三月から一人暮らしのマンションに住めるーイエーイ(-_-)
普段の日常となんら変わらない。
梅雨の時期に鬱屈とした気分にさせられる湿気の多い大雨や轟く落雷が空に見られる訳でもなければ、いきなり全校生徒を講堂に集めて理事長から前代未聞の発表があったという訳でもない。
怪我もなく。
風邪も引かず。
身体を動かすこともなく。
今日も、高坂穂乃果は一日中ただ自分の席に腰掛け、呆然と授業中を意味もなく過ごし、休み時間には机に突っ伏して寝ていただけだった。
何もない平日。
静かな学校。
平和な一日であるはずだったが、彼女の大好物である昼食のパンはなかなか喉を通らず、友人達との会話では積極的に華を咲かせるようなテンションでもなかった。
……そうだな、一つ普段と変わった所といえば。
幼馴染みの南ことりと園田海未――この二人と、全く言葉を交わしていない、という点ぐらいだろうか。
今日も南ことりの席は空席となっている。
園田海未も一日中沈黙を貫いたような生活で、帰りのSHRが終了すると迅速な動作で鞄に教材を仕舞い込み、高坂穂乃果には目もくれず颯爽と教室を出て行ってしまった。
「穂乃果がスクールアイドル辞めたのって、海未ちゃんと喧嘩したのが理由らしくてね――」
そんな二人の様子を傍から眺めていたクラスメイトの女子生徒三人は、一人の教室で机に力なく突っ伏している高坂穂乃果という友人に、廊下から心配の眼差しを向けていた。
「だから最近、元気なかったんだ」
「学院祭前とは打って変わって、穂乃果もテンション下がりまくりだったもんね~」
この三人の女子生徒と言えば、μ'sのオープニングメンバーである二年生三人組のファーストライブの際での舞台設定や、学院祭で使用する屋上ステージの設計を任された夜伽ノ美雪のサポート役などで、大分μ'sの近くで活躍してくれた助っ人メンバーだ。
別に、μ'sから依頼してこの三人をサポート役に就かせている訳ではない。
報酬なんかには全く興味もないように、この女子生徒三人はやはりメンバーに友人が存在するからか、何かと自主的にμ'sの支えを担ってくれる。
「でもさ……立派だよね、穂乃果は」
当の本人に聞かせたい訳ではないのだろう。
三人組の一人の女子生徒が、他の二人だけに聞こえるような声量でボソリと呟いた。
「学校を守るためにスクールアイドルを始めて、数々のライバル校と戦ってきて――何でもすぐに飽きたーなんて言って諦めちゃう穂乃果が、そんな学校存続っていう大きな目標を達成できたんだから」
もう一人の女子生徒も頷いた。
「そうだよねぇ……その結果があって辞めたんだから、誰も文句は言わないよね」
彼女達の言う通りだろう。
当初に掲げた目標を思い出せ。
統廃合の危機に瀕した母校を救うため、自分の大好きな居場所を奪われないため――その為に、彼女は一からメンバーを集め、ここまで闘ってきたのではないか。
目標は達成した。
本大会、悲願の優勝――そんな幕引きではなかったとしても、高坂穂乃果は何もなかった無の状態からよく立ち上がり、よく走ってこられたではないか。
廃校から学校を救った彼女は英雄と讃えられてもいいだろう。
全校生徒が注目を集める中、壇上に上がっては理事長から何かの賞状と褒美くらいは献上されてもいいだろう。
しかし。
今の高坂穂乃果の状態では――。
「なら、ここは私達の出番でしょっ!」
一人の女子生徒が、高らかにそう宣言しながら教室へと踏み込んでいく。
「穂乃果ー! たまには一緒に帰らない?」
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午後の陽射しが差し込む生徒会室。
生徒会長の拘りなのか、清掃がきちんとされている結果もあって、空中に舞う埃もあまり目立たない程の清潔さが保たれている。
廃校への対策を講じるために様々な意見や考えが書き込まれていたホワイトボードも、今ではすっかり綺麗になっている。
生徒会を独自に動かすと決めたあの日から書類の山ができあがっていた机の上にも、今はそれらが全て片付けられていた。
そろそろ生徒会役員は引き継ぎの時期となる。
