笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

118 / 138



 始まりました、第九章です!
 確かに最近の更新速度が速いのはいかに西海が暇なのかということを表していますね!

 それでは、第九章もよろしくお願いします!






第九章
102話 新たな幕開けがあるとしたら、きっと――


 

 

 

 

 陸軍、海軍、空軍、海兵隊の4つの軍を傘下に収めるアメリカ合衆国の国防総省。

 本拠地である国防総省庁舎、通称ペンタゴンでは、数ヶ月と続く世間には公表できないニュースに忙しく人が往来していた。

 

「やはり警戒の態勢は厳しくしておくべきだ! 第五・第六艦隊を日本列島各所に配置は済んでいるにしても、我々合衆国側にも警護を固めていなければ無意味だろう!」

 

 海軍長官の言うことは最もだろう。

 

 相手の正体も分からない。

 どこの国籍出身なのかも明確ではない相手に無闇に仕返しはできないし、どの方角から攻めてくるかも分からないのでせめて防護体勢だけは整えておこうと。

 

「どうせ北朝鮮に決まっている! 我々がこの状況下でさらに警備を硬質な体勢にしてみろ! 一部の地域の国民には臆病者だと言われ、相手国には自信まで付けさせてしまう!!」

 

 もはや将軍は敬意を払うことさえ忘れていた。

 そしてやはり世の中には存在するのだ――自分の力を過信し、敵側を恐れているとは悟られまいと意地になって見栄を張った現状を保ち、簡単な対策をも練ろうとは思わない人間が。

 

 国防総省庁舎では数ヶ月前から似たような談話が土に埋もれることなく続いていた。

 今日もペンタゴンの地下施設――様々な電子機器をケーブルやらインターネットで繋がれた回線の窓口が至る所に設置され、四方八方にデータ管理のモニター画面が映されているような場所で、議題が取り上げられている。

 

「国防総省のネットワークにまでアクセスしてきた……敵は間違いなく腕の立つプロだぞ! 一般家庭の地下に作られた『秘密基地』でキーボードを弄り回す餓鬼がハッキングできる時代は終わった! 『UAI』や『次世代型メンタルウェポン』を意のままに操る『観測者の見解』――これらが全て物を言う科学時代だ! そんな宇宙の知識型戦艦を乗っ取れるような危険人物だぞ、相手は! 同じ先進国に他ならない……全力で対策を講じるべきだ!!」

「仮にっ!!」

 

 息を切らせながら興奮状態で話し続ける海軍長官の言葉の直後、楕円形テーブルの端の椅子に深く腰掛けるアメリカの国防長官は声を荒げた。

 

「テロ予告通り、ホワイトハウスが占拠されたとしよう……あの絶対的要塞の壁が砕かれるとも思ってはいないが、仮に警護が破られたとしよう。それで……どうなる? 相手が北朝鮮だとしたら、まずホワイトハウスの中で何をする? ただ爆発を起こして外壁を破壊しただけではダメージはないぞ」

 

 ホワイトハウスの占拠。

 それはつまり、アメリカ合衆国という一つの国家が乗っ取られたものと同質の意味だ。

 

 約四ヶ月前に送られたテロ組織による犯行予告。

 大統領暗殺でも、国防長官の誘拐でもない――ただ、『白い家』の占拠とだけ送られた一通のメール。

 

 日時も指定されていなかった。

 何も起こらないまま四ヶ月が経過した。

 

 しかし、その予告はただの悪戯では済まされない話だ。

 メールの発信所――それは他でもない、宇宙最大の人工コンピュータである『観測者の見解』からだったのだ。

 

 まず、人工知能が故意としてそのような文通を送る訳もない。

 なら、何者かによった犯行――つまりハッキングでしかないのだ。

 

『観測者の見解』のハッキングなど、そんな前例は一度として耳にしたことがない。

 そもそも宇宙に浮遊する知識型船艦の存在も、世界中の一部の人間しか知り得ないことなのだから。

 

