九九話です。
本編一〇〇話まであと一話です。
……西海です!
「あと三日……あと三日だーーっ!!」
「今まで文化祭で何かを発表したことがないから……ここまで来ると、けっこう緊張するにゃ~」
放課後。
午後の太陽が煌びやかに輝く真下、屋上の扉を開けて開口一番に穂乃果の溌剌とした声と、いつも以上に覇気が見られない凛の弱音があった。
「何を言おうと弱音を吐こうと、学院祭本番はもう三日後。気合い入れていくわよ」
「まったくー、弱音なんて凛らしくないわね」
「凛ちゃん、わたしだって緊張してるよぉ」
「花陽も、しっかりしてよねぇ。ほらほら! 気分転換に最適なにっこにっこにー!」
「なんか寒くないかにゃー?」
「凛ちゃん、通常運転やね」
練習着に着替えたメンバー達がぞろぞろと続くように屋上へと出る。
最後尾にいた俺は屋上に出てから扉を閉めると、振り返ってすぐに指示を飛ばす。
「ンじゃ、皆さン時間がないことは分かりきッているようなので、早速ストレッチから始めてくださいィ」
はーい、と九人が揃えられた声で返事をする。
ストレッチは二人一組でやるものだ。
確定されたメンバーをつくる訳でもないので、毎日相手はランダムで決められる。
俺の今日の相手は穂乃果だった。
「穂乃果、柔らかくなッたか?」
「絵里ちゃん直々の指導のお陰だよー。最初は全然腰が曲がらなかった凛ちゃんも、絵里ちゃんのきびしい特訓を経験して随分と体幹が柔らかくなってたしねぇ。元バレエ選手って凄い」
股を開いて屋上の床に平行させるように上半身を倒す穂乃果の背中に、俺が身体を乗せる。
そこから上半身を左右へと交互に倒しながら、身体を解していく。
「お前、あれから夜遅くにランニングとかはしてねェよな。熱心さを反映させるのは感心だが、世の中まだまだ物騒だからな」
「分かってるって、平気だよー」
「……その平気ッてのはどの平気だ?」
「うっ……や、やだなぁ美雪ちゃん! ちゃんと言い付けは守ってますよって意味だよ!」
「……なら良いが」
ストレッチを終えると踊りの復習。
新曲のダンスについても一通り形にはなっているので、既存曲も含めて最終確認だけを済ませばいい。
発声練習で喉を解したら、実際に歌を入れながらダンスの確認。
俺が入部したばかりの当初は全員の息なんて全く合っていなかったが、今ではメンバー同士を少し理解し始めたのか、阿吽の呼吸が成果として現れている。
「よし、今日はここまでだな」
部活終了時間のチャイムが鳴り、キリの良いタイミングで俺は合図した。
また軽くストレッチをしてから、首にかけたタオルで額の汗を拭くメンバー達と一緒に屋上を出る。
「そういえば皆さん、天気予報は見ましたか?」
階段を降りている最中、ふと海未がそんなことを言った。
「あ、私見たわ。今朝は亜里沙に言われて気づいたんだけど、学院祭当日の日って……」
「降水確率が……」
絵里が反応した後、花陽が不安そうな声でそう言う。
今朝のテレビに限った話ではない。
学院祭当日の天気予報なんて、一週間前から見ることができた。
そしてそれは同時に俺の中で、竜三や柊の言う『観測者の見解』とやらの信憑性を高めるものでもあった。
「え!? 雨降るの!?」
「き、聞いてないにゃーっ!」
「あんた達は天気予報とか見ないからでしょ」
「言いながらにこっち、心の中では『自分も天気予報見てなかったー危なかったー』とか思っとるんやろ?」
「なっ、なんでそれを……って希ぃ!!」
「にこちゃんらしいわね」
「ま、真姫ちゃんまで何よぉ! にこはニュースとかちゃんと見てるわよ! 日々のアイドルニュースには全部目を這わせてあるんだから!」
「さ、さすがですにこちゃん……っ!」
三日後に控えた学院祭当日。
その日は朝から、雨が降る。
そんな話題で練習後、若干落ち込みムードが漂うメンバー達は着替えを済まし、鞄を持って部室を出る。
俺が部室の鍵を職員室に返しに行って下駄箱まで戻ると、すでに全員が靴に履き替えて俺を待っている所だった。
……ふと、改めて感じたが。
誰かが俺を待っている。
