笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 音ノ木愚音隊VS水浦勢力――後半戦突入。








120話 進め、それ以外は考えるな

 

 

 

 

 

《一三階フロア》

 

 

「本当に良いのね?」

「あ、あぁ……頼む」

「……ちょっと、身体震えてるじゃない」

「そりゃ、これからとんでもない痛覚が襲いかかるって脳が理解しちまってるんだからな。怖いもんは怖ぇよ」

 

 吹き抜けに面したフェンスに背中をあずけて座り込む水浦竜三の額には分厚い脂汗が層となって滲んでいた。

 通路にしゃがんでそんな彼を介抱する矢澤にこも、弟の捜索のはずが天井から降ってきた見知らぬ男の世話をすることになるとは思わなかったろう。

 

 さて、現状を端的に説明しよう。

 衝撃で外れてしまった水浦竜三の右肩を、矢澤にこが嵌め込もうと奮闘している。

 

「……しょうがないわね」

 

 矢澤にこはあれこれ考えるでもなく、自らの黒髪をツインテールに留めていた分厚いピンク色のシュシュを乱暴に外し、二つを重ねてはコンパクトサイズに丸め、折り重ねていく。

 

「ほら、咥えなさい」

「……は?」

「いいから!」

 

 躊躇う水浦竜三の口に、彼女は強引にシュシュの塊を詰め込む。

 もごっ!? なんて呻き声を上げたが無視を決め込んだ。

 

「さっさと終わらすわよ! 男なんだから覚悟決めなさいよねっ!」

 

 正直、専門家が行えば痛覚は大分抑えられて治療できるものなのだが、知識のない素人が力任せに行うとかなりのダメージを負う。

 水浦竜三は咄嗟に目を瞑り、握られた右腕と肩口に寒気を感じながら上下の歯でシュシュの塊を噛む。

 

 

 ――ゴギィイイ!!

 

 

「っっ!! ……ぅ!? …………っっっ!!」

 

 悲鳴は抑えた。

 痛みに唾液が溢れかえり、咥えたシュシュが涎塗れになるのを感じながら遠のく意識を必死に留めようと踏ん張る。

 

「ちょっ……やばいやばいやばい!? あ、あんた白目剥いてるわよ!? へ、平気!? 大丈夫なの!?」

 

 正直、公開させられる表情ではない。

 瞳はグルンと上を向き、涎をダラダラと溢しながら痙攣する水浦竜三はまるで電気ショックの拷問にかけられているようだった。

 

 焦る矢澤にこは彼の頬を叩く。

 グワングワンと振動する視界に、水浦竜三はようやく髪を解いた少女の顔を霞みながらに見た。

 

「…………あ?」

「ほっ――」

 

 安堵の息。

 彼女は本気で、目の前の男が自分が行為によってショック死してしまったのではないかと危惧した。

 

「……大丈夫なの?」

「あ、あぁ。何とか……?」

 

 一瞬の激痛はすでに治まっていた。

 なるほど、確かにこれは諸説にあるように、何度も繰り返すことによって痛覚が癖になってしまうのだろうと理解する。

 

 咥えていたシュシュが通路の床に落ちる。

 二人はそれに目もくれなかった。

 

 右肩は治った。

 しかし一息ついている場合ではない――ここは敵地、今でも愚音隊構成員が水浦竜三を殺しにやってくるはずだ。

 

 

 ……だとすると、目の前の少女はどうしてくれよう?