それについての書類数枚を机の上に広げ、生徒会長の椅子に腰掛ける絢瀬絵里はその文章に目を這わせていた。
「本当にこれで、良かったんかな……」
ボソリと控えめに呟かれた声。
限られた返答を求めるような言葉に、絢瀬絵里はふと視線を書類から外す。
窓からの景色を眺める東條希は仰ぐようにその青空を見上げていて、眩しい太陽の光に手を翳すこともなく佇んでいた。
その言葉の中に、きっと東條希の意志は存在したのだろう。
だが絢瀬絵里も理解しているように、彼女は積極的に自分から、己の意見を人に打ち明けようとする性格をしていない。
それは生徒会の仕事をしている時も。
μ'sの一員として活動している時も同じだった。
だから、遠回しになる。
いい加減に億劫だと、絢瀬絵里は感じていた。
「良かったんじゃないのかしら、廃校も免れたのだし」
構ってくれと寄り添ってくる子供を軽くあしらうように言い捨てる絢瀬絵里は、また視線を書類に戻す。
最後の項目に印鑑が必要だという欄を見つけ、彼女はそこで始めて、職員室に印鑑を置き忘れてきたことに気がついた。
「はぁ……」
溜息が漏れる。
それに東條希は振り向いた。
「エリち、本当にこれで良かったと思ってるん? このまま、μ'sが解散しても――」
「μ'sは九人の歌姫と一人の主宰者――全員が揃っていないとμ'sじゃない。そう言ったのは希、あなたよ」
九人の歌姫。
一人の主宰者。
それが最低限の条件。
揃わなければ、神話とは違う。
そういえば、三人のオープニングメンバー達が独自に活動を始めた頃に『μ's』というメンバー名を与えたのは、他でもない東條希であった。
彼女は初めから、そのグループは九人の歌姫と一人の主宰者というパーツが揃えられることを知っていての命名だったのだろうか――だとしたら、そんな未来を予知できた彼女は何者なのか、という話になるが。
しかし現状、すでに一人が欠けている。
この状況に、東條希は困惑と同時にショックを受けているようにも見受けられるのだ。
「でも、穂乃果ちゃんが戻ってきてくれたら――」
そこが、彼女の願いなのか。
普段とは違ったギャップを狙える落ち込んだ子供のような表情で紡がれていた言葉を、しかし絢瀬絵里は遮った。
「例え戻って来たとしても、もう普通ではいられないんじゃない? 穂乃果は海未とにこ、二人と完全に対立してしまったようなものだし。他の子達もきっと余計以上の気を使ってしまうわ」
「っ……」
この、何の感情もないような淡々とした喋り方。
μ'sの面々と楽しげに接していた時のものではない――生徒会長として、彼女が苦悩に満ちながら全校生徒の前でスピーチをしている時や、理事長に意見を申している時の口調とまるで同じだ。
「……エリちは」
キュッと丸めた拳を胸に当て、多少の勇気をもらいながら希は口を開く。
「もう、ええの? このままμ'sが、おしまいになっても……」
ピタリと。
絢瀬絵里の、文章に這わせていた目の動きが静止した。
「……希、あなたも穂乃果と一緒で、けっこう引き摺るタイプなのね」
彼女は手元のプリントを机に置いた。
数枚まばらにあったプリントと重ね合わせ、その束をトントンと机に叩きながらサイズをまとめる。
「有終の美を飾れたじゃない」
彼女は言う。
良かったのだと。
「目的として掲げた廃校からの救済。私達は見事、それを成し遂げた。遠い地へと合宿に行ったり、心を鬼にしてダンスの基本をみんなに叩き込んだり、みんなで喉の使い方なんかを勉強したり――その努力があったからこそ、私達は目的を果たすことができた」
また、彼女は言うのだ。
そこにどんな不満が残ったのか、と。
「ラブライブ出場が叶わなかったのは確かに残念なことだけど、その目標はあくまで『ついで』のことよ。結局は二の次――できたら良いな、なんて軽い気持ちで掲げていた挑戦でしかなかった。……違う?」
いつからだったか、μ'sが『ラブライブ!』という大会出場を目指すようになったのは。
いつからだったか、学校存続という目標が日に日に希薄なものとなり、『ラブライブ!』への執着心が強まっていったのは。
