから」

「やッぱとことん信用されてねェな。つか、俺が家に帰ッた後にまた外出する可能性だッてあるだろうがよ」

「ああ、その心配もいりませんよ」

「……あ?」

「まぁ、今は知らなくて良いのですよ」

 

 そう言ってはにかむように笑う海未だが、ちっとも可愛い気がない。

 これでは飴をあげるから車に乗りなさいと言うおじさんに付いて行かないようにと見張る過保護な保護者だろう。

 

 

「学院祭、間に合うでしょうか」

 

 

 ふと、海未がそんな話題を出した。

 

「間に合う?」

「ほら、今日も部室で会議をしたでしょう? 穂乃果が言い出した新曲についてですよ。曲については、私も作詞担当なのでよく分かります。曲名は『No brand girls』と言って、確かに舞台の始めに披露すれば、会場のボルテージも最初から高く――って、あぁ、美雪も知っているんでしたね。すみません」

「まァ俺も、真姫に曲だけ聴かせてもらッただけだ」

「今回、真姫も少し苦労していたそうですよ。手伝ってあげれば良かったじゃないですか。美雪も合宿の時、あんなに素晴らしい歌を描けたのですから」

「あれは――」

 

 俺が描いたものではない。

 そう暴露してしまいそうになった口を、慌てて閉ざす。

 

「? ……」

「いや、何でもねェよ」

 

 あの時の謎は、未だに解決していない。

 

 合宿の深夜、希は確かにピアノを弾いて作曲する俺の後ろ姿を見たと言うし、それに完成された譜面が朝、俺の部屋にあった。

 

 結局、あれは何だったのか。

 一種の夢遊病か……それも非常に重度な。

 

「……俺はPV作成で忙しくてな」

「確かに、私達でパソコンを器用に扱えるのは美雪かにこ辺りしかいませんものね」

「最近、にこは衣装制作に回ッてことりの手伝いをよくしているな」

「そうですね。ことりも、素材収穫ににこと街へ繰り出すのが楽しいと話していました」

「仲良いよな」

「良いことですよ」

「……逆に、メンバー内で仲が悪いのッて――」

「……にこと、真姫でしょうか」

「やッぱそうか……」

「えぇ、いつも喧嘩ばかりしてますし」

「よく言い合いしてるよな。希はあれを見て、随分と仲が良いな、なンてほざいてるけどよ」

「はて? どこをどう見たらそう捉えられるのでしょうか……?」

 

 それからしばらく話すと住宅街に入った。

 ここまで歩けば車の通りも少なく、うるさい音もなく静かな空間だ。

 

「お前、またこッから引き返すのか?」

「えぇ、歩くのも良いトレーニングです」

 

 そこから帰宅し、また道場の掃除や庭の手入れ、稽古や勉強などが待ち構えている、と。

 とても、俺や穂乃果はもちろん、他のμ'sメンバーには到底真似できないだろう。

 

 真姫も家が厳しいらしいが、しかし言ってしまえば彼女の場合、放課後の練習後に待ち構えるは勉強のみだ。

 そう考えれば、海未の方がやはり数倍大変な思いをしているだろう。

 

 ……そこに、わざわざ俺の監視役も取り入れてきたのだ。

 彼女が何を考えているのか、また彼女の限界とやらはどこにあるのか、俺にはさっぱり分からない。

 

「……訊いていいか?」

「? はい、どうぞ?」

 

 しかし、俺が質問する内容は前記に思ったことではない。

 

 もっと単純で、それは以前にも感じた不自然な違和感について――。

 

「その長い袋、また持ち歩いてンのか」

 

 指を指して教える。

 海未の背中。

 

 右肩から左の脇腹へとくぐるように紐を通して背中にぶら下げられる、上の頭に別口の紐でキュッと入り口を閉じられた、何か長身な道具が入りそうな袋。

 

 それは以前、海未が親からの預かり物だと言って俺の家まで持ってきていた代物だ。

 

「あぁ、これは私自身のですよ」

「……それ、中に何が入ッてンの」

「ふふっ、それは秘密です」

「……そうか――」

 

 決して作り笑いすら浮かべない彼女の返答に、俺も追求を諦めた。

 

「……さっき、新曲の件について間に合うかどうか、と私が訊きましたよね」

「ン? あァ……」

「ですがやはり、私の中で答えは出ていたようです。今、それがはっきり分かりました」

「……??」

 

 少し、言っている意味が分からなかった。

 解答が見えた問題用紙を俺に覗かせた意味というものが。

 