 

 

 途端、グイッと催促されるように治療したばかりの右腕を引っ張られる。

 

「ほら、立ちなさいよ」

「痛っ!? いでででででででででで!?!? お、おま……っ、もうちょい慎重に気遣ってやれることはできねえのか!!」

「こっちは空から降ってきた見ず知らずのメルヘン男を介抱してやったのよ! 感謝はされても文句言われる筋合いはないっつの!」

 

 無理矢理に立たされながらも足下は覚束なく、またも水浦竜三は吹き抜けのフェンスに腰掛けるように寄り掛かる。

 頼りない男を見て呆れるように、矢澤にこは両手を腰に当てて目を細めると、溜息を吐いた。

 

 

「こっちはね、あんたが『灯愛の居場所を知っている』って言うからここまで世話してあげたのよ? なのに、あんたが使い物にならなくちゃ話になんないじゃない」

 

 

 強気な態度はわずかに水浦竜三を苛つかせた。

 自分が敵ではないと分からせるための言い訳だったとは言え、彼の身には仕事が一つ、追加されてしまったようなものだ。

 

「いや、確かに知っていると言ったが……それはこのビル内のどこかにいるって意味でなぁ。ビル内の何階、何号室にいるのかまでは分かってねぇんだよ」

「…………え~?」

「よせよ、その期待はずれなんですけどみたいな表情。つか今は、このビル内がどんな混沌とした状況になっているかは分かってるだろうが」

「は? 何の話よ?」

 

 矢澤にこはキョトンとした。

 眉を潜め、首を傾げる。

 

「……お前、この七階に上ってくるまで誰かに会わなかったのか」

「誰にも会ってないわ、上階で騒がしい足音なんかは聞こえてきたけど」

「奇蹟だな、おい」

 

 だが水浦竜三も、まさかこんな小さな体をした少女が戦える術や身体能力を携えているとは思わない。

 ましてやこの危機感も何も抱いていないような顔色――多分この場所を訪れたのは本当に弟の捜索だけが目的で、『観測者の見解』や『次世代型メンタルウェポン』なんていう闇の存在すらも知らないのだろう。

 

(それに、もしかすると自分の弟が暴力団直属の傘下である音ノ木愚音隊に属している、なんて事情も知らないのかもしれない)

 

 水浦竜三からしたら、彼女に一から全てを暴露してしまっても構わない立場だ。

 それによって矢澤にこがどのようなショックや悲しみ、怒りを抱こうと彼には関係のない話。

 

 だが水浦竜三は、矢澤灯愛を『知っている』。

 真実を口にするよりも、人間としての探求心が勝ったのか――。

 

「弟とは長く会ってないのか」

「ん……」

 

 ぴくん、と小さく少女の肩が反応を見せる。

 いや、それは動揺に近いものか。

 

 腰に当てた手を離し、胸の前で腕を組む。

 

「そういう訳じゃ、ないんだけどね。あいつ、家を飛び出してったのよ」

「……飛び出した? 家出か」

「そんなところ。まぁあいつ、基本的に『シスコン』だからずっと離れ離れは辛いらしくてね、今まで不定期に会ったりはしていたのよ。私には灯愛の他にも弟や妹達がいて、チビ達にプレゼントを買っては家に送ったりもしてくれてる」

 

 意外だと、水浦竜三は意表を突かれた。

 自分の知っている矢澤灯愛は獣の様に凶暴で、サイコパスのように凶悪で、周囲からは『暴虐者』なんて呼ばれている悪魔だと――。

 

 しかし話を聞く限りでは、どうやら『シスコン』であり、家族想いの優しい男だと……。

 

「つか、そんな寂しがり屋ならとっとと家出なんてやめて帰ってくりゃいい話じゃねえか。そもそも、どうして家出なんてした」

「うっ……」

 

 尋ねると、なぜか矢澤にこは息を詰まらせ顔色を青くした――額に汗も滲み出ている。

 明らかな動揺サインに、水浦竜三も怪訝に思う。

 

「い……色々あったのよ、矢澤家には」

「家族絡みか。よく問題として挙がるのは親の仕事事情とか借金関係だったり――」

「そういった類のものじゃないんだけど――って、私の話はどうだって良いでしょう! 他人の家の事情に踏み込んでくるんじゃないわよ!」

 

 急に顔を真っ赤にして怒り出す矢澤にこ。

 確かに他人の事情に土足で踏み込みすぎたが――。

 

 

 直後。

 水浦竜三の聴覚が一瞬、わずかな金属音を捉えた。

 

 

