笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 僕の癖ですが、どうも執筆している時に状況描写が長くなってしまうことがあるようです。

「そのシーンはもうアニメで見たから知ってるんだよ」

 という苦情を避ける為、アニメ放送シーンなどの描写はなるべく簡素に努めますので今までの長ったらしい描写をお許しくださいm(_ _)m



 




104話 招いた仕儀

 

 

 

 学院祭の日から四日が経過した。

 音ノ木祭の二日間は振り替えの代休とされ、今日は再び学校が始まった二日目。

 

 連絡を取り合い、放課後の部室に集まったメンバー全員は着替えることも屋上に顔を出すこともなく学校を出て、ある目的地へと向かった。

 

「ねぇ海未、もう穂乃果からはメールとかきてるって、言っていたわよね」

「はい。もう熱も下がって平気な様子でいるようですが、私も実際に会うのはあれから始めてで――」

 

 俺を含めた九人のμ'sメンバーが辿り着いた場所というのは、古風な老舗という雰囲気を醸し出した一軒の和菓子屋――『穂むら』という店だ。

 

「ねぇ、美雪」

「ン? どうした、真姫」

「これ、穂乃果に渡してあげて。リラックスして睡眠を取ることができるピアノ曲を、CDにしたの」

「……土産が食べ物とかじゃなくて自作CDッて、やッぱお前なかなかの変わり者だな」

「な、何よ別に良いじゃないっ!」

 

 そういえば俺は一度だけ、この店を訪れたことがある。

 商品を買いに、という目的ではなく、ただ単に、遊ぼうと穂乃果に誘いを受けたから。

 

 ここ『穂むら』は、高坂穂乃果の実家でもあるのだ。

 

 店に入ると、店番をしていた穂乃果の母親が「いらっしゃいませ」なんて爽やかな笑顔で言うも、俺達の顔ぶれを見た途端、その表情から笑顔が消える。

 

 そうだ。

 

 俺達は今日、決して和菓子を買いに来た訳ではない。

 売り上げの繁盛に貢献してごまをすりに来た訳でもない。

 

「申し訳ありませんでした――」

 

 彼女の親御さんに、謝罪をするため。

 入り口から一番に入った絵里が、頭を下げてそう言った。

 

 店内に客が一人もいなかったことは幸いだろう。

 穂乃果の母親と俺達の間で、妙な空気が確かに漂い始める。

 

「あなた達……」

 

 まずい。

 まだ一回しか会った事もない友人の母親に説教されるほど面倒臭く恥ずかしいものはねぇぞ……。

 

 絵里の背後に立つ俺も、その後ろで待機する他のメンバーも緊張で両肩が上がる。

 

 直後のことだ。

 

「な~に言ってるの! どうせ、またあの子が全部背負い込んだだけのことでしょ?」

 

 ケロッと表情を変えたと思いきや柔軟な笑みを浮かべる穂乃果の母親は、軽やかにそう言う。

 

 俺も、絵里も驚いた様子で顔を上げた。

 

「い、いえ……今回の件では私達全員に責任が……」

「良いのよもう。私だってやめておけって言ったのに、夜遅くにランニングに出掛けるわ、雨の日でも関係ないわで――ほんと、馬鹿な娘なんだから」

 

 ホッ、……と。

 安堵の溜息が背中越しに聞こえる。

 それが誰のものだったかは分からない。

 

 しかし、穂乃果の母親はどうやら俺達に怒りのベクトルを向けている訳でもないようだ。

 それが分かった途端、俺や絵里を押し退けてことりが前に出る。

 

「あ、あの! 穂乃果ちゃんは、今……」

「部屋にいるわよ。一昨日辺りには熱が下がり始めてね、もう今じゃピンピンしてるわよ」

 

 そう言われ、俺達は穂乃果の部屋がある二階へ。

 全員ではどうも部屋には入りきらないだろうと、一年生組の三人は外で待機することになった。

 

「穂乃果!」

「穂乃果ちゃん!」

 

 スライド式のドアを開けると、幼馴染みの海未とことりが我先へと部屋に突入した。

 彼女達の後から続きながら、やはり親友のことは人一倍に心配か……と思う。

 

「絵里……やっぱり、穂乃果にも話すのよね?」

 

 背後で、にこの声がした。

 廊下で俺の後ろを歩く絵里の声も聞こえる。

 

「えぇ、いずれは知ることになるのだから。……でも、ショックは受けてしまうでしょうね」

「仕方ない、ってことね」

 

 俺は振り向かず、穂乃果の部屋に入る。

 まず目に入ったのが、額に熱冷ましシートを貼り付けてベッドに入りながら、パジャマ姿で容器のプリンを食べている彼女の姿だった。

 

「あ、みんな~! 来てくれたんだ!」

「本当だわ、確かにピンピンしてるわね」

「元気そうで何よりやん、風邪は長引けば長引くほど辛いもんやからなぁ」

「そうね。穂乃果、もう体調は平気なの?」

 

