笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

112 / 138



 最近まったく良いことないな~、と思う西海。

 いや、別に悪いことがあった訳でもないんですが……。


 ふぅむ……。






97話 対峙

 

 

 

 学院祭当日まで二週間を切った。

 もはやその前日に開催される体育祭の練習など眼中にない様子で放課後の特訓に取り組むメンバーの様は、テニス界で言われるどこぞの熱血男もびっくりなくらいではないかと思える程だ。

 

「美雪ちゃん! 何とか衣装の方は大丈夫そうだよ!」

「すまないことり、お前一人に負荷をかけすぎた」

「ううん、ことりは平気。にこちゃんや花陽ちゃんもお手伝いしてくれたから、凄く助かったんだ」

 

 衣装の問題は何とかなるそうだった。

 新曲披露の決定で期間内に仕上がるかどうか曖昧な所だったが、そこはさすが、南ことりということか。

 

「……よし、ンじゃ全員の賛同を得られたということで、新曲の歌詞はこれでいく。早速真姫の曲に合わせて今日からでも練習だ」

 

 俺がそう告げると、メンバー全員が志気に満ちた眼差しで頷く。

 普段ならおちゃらけて議題を進ませない問題因子の希や凛も、ここ最近では悪ふざけの一つも目立っていない。

 

「何とか……間に合って良かったですね、美雪」

「あァ。しかし疲れる……慣れないモンをやるッてのはどうも――」

「ふふっ、……しかし私一人ではさすがに骨が折れていましたよ。感謝しています」

「何だ、今さら……」

 

 歌詞も完成した。

 穂乃果の意見通り、真姫が奏でる曲に合わせてステージの初発に披露すれば盛り上がるもの、という題も遂行できる歌になったと思う。

 

「だがやはり、ただでさえ完成度がままならない踊りの中にいきなり歌を混ぜ込むには無理があッたか」

「いえ、このくらいのハード練習が丁度良い――むしろこれ以下のペースには落とせないわ。何より時間がない。多少無理をしてでも練習を積み重ねないと」

 

 絵里によるダンスの指導は手厳しかった。

 

 焦燥の気持ちからくるのか、だがそれはメンバー全員が同じだった。

 指導者存在としては頼みの綱である絵里が引っ張る中、メンバー達も現状の危機感を覚え、意地になるように研鑽を積んだ。

 

 助っ人の存在もありがたかった。

 穂乃果のクラスメイトであると聞いた三人組の女子生徒三人の中に混じり、俺は本番当日に使用する屋上用ステージの設計図創作に取りかかっていた。

 

 と言ってもこの作業はほぼ女子生徒三人を中心に終えてしまい、今は実際に舞台の設計に精を出している。

 

 その現状が、学院祭当日まで一週間と半分を切った頃だ。

 やはりまだ、遅れている。

 

「あ! そうだ!」

「?」

 

 その日の放課後。

 部室の隣に設けられた更衣室で全員の着替えが終わると、穂乃果が急に立ち上がっては皆の注目を集める。

 

「? どうしたのですか穂乃果?」

「穂乃果ちゃん?」

 

 同級生二人が怪訝に眉を寄せると、解答を省き穂乃果はバッ、と両腕を広げる。

 続けて肘を曲げて胸の前で腕を小さく回しながら、素早く小刻みにステップを踏み、仕上げと言わんばかりに大きくジャンプしながら両手を高く天井掲げた。

 

 俺含め九人が不思議そうに彼女の行動を見つめる中、着地した穂乃果は自信ありげな笑顔をつくる。

 

「どうかな!? この振り付け、昨日徹夜で考えたんだ!」

 

 途端、彼女と向き合うたった九人の中でどよめきの波が起きる。

 

「ちょっ……ま、まさか振り付け変えるつもり!?」

「そ、それはちょっと……」

「い、いくらなんでも……にゃ」

 

 一年生三人組……じゃない、花陽と凛、そしてにこが驚愕と不安そうな表情を浮かべる。

 他のメンバーも何か言いたそうだったが、あまりの唐突で非現実的な発言に、開いた口が塞がらない様子でいた。

 

「思いついた時、これだーっ! って感じたんだ! うん、絶対こっちの方がいけるよ!」

 

 あたかも目の前のメンバーの顔が見れていないかのように、穂乃果はガッツポーズまで決めて話を進める。

 

「え、エリち……」

「え、えぇ……さすがにこれは、」

「意味分かんない、どうしてこのタイミングで……」

 