パソコン画面に展開される『ラブライブ!』の本大会ステージに目を輝かせるメンバー。
今の順位は、この間とどう変動した――そんなことに一喜一憂していたメンバー達。
仲間達を傍目に、あくまで絢瀬絵里だけは冷静だった。
当初の目的を忘れてはいなかったのだ。
スクールアイドルにとっての夢の祭典――そう讃えられる本大会への出場が断念された時、ようやくメンバー達は本来の目的を思い出す。
絢瀬絵里がずっと――あの日、高坂穂乃果に差し伸べられた手を取った瞬間から、一時たりとも忘却の片隅へすら追い遣らなかった大事な目的を。
「それに私達にとっては良い機会なのよ。あのイレギュラーがなかったらあの子達、ラブライブに向けて猛特訓だーなんて言い出すに決まっていたもの。私達は三年生、もう受験だって目と鼻の先の時期――ここで解散していて、正解だったのよ」
その発言に東條希は下唇を噛んだ。
だが文句は言わず、拳を固めることもなければ身体を震わすことすらない。
確かに、絢瀬絵里の意見は最もだ。
友情とか絆とか、そういった類の感情論を抜きに話してみれば意気投合できるものだ。
受験は全員が敵。
テスト当日では絢瀬絵里と東條希も敵対関係になり得る。
しかし。
東條希からすれば、人の心に関わる感情論抜きにして物事を進めることができなかった。
だから渦巻く、この感情。
何とかしたい――その為には高坂穂乃果はもちろん絢瀬絵里にも、協力してもらわなければいけないのに――。
「本当に、遺憾ではあるけどね――」
横髪を耳にかける仕草を取りながら、絢瀬絵里は囁くように呟いた。
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「か、活動休止!?」
晴れ渡る青空の下。
屋上で矢澤にこは思わず叫んだ。
彼女と顔を合わせて立つのは一年生組の三人。
全員が練習着ではなく、夏服の制服姿で揃っていた。
「えぇ、エリーからそう伝えてくれって話されたわ」
西木野真姫は普段のように肩口に垂れる癖毛を指で弄くりながらそう告げる。
四人の間で展開されていた話題というのは、μ'sのこれからについて。
未だに次なる『ラブライブ!』の本大会が開催されることを祈りながら練習に励もうと息込んでいた矢澤にこにとって、その報告はショックと同時、過去の産物である傷口を抉り返されるような思いがあった。
「やっぱり、今のメンバー内の雰囲気じゃ練習を重ねてもあまり意味がないってことなのかな……」
「穂乃果ちゃんと海未ちゃんも喧嘩しちゃうし、まだ穂乃果ちゃんはことりちゃんのことを引き摺ってるみたいだし……」
先日、尊敬している先輩と自分の手を取ってくれた先輩の二人が啀み合う姿を見て大分衝撃を受けていたであろう小泉花陽がまだ落ち込んだ様子で言うと、普段ははっちゃけている星空凛も伝染されたのか、妙に覇気のない様子で喋る。
また当然、矢澤にこに与えられたダメージもほんの一瞬で和らげられるようなものでもない。
「ら、ラブライブに出場できないどころか、活動も休止って……」
「……しょうがないわよ。μ'sは、穂乃果がいなければ解散したようなものでしょ?」
西木野真姫の言葉に矢澤にこはグッと何かの衝動を堪えて拳を揺るがすも、しかしストンとどこか納得できてしまう節すら見つけてしまう。
アイドル研究部の部長は誰だ? ――矢澤にこ。
μ'sのリーダーは誰だ? ――高坂穂乃果。
あってないような名前だ。
経験豊富の前任者と人一倍の意気込みを見せる者が自然とその地位に選ばれただけのことで、特に人とは違った行動や役割を担わされている訳でもない。
だが、やはり高坂穂乃果の存在は重かった。
皆が意識していないだけで、その重鎮は確かに明確とされていたのだ。
μ'sの創始者は誰だ? ――高坂穂乃果
この変えようのない紛れもない事実が、今までのμ'sを突き動かしていたと言っても過言ではない。
高坂穂乃果が存在したから、園田海未はメンバーに参加して作詞を担当した。
高坂穂乃果が存在したから、西木野真姫はメンバーに参加して作曲を担当した。