 後からぞろぞろと部屋に入ってくるメンバー達に、穂乃果は嬉しそうに瞳を輝かせる――仲間が自分を心配してくれている証拠を見せつけられて、ただ単に喜んでいるだけだろう。

 

「うん! 風邪だからプリン三個食べてもいいって~!」

「……いや、なにその風邪じゃなければプリン三個食べることを許可しますみたいな高坂家の法則」

「だって聞いてよ美雪ちゃん! お母さんったら酷いんだよ! 風邪を引いてる子が無理してプリンやデザートなんて食べたら駄目ですって、穂乃果からお菓子取り上げるんだもん!!」

「…………元気そうで何よりですゥ」

「ほんと……、心配して損したわ」

「全くです……穂乃果、あなたって人は風邪で寝込んでしまっても相変わらず――」

「え、えへへ~……」

 

 けれど確かに、穂乃果はもう平気そうだ。

 声の調子も普通だし、熱の籠もった顔色もしていない。

 

 ただやはり念のためだろう、プリンを食べ終えた彼女は容器を捨て、顎にかけていたマスクを装着した。

 

 そんな穂乃果に、にこがさり気なく病人に目線の高さを合わすようにベッドの脇に座り込む。

 

「それで、足の具合はどうなの?」

 

 と言うのは……。

 

 学院祭ステージの本番。

 一曲目が終了したと同時に力尽きて倒れてしまった穂乃果はその際、右の足首を変な方向に挫き、怪我をしたようだった。

 

 この間見た時は赤く腫れ上がっていたが……。

 

「うん、もう大丈夫だよ。軽く挫いただけで、大きな問題はないってお医者さんが言ってた」

 

 ベッドの毛布から右足を出す穂乃果。

 確かに固定用のギブスと包帯で何重にもぐるぐる巻きにされているが、本人がそう言うのなら平気なのだろう。

 

 ――と、決めつけた結果が学院祭本番なんだよな。

 

「うぅ……良かったぁ……」

「こ、ことりちゃ~ん大袈裟だよぉ。そ、そんな泣かなくても……」

「穂乃果。ことりは今日までメンバーの中でも最も、穂乃果のことを酷く心配していたんですよ」

「あぅう……」

 

 途端、穂乃果の表情がションボリと落ち込む。

 俺達を見回しながら、穂乃果はマスクの内側で口を開いた。

 

「今回は、本当にごめんね……。せっかく、最高のライブになりそうだったのに」

「今さら気にしても、しょうがないやん? 穂乃果ちゃんがまた元気を取り戻してくれた――それだけで、うちらは嬉しいんよ」

「……あァ、そういや穂乃果」

 

 俺は先程渡されたものを、鞄から取り出す。

 何だろうと不思議そうな表情を浮かべる穂乃果の目の前に、一枚のCDディスクが入れられた透明のパッケージを翳した。

 

「真姫が、ピアノでリラックスできる曲を弾いてくれたらしい。それ聴いてゆッくり眠りなさいだとよ」

 

 直後、ベッドを飛び出した穂乃果が窓を開け放ち、外で待機する一年生組に手を振っているのを海未とにこで取り押さえ、またベッドに引き摺り戻すまでの時間は一〇秒もいらなかった。

 

「穂乃果ちゃぁん……無理しちゃ駄目だよ」

「うっ……ご、ごめんねことりちゃん」

 

 落ち着いた穂乃果はティッシュで鼻をかみ、それをゴミ箱に捨てるとまた俺達を見上げた。

 

「ねぇみんな……もう一度、ライブできないかな」

 

 瞬間。

 案の定、全員が固まる。

 

 事前に話し合ってはいた。

 高坂穂乃果という人間ならば、そんなことを言い出しかねない、と。

 

「せっかく学院祭っていうもってこいの機会を、穂乃果のせいで台無しにしちゃったし、曲も途中で終わっちゃったでしょ?」

 

 穂乃果は馬鹿なんです――海未はそう言っていた。

 彼女は、一つの出来事が後の状況をどれだけ大きく左右するか……それを考えないで行動、発言することが多いのだと。

 

「見に来てくれたみんなに埋め合わせするって感じで、さ? 何か、こう……ラブライブ出場までに何かできないかなって……」

 

 こうなった状況は予想していた。

 故に、俺達は部室で話し合いをしてきたのだ。

 

 メンバー全員との決定案。

 そこに、リーダーの存在はなかったが……。

 

「穂乃果」

 

 絵里が一歩、穂乃果のベッドに近づく。

 どうも神妙なその顔つきに、穂乃果はまた不思議そうに首を傾げた。

 

 絵里には、嫌な役割を押し付けてしまった。

 マネージャーである俺から言ってやるとも提案したのだが、そこはなぜか、絵里が譲らなかったのだ。

 

