そしてまた、今までで一番苦戦した回でもある……のかも?
僕園田海未の事はよく知らないんですよね~……(言い訳)
高坂穂乃果はこのトランプを、何かの集会事に使おうと思って買ったのか、それとも意識せずにたまたまこれを選んだだけなのか。
だが意識していようがしてまいが、このトランプが俺の目の前にある限り、ある程度のテーブルゲームには勝利が約束される。
現に、つい数分前に始めた神経衰弱では、
「く――うぐぐっ…………」
「はい、俺の二連勝」
圧倒的な大差をつけ、俺が短時間での二連勝を決めていた。
「な、なぜです……私達はまだ全てのカードをめくっていません。なのになぜ! あなたはそうも同じ数字ばかり……っ!」
「あァ? こンなモン運だろうが、運。 何でも頭に頼ろうとしなさンなお嬢さん」
それだけで、園田海未は簡単に言いくるめられる。
実はこの神経衰弱は二種類目の勝負で、先程までは園田の希望でババ抜きをしていた。
二人で行うババ抜きに不満はあったものの、園田のある『特徴的な悪癖』を発見してしまい、結果は俺の圧勝だった。
園田と決めたルールはこうだ。
三種類のゲームを決め、それぞれの勝負を三勝先取した方が一ポイント。
つまり先に二ポイント――二種類のトランプゲームで相手を負かせば勝者、というものだ。
話し合いの結果、行うゲームは以下の三つ。
ババ抜き。
神経衰弱。
ポーカー。
すでにババ抜きで勝利し、一ポイント先取している俺は、神経衰弱の次のゲームを取れば勝ち。つまり今はマッチポイントだ。
「くっ……!」
悔しそうに、また後がない現実に顔を強張らせる園田。
だが、この神経衰弱で俺が勝者となってしまうのはいけない。
園田に限って可能性は少ないが、連敗した事による悔しさと恥じで、万が一に捻くれてしまった時の為の安全策だ。
だから俺はわざと、次からの三戦の勝負の負けを手にする。
「や、やりました……三連勝! 三連勝です!」
「あ~あ、やッべェなァ」
……さて、これで園田の方にも『自分は一勝できた。もしこの勝負に負けてもある程度の言い訳ができる』という思想を、少なからず押し付けさせてやった訳だ。
そして、三種類目のゲーム。
ポーカー。
それぞれに五枚のカードを配り、選んだカードを一回だけ別のものと交換し、相手より価値の良い手札を揃える、トランプの代表ゲーム。
本来なら金額と、勝負の時間を短縮させる意味も持ったチップを賭けるのだが、今はそれがない。なので先に三回、相手より良い手札を揃えられた方が勝ちというルールになった。
本物のプロ同士がポーカーで戦えば、彼らが一番に恐れるのはゲームが長時間続いてしまう事だ。心理戦のポーカーで長い時間、相手とやり合うのは脳にも心にも疲労がどっと押し寄せる。
だが俺達はプロではない。
真ん中から分けたカードの束の一番上を引き、数字の大きかった俺がディーラーとして、一回目、二回目は気楽に試合をした。
結果は俺の二勝一敗。
最初が俺のスリーカードでの勝利。二回目が園田のツーペア。三回目が再び俺のスリーカードでの勝利だった。
そして行われる三回目。
俺が自分と園田の分のカードを配り、視線を自分の手札に落とす。
キングのツーペア。
残りはダイヤの2、スペードの8,ハートのエース。
「二枚チェンジです」
園田が言う。
俺はカードを二枚、束から引いて園田に渡す。俺自身もダイヤの2を捨て、一枚カードを引いた。
互いのカードをテーブルに置く。
俺は変わらずのキングのツーペア。
園田はジョーカーを揃えたスリーカード。
「これで私もマッチポイントですね」
「あァ、おあいこだ」
俺は全てカードを手札に戻し、それをシャッフルする。
次で、勝負がつく。
