さて、第八章の暗黒編で……アイドル研究部のメンバーはどのように関わっていくことになるのか。
「おめでとうございます! 書道部、学院祭正午からの講堂ステージの使用権が確定しました!」
商店街の福引きで一等を獲得できた時に鳴らすハンドベルの音と同時、二人の書道部部員が「やったー!」などと両手を繋いで飛び回りながら歓喜に笑顔を浮かべている。
そんな光景を、音ノ木坂学院アイドル研究部の部員達九人(つまり俺以外)が、何とも憎悪に満ちた憎たらしい般若の顔で睨み付けていた。
若干一名、二つの房が下がる輪っか型の数珠を合わせた両手に通し、怪しげな祈祷を捧げる女もいるが……。
悪鬼の眼光に書道部部員の二人は気づかないものの、奥にいる生徒会補佐と思われる生徒達は「ひっ」なんて息を詰まらせる悲鳴を上げた。
中でも、矢澤にこ。
特に意識の高い彼女の瞳は狐眼に尖り、眉も歪ませてアイドルとはほど遠いイメージの表情を浮かべている。
「って……」
そんなにこの劣悪な嫉妬心に塗れた表情も、俺の脳天チョップですぐに崩れた。
「なにすんのよ!」
「書道部の奴らに罪はねェだろ。……ほれ、次は俺達の番だぞ」
……と言うのは。
今日は、三週間後に迫った音ノ木祭の二日目――学院祭で各々の文化部が使用できる『ステージ場所』を取り決める、抽選会が行われていた。
場所は机や椅子を一掃してどかした広い生徒会室。
教室の奥に横長の机があり、生徒会補佐役の生徒が管理するそこには抽選器が鎮座していた。
正多角形に模られたただの小さい木材作品だと言うのに、それから発せられるドス黒いオーラを感じ取れるのは、きっと俺以外のメンバーも同じだろう。
皆が同じ心境だ。
どうにか一等を引いて欲しいと願掛けしている。
なぜ、あの時に眺めた流れ星にお願いしておかなかったのか。
なぜ、今年の初詣の参拝でこの時の幸運を祈ってこなかったのか。
だが悲しいかな、皆が満場一致でそう後悔した所で、待ち受ける数秒後の結果が変化してくれる情けがあるとは思えない。
「にこちゃん! お願い!!」
「部長! 頑張ってくださいにゃーっ!!」
「え、えぇ……っ!!」
ライブ前とは緊張の度合いが截然していると、矢澤にこは今日の朝練で語っていた。
何せ、アイドル研究部が『講堂』というステージを使えなくしてどこを使用すればよいのだという解答難関問題に直面した俺達は、授業中も含め今まで必死に祈ってきた。
講堂でライブを披露したい。
一人でも多くの客に自分達を見てもらうためにも――。
「にこ! 講堂が使えるかどうかで私達の運命は大きく変わるわ!」
「絶対に外せない場面ってこと、にこちゃん分かってるんでしょうね!」
「お、お願いしますにこちゃん……っ!」
「う、ううううるさいわねぇ! ただでさえ平然としていられないってのに、余計なプレッシャー与えてくるじゃないわよっ!!」
「なむなむなむなむなむなむなむ…………」
アイドルは、歌って踊る。
それは当然のことだが、観客に『見てもらう』ことも立派な仕事だ。
注目してくれる存在がいない環境の中でステージを披露したって、それは自己満足にも満たないだろう。
何せ、アイドル研究部はアピールを続けなければならない。
廃校案の撤廃に繋げられる、『ラブライブ!』出場のためにも――。
「にこ……頼み、ますよっ」
「……にこちゃぁん」
「ぐっ……くぅう…………」
結果を出す前から苦渋を噛みしめる表情の部長はその場でワナワナを身体を震わせた後、ビシッ! と背筋をグンと伸ばし、ゴクリと生唾を飲み込む。