 そして――。

 

 

「穂乃果は、言い出したことは絶対にやり遂げてくれる子です。きっと今回の件も、穂乃果は気合いと根性だけで、その壁を乗り越えさせてくれるでしょう」

 

 

 ……まぁ。

 そうだと言われれば、そうなのではないかと頷けてしまう所がある。

 

 無論、高坂穂乃果以外のメンバーも練習は必要不可欠なものだ。

 ただ彼女らよりも、センターポジションを握る穂乃果はさらに努力しなければならない。

 

 海未が抱いた不安はそこだったのだろう。

 高坂穂乃果が抱える負担を、彼女一人で何とかできるのだろうか、と。

 

 だが、きっと大丈夫なんだろうと。

 俺には分からないが、長年の親友を経験してきた園田海未はそう決断できた。

 

 それなら。

 きっと、大丈夫なのだろう――。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ……放課後に帰宅し、海未が監視役の任をひとまず解いた後。

 俺は再び一人で外出するという可能性を彼女に警告するも、「心配ない」と正面から言われた。

 

 どうも気になる。

 その言葉にはどういった意図があるのか。

 

 ただ、仮に俺が真性の不良であるのなら、その活動範囲が広まり活発となるのは夜だと相場が決まっているだろう。

 

 学校から家まで送り届けた。

 それだけなら、監視役なんて役割は必要ないように思える。

 

「やッぱ、分かンねェわ」

 

 そう言いながら玄関の鍵を開け、扉を開けては家の中に入り、靴を脱ぎながら天井に口を開ける。

 

「竜三ィ、起きてるか」

 

 言いながらリビングの扉を開ける。

 自動起動送風のエアコンの冷気で満たされる部屋の中、帰宅の俺へと顔を向けた男がいた。

 

「お、おう……帰ったか美雪」

「おかえりなさい美雪ちゃん」

 

 ……二人も。

 

「……何で柊までいるンだ」

「なぜ僕だけ……」

 

 しかし、奇妙な光景だと気づいたのはそこでだ。

 

 金髪ロン毛のヤンキーと国立大学所属のエリート学生。

 お互いに抵抗を感じるほど対立できた二人は部屋向きの台所に並んで立ち、なぜか肩紐をかけたエプロンをかけている。

 

 竜三は冷や汗を流して引き攣った表情を俺に向け、柊の方は誤魔化しもしない澄まし顔でそっぽを向いていた。

 

「…………?」

 

 二人の男が仲睦まじく台所で料理でもしていたというのか。

 確かに米を炊いたり材料を切ったりし出す調理開始の時間にはちょうどだが――。

 

「……何か、この部屋臭くねェ?」

「うっ――! そ、そんなことねぇよ、な……?」

「…………ん? あぁ……仄かにレモネードの薫りが漂っているね。まるで鼻先にグラスを近づけて香りを楽しんでいるような、濃厚なシロップの味わいが――」

 

 ……明らかに竜三が怪しげに動揺し、震えた声を天井に向けている。

 もはや柊など、自分にはまったく関係ありませんよと言いたい風に目を瞑り、台所で俺から背を向けた。

 

「…………」

 

 いや、明らかに錆びた鉄屑の臭いだろう。

 もしくは乾燥した路面でスリップして焦げきったタイヤ。

 

 毛皮のソファに鞄を放り投げ、上のジャージを脱ぎ捨ててから玄関への扉と二面の窓を開け放ち、まずはこの正体不明の異臭を換気する。

 そしてズカズカと歩き出して台所に近づこうとした途端、竜三と柊がギラリと俺を睨み付けるように振り向き――。

 

「来るな美雪っ!」

「来ちゃ駄目だ美雪ちゃんっ!」

 

 今度こそ俺と目を合わせて反発して叫んだ。

 だが遅いかな、奴ら二人が何かやましいことを犯したことは確かだろう。

 

 家主として俺はそれを糾弾する必要がある。

 足も止めずチラと台所――異臭の発生源とも思われるそこに視線をやった――。

 

「ッ――!?」

 

 一瞬、初めて料理(?)を作った息子か娘がその作品を満面の笑顔で見せてきて、そんな我が子の成長を喜ぶ父親が美味しい美味しいとそれを口に運ぶ、なんて素敵な物語が浮かぶ。

 初めて自分の家を訪れた恋人が手料理を振る舞ってくれて、指に絆創膏などを貼った手で料理を盛り付けたお皿を運んでくれるその光景にありがたいと拝む男のワンシーンもザッと流れた。