「ふぅ……こういったものは、弓道とはまた何か違う緊張感がありますね」
そう言ってまた深く息を吐く園田は気づいていない。
先程から俺がこっそりと、だが抜け目なく目を配らせていた四枚のカードを手中で操っている事に。
五枚。
園田と俺にと交互に配る。
……もうすでにこの時点で。
俺の勝利は確実だった。
「……三枚チェンジです」
「一枚チェンジ」
それぞれの最終的な手札が決まり、
俺達は同時にカードを机に表示させる。
園田は……ノーペア。ブタ揃いだった。
そして俺は――。
「ふ……、ファイブ、カード……!?」
驚愕の瞳と声で、信じられないという風に身体を震わせる園田に、俺は自分の顔を手の平で仰ぐようにしながら言った。
「ふゥ……ジョーカーの入ッたクイーンのフォアカードを見てまさかと思ッたが、本当に引き当ててちまうたァ、驚いたぜ」
……嘘だ。
そんなもの、大嘘に決まっている。
ババ抜きは園田が顔に出る悪癖を直せずに勝手に自滅してくれたが。
神経衰弱はもっと簡単な論理で勝てた。俺達の使用したトランプカードには、裏面の上下の端に、そのカードの種類と数字が小さく刻まれているのだ。
目を凝らして見てみないと分からない程まで細かく書かれているので、園田は当然気づかない。
疑う事すらしないのだ。
高坂の部屋にあったこのトランプカード。
たまたま、俺も知っていた。
仕事帰りに親父が買ってきたもので、俺に神経衰弱をしようと誘ってきた所で、この手を使われた。
ネタばらしをされた時はただの子供騙し程度かと思っていた俺だが、まさか実践に移す日が来るとは予想していなかった。
「なぜです、そんな……ありえません……ファイブカードなんて……」
納得いかないように嘆きの呟きを口にする園田に、俺もぼそりと小声で言う。
「ボトムディールで調べてみろ――」
「……はい?」
「何でもねェよ」
正直、第三者のディーラーは必要ない。
この手を使うのなら一人で行った方が楽なのだ。
そしてまた、武士道精神を貫く園田海未に俺の『イカサマ』は見抜けなければ、自分が仕掛ける事すらできない。
そもそも『イカサマ』という考えが端から頭にないのだ。
この時代のギャンブルでは、イカサマは見抜かれれば裁かれるが、見抜かれなければやりたい放題だ。
「くっ……せっかく、神経衰弱では勝てたのに……」
そしてやはり、園田海未も人間だ。
人間である以上、敗北を味わえばそれに対する言い訳や、ほんの少しでも自分の良かった点を口にする。
あそこで俺は打てたのに。
あそこで俺はゴールを決めたのに。
あそこまで俺は勝っていたのに。
いくら家元道場の娘とは言え、いくら弓道部のエースと呼ばれる武士道精神の塊とは言えど。
人間である事に変わりはない。
だが人間である故に武士道精神を宿し。
武士道精神を心に宿しているが故に。
園田海未は絶対に約束を守る。
「さて、決まりは覚えていますよね園田さん?」
俺の挑発が乗った言葉には動じず、切り替えた園田の表情は凛々しく険しい、まるで多くの修羅場を経験してきた猛者のような迫力が放たれていた。
「分かっています――あなたに対して、素直に、ですよね」
彼女は立ち上がり、テーブルを回り込んで俺の隣に座り込んだ。
背筋を張った正座を正す彼女に、俺も思わず気を張り詰めた様子で向き合う。
さて。
園田とは正確に知り合ってからまだ二四時間も経ってはいないのだが。
俺はようやく、彼女の本音を聞く事になる――。
前回よりかなり短くなってしまいました。
読んでくれてありがとうございます!
次話もどうかよろしく……僕もスプライトのペットボトルを片手に更新頑張ります。
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