「やるしか……ない――。いいわ、やってやる……絶対に成し遂げてみせるわっ!!」
前に踏み出し、向こうからしたら正体不明で謎の気迫とオーラに覆われた彼女に恐懼する生徒会補佐役をさらに睨み付けながら、にこは抽選器の取っ手をガッと掴む。
瞬間。
生徒会室が静寂に包まれた。
わずかに空気が振動することも、誰かが固唾を呑む音さえない。
誰も、何も発しなかった。
極度を越えた緊張感と焦燥感は有限の自然空間を逸脱し、その場を無限の森閑世界と変貌させた。
不自然な沈静。
不器用な殺気。
粘着な寂々たる雰囲気の中、カッ!! と眼光を迸らせて瞳を見開くにこが――、
「はあっっ――!!!」
限界まで膨張した風船が破裂した勢いの怒号と共に、多角形の抽選器をぶん回す。
途端、全員が抽選器の元へ駆け寄った。
部長のにこを囲むように、俺でさえも結果を待ち望んだ。
そして――。
結果は……。
「あ……あ、あぁ…………あぁぁぁ……、」
転がる小玉を指で摘み、悲劇に酔い痴れた表情でそれを凝視するにこ。
「残念! アイドル研究部、学院祭での講堂使用は不可となりましたーっ!」
全員が足下の覚束ない重病人のようにふらつき、壁やら床へガクッ、と身体を倒す。
絶望の色を瞳に宿す希が落とした数珠の輪が、無残にもバラバラとなって床に散った。
「……まァ、正直こうなるンじゃねェかとは思ッていたがな」
厳密には、抽選器を回す担当に矢澤にこが決定した、あの時から。
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練習着に着替えて屋上に集まった俺達からは、未だこの世の終焉と言わんばかりの喪失感と悲観の心境が抜け切れていなかった。
「あーもーどうするんだにゃーっ! にこちゃんが見事なまでに白玉を転がしてくれたせいで全ての計画がパーになっちゃったよーっ!」
「う、うるさーい! 別ににこじゃなくても他の誰かでも、同じ結果になってたでしょーが!」
「にこっち……ウチ、信じてたんよ?」
「な、何よぉ! わ……、私だって……私だってあんな結果は望んでいなかったわよー!!」
頭を抱えて地面に土下座姿勢でしゃがみ込む凛。
全てに失望し、黯然銷魂とした雰囲気を纏わせて体育座りをする希。
「終わりだよ……もう全てが終結するんだよ……もうこの一〇人で最後の晩餐を迎えるんだよ……」
絶念のあまり自暴自棄に陥ったのか、何やら訳の分からないことを呟く穂乃果は鉄棒のフェンスによりかかり、ぐったりと首を落としている。
パンパン! と。
両手を叩いて全員の注目を集めたのは、絵里だった。
「みんな立って! 出てしまった結果は変えようがない現実、もう仕方がないことだわ。定期考査みたいに補習の後にやり直しが効くものじゃないの。これからのことを、みんなで考えないと!」
「……そうですね」
海未も絵里と並ぶ。
「今、私達に課せられた課題は二つ。まず一つは、新曲の歌詞と振り付けを完璧に覚えること。二つめには、講堂が使用不可能となってしまった今の状況を打破するための、打開策を練らなければなりません。……ですよね、美雪?」
「……そうだなァ。二つめはつまり、学院祭本番のライブをどこで行うか、だ。場所探しは簡単そうで案外難しい。運動場は出店が立ち並ぶだろうし、体育館じゃ軽音部やバトン部の演奏が講演予定とされている」
はいっ! とフェンスから離れた穂乃果が真っ先に手を挙げた。
「部室はどうかな!」
「アホか、狭すぎるわ」
「じゃあ廊下は!?」