 

 そこに汚い部分などあるものか。

 ましてや換気する程の異臭が発生されることもありえない。

 

 だが、目の前――。

 俺は見た。

 

「せめて人様の料理を作れよ。鍋やフライパンを焦がして油もカスもへばり付けさせてくれた挙げ句、犬の餌しか出来上がッてねェじゃねェか」

 

 テレビで見た、食器用洗剤やコンロ下換気扇用の洗浄剤を宣伝するコマーシャルが一斉に脳内で再生される。

 

 山積みになったボウルやまな板、なぜかそれに直立として突き刺さっている包丁。

 歪な形に模れて粉々にされた野菜や生肉が散らばるプライパンのお城を眺め、俺は今すぐに頭痛解消の投薬を求めた。

 

 同時に、昨晩の海未の手料理を思い出す。

 彩り豊かとは言えないが、日本食を極めた和風料理を、冷蔵庫にしまわれていた材料だけで完成させてしまった、あの美味の食卓を。

 

「男と女じゃこうも違うもンかねェ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 結局、今晩はピザの出前となった。

 料金はもちろん二人に回した。

 とりあえず廃品取り扱い工場付近に流れる汚濁しきった川を連想させてくれる台所は、ひとまず放置とした。

 

「いや……俺はただあれよ、今まで迷惑かけちまった美雪への詫びみたいな感じで、いっちょ飯でも作ってやるか、ってよ?」

「やれやれ、それであんなモザイク必須のどす黒い塊が完成した挙げ句にキッチン一帯を進入禁止エリアに変貌させてしまうとは、恐れ入ったね」

「ああっ!? 元はテメエが料理の最中に横槍入れてくっからだろうがっ!!」

「見事なまでの責任転嫁だな水浦くん。油と火加減の度合いが分からなくて適当に配分してインフライパンした所、本格中華料理店並の炎が舞い上がってめちゃくちゃ焦ってたのはどこの誰かな?」

「あれだってテメエが『よく洗った方が良い』とかほざいて水で洗い流して水滴塗れにしたフライパンに火をかけたからだろうが。油めちゃくちゃ跳ねてすげぇ痛かったわ」

 

 言い合いながら切り分けられたピザさえも奪い合う二人はクッチャクッチャとチーズを乱暴に咀嚼する。

 

 何度目か分からない溜息を吐き、俺もげんなりとした心境で二人に訊く。

 

「つか俺としては、なぜまな板にありえない角度から包丁が突き立てられていたのかが知りたい訳だが……」

「……それは、あれだよ美雪ちゃん。ちょっと料理中にお互いの意見の相違があってね、言い合いをしていたら、何かあんな感じになってしまったんだよ」

「つまりどういうことだよ……」

 

 あぁ、あの悲惨な光景が広がる台所の処分は俺の仕事だよなぁ。

 二人に片付けをやらせると今度は台所の引き出しの中身が粉々の皿の破片まみれになる可能性がある。

 

「大体、お詫びとか言って手料理を振る舞って美雪ちゃんの気を引こうなんて思う君が悪いんだよ」

「テメエと一緒にすんな、邪な気持ちなんて全くなかったっつうの。大体テメエこそ、料理のりの字もできねえ癖して割り込んできやがって」

「家事全般ができないのは父親からの強力な遺伝さ」

「開き直りやがったっ!」

 

 愉快な奴らだ本当に。

 こいつら二人の接点がどういうことになっているのかは知らないが、恐らく馴れ初めは今日ではないのだろう。

 

 あの日。

 何でもない、街をうろつくどこかのヤンキーに吹っかけられた喧嘩とかで倒れた竜三を、俺の元に運んできたのが柊だ。

 つまり、柊は俺と竜三が知り合いだということを掴んでいた。

 

 以前――俺がμ'sに加入したすぐ後のことだ。

 竜三に柊蒼太郎の名前を切り出しても、こいつは知らない素振りを見せていた。

 

 ならあの日から、夏祭りの日まで。

 その短い期間でこいつらは何かしらでもって知り合えたということになる。

 

 どういう関係性なのか。

 少なくとも、仲の良い友人という訳ではないだろう。

 

「そういえば……」

 

 ふと、柊が言い出す。

 箱の中のピザに伸ばされた手を止め、不本意ながら(俺に)隣席に座らされた竜三に顔を向ける。

 

 

