笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 前回の朝練の続きです!

 どうか読んでみてください!




9話 朝練2

 一通り、音楽プレイヤーに入力されていた曲を何巡かして繰り返し聴いた後、俺はイヤホンを外して深い息を吐いた。

 

 ――やはり、凄い。

 

 音楽室で感じたあれは錯覚などではなかった。

 

 一人一人が上手く音程の取れた、アイドルらしい、女子高生に相応しい可愛らしく響いた歌声は耳奥に残る。

 

 やはり、歌のレベルは高かった。

 

 上手いだけじゃない。

 

 高坂の元気はつらつとした声や。

 羞恥の中に紛れた精一杯さが感じられる小泉の歌声や。

 他よりずば抜けて大人の雰囲気を感じさせる絢瀬と東條の歌声が。

 

 それぞれの個性がしっかりと滲み出ているのが感じられた。初めて聴いた曲なのに、どのパートにどいつの声が入っているのかというのがはっきりと聴き分けられた。

 

 μ'sのメンバー全員。

 歌唱力は抜群と言えるだろう。

 

 そう。

 

 歌唱力『は』――。

 

「花陽! もっと大きくステップ踏んで!」

「は、はい!」

「ことり! あなたはそこで絵里と入れ替わるんです!」

「ぴゃい!?」

「にこ! 振り付けが全然違います!」

「にこぉ!? そんなはずは――」

 

 いつの間にかラジカセの音楽は止まり、声を出しながらテンポを手拍子で合わせていた園田は指摘の声を絶え間なく上げていた。

 

 耳にイヤホンをはめながらも、俺は先程からあいつらのダンスを見てはいるが――。

 

「穂乃果! 一人だけ動きが大袈裟すぎます! 前列の凛に合わせてください!」

「あ、あれ!? 次、どっちだっけ――」

「希! 今の間奏は腕を広げて閉じて、また広げるんです! 先程と同じミスを繰り返していますよ!」

「は、はい!」

「真姫! もうへばっているのですか!? 動きがツーテンポは遅れていますよ!」

「そ、そんな訳ないでしょ!?」

 

 ――酷い。

 

 何だこれは。

 八人の呼吸のリズムがまったく重なり合っていない。

 土の上でフェロモンを運ぶ蟻の行列の方がよっぽど息が合っているぞ。

 

「はいそこまで! 一旦休憩です!」

 

 見かねたのか、園田がそう言うと同時に八人が地べたに座り込む。

 

 だが体力があり余っているのか、星空と絢瀬の二人は全員分のタオルと飲料水をクーラーボックスから取り出している。

 園田は一人で立った状態のまま、手に抱えたノートにひたすら何かを書き込んでいる様子だった。

 

「あぁ~、何でこう上手くいかないんだろ~」

「何でもかんでも上手く事が進んでもうたら人生つまらんよ、穂乃果ちゃん」

「そうかもしれないけどさ~………………、」

「ん? どうしたん? そんなジッと見つめて」

「いやさ、希ちゃん……何かダンス中にすごく揺れてたな~と思って」

「揺れて…………あぁ、胸の事? ははは、確かになぁ。これ結構踊ってる時に邪魔になるんよ。ほんま胸小さい人が羨ま――って分かった、堪忍や、そんな睨まんといてな穂乃果ちゃん」

「じ~」

「じ~」

「じ~」

「うわ!? 何なん凛ちゃんににこっちも! そ、そんな見つめんといて……」

 

「ことり、新作の衣装の方はどう? にこと花陽にレクチャーしながら取り組んでもらってるみたいだけど……」

「全然平気だよ~絵里ちゃん。九人分作るのはさすがに初めての事だけど、楽しい事って案外すぐにできちゃうもんだしね」

 

「やっぱりわたしはダイエットした方がいいんでしょうか~~~」

「今まで運動をしてこなかったツケですよ。それに無理なダイエットは控えてください。それで花陽が身体を壊しては元も子もないのですから」

 

 スポーツドリンクを乾ききった喉に流し込むと、各々が会話を始める。そんな時、西木野がすたすたと俺の方に歩み寄ってきた。

 

「どう? 結構聴く時間はあったでしょ?」

 

 何だ、その「勉強する時間はたっぷりあったんだから当然テストは良い結果なんだよな」と聴いてくる俺の親父スタイル。

 

「ちゃンと聴いてましたァ」

「気に入った曲とかあったかしら?」

「誰かさんの麗しき歌声」

 