放課後の練習を重ね、その光景を繰り返しているうちに、いつしか前までは非日常の出来事であったものがすっかり日常になっているものだと、どこか感慨深く思える。
「あ~あ、今日の夕焼けはこんなに綺麗なのになぁ」
「穂乃果ちゃんの太陽スマイルで雨なんか逸らしちゃえばいいにゃ~」
「おっ、凛ちゃんナイスアイディア! つまりにっこにっこにーだね!」
「あら! 穂乃果も分かるようになってきたじゃない!」
「雪が降るにゃ……みんな傘を用意するにゃ」
「り~~ん~~!? あんたねぇ~~~っ!!」
……そういえば。
ふと耳にしたことなのだが、ここ最近、夕霧靜霞が連日で学校を休んでいるらしい。
聞き耳を立てれば、夕霧靜霞という人物は成績優秀者で学校にもほとんど無欠席で登校していたようだ。
珍しいね、などと話していて廊下ですれ違った同学年の女子生徒はきっと、夕霧靜霞と同クラスなのだろう。
……しかし、そうなのか。
言っちゃ悪いが、もし仮に、俺が夕霧靜霞ならば『出席日数ギリギリを計算してまでも学校を休もうとする』と思うがな。
「まァ、あいつも過去に何かしらがあッたンだろ」
深入りするのはやめよう。
知って後悔することだってあるのだ。
「――き! 美雪!! 聞いているのですか!?」
「うおッ……」
大声が耳元で炸裂した。
顔を顰めながら見ると、俺の隣で少し頬を膨らませた海未が目を細めて俺を睨んでいる。
「……何だよ」
「何だよではありません、人の話はちゃんと聞いていてください!」
「あァ、悪かッたよ。ンで、用件は?」
「早く帰りましょう?」
「それだけかよ」
校門を出た所で、全員の帰路はそれぞれに分かれる。
別れの挨拶と手を振りながら、横断歩道を渡る奴や階段を降りていく奴もいる。
「さってと、急がないと……」
呟いたにこが颯爽と一番に駆け出して帰路を急いでいたが、何か用事でもあるのだろうか。
「さ、今日も送りますよ美雪」
「なァんか……海未が俺のお守りをしているような感じが出ているのは気のせいですかねェ?」
言って、俺と海未も並んで歩道の道を歩き始め――。
「待って!」
突如、後方から声が響いた。
反射的に振り向きながら、この声は――と思う。
「……真姫?」
見ると、いつもなら一年生三人組で帰っているはずの真姫が一人残り、校門前から俺達の所までズカズカと歩き迫って来る。
一メートル間隔を残した所で立ち止まり、真姫は鞄を肩に提げて両手を腰に当て、キッとした鋭い目つきでなぜか俺達を威嚇した。
「……いつも、どうして二人で帰ってるのよ」
「……あァ?」
「はい……?」
真姫の圧すような声に、俺も海未もキョトンとする。
ムムム……と拗ねる子供のような表情の真姫はビシッ、と俺達を指さした。
「だから! どうして最近、美雪と海未が一緒に帰ってるのよ!!」
大声に、信号に留まっていたカラスが飛び去っていく。
隣の車道は青信号を通過する車ばかりなので、声に反応して車内からこちらを覗き込む者も、歩行者もいない。
夕焼けの中、校門を出て一分足らずの場所で三人きり。
しばらく沈黙の風が流れた。
「えっと……いけないことなのでしょうか?」
若干、困ったように苦笑いを浮かべる海未が首を傾げながら問いかける。
とりあえず、俺はだんまりを選んだ。
この場でいきなり「海未は俺の監視役だから」なんて言えば完全に頭おかしい奴だ。
そもそも、海未が提案した『監視役』事態が、あまりまともではないのだから。
うぐっ……、と早くも策が尽きたような戸惑いの様子を見せてから、また真姫は口を開く。
「だ、だって海未は家、こっちの方向じゃないじゃない。前までは穂乃果達と一緒に帰ってたのに……どうして最近はいつも美雪と……」
……ふむ。
つまり真姫は、家の方向も違うのに何故か俺と一緒に帰路についている海未に不信感を抱いた、という訳だ。
とりあえず、この場は海未に任せるとしよう。
海未は海未なりの解答を即席で用意するはずだろうし、俺との意見の相違があっては――。
「困るんですよねぇ、こういうの……」
「ッ……?」
……今のは、空耳か?