「音ノ木愚音隊は、結局どうなんだろう?」

 

 

 ピタリと。

 俺も竜三も、動きを止めた。

 

 すると竜三は口に含んだピザを急いで飲み込み、ポケットのハンカチでベトベトの両手を拭くと、眉を潜めながら柊と視線を交差させる。

 

「お前……やっぱ知ってんのか?」

「調べさせてもらったんだよ。以前にその一味と思われる奴らが、美雪ちゃんを襲ったって言うんでね。ちなみに音ノ木愚音隊のことは、美雪ちゃんもご存知だよ。僕がその存在を教えた」

「なっ――!?」

 

 驚愕の色を浮かべた。

 認めたくないという表情で俺を見る。

 

 俺が音ノ木愚音隊の存在を知っているという件については、前にも竜三に話したことがある。

 久々の再開、そして俺と竜三が完全に対立し始めた日のことだった。

 

 だが、その情報網の先端を竜三は知らない。

 そこにさらなる横槍をぶち込んできたのは、紛れもなく柊蒼太郎なのだ。

 

「余計なことを……っ」

「過ぎたことはどうでも良いんだよ水浦くん。それに僕も無関係じゃない。夜伽ノ美雪を探る人物とやらに、僕だって知人であることが判明されてしまった訳だからね。名前を晒さなかった分、まだマシだけど」

「はッ、なァに巻き込まれた被害者面してンだよ。テメェはその展開を望んでたみたいじゃねェか」

「……ほう、良いね美雪ちゃん。僕の冴えてる思考をちゃんと理解しているじゃないか!」

 

 睨みつける俺に柊はニパァッと似合わない柔軟な笑みを見せた。

 やはり、この男の笑顔ほど鳥肌が立つものはない。

 

「えっと、それで……」

 

 その薄汚い表面を消して真面目に、どこか間抜けたいつもの表情を見せる柊。

 

「今の愚音隊の状態はどうなんだい? ここ最近、美雪ちゃんが襲われたとか、そういった話は聞いてないけど」

「…………」

「……水浦くん?」

「っ……あ、あぁ……」

 

 何かを気にしている。

 不安を抱いたり、何か考え事に没頭する人間にはその人間特有の癖がでる。

 

 真ん中から分けられた長髪からのぞく額。

 そこに拳を当てるのが、竜三のソレだった。

 

「竜三」

「っ……」

 

 俺の声に、怯える反応を見せる。

 長年付き合っていると、相手の考えていることまで自然に分かると言うが――。

 

「もう、俺を巻き込んでしまッたとか、そういうのは考えなくていい」

「……っ」

「過ぎたことだ。元々俺も、お前がどンな世界にいるのかッてのを理解しているつもりだ。友人でありながらそれを否定しなかッたのは、以前にも俺だッて同じ舞台に立ッていたからだ。そンな俺に、今さら一つの脅威が追加されましたからッて気にするこたァない。お互いに慣れッこだろ。だから今は、俺達が向き合うべき問題をハッキリさせることが最優先だ」

 

 もちろん、こんなことはμ'sメンバーにはもちろん、音ノ木坂学院にも公表はできない。

 もし俺に何かしらの処分が下されれば、μ'sの大会出場にも影響が出るはずだから。

 

 だが、それでも。

 

 水浦竜三は俺の親友だ。

 そう認めることができて、それを胸張って誇るように宣言してやってもいい程の男だ。

 

 だから、力になりたかった。

 約束を破綻させ、一度は信頼関係すらも崩壊しそうになろうと、俺のためを思って一人で抱え込む親友を何とか救済して――。

 

「あれはもう、脅威じゃねえよ」

 

 ……?

 竜三が漏らした発言に、俺も柊も怪訝顔を浮かべた。

 

「……どういうことだい?」

 

 柊が訊く。

 脅威ではない、とは――?

 

 音ノ木愚音隊の壊滅?