「各国の首脳達を集めて会談すべきです! 相手はどこかの国に間違いないのだ! ロシアか? 中国か? 北朝鮮か!?」

「『観測者の見解』の製造データベースは南アフリカの広大な更地――イギリスの貧民街より何もない場所だ」

「だから何だと言うのだ? 南アフリカの人間達の犯行だとでも?」

「差別するつもりはないが、南アフリカの力では無理だろう。……もう一つの保管場所に北極があっただろう。氷の真下何キロメートル地点だった?」

「まずデータベースを操るのは不可能じゃないか! そんな行動が見られたらまず第一に我々合衆国がいち早く反応できるはずだ! 合衆国の情報網を舐めているのか!?」

 

 もはや、誰が何を喋っているのかも分からない。

 日本の国会でも見られる話だが、ただ闇雲に個人が自分の意見だけを無理強いにして主張した所で、何の解決にもならない。

 

「第五艦隊や空軍陸軍の兵器で警護した所で何の意味がある? 相手は次世代型メンタルウェポンを所持しているのだぞ! 対策チームが必要だ……『UAI』行使班の部署はどこだっ!?」

「ホワイトハウスを占拠されれば、まず第一歩に『ウロボロス・コード』の解除を迫られるだろう……何としても、大統領夫妻と国防長官だけはお守りしなくては――。世界中から飛来してくる核弾道ミサイルに襲われて国が海の藻屑となってしまう――」

 

 やはり、各国の首脳を集めて会談を開催した方が得策ではないか?

 それをせず、先月の予定にあったはずの地球温暖化サミットの中止を言い渡したアメリカ大統領も、一言で言えばビビっているのだろう。

 

 考えてもみろ、各国の首脳が集まる場で、だ。

 当然、シークレット・サービスを含めた警護班の人間が護衛として何人かお供になる。

 

 その中にテロ組織が混ざり込んでいたら?

 自分から『ウロボロス・コード』を聞き出そうとする輩が堂々と目の前を歩いていたら?

 

 それが原因で、大統領夫妻は今でも自宅とホワイトハウスを行き来し、決して必要外では外出しない。

 

 なら、そんな対策を講じられたテロ組織はどう思うのか?

 

 こう思うだろう。

 

 

『自分達が直接、ホワイトハウスに出向いてやれば良いじゃないか』

 

 

 空軍長官は言う。

 

「先月のローマ法王の言葉を借りよう。『何事も決めつけるべきではありません。真っ先に頭に思い浮かんだことをやるべきではありません。自分で考え、考えて、考えた先の行動を取りなさい。神は見ておられます。どのような宗教団体にも慈善は満ち溢れるもので、善良な心があるのですから。その暖かい心で、考えるべきでしょう』。」

 

 ……。

 だから、どうした?

 

「なぁ考えてみろよ、『観測者の見解』や『UAI』を製造する際、これは世界が歩んできた人智に外れるものだと抗議を出した連中がいたろ? ……こんな場所で話すべきではないと思うが、そういった邪魔者はみんな『消した』、文字通りな。だが、生き残りがいるとしたら? 一時期は悪魔の権化だと言われた『観測者の見解』を強く非難した者達の生き残りが集い、宗教団体みたいな結社を作って俺達アメリカに復讐を企てているとしたら……?」

「……ありえないっ」

 

 空軍長官の考えに、将軍は鼻で笑った。

 

「サラリーマンの大反乱が起こったベトナム戦争じゃあるまいし――。ならば何だ? 『観測者の見解』という最高級ネットワークに故意の介入をしてきたのは先進の国ではなく、一つの宗教団体ということになるのか? この科学の時代で未だに神の慈悲を待ちわびて両膝をつくような奴らに、我らの科学力が屈服したと!?」

 

 続くように国防長官が腕を組みながら目を瞑って口を開く。

 

「確かに考えられない線ではない……だがそれではさらに目的が分からん。単なる宗教団体では国の核ミサイルも発射できんし、現代の科学力に勝る武器を所持している可能性も見込めない――犯人は仮にも『観測者の見解』をハッキングした奴らだからな」

 

 人工知能のハッキング――。

 一昔前の科学力とは違い、可能性のない話では確かにないのだろう。

 

 人間は科学に打ち勝った。

 いずれ人工知能を搭載したロボット達に人間は支配されるだろうと唱えた科学者の意見など、今では誰も耳を貸さなくなった。

 

 だが、そんな時代だからこそ――。

 最前線の科学を駆使する人間が現れれば、それは巨大な脅威となり得る。

 