「随分と愉快で迷惑極まりないカーニバルを誕生させたいみたいだなァ穂乃果。テメェと、それと凛とにこが馬鹿みたいなハイテンションで楽器持ちながら廊下を行進する姿が容易に想像できたが、客からの視線はそりゃ痛いもンだらけだぞ」
「なんで私まで巻き込むのよ! 凛はともかく!」
「どうして凛を巻き込むにゃー! にこちゃんはともかくぅ!」
「な、何ですって凛! グルルルルルルルル!!」
「ガルルルルルルルル!!」
会話の流れで何やら別の生命体へと変身しそうな二人の頭へ、ゴツンと俺は拳を落として静かにさせる。
「だが当面の問題はパフォーマンスの方だ。新曲はもちろン、既存の曲だッて復習しておかなきゃならねェンだぞ」
「……いずれにしても、時間がないのは確かやね」
「わ、わたしまだ歌詞覚えてない!」
「大丈夫だよかよちん!」
「り、凛ちゃん……教えてくれるの?」
「凛もまだ覚えてないから!」
「まぁ、歌詞は昨日の帰りに渡したばかりですし、無理もないでしょうけど……」
「でも既存の曲のおさらいも含めるんだから、なるべく早く譜面の曲も混ぜ合わせて練習したいわね」
「アホか、歌の暗記なンざ家でできンだろ。俺が言ッたのは踊りの方だ」
「今までの曲から借りてくる部分が多くなるっていうのは仕方がないのかもね。美雪、振り着け案の追加は?」
「特にない。だがダンスの練習は絵里、それと凛。お前らに少し任せきりになるかもしれン」
「あら、どうしたの?」
対して興味もなさそうに絵里が訊くも、俺も一応という形で答える。
「そりゃ決まッてンだろ。学院祭本番のライブ場所を探して……無理なようなら他の部活に交渉しに行くか、直接学校のトップに相談しに行くしかない」
「……理事長ね」
途端、若干だが絵里の表情に影が落ちる。
しかし隣に立つことりに気づいたように、ハッと反応して表情を戻した。
「えぇ、ならその仕事は任せていいかしら」
「了解だ」
首を縦に振った直後だった。
「あっ! ねえねえ!!」
またも穂乃果が手を――今度は両手を広げるように上げて、俺達全員の注目を惹く。
「何だ、またどうしようもねェ提案だろうが」
「穂乃果、あまりにも無鉄砲な考えの発言は皆さんを混乱させるだけですよ」
「な、なんか美雪ちゃんも海未ちゃんも穂乃果に当たり強くない……?」
ションボリと唇をつむんだ後すぐに、また表情を明るくさせる。
「でも今度ばかりはどうしようもなくないよ! ステージ発表の場所について!」
「……どこが良いと?」
海未の問いに、穂乃果はニヤリと唇に笑みを浮かべる。
「ここだよ! 屋上! 屋上でライブをすれば良いんだよ!」
その提案。
全員が「あっ」と何かに閃いた呟きを見せた。
「広いからお客さんもたくさん入る! 外まで歌声を響かせればもっと集まってくれる! それに屋上はわたし達がいつも練習に使ってた場所! 変に緊張しなくても済むし、講堂じゃ規制されてる装飾品も自由に取り付けられるじゃん!」
「た、確かに……っ」
感心するように花陽が頷く。
「しかもそのライブをビデオ動画に収めてPVとしてネットに挙げれば、わたし達μ'sのアピールと同時に、音ノ木坂学院の屋上という校舎アピールも狙えます! 例えばPV動画で歌が始まる前に、校舎全体を歩き回って最後に屋上に辿り着く、なんて演出もアリですっ!」
「でしょ!? これぞまさに一石二鳥! わたし達は学院祭本番でのライブ場所が確保できるし、PV動画じゃ学校の紹介もさりげなく演出できる! これ以上に素晴らしい段取るはないよ! どうだい美雪ちゃん! 海未ちゃん!」
ドッパーン!!