いや、確かに聞こえたが――。
その声は小さく囁かれるようで、真姫には届いていないだろう。
隣に立っている俺には、渓谷の深い谷間から獣が呻るような、腹の奥底から小さく轟く海未の声が、はっきりと聞き取れた。
それは、いったい何を意味しているのか……?
しかし表情を見れば、海未は一変して柔らかい笑顔を浮かべている。
「何も、不思議なことはありませんよ? 最近は作詞の作業が波に乗っているのです」
「え……?」
「美雪の時間を削ってしまうことは申し訳なく思っていますが、私の我が儘で、短期間集中して一緒に作詞活動に取り組もう、という話にしてもらったのです。何もμ'sのライブは学院祭を最後にする訳ではありませんから、新曲の準備は必要でしょう」
「あ、えっと……」
なるほど、と思わず感心してしまう。
即席の理由にしては、完成までに三分も要するカップラーメンよりも濃厚な味だ。
「な、ならあたしも一緒に――」
「けど真姫は作曲にピアノが必要でしょう? 美雪の家にピアノは置いてありませんよ?」
「っ……」
何を思っているのか。
海未の言葉に真姫は悔しそうに奥歯を噛みしめている様子で、なぜか目元はひしゃげるように皺が寄り、今にも涙が滲んできてもおかしくない表情を浮かべた。
にっこりと。
隣で海未はさらに、優しげな笑みをつくる。
「それでは、ごきげんよう。また明日お会いしましょう、真姫」
「ッ、お、おい……」
「あ……っ」
踵を返しながら海未は俺の腕を掴み、強引に引っ張りながら歩き出した。
俺はこの、よく分からない展開に言葉が出ず、引っ張られながら尻目に立ち尽くす真姫を一瞥することしかできなかった。
……なぜ、西木野真姫は今日になって俺と海未に突っ掛かってきた?
……なぜ、園田海未はあそこまで彼女を強く引き離した?
俺はμ'sのマネージャーである。
まだまだ、メンバーに関して知識が足りていないようだと実感した。
そして、また。
尻目にチラと見えた――歩き去る俺達を立ち尽くして呆然と見送った、悲愴に眉を寄せて暗い瞳を映す真姫の表情に、一瞬足が竦んだのも事実だった。
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「これからはあれかな? 美雪ちゃんの身体のどこかにGPSでも取り付けて二四時間三六五日深夜営業も頑張りますのコンビニスタイルで君を見張ってないと駄目なのかな?」
「なるほど美雪、警察に電話だ。ストーカーの犯罪予告で逮捕させてやる」
「はいはい黙れ黙れ」
住宅街の道で海未と別れて家に入ると、すでに合い鍵を使ってお邪魔していた竜三と柊の顔を見た。
最後の徴集から数日ほどしか経過していないが、俺を見る二人の瞳には若干の焦り、緊張といった色が浮かび上がっている。
それもそのはずだろう。
テレビを点けながらの夕食時、俺は『あの日の話』を二人に告白したのだ。
「でも竜三くん、あの梶ヶ谷燐桐と二人で密会だよ? これはもう浮気だよ浮気。他の男と僕の知らない場所で秘密の会話を交わすなんて全く何を考えて――」
「お前が一番落ち着けよ、危険人物と美雪が二人きりになった話に驚いたのは俺も同じだ。どうして梶ヶ谷は俺ではなく、美雪の方に出向いたんだ?」
「さァな。まァ何はともあれ怪我もなく帰ッてこれたンだ、問題ないだろ」
