笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 長くなってます。
 
 これでも結構削ったのです。
 それでもどうか、読んでみてください!




14話 園田海未は最低だと笑う

 

 

「私は、あなたが分かりません……。全部、あなたに埋まる真理、思想……本当はどんな性格をしているのか、心の中で私達の事をどう想っているのかすら……」

 

 途切れ途切れだがその言葉は、園田海未がこれから語るであろう正真正銘の彼女の本音。 

 

 やはり弓道や家元道場で鍛えられているからか。

 真っ直ぐに射られる眼差しや聞き慣れない語り口調、日本の手本となり得るような克明な正座に、柄にもなく俺も緊張が背中に漂った。

 冷静さを保てるようにと、出されたお茶で口元を湿らす。

 

「夜伽ノさん」

 

 その呼び方には、昨日今日とまでなかったはずの、相手を敬う精神がある。

 

「私が見てきた限り、あなたは昨日、嫌々といった様子で、また仕方がなくといった様子で、μ'sのマネージャーを引き受けていたように思えます。それも、名前だけを貸してやる。後の事は一切自分は責任を持たないとも仰っていました」

 

 あぁ、確かにそんな事、言った気がする。というか昨日、音楽室に園田の姿はなかったと思ったんだが、どこかで聞いていたのか。

 

「ですが、今日の朝練習でのあなたの行動は、誰の目から見ても素晴らしいと言えるものでした。花陽がダンス中に転倒して怪我をした時、あなたはまるでその出来事が予測できていたかのように素早く動き出していました」

「……別におかしくはないだろ」

「えぇ、怪我人が出れば相応の処置を施す。何らおかしい点はありません」

 

 ……だったら何だ。

 こいつは何が言いたい。

 

「ですがおかしいというのは前の点です。あなたは家から持参してきたバックから、救急箱を取り出していました。確かに怪我人がいるあの状況下では助かりましたが、やはりどう考えても納得できないのです」

「……ストレートに言えよ」

 

 俺は基本的に、どんな物事においてもいち早く結果を見ておかないと気が済まない性格だ。

 焦らされるのも誤魔化されるのも、答えを遠回りにはぐらかされるのも嫌いなのだ。

 

 そして、園田はようやく答えを言う。

 

「名前だけを貸してやる、後は自分は関与しないと公言していたあなたが、望んでもいない朝練習に救急箱などを用意してくるはずがありません。ましてや怪我人が出たからと言って、昨日までの態度を貫いていたあなたならなおさらありえないのです」

 

 ……あぁ、なるほど。

 少しだが、理解できた。

 

 つまり園田は、最初はやる気がまったく感じられなかった俺に、なぜエナメルバックに救急箱を用意するなど、練習に向けて、またマネージャーとしての仕事の義務をまっとうに果たしているのか、と。

 

 そう訊いている訳だ。

 

「別に大した問題でもねェだろ。そンなモン、高校三年の受験勉強と一緒さ。入学から二年の終盤までは勉強なンざまッたくしてこなかッた奴が、三年に上がッて急に焦り出す一般理論と変わらねェ」

「……理由としては不十分です」

「時間がないのは受験生もお前らも同じだ。今の三年が卒業するまで約十ヶ月。それよりも早く訪れるラブライブ本番までに、いやそれ以前に予選を勝ち抜いていく為に練習してかなきゃならないンだろうが」

 

 ……と、今日の朝練で小泉が言っていた。

 だが――

 

 

 

「理由になっていないと言っているんです!! 誤魔化さないでくださいっ!!」

 

 

 

 必死に何かを乞うような怒声は、部屋を突き抜けて下の階まで響いたかもしれない。少なくとも、隣の部屋で待機している高坂と南の耳には入っただろう。

 

 正座を崩し、下を俯きながら絞り出すような声を園田が上げる。

 

「あなたは急に私達の前に現れて……やる気も誠意も纏わせないまま、本気でスクールアイドルをしていこうと団結したμ'sに加入してきて……かと思ったら、今日の朝練習では花陽の怪我の手当てまでして…………」

 

 決して泣いている訳ではないだろう。何かに対して悔しさや悲しさを感じていても、ここで彼女が涙を流す理由がない。

 だが肩を震わせながら訴え続ける言葉の中に、俺はある疑問点が見つけられた。

 

 ――本気でスクールアイドルをしていこうと団結したμ's……?