 ビュン、と。

 西木野が突然、被っていたニット帽を俺に放ってくる。だが届く前に空気抵抗で緩やかに落下していく所を、俺がキャッチした。

 

「何してンだよ」

「何でもないわよ!」

 

 彼女は俺の手元からニット帽をひったくると、隣のスペースにドスンと座る。

 

「で? 何か良い曲あったの? と言ってもほんの数曲しか入ってないけど」

 

 結局その質問か。つい今、俺が答えたろうに。

 

「だから、お前の『愛してるばんざい』だッて」

「……え?」

 

 キョトンと。

 また少し拍子抜けたような顔をする西木野に、俺は続けて言う。

 

「何だよ、俺が嘘言ッてるとでも思ッたのかよ?」

「え……あ、いや、その……でも他に曲はあったでしょ? あたし達九人で歌ってる歌が……。そっちの方が――」

「まァどれもレベル高かッたな。女子高生らしい歌声だし、それにしちゃハイレベルかもッて印象も受けた。どの歌もな」

 

 けど、と俺は西木野の目を正面から見ながら、お世辞を言っていると誤解されない姿勢で言う。

 

「俺は西木野のソロの歌、結構気に入ッたぜ? お前の言う通り、もしかしたら聞き惚れたかもしれん」

 

 いや、それは今に限った事じゃない。

 

 もしかしたら俺は、すでに。

 昨日の音楽室で。

 ピアノを伴奏しながら可憐に歌う彼女のこの歌に聞き惚れ、心を打たれていたのかもしれない。

 

 素直にそう思える程、この歌に魅力を感じていた。

 

 そこで、俺は気づく。

 

 西木野の俺を見つめる顔がまたも紅潮している事に。

 口を小さく開け、紫がかった双眸が直球に俺の目を捉えていた。

 

 そこへ。

 

「美雪、見ててくれてたかしら? 私達のあのお世辞にも上手いとは言えないダンスの事だけど――」

 

 絢瀬が先頭に東條や矢澤を引き連れてきたと思うと、彼女はタオルで額の汗を拭きながら、俺と西木野を交互に見て肩を竦めた。

 

「あらあら、真姫は随分と美雪と打ち解けてるみたいじゃない?」

「あぁ、今も誰よりも率先して美雪ちゃんの方に歩いて行ったしなぁ」

「ふふ~ん、同級生の花陽と凛に対してもツンデレ力全開なあのマッキーがねぇ……」

 

 そう言って三年組はいたずらに笑う。何だこいつら、一年の西木野を集団で虐めて楽しんでるのか? 最低な奴らだな。

 

 して、当の西木野は、

 

「ホントね…………最初はちょっとかっこいいけど怖いってイメージしかなかったのに……」

 

 そう、小声で呟いていた。

 絢瀬達には聞き取れなかったようだが、隣に座る俺の耳には辛うじて音の波が届いていた。

 

 怖いというイメージしか、なかった。

 その過去形には、何か意味があるのだろうか。

 

 けどほんと、西木野の歌唱力は最高級レベルだろう。

 

 これで西木野総合病院の跡取りとかじゃなかったら、俺ももう少しこいつを良い目で見られたんだがな――。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 一〇分の休憩時間が過ぎ、ダンスレッスンは再び再開された。

 今度は絢瀬の手拍子に合わせてリズムを合わせる体勢を取ってから、ラジカセを鳴らし、九人が揃えて踊る。

 

 それでもやはり、タイミングが掴めていない様子だった。

 おろおろと周りを見回す奴や、一人だけ明らか異なったステップを踏む奴もいる。相手と手をタッチし合う場面でその相手がいないという状況もつくられていた。

 

 そんな時だった。

 

「――きゃっ!」

 

 ステップの際に脚を絡ませた小泉が勢い良く転倒した。全員が踊りを中断して彼女の元に駆け寄り、俺はラジカセの音楽を止めた。

 

「かよちん大丈夫!?」

「花陽、ちょっと見せてください――あぁ、やはり、擦り剥いていますね。少量ですが出血しています」

 

 園田の報告に、全員がショックを受けたような声を出した。

 最も衝撃を受けた様子を見せたのは星空だった。

 

「かよち――――――――ん!!!!」

「だ、大丈夫! 大丈夫だから凛ちゃん泣き止んで!」

 

 思わず涙ぐむ星空を、怪我をしたはずの小泉が慰めている。

 

 その光景を見て、

 

 

 俺は即座に動いた。

 

 