高坂穂乃果が存在したから、絢瀬絵里はメンバーに参加してダンス振り付けを担当した。
高坂穂乃果が存在したから、南ことりはメンバーに参加して衣装制作を担当した。
常に、μ'sのメンバーの心には高坂穂乃果がいた。
最大の味方、最も頼りになるメンバーとして、高坂穂乃果がいた。
彼女がいれば、彼女がきっと何とかしてくれる――そんなベクトルの先に、高坂穂乃果がいた。
いつも中心には、太陽があったのだ。
その輝きは絶対に色褪せはしないと皆が信じていた。
高坂穂乃果だけは何があっても屈服しないと――それがμ'sの無意識な思想であった。
そこに訪れたイレギュラーな展開。
重鎮を失ったμ'sは、着々と瓦解の道を歩んでいっている。
「エリーが言っていたわ。きっと、この状況は避けることができなかった運命――あたし達は何を目標に、これから頑張っていかなくてはいけないのかを考えるべき時がきたんだって」
西木野真姫だって、まだまだ作曲アイディアの在庫が貯まっていたのだろう。
その譜面を全て放棄し、今も矢澤にこの前に立ってそれを告げている。
悔しい思いはあるだろう。
哀しい気持ちで溢れているはずだ。
小泉花陽にも。
星空凛にも。
当然、雲一つない暖かな大空を見上げる矢澤にこにだって――。
「何よ、これじゃ……本当に、灯愛が言ってた通りの展開じゃない」
もしかすると。
『ラブライブ!』を断念するという結果に陥り、μ'sの活動すら辞めざるを得ないこの状況に最も不憫であるのは、彼女なのかもしれない。
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……さて。
個々に様々な動作や感情を表すメンバー達の近くに、偶然にか誰かに呼び出されてか。
一人の主宰者がその場にいた。
その名の通り、彼女は常にメンバー達を見ていた。
表情を見る。
言葉を聞く。
心を透かす。
そんな単純で、これ以上となく至難な業をやり遂げてみせると始めて、その本筋が見えてくる。
空想の域を逸脱しないだろうが。
ただの推測に物証も実証もないだろうが。
それでも、彼女には視えた。
μ'sに渦巻く混沌の核が。
「何でだろうなァ……こういうのを見せられていると、無性に苛ついてくるンだよクソッたれが」
人間は、感情に身を委ねることにした。
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(私も理解していなかった……)
それは幼馴染みの高坂穂乃果と対立したあの日、別れる直前に告げられた言葉。
(確かに、その通りですね)
園田海未は潔く認めた。
如何なる時、場合についてもそうだが見苦しい言い訳や責任転嫁は園田の女として恥となる。
今回の場合、家柄や道場に関しては全く無関係である友人関係について。
自分のことを棚に上げておきながら幼馴染みを罵倒してしまった自分を戒めるためか、彼女は自室の畳の床で座禅を組むように座り込んでいた。
部屋の照明は一つとして点けられていない。
夜の暗闇と同化した室内で点滅する明かりと言えば、天井に張り付けられたポスターに薄く煌めく一〇の細かな星屑だけ。
日本からは見上げても眺められない『うみへび座』が描かれた漆黒のポスターの真下で、園田海未は暗闇の中に考えてしまう。
目を瞑りながら、外界の暗闇さえも塗り潰してしまう程の深淵にまで精神を潜らせようとも、どうしても雑念が混じる。
(私も、穂乃果と同じでした。ことりの気持ちに気づいてあげられず、言い出すための勇気を引き出せる理由すら見つけられない彼女に、何も言ってあげられなかった。一緒に悩んであげることも、行かないで欲しいと我が儘を口にすることも……)
混入する雑念は後悔の念。
高坂穂乃果に手を上げてしまいそうになったこともそうだが、園田海未は何より、なぜ一〇年以上の親友である南ことりの力になれなかったのかと嘆いている。
(私に穂乃果を責める資格はなかった……まして、希が気づいてあげられたことりの様子に何の違和感も感じず、ただ己の目的のために周囲を見られなかった私は幼馴染み失格です)
……己の目的?