 万能解決屋の希でさえ、穂乃果の意見に後退りさせられるようだった。

 今までベンチに腰掛け指で髪を弄くり回していた真姫も、たまらず立ち上がる。

 

「もう本番は目の前なのよ? 未だに練習じゃ一度もミスなしで踊れたこともない新曲に、さらなる障害を持ってきてどうすんのよ」

「でも絶対にこっちの方が盛り上がるし、踊ってる私達もテンション上がらない!?」

「上がんないわよ……」

 

 ボソリと呟いたが、穂乃果には聞こえていないようだった。

 すると、俺と希に挟まれて立っていた絵里が一歩前に踏み出す。

 

「穂乃果? 真姫が言ったように、当日まで時間がないの。『ラブライブ!』の本大会出場をかけた予選順位も三位と窮地に立たされている……そんな私達にミスは許されない。このタイミングでいきなり振り付けの変更なんてされたら……」

「だから練習するんだよ! 今すぐ!」

「っ……」

 

 それだけで、絵里は押し黙ってしまう。

 強引だが決して悪巧みや悪意はない表情の穂乃果の一生懸命な意見に、真っ向からの反論が出てこない。

 

「はぁ……」

 

 呆れるように海未が深い溜息を吐いた。

 一〇年以上に幼馴染みの相変わらずの暴論には、すでに慣れてしまっているのだろう。

 

「ことり……何か言ってあげてください」

「こ、ことりは……良いんじゃないかなぁ、って思うけど……」

「だよね! だよね!」

 

 もはや穂乃果は賛成意見しか聞いていない。

 苦笑いを浮かべ、曖昧で遠慮がちに賛同することり一人の意見で、穂乃果はすがすがしいくらい颯爽と行動に移る。

 

「それじゃ、そうと決まれば練習だーっ! みんな行くぞーっ!」

「あ、ちょっと穂乃果!?」

「何だかいつも以上に元気だにゃー穂乃果ちゃん」

「な、何か良いことあったのかな……?」

「まったくぅー。会った時から思ってたけど、ほんといつも強引な人なんだから」

 

 メンバーは口々に言いながら、穂乃果の後に続くように更衣室を出て行く。

 今日もこれからか練習が始まる――穂乃果の提案により、さらなる辛苦を増す激烈な猛特訓が。

 

 やはり、なんだかんだ部員全員は、高坂穂乃果の後に付いて行っている。

 そして穂乃果は、マネージャーである俺に了承も得ないまま行動をする奴だ。

 

 悪い言うつもりではない。

 ただ、言われるがままそれに付いていこうとする彼女達は――。

 

「はんっ、これじゃまるで私達は金魚のふ――」

「にこっち、それ以上の言葉はアイドルとしてアカンなぁ」

 

 立ち止まったまま更衣室に居残った、俺を含めた三年生四人組。

 フガフガと暴れるにこの口元を押さえながら、希は俺と絵里に視線を向けた。

 

「どうなるんやろか、これ?」

「正直、無謀すぎるわ。そんな慌ててパフォーマンスの内容にさらなる磨きをかけなきゃいけないものでもないし……」

 

 絵里が人指し指の腹を額に押し付けながら言うと、解放されて空気を吸い込んだにこは参ったように腰を曲げる。

 

「穂乃果の奴……いったい何を考えてんのよ」

「いや、考えてへんのかもなぁ。あの子は無鉄砲のまま行き当たりばったりで、とにかく行ける所まで突き進むような純粋っ子やから」

「なによそれ? つまり子供じゃない」

「美雪、あなたはどう思う? 穂乃果の提案について」

 

 絵里が俺に訊く。

 

 確かに無謀な挑戦だと言えるだろう。

 筋も通っていないし、成功の見込みの保証もバックとして対策される保険もない。

 

 そこら辺を穂乃果は考えていなかった。

 そして俺も深く考えてみれば、たった一人の自分勝手な部員の意見に、マネージャーの立場から反対意見を口にすることもできたのだ。

 

 だが。

 もう、すでに――。

 

 

「まァ、当の本人があそこまでやる気なンだ。気の済むまでやらせておけ」

 

 

 俺の中では、注目すべき『優先順位』というものが覆ることはなかった。

 

 マネージャーの地位でありながら、μ'sに気が向いていなかったのだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 考えるのは、昨夜のこと。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 夜。

 敷地外へと石畳が伸びる道。

 

 鳥居へと辿り着く前に、殺伐とした枝や鬱蒼とした葉に隠れる細道があった。

 

 石組みの階段となっているその道を登ると、頭上をドーム状に覆う樹木の太枝や葉で、月明かりすらなくなり辺りが完全な闇と化した。

 