 

 何か……齟齬を感じる。

 

「何があったんですか……嘘を言わず、誤魔化さず、はぐらかさずに答えてください」

 

 園田もまた、嘘が嫌いなようだ。

 俺も嘘を吐かれるのは嫌いだが、俺自身が嘘を言う事はよくある。

 

 人間とはそういう生き物だろう。例え聖人君主だとしても、吐き出される言葉の中には虚言が利用され、相手を少なからずの意味合いで誤魔化し続けている。

 

 意識していようがそうでなかろうが、神に仕える神父様でさえ、頭の中では自分の信念に疑いの色を垂らしている。

 

 だが、

 

「昨日の帰り道……にこに何を言われたのですか――」

 

 この言葉で、俺は嘘を使えなくなった。

 

「昨日は家の方向が同じだからと、途中までにこと一緒に帰っていきましたよね」

 

 昨日はメンバー全員が校門を出てから同時に別れた。

 当然、全員の目には俺達も映っていた。

 

「その顔はやはり、何かを言われたんですね」

 

 そして園田には人の顔色を窺う事のできる能力が備わっているようだ。

 

 確かにそうでなければ、三年の東條や矢澤を差し置いて、二年の立場からリーダー的振る舞いはできないだろう。

 一人だけ前に出て手拍子で声を出し、全員の踊りを細かく指摘していた時から随分立派だとは思っていた。

 

「正直に話してみてください、夜伽ノさん。それがはっきりしない以上、私もとてもじゃありませんが、あなたと一緒のμ'sではやっていけません」

 

 その言葉は、言われる身になってから初めて重いと感じる。俺からはあくまで口からの出任せだが、園田の言葉は真剣そのもの。

 

 だがもう、俺が嘘を取り繕う理由はどこにもなくなった。

 

「別に……ただ、一言言われただけだ」

 

 俺は園田に伝えた。

 昨日の帰り道。

 矢澤にこ部長から告げられた言葉を――。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『μ'sに入った以上、あんたはもうあたし達の立派な仲間――そして友達よ。これからもよろしくね、美雪』

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「背ェ低い癖に、あの時のあいつ、妙に大人っぽい表情してたなァ」

 

 夕焼けのオレンジ色に包まれながらの光景を、まだ俺は鮮明に思い出せる。

 

「まァ……だからその、何……今日も朝起きた時にそれ思い出して、少しは頑張ッてやろうかッて気持ちになッただけだ」

 

 前髪を指先に絡ませながら俺は言った。

 

「別に、俺は誰彼構わず助けに行ける善人じゃねェ。怪我したのがたまたまμ'sのメンバーの小泉だッたから手を貸してやッただけだ」

 

 嘘はない。

 ただ若干言葉を濁して羞恥から逃れてはいるが、俺の本心を言ったつもりだった。

 

 そしてまた、園田海未は姿勢を正す。

 

「そう、ですか……」

 

 何か思う所がありそうな表情から一転、最初に見せていた引き締まった表情を浮かべた。

 

「私は、あなたが嫌いです」

 

 それは紛れもない、正直な告白だろう。

 

 すでに俺は聞き慣れている。

 

「あなたは穂乃果の……私の幼馴染みを一度、強く否定しました」

 

 そう言われ、俺は思い出す。

 

「数日前の、廊下での件か……?」

「自覚はあるのですね。確かに穂乃果がいきなり近寄りすぎた行為に走った事は確かですが、何もあそこまで強烈に振りほどいてやる事はなかったでしょう――――なぜです?」

 

 そう問われ俺は、さて困った。 

 

 確かにあれは俺に非があるだろう。申し訳ない事をしたと素直に後悔もしている。高坂にだってまだ謝っていない。

 

 だが、あれは――。

 

「いえ、それはまた今度でいいでしょう」

「……!」

 

 俺の短い沈黙の間に心変わりしたのか、園田は別話題へと移ろうとする。それは俺からしても好都合だったので、何も言わない。

 

「私があなたを嫌っていた――いえ、気に食わなく思っていた理由は、嫉妬に近かったのです」

 

 それも正直な告白だろう。

 だが、俺からすれば極度な皮肉に聞こえ、多少頭に来たのも事実だった。

 

「……あァ? 容姿端麗で博学多才、全国出場を叶える弓道部のエースにして音ノ木坂の星と言われ、三年の教室にもその評判が絶えず流れてくる園田道場の一人娘が何を仰ッているンですかァ?」

「夜伽ノさん、あまり年下を虐めないでください」

 

 クスッ、と笑って園田は言った。

 

「私があなたに嫉妬を感じたのは、容姿や学力といった面ではなく……幼馴染みを取られたような気分になったからです」

 

 ……幼馴染み?