「まずいっ――!!」

「きゃっ!?」

 

 即座にフェンスから身を離す。

 矢澤にこの小さな肩に左腕を回して強引に引っ張り込むと、二人並んで吹き抜けのフェンスに身を潜める形を取る。

 

 バラララララララララララララララッッ!! と。

 加減の知らない銃撃音が轟き、フェンスの分厚い外壁にぶち当たる銃弾の衝撃が彼ら二人の背中に伝わった。

 

 一瞬でも遅かったら蜂の巣状態だった。

 フルオートライフルの銃撃音に、矢澤にこは爪先から頭のてっぺんにまで寒気を感じ、奥歯にむず痒い振動を感じる。

 

「何よこれ……何よこれ何よこれ何よこれぇ!?」

「黙れ落ち着け深呼吸だ! 混乱して慌てて自殺行為に飛び出しちまうのが一番怖ぇ!」

 

 急展開。

 何の変哲もない、ただ家出した弟が住み処としているだけのボロマンションだと思っていたものが銃弾の飛び交う戦場と化し、矢澤にこの脳はその現実を捉え切れていない。

 

「じゅ、銃……銃撃……? い、いやこれ――なに? ほ、本物……てか、現実は……」

「だから今は混沌とした状況だって言ったろう!!」

 

 激しく鳴り響く銃撃音に劣らないような大声を張り上げ、水浦竜三は叫ぶ。

 

「いいか矢澤にこ! お前の弟は、お前が思っているよりももっと過激で残酷な場所にいる! 弟を連れて帰りたいのなら、テメエもそれなりの覚悟決めろっ!」

 

 無茶なもんだとは分かっている。

 スクールアイドルなんてものに精を出し、今まで血のない平和な世界しか見てこなかった少女に向かって戦場を駆け抜ける覚悟をしろなどと――。

 

 水浦竜三は前方を確認する。

 南側通路に出るであろう木製の扉が一枚、銃撃によって蜂の巣にされながら構えられている。

 

(残り、三秒……)

 

 水浦竜三はカウントダウンを開始した。

 全身を震えさせる矢澤にこの右腕を掴むと、またも彼女は敏感にビクンと身体を跳ねさせる。

 

「ど、どうすんのよ!?」

「残り一秒だぞ、俺に構わずとにかく走れ」

 

 一秒、経過――。

 弾切れの合図として銃撃は止み、カートリッジを差し替える金属音が耳に届いた。

 

 即座に水浦竜三は立ち上がり、蹴破る訳にはいかないドアノブを掴んで扉を開ける。

 掴んだままの矢澤にこの右腕を乱暴に振り回し、有無を言わさず扉の向こうの通路に彼女の身体を放り投げた。

 

「行けっ!」

 

 咄嗟に扉を閉める。

 放り投げられた彼女が通路の床を転がって何かを叫んでいたが、構ってはいられない。

 

 水浦竜三は迅速に動く。

 再び壁際に身を隠し、再び襲い来る銃弾の雨から逃れた。

 

 銃弾はフェンスだけでなく、木製の扉にもさらなる穴を開けていく。

 当然、弾は貫通して矢澤にこが転がっていった通路に飛び出していっているだろう。

 

(してやれるのはここまでだ。美雪の知り合いじゃなきゃとっくに見捨てていたが――)

 

 その時、轟く甲高い銃撃音の中でわずかなバイブ音が聞こえた。

 ズボンのポケットをまさぐると、自分の携帯電話が震えている。

 

 背中を刺す壁越しの銃弾の衝撃を味わいながらそれを取り出し、ディスプレイを見てみると『柊蒼太郎』からの着信だと分かった。

 

「くっそが……携帯電話なんつった古式機器があるんだから、これで美雪と連絡取れば良かったじゃねえか」

 

 毒突きながら着信に応じる。

 

「どうした柊、アクシデントか? こっちも今まさに――」

 

 しかし、電話の相手は水浦竜三の声を無視する。

 