……なんてど派手な大津波の背景が見えそうなドヤ顔&決めポーズを見せる穂乃果に、海未は度肝を抜かれた様子で「ま、まさか穂乃果がそこまで考えて」などと言っている。
穂乃果が何かしらの議題について、発案を言い出すことは稀ではない。
しかしその発案はいつも無鉄砲で、確証も保険もない、猛者が盾も持たずに敵軍へと突っ込む行為と似たものを感じさせていた。
しかし、今度ばかりは理由がある。
機会と機会の接合を果たしたこの提案は、白玉を転がした時点で隔たっている壁を打ち壊す、大きな潮時ともなる。
全員が、良いのではないかと肯定した。
いつも練習していて思い入れのある場所、というフレーズに満足しているようでもあった。
「それじゃ、学院祭本番でのμ'sのライブは、屋上にしましょう!」
絵里の最終的な発言で、全てが取り決められた。
こうして俺達、アイドル研究部は無事に活動場所を発見できた。
青い鳥を探しに出掛け、帰ってきたら元から飼育していた鳥が青かった、なんて童話と少し似ている。
これで万事解決。
皆がそう思っているだろう。
だが、俺には――。
これにこそ、まさに完全たる確証や保険――いや、そもそも『信頼』という言葉が欠けている時点で、俺も強く主張できずにいたのだが……。
三週間後の学院祭当日。
その日はこの街に――雨が降る。
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これは、昨夜の話だ。
つまり俺と竜三、それと柊蒼太郎の三人で出前のピザを頼み、そこから会話の流れで音ノ木愚音隊、次世代型メンタルウェポンなんて言葉が飛び交っていた時の話だ。
「――その前に、今は目の前に提起された問題に取りかかった方が良い」
俺の最後の質問を切り、柊はそう提案してきた。
竜三は安堵するでも溜息を吐くでもなく、それに従うように彼を見る。
「……つまりなンだ?」
「僕らの敵は誰か、ってことさ。敵の正体が掴めないまま暗闇の中に紛れたって、どの方面に行けばいいのかもどの方面から襲われるのかも分からない」
「……あァ?」
今さら何を言っているのだと。
それについては散々、今まで話題に上がってきていただろうが。
「だから、音ノ木愚音隊――」
「いや、敵は音ノ木愚音隊じゃない」
ピシャリと、絶対の確信を持つように言い切ったのは竜三だった。
「……じゃあ何だ? おいおい――まさかとは思うが、メンタルウェポンなンざ所持しているその根本部分にまで敵意を剥いている訳じゃねェよな。悪いがマジの暴力団とか国家レベルで監視網を拡散している政府組と戦争する気はねェぞ」
「それは僕達学生の仕事じゃないよ、領分を遥かに超えている。僕達の敵はあくまで音ノ木愚音隊より上へは昇らない。もっと少数派の人間だ」
「遠回りは面倒だ、ハッキリ言え」
柊は俺の顔をジッと見つめる。
その瞳の光は、まるで事の重大さを俺へ享受させるように感じた。
「愚音隊の頂に君臨する、リーダーの梶ヶ谷燐桐。まずは彼に尽きる」
一人。
少人数派の集団で織り成されたメンバーのリーダー。
そいつを代表して柊は言った。
「それと、結城雅人に氷室亞月。また愚音隊で唯一の女と見られる、來栖麗羅。この三人も忘れちゃいけない存在だ。愚音隊の中じゃ最高傑作の逸品、梶ヶ谷の命令にはどこまでも付いていくような奴らだ。例え、さっき見せた暴力団同士の抗争みたいな命の張り合い場にでもな」
「音ノ木愚音隊のメンバー全員が政府組、またが暴力団関係者とパイプを持っているとは考えにくい。裏社会のネットワークは潜まれていてなんぼだからね。本当に信頼できて、簡単に切り捨てても構わない。そんな存在と、そんな目に出会す覚悟を持ち合わせている人間にしか情報網は広げない」
「それが裏の当然なやり方だ。だとすると、暴力団が次世代型メンタルウェポンを渡せる相手は梶ヶ谷を含めた、さっき挙げた四人しかいないだろうな」
「同感だね。正直な意見、愚音隊を構成するその他のメンバーは全員が客寄せパンダに魅せられたカスみたいなものだよ。敵を屠るに手段は選ばないと恐れられる音ノ木愚音隊も、始めに想像していたより案外小さかったってもんさ」
「おい、ちょッと待て……」
議論を構わず続ける二人に、俺は制止の声をかけた。
呆然と呟かれた覇気のない言葉に、二人は違和感を感じ取ってか神妙な顔つきで俺を見返す。
「……どうしたんだい、美雪ちゃん」
「――、……あァ」
そして、先程から聞き慣れもしなければ想像もしたことがない不慣れな世界に、唯一既知であった一つの存在を挙げる。
「來栖、麗羅だと……?」
その名前。
同じ名前。
いや、他にも結城雅人とかどこかで聞き覚えのある響きがあったが、それよりも!!
