笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 あ~、ここの場面は書くの辛いですねやっぱり(^^;
 もうあれですね、つらたんですよ。







107話 突然の、哀しき事実

 

 

 

 

「こら誰だぁ!! 勝手にアルパカ小屋に飾り付けした奴はぁ! あ!? アルパカにこんなふざけたパーティーグッズまで装飾しやがってぇ!!」

 

 音ノ木坂学院では血気盛んな教員として有名な女教師が、カラフル装飾のクリスマスライトで豪華に飾り付けられたアルパカ小屋の前で怒鳴り散らしているのが、校舎の窓からよく見えた。

 

 とりあえず無視を決め込んだ俺は窓から離れ、見事にパーティー仕様に彩られたアイドル研究部の更衣室を見渡しながら、入り口の扉付近のパイプ椅子に腰掛ける。

 隣では炭酸水が注がれた紙コップを手に持つ絵里が、同じようにパイプ椅子に座っていた。

 

「この飾り付け、一年生組やにこと穂乃果がやってくれたみたいよ」

「あいつら、こういうの好きそうだしな」

「えぇ、可愛らしくて良いんだけどね……」

「そうだな、後片付けは多分、俺らの仕事になる」

 

 更衣室の教室はクラス教室や部室よりも全体面積が広く、黒板も他より大きければ使用頻度も少ないので元から小綺麗な状態を保っていられている。

 

 教室の中央にはビニールシートが敷かれた床に四角いテーブルが置かれ、その上には(誰が作ったんだ?)サンドイッチや唐揚げ、ポテトサラダやたこ焼き、焼きそばなどの料理が彩り緑に展開されている。

 開封済みのジャンクフードや炭酸水、お茶のペットボトルなども用意され、壁や天井、黒板に飾り付けられた装飾品にも学生ならではの味が出ていた。

 

「高校生っていうのは、何かのお祝い事があるといつもこうしてパーティーを開くのかしら?」

「さァな、今までそンな友達なンざいなかッたからよく分からン」

「あら奇遇ね、私もよ」

「ン? お前は一年の頃から希と知り合いだろ?」

「ほら、希も希で友達同士のやり取りっていうのには不慣れな感じだったから。前に二人で市民プールに遊びに行った時なんて――」

 

 俺と絵里が会話を弾ませていると、料理が彩られるテーブルを囲んだ一年生組と穂乃果が拍手をし出し、『☆学校存続☆』とカラーチョークで描かれた黒板の前に、パーティーグッズの帽子を被ったにこが立ち上がった。

 

「にっこにっこにー! みんな、グラスは持ったかなー!」

 

 満面の笑顔で馴染みのポーズを取りながらにこが紙コップを掲げると、メンバー達も同じようにカップを持って「イェーイ!」なんてはっちゃけている。

 

「にこ、これはグラスではなくて紙コ――」

「いや、多分それはにこも理解しているだろ」

「あら、そう……? さすがにこね」

 

 ……おっと、どうやら真姫もこんな状況には不慣れなのか、やや緊張した様子でカップを持ち上げ、隣の凛を真似るように小さく声を出している。

 そうだな、どちらかと言えば真姫も俺達の側だ。

 

「隣よろしいですか、美雪」

「ン? あァ――」

 

 訊かれた俺は促すと、絵里とは反対側の右隣にパイプ椅子を広げて、海未は紙コップを片手に腰掛けた。

 

「いいのか、テーブルの方じゃなくて」

「床に座るとどうしても正座になってしまって――自宅での食事時では常に正座ですので、今日くらいはこちらで良いかと」

「あァ、なるほど」

 

 ちょうど。

 時計の針がきっかり、午後の五時を指し示した。

 

「それでは学校存続を祝うパーティーということで! 部長のにこにーから一言、ご挨拶とさせていただきます!」

 

 ――と、言うのは。

 

 今日に行われている、放課後の部室に集まって練習着に着替えるでもなく、屋上にでる訳でもなく制服姿で更衣室に集まり、教室を全体的に装飾してしまうまでの行事。

 

 さっきも言ったが、いわゆるパーティーだ。

 黒板にも描かれているように『祝・学校存続』――μ'sの活躍で学校が注目され、廃校から救済できたそのお祝いにパーッとやろうではないか、という訳だ。

 

「思えばこのμ'sが結成され早数ヶ月――それまでにこはたった一人でこの部室で苦労に苦労を重ね、それが報われた今がこの……」

 

 かんぱーい!! と。

 にこの祝辞をスルーするかのように掲げられた紙コップに俺や絵里、海未も参加し、「ぬわぁんでよ!」と慌てて自分も参加するにこの姿に全員が笑った。

 