 この道を通るのは三度目だが、やはり足下に注意を向けなければ靴底は簡単に石段を滑る。

 おまけに一段一段の幅が極端に狭いので、踏み外したら後方に仰け反り頭から転落する危険もあった。

 

 しかし、そんな道も乗り越えればご褒美がある。

 トンネルの出口に似た場所を頭を屈めながら抜けると、まず目に入るのがやや斜め向きに傾く夏の星空だった。

 

 そこは一つの展望台。

 人が二、三人程度しか立っていられない敷地面積も、一人分の景色は絶景を独り占めできる。

 

 都心の明かりが見下ろせた。

 この夜空には、以前訪れた時には満開の花火が咲き誇っていたのだ。

 

 

 そこは、夏祭りに夕霧靜霞と一緒に花火を見上げた場所。

 

 

 鉄棒のフェンスに両腕を置いて膝を曲げ、持参した無糖の缶コーヒーのプルタブを開ける。

 

「……寒いな」

 

 地球温暖化の影響だか何だか知らないが、まだ九月の中旬ならば残暑の頃だ。

 太陽が引っ込んだ夜の時間帯だから、少し風が冷たく感じるのか。

 

 さて、俺はなぜこの場所に来たのか。

 それは俺にも分からない。

 

 なぜ、わざわざ外出しようと思ったのか。

 なぜ、この場所を選んだのか。

 

 黒のパーカーを羽織ってスラックスに脚を通し、靴紐はいつも以上にきつく締めている。

 

 缶コーヒー分の小銭だけを持参していて、財布も携帯も持ってきていない。

 遠征を終えて久々に帰宅した親父にも何も言わず、ただ気分が赴くままに靴を履いていた。

 

「……ン」

 

 視力は良い方だ。

 視力検査では毎度のように二・〇を記録し、夜景の景色でも俺の瞳には色が冴え渡っていた。

 

 ここからだと、音ノ木坂学院が見える。

 初めて気づいた発見だった。

 

「母校、か……」

 

 改めて思うが、俺は今まで、母校に何かを残したいだとか、母校のために何か力になりたいなんて思うことは一度もない。

 

 校内に宣伝用の新聞が張り巡らされていたが、廃校の知らせを知ったのも、個人的な説教で理事長室に呼ばれた時に初めて耳にした。

 

 だが正直、廃校だからどうした――廃校を阻止するために俺ができることはなんだ――そんな考えを視野に入れたことは微塵としてなかった。

 

 高坂穂乃果とは違って。

 絢瀬絵里とは違って。

 

 音ノ木坂学院で良い思い出を作ろうとも思わなかったし、今まで体育祭や学院祭などの行事ごとも必要ないと参加してこなかった。

 

 唯一参加した学校行事である修学旅行も、あまり楽しいものではなかった。

 

 音ノ木坂学院が好きではなかった。

 

 あの高校なら……という後悔があった訳ではない。

 きっとどこの学校に入学しても同じようなものだったろう。

 

 たまに、思うのだ。

 そんな俺が――。

 

「よく、μ'sにいられるな」

 

 μ'sは高坂穂乃果を中心に、学院の廃校を阻止するために形成されたグループだ。

 歴史や伝統があろうと時代の流れに勝てず、三年後に迫る学校統廃合の危機に瀕している母校を『救済』しようという目的で集められたメンバー。

 

 アイドル活動で学校の名前を世に広め、入学希望者を増やそうという計画。

 今ではμ'sは音ノ木坂学院の看板を背負って活動する、学院主役のグループとなっている。

 

 注目は浴びているだろう。

 東京都の地区ブロックでは、全国的に有名なA-RISEとも二位差に迫る程の躍進を見せた。

 

 すでに音ノ木坂学院という名前は東京都はもちろん、少なくとも関東全域には知れ渡っていることだろう。

 

 廃校の決定案が取り下げられた訳ではないが、それでも――。

 

「学校を、救済……」

 

 都心の夜景を目の前に呟く。

 コーヒーを仰ぐように大きく飲んだ。

 

「ラブライブ出場を叶えられればさらなる注目を集め、廃校の案件は撤廃される」

 

 それに、『ラブライブ!』の出場は、いずれはプロの道を歩もうとする矢澤にこにとっても好条件だろう。

 小泉花陽にとっても、今まで鑑賞側に徹したいただけの存在を抜け出し、憧れのステージに自分が立てた栄光を味わえる絶好の機会だ。

 

 それら含め、全員に目的意識が存在する。

 スクールアイドルとして活動する上での、明確とした目的が。

 

