笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 知り合い「俺と海未ちゃんの絡みはねぇの?」
    俺「……いや、ないよ」

 と、いう訳で冒頭は海未から。




11話 誘い

 

 

(分かりませんね……)

 

 ラジカセから流れる音楽のリズムに乗りながらも、園田海未の頭の中では夜伽ノ美雪に対してのイメージや人間像に、それぞれが葛藤していた。

 

 夜伽ノ美雪と園田海未の初対面は、数日前の学校の放課後、街の中だった。

 夜伽ノ美雪が覚えているかは定かでないが、園田海未はその時の光景、彼女に対する第一印象を今でも鮮明に思い出せる。

 

 彼女と高坂穂乃果が衝突し、お互いが向き合っているさなかに自分が謝罪の言葉と一緒に駆け寄っていった。

 その時に見た夜伽ノ美雪の顔は、思わず園田海未に、幼馴染みの盾になろうと前に出ようという気にまでさせた。

 

 普段の園田海未なら、きっとそうしていただろう。相手への礼儀や尊敬の念を忘れた訳ではないが、まず第一に考えられるのは大切な幼馴染みの無事なのだ。

 

 だが、夜伽ノ美雪を相手に、彼女はそれができなかった。

 

 言葉が詰まり、息が止まりそうになり、それから彼女の傍から離れるまで一言たりとも声が出なかった。家柄の関係で武道の道を極め続けている彼女でさえ、一歩の踏み出しがきかなかった。

 

 それ程までの威圧感。

 前髪の隙間から放たれる一閃の眼光。

 

 それを感じたのは園田海未だけじゃない。あの時に隣に立っていた南ことりだって同じ思いを感じていたはずだ。

 

 だというのに。

 

 高坂穂乃果は、元から怖くはなかったと言う。

 南ことりはすでに、彼女に対する畏怖感を拭い切れている様子だ。

 

 μ'sのメンバーだって、元から彼女を恐怖の対象として見る目はなかったように思える。

 三年生組は元からの知り合いだったようで、西木野真姫は自分から志願してマネージャー勧誘の仕事を引き受け、彼女の元へと行ったという。

 星空凛は先程、彼女の身体へ抱き付きにいっていたし、あの人見知りな小泉花陽でさえ、今はその夜伽ノ美雪と隣に座りながら会話をしている様子だ。

 

 打ち解けている。

 

 当然だろう。

 彼女は先程に、メンバー全員の前で、小泉花陽の右脚の怪我を適確な処置で素早く対応しきってみせたのだから。

 

(……ほんと、分かりません)

 

 彼女は一種の、怖い顔をしているけど実は優しい性格、といったような、漫画の主人公にでも通用しそうな人物なのかもしれない。

 

 だが、園田海未はどうしても引っかかる。

 

 二日前、放課後の校舎。

 園田海未を含めた二年生の三人が廊下に集まっていた時。

 

 夜伽ノ美雪が現れた。

 

 そしてあろう事か、高坂穂乃果が好意に乗せて差し出した手を、乱暴に振りほどいたのだ。理由も分からない理不尽な怒声と共に、夜伽ノ美雪は自分の幼馴染みを否定した。

 

 ……なぜ?

 

 音楽室では突き放さなかった。マネージャー就任が決定した時、背中に飛びついていった高坂穂乃果を夜伽ノ美雪は振り払わなかった。

 さっきも、星空凛の唐突な、体当たりに近い抱き付き行為に対しても拒絶の色を見せなかった。

 

 なぜ、あの時だけ……?

 

(夜伽ノ、美雪……)

 

 そしてまた、彼女と打ち解けられていない様子なのは、園田海未だけに思える。

 

(一度、話し合ってみた方がいいですかね……)

 

「う、海未……? 何か、怖い顔してるわよ……?」

 

 立ち位置を変わる際、絢瀬絵里にそう指摘され、園田海未はダンスの方に集中を切り替えた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 休日の朝練は八時から一一時までと決まっているようだ。朝練って名目なのに何で昼近くまでやっちゃってんだよと思う。

 

 ぐんぐんと真上に昇り続ける太陽の陽射しだけでも、俺のインドア派体質には応えたようだった。あれから小泉と会話していただけなのに、ジャージの内側まで汗が滲んで気持ちが悪い。

  

 家に帰ったら、まず風呂に入ろう。それから冷蔵庫に保存してあるはずだった棒アイスでも食ってからベッドに横になろう。あぁ、それがいい。さっさと家に帰りたい。

 

 あぁ、そうだ、忘れちゃいけない。

 小泉の話していた、ラブライブについても少し検索をかけた方がいいだろう。

 

 

 それと――『A―RISE』とやらも。

 

 

 そう思っている時だった。

 

「美雪ちゃーん! 今日遊ぼーーー!!」

 