「どういう……こと、だ……? 同姓同名? いや……だが、來栖麗羅なンて珍しい名前が近い地区に二つもあるはずが……ッ」
呪文を唱え始めたように呟く俺に、竜三が顔を覗き込むように声を掛けてくる。
「おい、美雪」
「ッ……」
「……まさか、聞き覚えがあるのか。來栖麗羅っつぅ名前に」
「……そうか、思えば知っていて当然の話だった」
唐突に、一人で何かに納得した口ぶりで柊が話し出す。
「おい……、どういうことだよ柊蒼太郎」
「水浦くんは知らないだろう、來栖麗羅のことを。外見やその特徴を覚えようと、人の詳細を知るにはそれだけじゃ足りない」
俺は身を乗り出した。
透明ガラスのテーブルに上半身がまんま乗っかるほど。
「く、來栖麗羅ッて、マジで『そいつ』なのか!? 間違いない? お前ならもう調べがついているだろ柊ッ!」
食ってかかる勢いだった。
なぜ自分がここまで熱くなれているのか、それは分からなかった。
「あぁ、そうさ。來栖麗羅は君もよく知る、あの來栖麗羅だ。スクールアイドル、Sexy・Charmに所属していて、君らμ'sと同様に、『ラブライブ!』とか言う全国大会を目指しているあの來栖麗羅だよ」
その事実。
柊蒼太郎という人物が断言するのだから、間違いはない。
『はぁ~、やっぱ悔しいけど綺麗よねぇ、この來栖麗羅ちゃん。同い年なのにフェロモンがまた一段と違うって言うか……くぅ! でもやっぱり悔しいわねっ!!』
『す、凄いパフォーマンスです……。こんな神秘的で美しい魅力は、とても花陽にはありませんよぉ……』
途端、パソコン画面越しながらSexy・Charmの頂を拝み、尊敬と羨望の眼差しを浮かべる二人の友人の姿がフラッシュバックされた。
この、何とも言えない気分。
名前にすることは難しいが、とても良い気分ではないことは確かなのだ。
「…………ははッ」
思わず、笑いが零れる。
PV動画で拝見した、あの赤混じりの紫髪を可憐に振り乱し、贅沢な悩殺ボディをあますことなく全面的に魅せていた、あの美少女。
その顔を思い出し、俺は吐き気すら覚えた。
「……クソッたれが」
身体をイスに戻しながら毒突く。
確かにこれは、絶対に、気持ちの良い高揚ではないのだ。
「……そうだ美雪、少しお前に見せておきたい。このぶんだとどうやら柊蒼太郎の奴は何故だか、なにもかも知っているみたいだしな」
「あ……?」
そう言い、竜三は再びスマホを手も持ってはそれを起動させる。
動作した画面は竜三の声によって、音声認識機能か何かで検索画面へと移行した。
「検索、三週間後の日曜日の天気」
スマホを口元に翳し、そう呟く。
それは俺でも知っていた。
現代のタブレット端末などは、人の声を音声認識機能で読み取り、それ通りのページや動画、検索画像などを探し当ててくれる。
だが――。
三週間後の天気だと?
そんな自然現象を、コンピュータが正確に予測できる訳が……。
しかし、竜三は続けてタブレットに囁いた。
「ウィズ――『UAI』」
その言葉で、全てが変わる。
スマホ画面の中が、液晶画質を通り越した何かに移り変わる――まるで銀河が流れる大宇宙のような……。
『Ultimate Artificial Intelligence――起動を確認します――音声認証、指紋認証及び顔認証全てにチェック――ファイナルキー解除コード読み取り完了――ログイン――ようこそ水浦竜三様――』
「なッ――」
これには、驚いた。
科学の進歩に別の意味で裏切られた、何重にも――。
また、このような代物がすでに世の中に広まっていることを考え、おぞましくさえ感じた。
スパイ映画に小道具として扱われるような近未来型秘密兵器が、スケールは小さくも現実となって表世界に誕生している。
「驚いてるね美雪ちゃん」
柊が面白そうに笑う。
「どうしてこれを水浦くんが所持しているのか、それはまた後で詳しく聞かせてもらうとして……取り敢えず、解説するよ。これはUltimate Artificial Intelligence――略称は『UAI』と言う、ただのアプリケーションに過ぎない。ただ全世界共通で使われるアプリ専用のお店で見せびらかしになっているような、ただのアプリケーションじゃない。一般人にはインストールもダウンロードも、もはやインターネットでの検索結果にすら正式名称は乗らない厳重守護タイプの新世代アプリだよ」
混乱する頭に柊の言葉が、知識が待ったなしに詰め込まれる。
「詳細は僕も知らないけど、先進国から遠く離れた土地で特別なネット環境を造り上げた研究所や会社が開発した、宇宙規模の科学最前線を走る作品だね。何でも先進国の真上――漆黒の宇宙空間に漂う、出所も何も不明な点が多いと言われる世界最大のコンピュータ、『観測者の見解(Observer Effect)』と呼ばれるものから電波などを交信し、情報やその機能を発展させていく未来型アプリケーションだよ。現代で公表される科学技術から一・二世代は先のお話みたいなもんだけど」
……つまり?