 なら――。

 

「俺は……?」

 

 たまに、考える。

 考えざるをえなくなる。

 

 

 こんな俺は、どうしてμ'sにいるのか――と。

 

 

 

「お悩みの様子だな、夜伽ノ美雪」

 

 

 

 男の声は、すぐ隣からだった。

 気配すら砂漠に落ちた針を見つけると同じくらい難解だったのではないか――あまりにも唐突な存在に、俺は教室で友人に話しかけられた時と同じような無防備を纏って視線を右隣に向けた。

 

「ッ……!?」

 

 動揺を必死に隠した。

 驚愕に両眼を見開いたが、身体の方は反応しないよう――いや、硬直したように動かなかったのか。

 

 俺とデザインの似た、赤いパーカーに黒のズボン。

 フードを深くまで被り横顔も見えないが、俺と同じような体勢でフェンスに身を寄せ、その手には微糖の文字がある缶コーヒーが握られている。

 

「…………誰だ」

 

 いつ現れた。

 茂みを掻き分ける音やわずかな足音も――聞こえなかったならまだしも、お互いの肩が触れてしまいそうな距離になるまで気配を感じないのは明らかに異常だ。

 

 それは、以前に俺が出会った(?)謎に包まれる黒髪の少女のようで。

 しかし彼女ほど非現実的な味は帯びておらず、一人の人間の匂いに安心さえした。

 

「知ってるはずだぜ、俺のことは。何度も水浦竜三や柊蒼太郎との話題に登場していたはずだろう?」

 

 低く圧される声に相手を嘲笑するような軽快さが混じるも、決して馬鹿なお調子者のそれではない。

 

「そうだな……お前が爽快なほど血みどろに撃破してくれた結城雅人の上司――とでも言えば分かるか?」

 

 そのヒントに、俺はようやく現状を把握できた。

 やっと、お互いの距離感にどれほど濃密な危険度が漂っているのかを嗅ぎ取れた。

 

「ッ――!」

 

 普段の俺なら、真っ直ぐ立ち向かっていたかもしれない。

 だが相手は近代的な科学兵器を入手している人物だと理解できた――無知は罪とはよく言うが、この状況にはぴったりな言葉だった。

 

「チッ……!」

 

 踵を返して走り出す。

 狭すぎる敷地面積の中で俊敏に地面を蹴り、ドーム状に覆われる茂みの道へと逃げようとした。

 

 

 直後、屈めた脳天に鈍い痛みが振り落とされ、硬質な強化ガラスに物体が突っ込んだような音が鳴り響いた。

 

 

「ぐッ――!?」

 

 気づけば地面に転げている俺が仰向けに夜空を見上げていた。

 前頭葉の部分に痛みがズシリと重く残り、何が起きたかを把握できないまま素早く立ち上がる。

 

 何だ、今のは……?

 何かに衝突したような――。

 

「次世代型メンタルウェポン。お前も知ってんだろう?」

 

 背後からの挑発的な声。

 振り返ると、パーカーのポケットに両手を突っ込んだ男がこちらに身体ごと向けて立っている。

 

 すでに頭にフードは被さっていなかった。

 金髪のオールバックと、両耳に大きな輪型のイヤリングに首には何重ものネックレス。

 

 

「梶ヶ谷、燐桐……ッ」

「だがなるほど……ド派手に転けたとは言え、確かに写真とは違って実物はオーラが違うな」

 

 

 その男は、俺が……俺達が最も危険人物としてマークしていた存在。

 俺達が早々にぶっ潰してやろうとターゲットしていた存在。

 

 俺の親友に危害を加える、完全な敵となる悪しき存在。

 

 会ったら聞きたいことは山ほどあった。

 だが予想だにしていなかった急な展開に未だ頭が混乱していて、うまく言葉が返せない。

 

 それに、梶ヶ谷の背後に浮かぶホログラムシートのような壁の出現にも、説明がつけないでいるのだ。

 

「……尾行していたのか」

「わざわざお前の家の前に張り付いて、いつ出てくるかとあんパンにコーヒーを持ちながら刑事みたいにか? 面倒くせぇ。そんな過程を省いたって、個人の居場所なんて今の俺達には簡単に特定できんだよ」 

 

 そう言い、梶ヶ谷燐桐は右腕を上げ、人指し指を立てて夜の天空を指す。

 