 正面から俺に抱き付いてくる高坂は、練習後だというのに元気あり余ったような声で言ってくる。

 

 それを引き剥がしてから、俺は丁重に、

 

「断る」

 

 断った。

 

「酷い!?」

「酷いのはどッちですかァ……? こちとら太陽の真下で慣れない朝練習とやらに付き合わされて、もうクタクタなンですゥ……。遊びになんざ行けッか」

「大丈夫だよ! 遊び場所はわたしの家にするから!」

「お前ン家を俺はご存知じゃありませン」

「朝通りかかった和菓子屋さんだよ! あの古ぼけた感じの!」

 

 ……あぁ、そういやあったなそんな店。思い返してみれば、その和菓子屋から高坂達が飛び出してきたんだっけか。

 

「でも嫌ですゥ……疲れましたァ……」

「明日は一日休みなんだしさぁ! いいじゃんちょっとだけだよちょっとだけ! ね!? 遊ぼうよ~~~!!」

 

 ……し、しつけぇ。

 行動力もあるが粘り強さ、その根性もまた凄まじいなこいつ……。

 

「穂乃果ちゃん、私もご一緒していいかな?」

「こ、ことりが行くなら、私も……」

 

 そこに乗じて南と園田までが話に乗ってくる。聞いたところではこいつら三人は幼馴染みらしく、いつでも一緒に行動しているらしい。

 ……ておい、そんな仲良しグループに俺が紛れ込んだって跡形もなく埋もれるだけだろうが。

 

「もちろんだよ! ほらほら美雪ちゃん、観念しなさい! 君はやはりわたしの和菓子屋に来るべきなのだ!」

 

 俺のジャージの胸元をぐいぐい引っ張って、意地でも連れて行かせようとする高坂。これじゃ俺が不良に集られてるみたいな絵面だ。

 

「そンな事言ッてェ……どうせ和菓子の押し売りでもするつもりなンだろォ?」

「いくら穂乃果でもそんな卑猥な真似しないよ!? それに穂乃果はもう和菓子には飽きてるからね。今時の高校生なら洋菓子だよ洋菓子!」

「穂乃果……それをお父様が耳にしたら泣かれますよ? あと卑猥ではなく、卑劣です」

 

 園田が呆れ顔でそう言った。きっと高坂は普段からそんな事を言っているんだろうな。

 

 そして今の言葉から察するに、和菓子屋を主に営んでいるのは高坂家の親父さんって事か。

 …………これますます行かない方が良いんじゃねぇの? 自分の娘がヤンキー顔の男を家に連れ込んでいるなんて誤解されれば、たちまち面倒臭ぇ事まで展開する。

 

「美雪ちゃん!」

 

 甲高い声が俺を呼ぶ。見れば南の奴が深い息を吸い、吐いて、俺を正面から見つめた。

 

「美雪ちゃん! おねがあぁい☆☆☆」

 

 精一杯に瞳を潤ませ、自分の胸に手をかざしながらそう言う南。

 

「………………え」

「海未ちゃんには効くのにぃぃぃ!!」

「ちょっ、ことり!? それどういう意味ですか!?」

「ほら美雪ちゃん! ことりちゃんもあぁ言っている事だし!」

「いや意味分かンねェよ」

 

 騒ぎが広がっただけの現場に、手を叩いて全員の注目を集めるようにしながら矢澤が歩いて来た。

 

「はいはい、そこまでそこまで」

「おい矢澤、お前部長だッたろ。この部員何とかしやがれ」

「諦めなさい美雪」

「……は?」

 

 矢澤も何かを悟ったような顔を浮かべながら、腰に手を当てて言う。

 

「勢いづいた穂乃果を止める事なんでできないわよ。潔く諦めて、穂乃果の家に遊び行く事ね。事実、私の時も超絶しつこかったし」

 

 そこで、矢澤の肩から星空が顔を出す。

 

「でも、後悔はしてないんだよね?」

「……へへ、そうね」

 

 嬉しそうに笑う矢澤。彼女も高坂にしつこく、家に遊びに来いと誘われた事があるって事か……?

 

 ――はぁ、何か、もう……。

 

「……ッたく、今日だけだぞ。俺のペースで早めに帰るからな」

「――っ! うん!!」

 

 こいつと話しているだけで、マジ疲れる。

 

 再び俺の胸元に飛びついてくる高坂の隣では、園田は呆れ顔で、南はにこにこ笑っていた。

 

 向こうでは絢瀬達がそれぞれ思うような笑みを浮かべてこちらを見ている。なぜか西木野だけは複雑そうに口を尖らせていた。

 

 はぁ……まぁその前に、家に帰って着替えてこよ……。

 

 





 あまり内容の濃くない更新になってしまいましたね……。

 次回は高坂家で美雪ちゃんがお楽しむ予定なのです!

 感想や質問、お待ちしてます!
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