 リーダーであると聞いた、梶ヶ谷燐桐という男に何か問題でも起きたのか。

 

「脅威、なんて曖昧な言葉じゃ済まされないってことだ」

 

 いや違うと。

 竜三は首を振る。

 

「あれはもう、『力』を手にした。そこらに転がるただのヤンキー集団じゃねえ。拳にものを言わせる喧嘩なんて時代遅れだと語れるような、進化した奴らになった」

「……さっきから君は何を言ってるんだ?」

 

 俺も柊と同意見だ。

 竜三が何を言っているのかが分からない。

 

 すると竜三は手元のスマホを取り、何回か画面を指でタップしながら、どこかにあるページへと誘導させていく。

 

「見てみろ」

 

 出前のピザの箱をどかし、透明ガラスのテーブルの中央に、スマホを置く。

 横向きの画面に俺と柊は、身を乗り出して真上から覗き込んだ。

 

「あ、美雪ちゃん良い匂い……」

「黙ッてろ」

 

 ディスプレイを見る。

 何かの画像やその文章に目を這わせていった。

 

 

『9月1日

 幽霊会社所有の荒廃ビル襲撃事件』

 

 

 見出しにそう記された記事。

 

 瓦礫が積まれただけのような建築物は壁の塗装が無残に剥がされ、辺り一帯の草原も手入れが行き届いていないように殺伐と成長しきっている写真があった。

 二枚目には倒された数台のバイクやタイヤもドアもない黴びた廃車、何かに覆い被さるブルーシートが映されている。

 

 

『暴力団同士の闘争か

 銃撃戦の痕跡が至る所に見られる』

 

 

 その文章に、俺と柊は目を合わせた。

 

「これは……」

「……どうやら確かに、単なる街のヤンキー同士の喧嘩じゃ済まされそうにない事件だね」

 

 記事の文章では、死体もあがり、使用されたと思われる一般的な拳銃も現場で発見されたそうだ。

 死体から身元の調査を調べる及び、どの組織が事件に関与しているのかを調査するらしい。

 

「……だが、これがどうしたンだ。この記事で何か、音ノ木愚音隊に関して分かるのかよ」

「この暴力団同士の事件に、愚音隊が関わっているって?」

 

 柊の言葉に、俺はすぐに反論を飛ばした。

 

「馬鹿な。愚音隊はあくまでただの群れだ。街に蔓延る不良達をかき集めて結成された喧嘩上等のヤンキーグループだろ。一つの地域の中でしかいないそンな奴らが、暴力団の事件にどうして関係している」

「美雪、まだお前は分かっていない」

 

 同じようにすぐ、竜三に返される。

 俺はさらに眉を潜めた。

 

「愚音隊ってのはただの不良の集まりじゃない。柊、お前は知ってるんじゃないか。こいつらの上には族や組合が存在して、そいつらさえ政治関係者の援助がバックにあるってことを」

「……あァ?」

 

 いや、待て。

 そういえば、一度聞いた、か?

 

 音ノ木愚音隊。

 それ事態の集団に国家レベルの害はないが、その一部が関与する上層部には政治組の息がかかっていると……。

 

「……まずいな」

 

 柊蒼太郎が呟く。

 

 やけに重苦しく。

 まるで密室に蔓延する中毒性のガスに取り囲まれ、逃げ場のない緊張感に苦味を出すかのように――。

 

「もし暴力団同士の抗争に愚音隊が関与していて、さらにその援助の報酬に、梶ヶ谷燐桐率いる彼らの手に『アレ』が渡っているとしたら――」

「アレ? おい柊、『アレ』ッて何だ」

 

 意味深な代名詞に俺は問い詰める。

 竜三も竜三で、敵なしの余裕さはない、似合わずの焦燥たる色を瞳に浮かべている。

 

 

「『次世代型メンタルウェポン』」

 

 

 重たい口を開けば、聞き慣れない単語。

 水浦竜三の言葉を受け継ぐように、下唇を噛んだ柊が、危機感を纏わす雰囲気で言う。

 

「いわゆる、『高度な人工知能を搭載した武器や乗り物』、と言った所だよ」

 

 それは、俗に言う近未来的なお話。

 

「拳銃や刀剣、乗用車や機械が独りでに学習して、入力されたシステム方式に則った駆動式を動作に移すものだよ。数年前に日本に試作品が送り込まれていた時点で、可能性としては大幅にありえる……。政府はまず災害の発生した被災地や暴力団といった無法地帯にそれを預けて、どのような機能や役割を果たしてくれるのかを見定めるつもりだ」

 

 追いつかない。

 柊がなんの次元の話をしているのか。

 

 人工知能?

 システム方式?

 駆動式?

 試作品?

 政府?