 高坂と南の事か。

 だが、俺が取った――?

 

「ことりはあなたに対し、最初こそ敬遠するように距離を持っていましたが、話を聞くと今ではそんな様子はないようです。いえ、その事はいいんですよ、もちろん。ことりはいつだって友達を大切にして、相手の気持ちを最優先に思いやる事ができる、良い子ですから」

 

 でも、と園田は続ける。

 

「穂乃果は、違いました」

 

 彼女は急に床から立つと、俺の横を通り過ぎ、高坂の机に向かう。

 教科書などが立ち並ぶ棚から、一枚のピンク色のノートを取り出した。

 いかにも女子高生が好みそうな可愛らしいノートだ。

 

 それを手に持った彼女は再び位置を戻して正座し、ノートを机の上に置いた。

 

 表紙をめくり、ノートの先頭のページに目を向ける。

 

「――っ、これ……」

 

 丸っこい文字で、赤いマッキーか何かで書いた線の太い文章が読めた。

 

【夜伽ノ美雪のμ's加入大作戦!!】

 

 まるまる一ページを埋めたそれを見ていると、園田がまた一ページをめくる。

 

 そこからは打って代わり、細いペンで小さな文字で細かに書かれた文章が白紙を埋めていた。長々と綴られる文章ではなく、箇条書きに短くまとめられたものが多く目立った。

 

【食べ物で釣る!】

【ドキドキ! ことりちゃんのお色気大作戦!!】

【真正面から告白!】

【もう強引に練習に参加させる!】

【一緒に遊びに行く!】

【私達の歌を聴かせる!】

 

 後半になるにつれて多少はマシなアイディアになっていくのだが、やはり高坂一人の頭ではこの程度が限界らしい。

 そう言う俺も、歌を聴かせるという案に難なく落とされた訳なのだが。

 

 

 いや、だがそう言えば、昨日の音楽室に、高坂は遅れてやって来ていた。

 

 

 しかし。

 

 これだけの考えを、ノート二ページ分びっしりと埋まる程のアイディアを。

 高坂穂乃果はこの数日で考えていたのか。

 

 俺の、為に――。

 

「穂乃果は昔から、誰もが無茶とも思える発想を行動にしてきました。どんな危険な事でも、一度考え出せば実行しなきゃ気が済まない。挑戦もしないで最初から諦めたくない。穂乃果は、そういう女の子なんです。いくら私やことりが止めても、心に火の灯った穂乃果は誰にも止められない」

 

 だから、と。

 園田は隅から隅まで文字に埋められたノートを微笑ましく見る。

 

「穂乃果があなたをμ'sのマネージャーにするんだと息巻いていた時、私はさすがにもう悟りましたよ。――あぁ、今回も、あの子の思い通りにいってしまうんだろうなって」

 

 それが実際、そうなった訳だ。

 

 高坂穂乃果。やはりあいつの無邪気に思える迷いのない行動、誰とでも仲良くなろうとする挑戦魂は昔からのものだった。

 

「ですがあなたは一度、穂乃果を強く否定した。それが逆に、あの子に気合いを入れ直させたのでしょう。いつもは宿題を放りだして遊びに呆けていた穂乃果は、まるで別人のようにあなたに対する執着心を沸かせ、このノートに考えを書き綴っていました」

 

 園田はノートの、ペンの筆圧ででこぼこになった面を指でなぞる。

 

「まるで私達の事は頭に入っていないように……穂乃果と教室で喋る時や、中庭でお弁当を食べてる時、放課後に一緒に帰る時にも、あの子の口から出る名前は夜伽ノさんばかりで……」

 

 私も弱いですよね、と彼女は笑う。

 

「情けないです。たったそれだけの事で、今までずっと一緒だったはずの幼馴染みが取られたような気がして――その結果が今の現状ですよ。あなたに嫉妬心を抱き、それが膨らんで敵対心に近い心情にまで落ちて……挙げ句の果てにはそれを穂乃果とことりに悟られて…………」

 

 彼女は嘆くように言葉を漏らした。

 

 己の貧弱さ、脆さ。

 幼馴染みが自分から離れていくのではないかと疑ってしまう醜さを。

 

 神父に懺悔する罪人のように告白した。

 