 国防長官は静かに言った。

 

「『整形型マイクロチップ』の試作品はまだあるか……? あれは特に人体に害を成すものではない。――首脳会談を開くぞ。臆病者の大統領に伝える必要はない」

 

 決して、それは自分の力で開発したものではない。

 世界最強の核弾道ミサイルの開発に携わらなかった北朝鮮の大統領や政治家達が、その開発品を見て両手を上げている光景と似ている。

 

 我が国の科学力はどの国よりも劣ってはいない。

 そう考える各国の首脳達は、時には自信満々の表情で敵地に飛び込んでしまうこともあるのではないか?

 

 まるで今のように。

 拳銃一つも携帯しない、完全な丸腰で――。

 

 

 

 そんな談話を耳にしながら、集団の外れでデスク作業をしている女社員がいた。

 長い金髪を後ろで丁寧に結い、キリッとしたスーツ姿に眼鏡をかけた双眸はまるで知的に見える。

 

 しかし、彼女が見ているパソコン画面には、仕事内容とは全く関係のない動画が流れていた。

 

「ん? ……おい、サラ。何だよその動画、何を見てるんだ?」

 

 隣のデスクで作業をしていた同僚の男社員が彼女のパソコン画面を覗き、興味ありげに聞いてくる。

 

 サラと呼ばれた女社員は眼鏡を外し、無意識のまま長時間見過ぎていたのか、解すように目元を揉む。

 

「日本でネットに挙げられている動画よ。なんか、これに私の娘が妙にハマり込んじゃってね。確か、『スクールアイドル』、なんて言ったわ」

「スクールアイドル……学校の中のアイドルってことか? はっはは! お気楽だねぇ、日本って国は。世界に混乱が渦巻いている現代の世の中に、全く危機感を抱いていないみたいだ」

「まぁ、こんな新しい娯楽があるから社会の痛い部分を見なくて済む――いえ、そんな面から目を背けることはできるんでしょうけど――」

「でも、なかなか可愛い子達が揃ってるな。今踊ってる子達は、なんていうメンバーなんだい? 僕も家に帰ったら見てみたい」

 

 そう言われ、サラは眼鏡を掛け直して画面を見る。

 メンバーの名前は、説明欄に大きく記載されていた。

 

「ふぅん、面白い名前ね――『μ's』って言うらしいわよ。神話に出てくる女神様の名前ね」

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 大きめのサイズをしたスーツ姿の水戸部春偵。

 ロングコートを着込んだ荻原椋穂。

 

 二人の刑事は数ヶ月ぶりに、秋葉原の街を訪れていた。

 今日も街は大勢の人集りが生じ、天候も昨日の大雨がまるで嘘だったかのような快晴となっている。

 

「それにしても水戸部さん、今日も現場に出向かれるんですか。本部で待機だと言われているはずなのに」

「椋穂よ、私の体型を見てみろ……身体を動かさないまま本部の椅子に座っていると、たちまち老後が大変なことになる気がしないか?」

「あ、水戸部さん自分の体型気にしてるんですか?」

「こう見えてもな。……実は昨日、娘に言われた」

「つまり昨日から気になり始めたんですね」

「脂肪が増えるだけで寿命が縮むなど……人間の身体はまったく不便に作られたものだ」

 

 今日の彼ら二人は、とある事件についての現場調査に赴く予定でいた。

 パトカーに乗車して向かえばいいものの、今の話を聞いてなぜ徒歩なのか、荻原椋穂は深く理解する。

 

「でもこれって、かなり時間に遅れませんか? もう鑑識班なんて現場に到着しているっぽいですよ?」

「まず鑑識に現場を調査させるのに、時間がかかるだろう。お邪魔になるより良いじゃないか」

 

 この水戸部春偵。

 事件発生となれば誰よりも早く現場へと向かい、誰よりも詳しく事件の奥底に眠る真実へと迫ろうと躍起になれる人物だ。

 

 今回の事件はどうやら病院の屋上から人が転落したというような内容だが……これはきっと早期に自殺だと判断されるものであろうが、それでも水戸部春偵は認めない。

 

 意地でも事件性を見つけ、犯人逮捕へ向かう男。

 刑事としてはまさに立派な男だ。

 

 だがどうも最近、この水戸部春偵。

 部下の荻原椋穂から見れば彼、何かと『とある一家』について熱心に調査している。

 

 その調査にどんな進展や後退があるのかは分からないが、まるで取り憑かれたかのように、水戸部春偵はその一家について知りたがっている様子なのだ。

 

 それがもう随分と長いこと継続している。

 今、こうして並んで事件現場へと歩いている最中でも、頭の中は『あの家族』のことで頭がいっぱいなのではないか?