「『観測者の見解』――次世代型メンタルウェポンに搭載された『UAI』による宇宙に浮かぶ知性型船艦との交信で特定人物の照合。顔さえ分かれば自動調査でその人物の経歴や生年月日、現在の居場所なんかも割り出せる。後は『UAI』搭載型の俺の携帯に衛生写真が転送され、場所へ誘導してくれるって訳だ」

 

 事前に竜三や柊から『観測者の見解』や『次世代型メンタルウェポン』の知識を頭に入れていて本当に良かった。

 無知のままであった俺であれば、今頃そんな与太話などと耳を貸さず、ただ無防備のままに突っ込んで行っただろう。

 

 俺は背後を振り向いた。

 展望台へ続いている階段への入り口には、梶ヶ谷の背後にも見られるホログラムシートのような謎の壁が出現していて、鳥居へと続く道と完全に隔たりを作っている。

 

「俺が衝突した壁……? これもメンタルウェポンの一種か」

「その通りだ。保管シートに記録されていた記号名称は忘れたが、確か名前は『電子結界』なんて言うらしいぜ。細かい説明は省くが、この『電子結界』は俺とお前を取り込む形で、この展望台を正方形に囲っている」

 

 言う通りだった。

 見回せば梶ヶ谷の背後だけではない、左右の空間にもホログラムシートの壁が不自然に浮かび上がっている。

 

「俺達は結界の中に立っているから『電子結界』の表面色が見て取れるが、結界を外から見ると周囲の景色に同化した色しか目視できない。外部からの接触、通信といった干渉は不可能だが、傍から見る限りでは俺とお前が『普通に』突っ立っているだけにしか見えないだろうよ。もちろん、『電子結界』が展開されている中じゃ、俺達も外部に干渉できないってことだがな」

 

 つまり簡単に言えば梶ヶ谷は、「お前はこの場所から逃げることはできない」と言っているのか。

 

「この次世代型メンタルウェポンの『電子結界』っつぅのは、元は『度の過ぎたファンの奇行からアイドルを守るため』とか『大統領の移送車をスナイパーから守るため』っつぅ防御壁に使用されていたみたいだが……まぁ人工知能の勉強次第で移動したり体積を変えたりすることができる便利な防御膜なんざ、そりゃ戦争なんかにも使われるわな。ま、無線とかの連絡手段がいっさい断たれるって箇所が玉に瑕だが」

 

 つまりこの場において、俺は携帯電話といった遠距離用通話手段で竜三や柊に援助を求めることも不可能とされた。

 

 梶ヶ谷と一対一でやり合っても別に構わないのだが、相手がまだ何かしらのメンタルウェポンを装備しているとしたら――そう考えると怖くなるのだ。

 

 この『電子結界』の中、特に気温や気圧といったものに変化は感じられないが、外部からの音や風の感触が完全にシャットアウトされてる。

 

 相手が隠し持つメンタルウェポンにだって、どんな性能が備わっているか分かったものではない。

 

「チッ……だがどッちにしろ、いよいよ腹ァ括らなきゃいけないッてことか」

「あ? ……あぁいやいや、違う違う!」

 

 俺が一人で覚悟を決めていると、梶ヶ谷は一瞬呆けるように口を開けたが、すぐに笑いながら夜空を仰ぐ。

 

「別にお前と拳同士の正々堂々とした喧嘩を挑みにきたとか、次世代型メンタルウェポンで『観測者の見解』と連携してお前を一方的に痛ぶり倒してやろうとか……そんな考えで会いに来た訳じゃねえんだよ、夜伽ノ」

「……へェ、そうかい。それを聞いて安心したが――なら俺に何の用だ」

 

 科学兵器として造られた結界の中。

 正真正銘、二人だけの世界で俺達は向かい合う。

 

 梶ヶ谷燐桐。

 以前からの敵であり、ようやく出会えたその男は、確かに戦闘に挑むような体勢は取らないまま、ニヤリと口元だけを歪ませる。

 

 アルファベットが彫られた金の前歯が、不意に俺の背中に冷たい粘液のようなものを感じさせた。

 

 

「まずは、俺達の梶ヶ谷勢力と水浦勢力の『全面抗争』についてだが――」

 

 

 







 ついに夜伽ノ美雪と梶ヶ谷燐桐がご対面!
 音ノ木愚音隊と水浦勢力の激突も近いでしょう!

 そしていよいよ、アニメではファンに衝撃を与えた学院祭も近づいてきました!
 はてさて本作ではどうなることやら……?

 それでは次話もよろしくお願いします!







 

 梶ヶ谷勢力と水浦勢力の全面抗争。
 いったいμ'sの誰が、何人が巻き込まれるんですかねぇ……。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。