『あぁ、水浦くん。お忙しいところ悪いんだけど、すぐに十五階フロアに来てくれないかな。梶ヶ谷燐桐の居場所が掴めたかもしれない』

 

 直後に付け加えられた。

 

『それと、さっきから美雪ちゃんと連絡がつかないんだけど……君の方は彼女に会えたかい?』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「冗談じゃないわよ、もう!!」

 

 矢澤にこ。

 小さな身体を冒す未知の恐怖を纏いながらも、彼女は水浦竜三にほっぽり出された後、銃弾から逃れるため懸命に走り続けていた。

 

「随分と陰湿な場所に建設されてるし、一三階に来るまで本当に誰にも会わないし怪しいとは感じてたけど……灯愛の奴っ、『とうとうこんな場所にまで来ちゃった』訳ね!!」

 

 一三階フロアの南側通路。

 入り組む廊下を走る、走る、走る。

 

 シュシュを解いた黒髪を乱暴に振り乱し、アイドルを心掛ける歩き方なんかもいっさい無視し、矢澤にこはただただ走った。

 

(ひ、ひとまず安全な場所を探した方が良さそうね……というか、この状況は何よ!? さっきの金髪と銃を持ってた奴らは敵同士だとして――このビル内で、私の弟を巻き込みながら何が起こっているっていうの!?)

 

 無知は罪である――。

 当然のことながら、世界で展開される新規の物事には皆が無知の状態でそれに踏み込むが、昔から展開されていた物事が沸騰している中に無知で飛び込むことは愚かなことだ。

 

 野球のルールも知らず、バッドもグローブも手にしたことのない者が試合中の甲子園決勝戦に放り込まれるように。

 全く聴いたことも名前も見たこともないロックバンドのファイナルライブを見に行くかのように。

 

 つまり自殺行為だ。

 恥をかくか、状況が状況なら死の可能性だって十分にある。

 

 今の矢澤にこ――彼女が、まさにその状態だ。

 

「――って、行き止まりじゃない!!」

 

 南側の奥通路。

 当然、そのビルの廊下は永遠に続いている訳ではない――走り続ければ終わりに辿り着く。

 

 そして最悪のタイミング。

 複数人の足音と共に、怒鳴り散らすような男達の怒号が聞こえてきた。

 

 殺気や悪意、狂気に満ちた声に残虐で下品な台詞。

 先程の銃撃音を思い出し、矢澤にこは上下の歯をガチガチと鳴らし始める。

 

(まずい……本当にまずい状況なんじゃないのこれぇ!? どうするどうするどうする――もう笑顔で乗り切れるような問題じゃない!! あぁ、まだプロのアイドルになることもラブライブに出場する夢も叶えられてないのに――)

 

 諦める訳にはいかない。

 自分の夢の話もそうだが、未だに弟を見つけられていない――!

 

 矢澤にこはすぐさま行動した。

 通路の端まで走り、右側の壁に設けられた扉のドアノブを掴む。

 

「あ、開いた――」

 

 正直、部屋の中に銃を持った輩がいるかもしれないなんていう可能性は見つけられなかった。

 ただ無我夢中で、近づく乱暴な足音から身を隠そうとする一心で頭がいっぱいだった。

 

 電気も点けられない真っ暗な部屋に入り、咄嗟に扉を閉める。

 ツンと鼻をつくカビの刺激臭に部屋を見回すと、わずかな月明かりが差し込む窓の近くには城のように積み上げられた積み木があった。

 

「っ!?」

 

 動く影に彼女は視線を向ける。

 警戒心は頂点に達していた。

 

「……え?」

 

 思わず、矢澤にこはその警戒心をグンと下げてしまう。

 

 

 洗濯も何もされていないような汚い毛布が敷かれる、部屋の端に置いてあるベッドの上。

 十歳くらいの少女が、驚く目をまん丸くして自分を見つめているのだ。

 

 

「トウマ……おにぃちゃんは……?」

 

 声が震えている。

 それは扉の鍵を閉め忘れたことを『おにぃちゃん』に叱られる心配か、初対面の少女が部屋に押しかけて来たことへの恐怖心か。

 