 自分のエナメルバックからタオルを取り出し、それをペットボトルの天然水で十分に塗らす。

 エナメルバックを持ったまま、俺は彼女達の元へ歩いていった。

 

「どけ、園田」

「よ、夜伽ノさん!? あなた何を――」

 

 構わず、俺は園田の隣に膝を立てて座り込む。

 

「染みると思うが、我慢しろよ小泉」

 

 そう告知し、俺は小泉の返事も待たないまま、彼女の擦り剥いたという右膝の傷口の上でタオルを絞った。まずは絞り出る水で傷口を洗浄する必要があったからだ。

 

 三回ほどタオルを絞り、傷口に水を流させた後、エナメルバックから家から用意してきた救急箱を取り出し、そこから正方形の絆創膏と包帯、ハサミを取り出す。

 

 タオルの乾いている面で傷周辺の水分を吸い取り、絆創膏を傷口に当てる。

 そこからは包帯だけだった。

 

「おい園田、ここで切れ」

「……え?」

 

 適当な長さ分の包帯を伸ばして俺は園田にハサミを促すが、どうも彼女の反応が鈍い。

 

「切れよ、ハサミだ。さッきまで人のダンスを遅いとか鈍いとか言ッてた奴が何してやがンだ」

 

 その言葉で、

 ようやく園田は動いた。

 

 救急箱に乗っかったハサミを手にすると、俺が両端を支えていた包帯を正確に断ち切る。

 

 あまりきつくしないように、小泉の膝に包帯を巻き付ける。何重か螺旋を描いた後、膝の後ろで包帯の両端を縛ってやった。

 

「さて、こンなモンで平気だろ。いいよな、小泉」

 

 一仕事終えて俺は言うが、なぜか小泉は何も答えない。それ程までに深刻な怪我でもないだろうにと思っていると、なぜか周りの八人までもが黙りこくって俺を凝視してきた。

 

 ――あれ。

 俺、何かやらかした?

 

 そんな訳ないだろう。怪我の処置をしてやっただけだ。運動部のマネージャーだって記録係の他にも、選手の体調管理や応急処置ぐらいするはずなんだ。

 

 そう、考えていると……。

 

「美雪ちゃんすご――――い!!!!」

 

 耳を劈くような賛美が俺を襲った。

 

 高坂の声に続き、他の奴らも褒め称えるような言葉を言いながら拍手してきた。

 

「やるわね、美雪」

「正直、これには驚いたわ……」

「処置の正確さがプロ並みやったやん」

「確かに凄いわ……まさか、救急箱まで用意してきたなんて……」

 

 三年組と西木野に続き、

 

「すごい! すごいよ美雪ちゃん! 見直しちゃった! ねぇ穂乃果ちゃん!」

「うんうん! やっぱり美雪ちゃんがμ'sのマネージャーになってくれた事は間違いじゃなかったよ!!」

 

 と、南と高坂までもが言っている。

 

「美雪ちゃーーーーーーーーーん!!!!」

「どわッ――!?」

 

 突然。

 まるで飼い猫が主人の帰りに飛びかかっていくように、星空の奴が声を上げながら俺へと抱きついて来た。

 

「ありがと! ありがと美雪ちゃん! かよちんを……かよちんを助けてくれてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「お、大袈裟だろお前! ッておいこら泣くな! 鼻水垂らしてンじゃねェ!!」

 

 羽交い締めのレベルで俺を離さない星空を強引に引き剥がすと、

 

「み、美雪ちゃん!」

 

 小泉が俺を呼んだ。控えめに、だが強調された声色で。

 

「その……あ、ありがとうございました!!」

「あ、あァ……まァ、俺マネージャーだし……」

        

 ……え、これ普通じゃねぇの。これってマネージャーの仕事じゃねぇの?

 

 けど、まぁ。

 余計な事をしたって雰囲気でもねぇし。

 

 それに。

 ここまで誠意の籠もった礼を言われたのは貴重だが、悪い気分じゃないしな、多分。

 

 だが――。

 俺を取り囲むようにして口々に賞讃の声を送る彼女達の輪から、少し外れた所で。

 

 どうにも複雑そうな表情を浮かべた園田の姿を、俺は見逃さなかった。

 

 




 どうやら次話も朝練回になりそうですね……。

 次で朝練回は最後にしたいと思うので、皆さんどうか付き合ってください!


 ……そろそろ美雪ちゃんの男らしい性格について説明させてみても良いかなとおもうんだけど、原因とか――どしよ。

 

   感想や指摘、質問をよろしくお願いします!

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