 

 聞き慣れてはいるが詳細が知識にない単語を並べられると人は混乱する。

 まさに今の俺がそうだ。

 

 隣で拳を固めている竜三は、きっと事態の重大さを感じ取れているのだろう。

 

 俺には――。

 

「……つまり一般的な拳銃や、今現在にそこらの道を走る自動車とは格が違う、それも武器として使用されている道具が存在しているッて訳か?」

 

 ここまでの範囲も、聞くだけの話でしか理解できていないのだ。

 

「そうだ」

 

 重々しく竜三は頷く。

 

「メンタルウェポンなんて名前は、元は人間の殺意や憎悪を人工知能が感じ取って武器としての機能を中断させ、殺人事件とかの減少を目指して作られたもんだ。だが年月が経つうちにそれが地震や津波でやられた被災地での救助活動に赴き、最終的には軍事的なものに利用されることになった。メンタルっつぅ部分にちょいと細工すりゃ、人工知能は『いつどこで誰に』を正確に測り、武器としての真髄を極めてくれるようになる」

 

 つまりそれは科学の進化か、人間の心理をいかに器用に利用できるかと考えた悪魔の権化だろう。

 

「例えば銃の話なら、銃口の角度、引き金のタイミング、銃弾の装填、危機予測装置が発動した際の咄嗟の発弾、障害物が重なる場所での狙撃……。どんな環境どんな敵が相手だろうと、発砲を続けるうちに拳銃に搭載された人工知能がその状況を学習し、百発百中の命中率を誇れる獲物になってくれる。例えそれが人間の腕に振り回される鉄屑の物体に見えていても、だ」

「人工の脳味噌が学習できる力も様々だよ。単純な力学は全て網羅していると聞く。その場の環境も空気も全て読み取れる。電磁力、抗力、摩擦力、張力、弾性力、光力――その他諸々も全てね」

 

 俺が知識として頭に入れているだけでも、現代の科学力は人工知能をよく研究し、発展させている。

 

 だがやはり、陰謀はあった。

 俺達が平和な高校生活とか、スクールアイドルなんていう部活動に精を出している間にも、世の中の裏では闇が渦巻いていた。

 

 そういう訳なのだ。

 それが人間だった。

 

「チッ……、どこの局でも新聞でも公表されていないのを見ると、日本も日本でその正体を隠蔽しているッて訳か」

「そのぐらいの工作をしないと、どんな場面で悪用されるか分かったもんじゃないよ。世の中には様々な陰謀が見え隠れするけど、きっとこの次世代型メンタルウェポンはその最前線を走るだろうね。世に出回って人々が自由に扱えるものとなったら、あっという間に第三次世界大戦の勃発だよ」

「だが可能性としてはなくもないぞ。年寄りの介護として人工知能搭載の人型機械だとか、部屋の汚れや埃を察知して勝手に動き回る自動運転掃除機なんてものがあるんだしな。その進化形が発明されました、なんて言われるのも時間の問題かもしれない」

「その前には当然、軍隊に秘密兵器として投入されるだろうしなァ。もちろン、武力材料としてだが」

 

 そしてまた、これが政府の手から暴力団へ。

 試作品が暴力団から、今回の抗争を援助した音ノ木愚音隊の手に報酬として渡っているとすれば……。

 

「……ははッ、厄介極まりねェな」

「分かってきたかい、美雪ちゃん」

「大体の流れはなァ。……おい、竜三」

 

 俺は竜三を睨み上げる。

 今まで隠してきた分も含め、全てを教えてもらおうじゃないか。

 

 

「お前……こンな化け物じみた怪物兵器を使われるまで、奴らに一体何をして恨みを買われてきた――?」

 

 

 そして話は、原点よりもさらに奥へと戻る。

 

 

 

 

 

 












 さて、一応ですがここで言って置かなくてはな、と思いまして――。


 この作品、なにやら『音ノ木愚音隊』とか言うグループやら『次世代型メンタルウェポン』なんて言う訳ワカメな設定まで生まれていますが……。



 あくまで、この作品は『ラブライブ!』の二次創作作品です。



 手を抜く行為はしませんが、オリキャラ達が絡む『音ノ木愚音隊編』の描写は短くなるかもしれません。
 しかし当然、そこにはμ'sの面々も関連してくる物語です。

 『次世代型メンタルウェポン』についてまた設定の説明や追加がされたりしますが、もちろんそこに『μ's』や『アイドル』、『歌』の設定も盛り込んでいきます!

 
「もうこの展開まできたら完全にオリジナル作品だよな」


 という感想を数日前に聞いて少し焦った西海でしたm(_ _)m


 それでは、次話もよろしくお願いします!




 ……もちろん、「μ'sが絡むのなら音ノ木愚音隊編も詳しく読みたい!」という意見がある方は遠慮なく!






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