 暗がりの空間で、年が離れる二人の少女は確かに視線を交錯させている。

 呆然と、矢澤にこも呟いた。

 

「あなた……灯愛を知っているの?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

《二〇階フロア》

 

 

 エレベーターの扉が閉まらない原因は、スーツ姿の柊蒼太郎が寄り掛かるように背中で閉まる扉を押さえつけているからだ。

 箱の中では、RPGゲームに登場しそうな制服を身に纏った園田海未が、二本の獲物を腰に携えて彼と視線を合わせている。

 

「つまり、この二〇階に来るまでの道のりで一五階のフロアに馬鹿でかい金属の扉があった、と」

「えぇ。何の素材か分かりませんが、金属質で赤色の、それも両開きの大きな扉でした。錠前などは見つかりませんでしたが、どうやら鍵が掛かっているようでしたね。開けてみようと試みましたが手応えはなし。鍵穴も錠前も見つからなかったのでさすがにお手上げでしたが」

 

 園田海未からの情報に、柊蒼太郎はふむと考える。

 

(指紋認証か音声認証による自動キーロック型か何かかな? だけど、難民を受け入れるためだけに建設されたこのボロビルにそんなペンタゴンにありそうな科学警備設備が備わっているとは考えにくい……。愚音隊の上にいる暴力団が後から取り付けた、なんて可能性はあるけどそれだけの技術を持ち合わせているものか――)

 

 すると、今度は園田海未から切り出した。

 

「それであなたは――いえ、あなた達はこれからどうするのですか?」

「ん? あぁ、僕達のことね」

 

 柊蒼太郎は視線を天井に向けて考える素振りを見せながら、あまり迷っていなかったようにきっぱりと答える。

 

「まぁ、目的を果たす為に進むまでだよ」

 

 端的に。

 そう締めた。

 

「なるほど、そうですか」

 

 クスリと、園田海未は小さく笑う。

 丸めた手を口元に添える仕草は上品だと思われるが、いったいその内部にはどれだけの色が混ざり合っていることだろうか。

 

「それでは柊弁護士のご子息様、健闘を祈っています」

「あぁ、そちらこそ。綺麗なお顔に傷が付かないようにね」

 

 そう言い交わすと、柊蒼太郎はエレベーターから離れる。

 窮屈な障害壁が取り除かれ、ようやく両の扉が動き出し、やがて閉まる。

 

 グオォン、と重たい音を響かせ、エレベーターの箱が動き出す。

 どうやら園田海未は下の階を目指したようだ。

 

 

「とんでもない女だね、まったく……」

 

 

 園田海未――彼女の存在は柊蒼太郎もよく知っているし、以前から何度か面を会わせて対話したこともあった。

 

 互いの家柄の関係か、そこにはあの有名な西木野総合病院の院長や日本を代表するプロ野球選手である夜伽ノ美雪の父を含めたりすることもあった。

 まぁ、今では夜伽ノ選手と西木野院長が顔を合わすことなんてないのだろうが。

 

「…………、」

 

 勘付かれただろうか?

 柊蒼太郎は、わずかに痙攣するように小刻みに震える右腕を押さえる。

 

 園田家といえば園田流日舞の家元であり、その令嬢は品性正しく上品であり、父母の血をそのまま受け継いだかのような『優等生』である。

 それは柊蒼太郎のみでなく、地元を中心に世間一般に広められる『常識』のようなものだった。

 

「何てことない……ただの『人間』だよ」

 

 何となく……裏切られた。

 そんな気分に柊蒼太郎は毒突きながらポケットの携帯電話を取り出す。

 

 先程から夜伽ノ美雪の安否確認が取れていないが、しょうがない。

 ディスプレイを指で操りながら、とある人物に通話をかける。

 

「あぁ、水浦くん――」

 

 

 

 

 

 








 ついに佳境ですかね。
 次話もよろしくお願いします!





 ……明日は、大学か。





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