「にこちゃん、早く食べないとなくなっちゃうよー!」

「んん! このサンドイッチ美味しいにゃーっ!」

「卑しん坊ねぇ……。それにそのサンドイッチはにこが作ったんだから、美味しいのは当然でしょ! ほらほら真姫ちゃんも! 遠慮しないで食べなさいよ!」

「あ、ありがと……」

「あれ!? 穂乃果あんまり野菜は食べないのに、このサラダは美味しい!」

「だからにこのお手製って言ってるでしょー。この宇宙ナンバーワンアイドルの手料理を食べられるなんて、あんたらそれこそ宇宙ナンバーワンの幸せ者よ!」

 

 ビニールシートの床に座るメンバー達がさっそく騒々しくテーブルの食べ物を取り合い、美味い美味いと料理を頬張っている。

 男の前では清楚な態度を見せた所で、同性同士の集まりでは品性に欠けた食いつきっぷりを披露する女の絵はこれか、と俺は頷いた。

 

「はいこれ、美雪と海未の分よ」

「あ、すみません絵里。自分で取りに行けたのに――」

「良いのよ、今日くらいは堅苦しいものはなし。ほら、美雪」

「おう、サンキュ」

 

 調理室の食器はさすがに勝手に持ち出せないので、これも学生ならではの食べ方か、それぞれの料理を盛り付けた柔らかい紙製の皿を絵里が差し出してくれる。

 

 それを受け取り、俺も海未もサンドイッチを手に取った。

 

「――美味しいです、野菜もシャキシャキしていて新鮮味がありますね」

「にこの奴、やッぱ家庭的なレベルが高いンだな」

「……あら、この唐揚げは冷凍食品だわ」

「まァ、そこはそンな感じになるだろ」

 

 すると、急に床から立ち上がった花陽は教室の隅に向かい、何やらコンセントに刺さるコード近くで何かを持ち上げ――。

 

 おい、誰だ部室に炊飯器持ち込んだ奴。

 

「みんなぁぁぁ!!」

 

 まぁ、一人しかいないわな。

 今日くらいは良いだろう、という気分にもなる。

 

「ご飯炊けたよぉぉぉぉ!!」

「「待ってました!」」

 

 花陽の合図に穂乃果と凛が同時に箸と茶碗を構えて立ち上がる。

 ……いやあれ絶対に業務用の炊飯器だろ、ちゃんと許可もらったの?

 

「この焼きそば、真姫ちゃんが手伝ってくれたのよね~。今日はどうしちゃったのかな? いつも小生意気な真姫ちゃんがにこにーを手伝ってくれるなんて?」

「こ、小生意気って何よ! 今日手伝ってあげたのだって、本当にただの気分なんだから!」

「へぇ~? それってどんな気分にこ?」

「なっ……う、うるさいわねぇ! 別に何だっていいでしょーっ!?」

 

 にこと真姫も相変わらずの様子だ。

 一時期は不仲説も俺の中にあったのだが、多分、あれはまた違った形の何かなのだろう。

 

「美雪」

「ン?」

 

 使い捨てプラスチックのフォークを皿に置いた海未が、隣で二個目のサンドイッチに手をかける俺に声をかけてくる。

 

 どうした? と。

 振り向きながら言おうとしたが、海未の、俺へと向ける柔らかい笑顔になぜか言葉が喉につっかえた。

 

「μ'sに入って、良かったでしょう?」

「……?」

 

 不意な言葉に、俺は思わず眉を潜める。

 俺の左隣で絵里がこちらに視線を向けたのには気づいた。

 

「どうした、急に」

「いえ……何だかこの光景を見ていて、ふと思ったんです」

 

 目の前で活発に喋り、よく食べ、よく笑い会うメンバー達に視線をやりながら、海未は言う。

 何かを深く思い、嬉しさや悔いのない感情が映る瞳が綺麗だと思えた。

 

「最初はたったの三人だけで……後からじょじょにメンバーが増えていって、今の九人に。この景色は、私にとっては奇蹟なんです。人見知りの性格を直せないまま、ずっと穂乃果とことりの背中を追っていくしかないと思っていた私の高校生活が、こんなにも華やかなものになるなんて――。あの時、スクールアイドルをやろうと穂乃果に誘われていて、本当に良かったと思っているんです」

 

 一片の曇りも悔いもない声と表情に、思わず俺は視線を外し、前方ではしゃぎ回るメンバー達を見た。

 

 全員が、楽しそうだ。

 みんなが、嬉しそうだ。

 

 学校を廃校の問題から救えたこと。

 こうして、共に廃校の危機を解決した仲間達と喜びを分かち合えることに。

 

 やはり、海未もそうだった。

 疑っていた訳ではないが、彼女も他のメンバー達と同じだった。

 

 今だから、この瞬間だから思える。

 

 海未が俺の監視役に就くと言い出したのも、作り上げられたμ'sの日常を壊されたくなかったからではないか?