 そして――。

 

 

「ラブライブには、出場しません」

 

 

 俺達が招いた結果を、彼女は告げる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ごめんなさい夜伽ノさん……私がちゃんと見張って言い付けておけば、こんなことには――」

「そんなことない。当事者の妹だからッて、責任を感じる必要なンてねェよ」

「思うんですよ。今まで無理をしていたお姉ちゃんのすぐ近くにいた私が、もっと気を張っていればって……お姉ちゃん、勉強とかには全くやる気を見せない癖に、ハマりこんだ物事に対しては無理をすることだって惜しまない性格だから」

「まァ確かに穂乃果はそンな奴だ。だが今回の件についちゃ、自分の実力も弁えずに無理をしたあいつも悪いが、それに気づけなかッた俺達メンバーにも責任はある」

 

 そこは『穂むら』の二階――穂乃果の自室の隣に位置する、妹の高坂雪穂の部屋だ。

 

 初対面がいきなり傷の舐めあいのような展開になってしまったことは申し訳なく思うが、何の罪のない妹にまで負い目を被せる訳にもいかなかった。

 

「それに、俺はμ'sのマネージャーだ」

「あ……」

「俺が、真ッ先に気づくべきだッたンだ。少し声をかけてやるぐらいでも、良かッたのにな」

「夜伽ノさん……」

 

 ……いいや。

 実際、俺は穂乃果に警告はした。

 

 夜中のランニングはやめておけと。

 確かに俺は世の中物騒だからという説明を付け足していたが――その忠告を無視し、穂乃果は雨の中、ランニングへと飛び出した。

 

 ……なぜ、そこまで?

 今までのライブ通り、いつも通り、変わったことなんて何もしなくてもよかったはずだった。

 

「……なァ、高坂妹」

「は、はいっ」

「穂乃果の、学院祭前の様子はどうだッた? 家族の、お前から見て」

「え……?」

 

 きっと、何かあったはずなのだ。

 

 高坂穂乃果がそこまで無理をした理由。

 大雨の中のランニングなど、翌日に甲子園大会決勝を控える高校球児も、特に何のスポーツもしない小学生でも行わない。

 

 はっきり言えば、馬鹿のすることだ。

 全く海未の言う通りだった。

 

 高坂穂乃果――あいつはそこまでの馬鹿だったのか?

 いくら定期考査で赤点を取る頭でも、雨の中を走り回る行為が発熱の原因になることすら分からないほど、脳味噌が働いていなかったとでも言うのか?

 

 ライブを成功させたい。

 その思いがあれば、あのような行為には至らなかった訳だが――。

 

「……すみません夜伽ノさん。やっぱり、私には分かりませんでした」

「…………そうか」

 

 その時、扉の向こうの廊下から、俺を呼ぶ声がした。

 どうやらメンバーはそろそろ帰るらしい。

 

「ッと、俺も行くわ。邪魔したな……」

「いえいえ、とんでもありませんっ。お邪魔だったなんてそんな、むしろお話しできて嬉しかったです!」

 

 俺が立ち上がりながら言うと、高坂雪穂は両手を胸の前で振りながら、少し顔を赤らめて言う。

 

「……妹の方が、よッぽどできている感じだな」

「へ?」

「何でもねェよ、それじゃ――」

 

 いざ、部屋を出ようと――。

 その時だった。

 

「あ! 夜伽ノさん!」

「うおッ……な、何だよ」

「あ……す、すみません大声出して……」

「いや、構わない。……で、どうした」

 

 言うと、高坂雪穂は右手で考え込むように頭を押さえる。

 

「そういえば、お姉ちゃんらしくない行動が最近あったんですよね……と言うのはお姉ちゃん、普段は漫画しか読まない癖に、なぜか急に小説を読み始めたんです。えっと、確か題名は――――」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 その日の夜。

 南ことりは、未だに吹っ切れていないような悲しげな表情で荷造りを始めていた。

 

 部屋には輸送用の段ボール。

 家具や洋服、幼馴染みにプレゼントされた一生の宝物などが仕舞われた箱がいくつも、部屋にあった。

 

「穂乃果ちゃん達には、ちゃんと話したの?」

 

 音ノ木坂学院の理事長――南ことりの母親は、確認を取るようにそう訊く。

 

 南ことりは、今日も頷けずにいた。

 まだ、勇気を出すことができずにいた。

 

「明日……、話す……」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 そしてその、翌日。

 校内の廊下の壁という壁に、これまでにない程のビッグニュースが張り出されていることに気づくのは、あと数時間、先の話だろう。

 

 

 

 

 

『音ノ木坂学院

   来年度入学者受付募集のお知らせ』

 

 

 

 

 

 







 さて、作者の自分からするとようやくここまで来たか、という感じです。


 次話からもよろしくお願いします!



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