「美雪ちゃんってば危機感がなさすぎだよ。相手がどんな次世代型メンタルウェポンを所持しているのか分からないのに。先進国の科学力は君が想像している以上に進化している。大人が胸ポケットに煙草の箱を携帯するように、街中を歩く女の子が密かにナプキンを付けているように、現代の裏社会で売買されているメンタルウェポンっていうのも『そういった方面に関わる人間』ならば誰でも持ち歩くことは簡単なんだ。拳銃を腰のホルダーに装備する警察官とは違って、外見からじゃ正体も分からない場合が多いんだよ」
テーブルを囲みながら三人、手料理では最も手順が簡略化され、短時間で出来上がった鍋の具材を箸でつつく。
長いこと解説するように俺に説教をかます柊も、竜三が狙って箸を伸ばした先の肉をひょいと横取りしては素早く口へと放り込み、味わうように頬張った。
「……てめぇ」
「野生動物には同族でありながら、子供の成長のために餌の奪い合いが勃発する場合もあるんだよ。結局のところ野生動物も人も、生きていく上での争いは避けられないってことさ。あぁ無情……」
「なぁに悟ったようなことを言いながら次から次へと俺の具材に手ぇ付けてやがんだあっ!?」
「はァ……餓鬼が」
向かい合う二人がギャーギャーワーワー喚くので、俺も鍋への食欲がいったん切れ、箸を皿の上に置く。
チラと横を見れば、親父が奮発(と言う程でもないかもしれないが)して購入した新品の画面広すぎテレビの画面で、女性ニュースキャスターが喋っている。
『いよいよ来月に控えました日本オリンピック。一九××年以来、六〇年ぶりに日本を開催地とした世界競技大会を目前に街は……それに日本だけでなく海外でも大いなる盛り上がりっぷりを見せてくれています!』
……そういえば、今年は日本でオリンピックが開催される年だったな。
七年前にこのことが決定されてから、スタジアム建設の日程・費用やアメリカとの経済問題で混乱もあったが、何とか間に合ったみたいだ。
『そしてビッグニュース! 日本開催のオリンピックに伴い、なんとイギリス王室・ライアン8世の第二王女様が近日、日本へ訪問するとの報告が入りました! これは急なニュースですが同じく、イギリス王室の方でも急遽なスケジュールが組まれていた模様でありますが、日本政府機関もおもてなし精神を全面的にアップして出迎えたいとの会見がありました! しかしこれには米軍基地不参加の意の基、テロ対策本部を中心に防衛装備の展開が見られて――――』
……へぇ、イギリス王室・ライアン8世の第二王女が日本訪問か。
俺達が音ノ木愚音隊やら暴力団関係者が牛耳る『UAI』との抗争を考えている時期に、国も国でなかなか面倒な役割を担っているらしい。
北朝鮮での相次ぐ核実験とか、ドイツのヒトラー政策反対授業から生まれた独立派デモとか、イスラームにある自称独立国のテロ組織による自爆テロとか……。
聞いていると、音ノ木愚音隊というたかが一つのヤンキー集団に歯向かおうとしている俺達が小さく見えてくる。
ましてや、この混沌とした世の中で『スクールアイドル』なんてものにうつつを抜かしているμ'sや全国のアイドルグループ達が滑稽に思えてくるものだ。
国は国。
俺には俺の世界がある。
そう割り切ってしまえば楽なのだろう。
だが、割り切った結果が絶対に善良の方向へ向かわれるとは限らない。
「難しい話だ……確かに、無情な世の中だな」
政治なんてものに今まで興味はなかったが――。
もし仮に、親父さんを見習って柊蒼太郎が弁護士になったとしたら。
法律や政治に多く触れられる環境下で、柊もそのようになってしまうのか。
「美雪ちゃん?」
「ッ……」
呆然としたままでいたらしい。
柊に軽く呼びかけられただけで、両肩がわずかにピクンと跳ねる。
「それで、梶ヶ谷燐桐に日時指定をされたんだよね?」
「あ、あァ……その話題か」