 

 ふと、そんな時だ。

 

 

「止まれ、椋穂」

 

 

 進行方向に差し出された太い腕に、荻原椋穂は足を止めた。

 怪訝に見ると、上司の水戸部春偵は険しい表情を浮かべ、ジッと真っ直ぐの方向を見つめている。

 

(なんだ……?)

 

 荻原椋穂も誘われるように、その視線の先に目をやった。

 そして、上司の個人捜査に幾度となく付き合わされた彼も、その存在にいち早く気づく事ができたのだ。

 

 

 

 前方方向から、人混みに紛れてこちらへと歩いてくる一人の少女の存在。

 長く煌めく銀髪に、細く尖った赤い瞳は書類の中で確かに見覚えがあった。

 

 

 

「何という奇遇だよ……」

 

 呆然と、だが若干昂ぶる雰囲気の色を纏わせる声で、水戸部春偵は呟く。

 

 もはや彼の視界の中には、その少女しか映っていなかった。

 立ち並ぶ店やビル、車道を歩く大勢の歩行者など全く見えていなかった。

 

 ただ、その少女だけ。

 それが『少女』だと一目で判別がついたのは、やはりそれは水戸部春偵だからだろう。

 

 長い間、彼女を調べてきた。

 何とも謎の多い彼女の家族について、幾度となく無断調査を続けてきた。

 

 少女は近づいて来る。

 

 荻原椋穂は思わず視線を落とした。

 いや、故意に視線をずらしたのかもしれない。

 

 目の前からゆっくりと、もはや混雑した雑踏を掻き分ける行為もせず、あくまで落ち着いた足取りでこちらに近づいて来る彼女に、きっと『何か』を感じたのだ。

 その『何か』の雰囲気に肌を刺され、背筋に悪寒が走り、身体が緊張に固まってしまうのを感じた。

 

 何せ彼も、その少女を知っているから。

 誰よりも、詳しい事情を知っているから。

 

「…………、」

「っ……」

 

 銀髪の少女。

 

 やや顔を俯かせていた彼女の瞳がギョロッと蠢き、水戸部春偵の視線を捉えた。

 同時に、彼も相手の少女の瞳を黙って見つめ返す。

 

 周囲の雑踏の音が消えた。

 外部から入力される音も、感触も全てが閉鎖される。 

 

 足音が高く鳴り響いている。

 少女が刻む靴底の足音が、コーンコーンと金属を叩くような高音で周囲に鳴り響いている――そんな錯覚を起こした。

 

 じょじょに迫る距離。

 

 銀髪の少女も、水戸部春偵も。

 なぜか一向に、相手の瞳を捉えた視線をずらそうとはしなかった。

 

 そして――。

 

 

 

 銀髪の少女が――。

 水戸部春偵のすぐ隣を……肩が触れるか触れないかの絶妙な感覚で、通り過ぎる。

 

 

 

「……っ、……っ」

 

 途端、世界が元に戻った。

 雑踏の足音や声の騒音も、街から流れるカーニバルの音楽も、五感が全て受け入れる。

 

「……み、水戸部さん?」

 

 荻原椋穂は、熱い息を吐きながら固まる上司に声をかけた。

 しかし、水戸部春偵は動こうとはしない――一ミリたりとも、真っ直ぐ見つめた視線すら微動だにしない。

 

 やがて――。

 

「……やはり、ただ者ではない」

 

 重く、呟いた。

 

 

 

 







 

 さて、以前にも申し上げましたが第九章は「解決編」です。

 音ノ木愚音隊との決着。
 美雪と絵里の確執について。
 南ことりの留学の件。
 美雪と穂乃果の話し合い。
 海未の豹変について――などなど。


 それでは、次話からもよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。