さて、それはいったい何だろうか?
もしそれがなければ――あるいはその目的を思い浮かばせる起因さえ存在しなければ、園田海未は南ことりを助けられたのか?
その時。
園田海未の近くで通知音のバイブが鳴った。
反応した彼女はすぐさま瞼を開かせると、座禅の正面に置いてあったタブレット端末を手に取り、慣れた素早い動作で画面を起動させる。
こんな時にでも、園田海未は己の目的を忘れない。
「……動き出した?」
廃校の危機に瀕した母校の救済ではない。
夢の祭典と称される舞台への出場でもない。
園田海未の目的は他にあった。
自身を鍛錬させる為に掲げる目標とはまた違う――それは彼女個人として心に抱いている自分勝手な行動理由。
「いえ……まだ分かりませんね。もしかしたら深夜遅くの可能性だってありますし」
漆黒に染められた空間の中、視力に多大な負荷を与えそうな眩しい電子画面を見つめる園田海未の瞳に映るのは、よく見知った顔。
画面の中では、どこかの家の玄関先で様々な道具を運んでいたり、時には口論を交えたりしながら機敏に動き回る三人の男女がいた。
いや、その内の一人を『女子』と見極められたのは、やはりその人物が唯一の顔見知りだからか。
「……ふふっ」
園田海未は嗤う。
真っ白の歯を見せて、暗闇の真ん中で声を上げながら小刻みに、クスクスと。
「絶対に見逃しません……この機会、必ずや捕らえさせていただきますよ」
上品のかけらもなかった。
べろりと長い舌を唇に這わせると、美味しそうに彩られる大量の高級料理を目の前にした乞食のように、垂れた唾を掬って舌舐めずりをする。
先程まで頭にあった南ことりへの後悔の念や、高坂穂乃果に資格のない罵倒を押し通してしまったことへの責任なんてものは、すっかり思考の枠から消し去られているのだろう。
通常運転ならば。
何の改竄もない世界ならば。
園田海未という少女は、容姿端麗の博識多才な文学少女で、道場を継ぐために日々研鑽を重ねている努力家、また清楚と上品さを兼ね揃えた姿勢を見失わない大和撫子という、完璧少女だったはずだ。
そして何より友達思いで、例え自分が文句を言われようと時には心を鬼にして厳しく指導する。
恋愛や性描写というジャンルにはとことん弱く、その類の映画や漫画を目の前にしたら途端に赤面して冷静さを欠いてしまうような可愛らしい女の子。
そんな人間だったはずだ。
例え気の迷いから生まれた『些細な欲求』でさえも、彼女の精神力ならば肥大化する前に心の奥底へと封印できていたはずだ。
彼女は幼馴染みと共にスクールアイドルとして活躍し、作詞担当を担い、メンバーの体調管理さえ手がけてしまうような働き者の女の子であったはずなのだ。
それを、変えてしまった原因はなんだ?
園田海未を、ここまで覚醒させてしまったものとは一体なんだ?
イレギュラーとなる存在。
それは、どこにある?
「さて……こんな時間ですが、心を落ち着かせる為に竹刀でも振りましょうか」
――たとえあなたが何をしていようとも、それをしている自分を愛せ――
それはコロンビア大学で哲学者ジャック・バーザンを研究したことでも有名な、タデウス・ゴラスが説いた言葉だ。
園田海未。
彼女は過剰に、自分を愛しすぎたのだろうか――?
多分ですが次話かまたその次話辺りに、夕霧靜霞のストーリーの方も進めていきたいと思っています。
それでは、次話もよろしくお願いします!