「? 初めからその話題だぞ」
「……あァ、そうだッたな」
気づけば、まだ鍋の具材は残っているものの、二人も箸を置いていた。
自前のハンカチで口元を拭きながら、柊は言う。
俺も思考を切り替えた。
「結局、敵が明確に判明している以上、相手としても僕達と同じ考え――早々に決着をつけていざこざをなくしたいと考えている訳だよ。だからといって話し合いでの穏和な解決法には繋がらない」
「そうだ。さッきも話したが、梶ヶ谷が指定してきた日時はまだ少し先のことだ。確かに指定の日時に合わせてコンディションを整え、互いに万全な状態で全面抗争を迎えても良い。……だが、それは向こうの都合だ」
俺は言って、竜三を見る。
柊も考えは同じで、横目を向けた。
元々の話、『音ノ木愚音隊vs水浦勢力』の抗争は『梶ヶ谷燐桐vs水浦竜三』の延長線という話だ。
喧嘩の核は目の前にいる。
俺達は、そいつに意見を委ねるのみ。
竜三は俺と柊、交互に顔を見合わせる。
そして――。
「……戦争だ。戦略の方針決定権は俺達にもある」
つまり、それは条約の反故。
いや、何も世界戦争の国策を練っている訳でもないのだ。
もともと、こちらに約束を守らなければならない義務も、相手にそれを罰する権利も存在しない。
これは喧嘩という枠に収まる戦争。
科学の最前線を走る近代型兵器がそこに投入されるだけの単純な話。
「それじゃ、僕の方からも一つの『策』を……」
そう言い、柊が普段は持ち歩いていない大きめのバックから取り出したのは、少し厚みのある広い茶封筒。
よく教員が定期考査の試験プリントを入れているようなものに似ている。
取り出し、鍋をよけて机の真ん中に広げたのは、茶封筒のサイズと一致しないL版サイズに印刷された数枚の写真。
それを見た竜三は何とも思わない様子でいたが、さすがに俺は眉を寄せ、不快感すら味わった。
「多分の可能性だけど、この写真は『UAI』搭載型の次世代型メンタルウェポンよりも大いに役に立つ商品さ。まぁ、同時に『暴走』の可能性にも繋がる代物だけどね」
……さて。
準備は整えられた。
竜三の秘密を暴き、音ノ木愚音隊の存在を知ってから長かった。
ようやくここまで来た。
もう少しで目的を達成できる。
「……話はまとまッたな」
「あぁ」
「と、いう訳で……」
ガタッ! と。
音を立てて急に立ち上がった柊は猛烈のスピードで箸を掴み取り――。
「鍋だーーーっ! やっとゆっくり食べられる!!」
「てめぇ柊いい加減にしやがれ! たらふく食ったてめえは豆腐でも弄ってろ!」
「君こそ豆腐で箸の使い方を練習した方が良いんじゃないかなっ!? 美雪ちゃんの愛汁がある鍋は全部僕のものだっ!!」
「お前鍋を自分の方に寄せたのは策略かごらあっ!! 食べ物の恨みで抗争当日はどさくさに紛れててめぇもぶん殴ってやるっ!! つか鍋よこせっっ!!」
「……ッたく、マジでこの、餓鬼が――」
緊張感は一気に解かれた。
もはや鍋抗争の場と化したリビングで、恵まれた日本で食材の奪い合いをする愚かな二人に溜息を吐きつつ、俺も箸を取り直しては立ち上がる。
「おいごらテメェらァ!! 鍋ッてのは材料集めの一から作ッた本人が一番食ッて良い権利があンだよっ! 身体で鍋覆ッてねェでこッちに寄越しやがれェ!!」
……まぁ今日くらいなら、巫山戯てたって構わないだろう。
友人達(?)とこんなくだらないことで戯れるのも、本当に久しぶりな感覚だった。
九九話です。
次で、本編ストーリー一〇〇話です。
その前に、ASを展開させる可能性もなきにしもあらず。。。??
それでは次話もよろしくお願いします!