どういうことだろうか。
竜三のスマホ(もはや認証機能だらけのものをスマホと呼んでいいのか?)にインストールされている『UAI』とやらは、またも画面をグニャリと変える。
『三週間後の天気、と訊かれましたね』
流暢な日本語の発音だった。
まるでそこに無機質な機械など存在しない、生の人間の声を聞いていると思えるほど。
それは太い男性の声で。
オペラでも歌わせれば良い感じに仕上がるのではないかとセンスを感じさせる声色の重みがあった。
『First Opinion――「観測者の見解」によりますと、どうやらその日は朝から雨が降るそうです。詳しくは述べられませんが、様々な前線がユーラシア大陸を中心にうねり始めます。しかし、きっとその日だけでしょう、と「観測者の見解」は私に言い聞かせます』
SIRIとかいう機能とはまた違った仕組み。
謎のプログラムで組み立てられているのであろうそのアプリが身近にあることに、俺はようやく肌に悪寒を走らすことができた。
「……その、『観測者の見解』ッつゥ船はどこの国が飛ばしてやがンだ」
「言ったろ美雪ちゃん。『観測者の見解』については僕も詳細は知らない。どこの国もその存在を見て見ぬ振りの黙秘を貫くから、謎が多く生まれているものなんだ」
「裏社会で出回っている、または商売目的に利用されている次世代型メンタルウェポンも、その動作の指示は『観測者の見解』からの伝達を光速単位で受信、指令されているって訳だ」
「……訳分からねェし、とンでもねェ代物だな。少なくとも今している俺達の会話だッて、一般住宅内の平和空間で交わしていいもンでもねェ」
「これはただの物じゃない。感情を必要としない怪物――どんな悪者よりも、どんな人間よりも面倒臭い存在さ」
……と、いうことはだぞ。
理由や互いの確執については俺も知らない。
それは後で当人に詳しく喋らせるとして。
「はッ……こンな神の叡知を授けられた知的兵器を振り回して、梶ヶ谷や來栖麗羅ッて連中が竜三を狙ッているッてか」
「違うね、水浦くんだけじゃない。美雪ちゃんだって、今じゃ立派なターゲットだ」
それは、俺が結城雅人という一人の愚音隊メンバーを撃破してしまった時から、決定づけられていたものなのかもしれない。
さてさて、この作品もファンタジー要素やホラー要素、グロ要素もあれば恋愛要素――と、何か作者もびっくりするぐらい多様な種類のジャンルを出現させてしまっている訳ですが……。
そして今回はSF要素が盛り込まれてきました。
ですが前話の後書きでお知らせしましたように、あくまで『ラブライブ!』の二次創作作品の本作品に、愚音隊編をダラダラと長く続けさせるつもりはございません。
二次創作作品がオリジナル作品へと移り変わってしまう可能性があるからですね(要望などがあればまた別ですが……)。
しかしどの要素にも、結局は腐っても『ラブライブ!』二次創作作品――歌やアイドル、舞踊といった様々なものが関係してくる結果に繋がるのです。
作者も、そこら辺はきっちり考えていますm(_ _)m
オリジナル展開、オリジナルキャラが多く存在するこの作品――。
しかし『ラブライブ!』の要素も盛り沢山に、完結へと結び留めることに尽力いたします!!
なかなか自分勝手で破天荒なストーリー展開を今まで読み続けてくれた読者様達には、改めて深い感謝を――。
また次話からも、『笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…』をよろしくお願いいたしますっ!!
……あ、そろそろ卒業試験だ(泣)