 夜伽ノ美雪というたった一人の問題児が引き起こす不祥事のせいでメンバーがバラバラになったり……もしくは俺という『一〇人目』を失わないように――。

 

 やはり海未は、μ'sを守りたい一心で動いていたのではないか?

 だとしたらようやく、俺はその気持ちを理解できた。

 

「……そうだな」

 

 変に妙だと感じていた俺が馬鹿みたいだ。

 

 奇蹟と名付けられたこの光景に――三年間、こいつら九人が存在しなければ見られなかった場面を目に焼き付けながら。

 

「まァ、良かッたンじゃねェかな」

「ふふっ、……それは良かったです」

 

 海未は笑った。

 わずかに首を首を傾げ、艶やかに微笑み彼女の肩から垂れる髪や結ばれた唇に果敢ない儚さを感じて、なぜかそれを直視できずにいた。

 

「……お前はどう思う、絵里」

「え? 私?」

 

 唐突に、俺から話題を振られた絵里は驚く表情を見せるも、多分自分も訊かれるんだろうなと予測していたのか、すぐに落ち着いた様子で話し出す。

 

「どうかしらね……正直、私がいなくても同じ結果になったんじゃないかって――」

「そんなことありませんよ」

 

 絵里の言葉はすぐ、海未に否定される。

 腰を曲げ、俺を跨いで絵里を見つめる海未は小さく笑いかける。

 

「希も言っていたでしょう。μ'sは九人の歌の女神。それを監督する立場である一人の司宰者――この一〇人なんです。一〇人揃って、スクールアイドルの『μ's』は始めて成り立つんです」

 

 ただの受け売りだろうが、良いことを言う。

 神話の通り、μ'sという九柱の歌姫達が舞台に足を揃え、彼女らを司る司宰者の存在。

 

 つまり俺は、その司宰者となる。

 いつだったか、未だ正体に迫るヒントの一つも得られない謎の女から言われたことがふと思い出された。

 

「……そういや」

 

 ようやく――海未の言葉を聞いて同時に思い出したが、希はどうした?

 あいつなら、こんな状況を目一杯楽しもうと一番はっちゃけているはずだが……。

 

「……?」

 

 教室の片隅。

 太陽の陽射しが入り込んでくる暖かい窓に背を向けてベンチに腰掛けている二人の姿が目に入った。

 

 ……だが、どうも様子が他と違う。

 

 昨日のように表情を俯かせて影を纏うことりを慰めるかのように、彼女の肩に手をかける希の姿。

 

「……ねぇ、美雪。あの二人――」

「あァ……何か、様子が変だな」

 

 絵里も気づいたようだ。

 俺達の会話に、海未もそんな彼女達の光景にようやく気づく。

 

 テーブルを囲むメンバー達は依然としてテンションマックスの状態でアホ騒ぎだ。

 だがどうもそんな彼女らに比べ、あの二人との間には境界線が存在するかのように、目に見える温度差があった。

 

 まるで宴会会場でお通夜ムードを醸し出す人のように。

 動物園で動物を指さしながら笑う子供を静かに見守っている親のそれとは明らかに違うのだ。

 

 そして――。

 

「あの――っ」

 

 急に、希がベンチから立ち上がる。

 胸に手を当て、似合わない不安そうな色を滲ませる表情に、振り向いたメンバー達の張り上げていた声も静まり返った。

 

「……み、みんなに、報告があります――」

「希ちゃん……」

 

 やはり様子がおかしい。

 

 希はどうも、いつも陽気な本調子といった感じではないし、そんな希を見上げながらベンチに座ることりも、どこか申し訳ないように顔を伏せる。

 

「美雪、聞いていますか?」

「いや、何にも。……絵里は?」

「さあ……?」

 

 場の空気が変わった。

 お調子者の希という人間性からはあまりイメージのつかない真面目な表情に、全員が注目を集めた。

 

 そしてメンバー達は気づいたか、短かった一つの発言だが、関西弁で慣れている東條希が標準語で丁寧に話したのを。

 またメンバー達は気づいていたか、俺が以前から疑問に思っていた南ことりの、どこか不自然に笑うあの表情に。

 

 そういえば、誰も訊かなかった。

 何も、声すらかけなかったのではないか。

 

 故に。

 希の発言の前に、俺も穂乃果も海未も、他のメンバー達も。

 

 心の準備ができていなかった。

 

 

「突然なんやけど……ことりちゃんが、海外に留学することになりました。二週間後に、日本を発ちます」

 

 

 その空間で、何か脆いものが割れる音がした。

 

 

 

 







 評価が黄色ゾーンになってしまった。
 もうマジムリ……ヒキコモロう……。


 ……あ、元から引き籠もりな性格だったかテヘペロ。




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