 詰まる所、彼女は怖かったのだろう。

 高坂穂乃果が俺へと渡ってしまう事に。

 

 だが直接的に、高坂穂乃果にそんな悩みは相談できない。

 南ことりにも同様だろう。幼馴染みを疑っている自分を見せたくなかったのだ。

 

 溜め込む一方でその不安は俺への嫉妬、また憎しみに近い感情へと変わる。

 それであの敵対心が剥き出た眼だった。

 

 園田は、俺が高坂の差し出した手を乱暴に振りほどいた事は、想像よりも重く受け止めていない事も分かる。

 

 もしかすると彼女は、それについて俺を責める事ができない理由があるのか。例えばだが、自分も似たような事を高坂に対してやらかしてしまった経験があるのかもしれない。

 逆に、その事象について俺を責めれば、俺に対して嫉妬を通り越した憎悪を抱いた自分に言い訳しているようで気に食わなかったのか。

 

 それらを踏まえた上で。

 いずれにしても。

 

 やはり、園田海未も一人の女の子だった。

 

 いくら弓道部のエースと騒がれても。

 いくら年上からも尊敬の眼差しで見られても。

 いくら容姿や学力が優れていても。

 

 彼女の実態は幼馴染みを――友達を大切に思える一人の女の子なのだ。

 嫉妬を抱く事ができたのが、何よりの証拠だと言えるはずだ。

 

「私のこの邪念が、あなたを不快に思わせてしまいました」

 

 だが、園田海未はそれを邪念と呼ぶ。

 

「申し訳ありません」

 

 土下座――という程腰は曲がっていないが、彼女は俺に対して頭を下げる。

 

「……なァ、園田」

「……?」

 

 彼女は頭を上げた。

 

 そして、俺は言う。

 

「自分が抱いた気持ちを邪な思いとは言うな。それは同時に、高坂の事までも邪な存在だと言ッているようなモンだぞ」

「そ、そんな事――!」

「あるンだよ。事実お前はそう言ッたンだ」

 

 ぴしゃりと俺が区切るように言うと、園田は諦めたように黙る。

 

 困惑したように眉を寄せたかと思うと、大きな息を吐いて、笑みをこぼした。

 

「あなたには……敵いませんね……」

「……俺の方が先輩なンだよ」

 

 俺達は素直に言い合った。

 

 園田は素直に俺が嫌いだと言ったし。

 俺は今日の姿勢の訳を話した。

 

 お互いに払拭されない点はまだあるかもしれないが、相手の正直な言葉を聞けたという時点で、この場でのやるべき行為は終了している。

 

 もう、十分だった。

 

「夜伽ノ……いえ、美雪さん」

 

 彼女は右の掌を差し出す。

 

 表情に、敵対心などはもうなかった。

 母親という印象が強い、柔らかな微笑みが、俺を見つめている。

 

「これから、よろしくお願いします……」

 

 こうして、俺達の会議は一時停止を迎えた。

 

「あァ、こちらこそ」

 

 俺もその手を握り返す。

 

 途端に、園田は予想通りの怪訝顔を浮かべた。

 

 手を離すと、彼女は右手に張り付いた一枚のカードを左手に持ち替え、それを見る。

 

 俺が握手に交えて渡した、もう一つの正直に。

 

 ポーカーに混ぜたジョーカーは一枚。

 

 隠し持っていた俺のもう一枚のジョーカーを見て、園田海未は瞳を閉じ、そのカードを胸に当てる。

 

「ふふふ、もう…………あなたは、最低です――――」

 

 彼女の本音が、ようやく聞けた。

 

 

  ーーーーーーーーーーー

 

 

 それから俺達は再び、四人揃って部屋に集まった。

 

 仲直りしてくれてよかったと安堵の表情を見せる高坂と南に、もともと喧嘩なんてしていませんと頬を膨らませる園田。

 

 それを傍目に『ほむまん』を囓りながら、俺はたった今、メッセージが届いた通知が表示されるスマホの画面を見る。

 

 

 差出人は西木野真姫。

 

 

『明日、花陽と凛も一緒に遊びに行くから、あなたも来なさい。集合時間や場所は後で伝えるわ』

 

 

 まるで先輩を顎で使う事も気にしないといった一年からのお誘いだった。

 

 

 

 





 ようやく園田回が終わりました!

 長文を読んでいただきありがとうございました!
 次回もよろしくお願いします!

 感想や指摘、質問もぜひ!
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