笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 え~………………はい。

 悩んだ挙げ句、当初の路線からガバッ! とレールの向きを変更して書いたこの回ですが……一つ、判明した事がありました……。


 僕、まきりんぱなの事を全然理解できてない!!

 ですが読んでみてください!


16話 予兆の違和感

 店主のオヤジが作った激旨ラーメンを食べ、それから木陰のベンチで体力を回復させた俺達は、再び電車を乗り繋いで渋谷までやってきていた。

 

 時間帯は午後二時過ぎ。

 

 大勢の客が歩く、渋谷の街の中心に立つ敷地面積の広いアウトレットパークを見回る俺達。人混みは大の苦手なのだが、旨いラーメン屋を紹介してくれた星空へのお礼という理由で来てしまっている。

 

 俺は特に用がないのは当然として、一年の三人はそれぞれ買いたいものが別にあるらしい。四人で順番に回っていこうという話になったはずなのだが……。

 

「どこだ……ここ……」

 

 俺、夜伽ノ美雪、高校三年生の一七歳。

 

 完全に、迷子である。

 

「あァ、くそ、あいつら……テンション上がッてンのか知らねェが、人混みを屈みながら突ッ切るなンて真似しやがッて……」

 

 西木野はゆっくり歩きたいと言っていたのだが、星空に腕を掴まれて朝の俺のように強引な形で引き摺られていった。

 

 おかげで俺は完全無欠の孤独者となった。

 

 立ち並ぶ店舗の入り口を埋めるかのように、左右に首を振ったら人、人、人。

 やはりその中では若者や学生の姿が多く見られる。

 

 そして心なしか――。

 

「すンげェ……見られてる」

 

 さっきからすれ違う――いや、雑踏に紛れる俺に遠くからも目を向けてくる数多の視線がどうも気になる。

 

 だが無理もないだろう。前が鼻先、後ろを尻辺りまで伸ばした銀髪の男なんざ、そりゃ注目浴びるに決まっている。

 まぁ、俺は女だけど、他人は一目でそうとは思わないだろうしなぁ。

 

「はァ……どッか適当に店入るかァ……?」

 

 ただ外で突っ立っているだけじゃ、俺の外見からしても明らかに不審者と思われる。それを避ける為、俺は数ある店舗の中から適当に選んで、店の扉を開けた。

 

 の、だが――。

 

「よりにもよッて、ジュエリーショップかよ……」

 

 何でこんな店に辿り着いてしまったんだろうか。

 

 色鮮やかな光沢を放つ指輪やネックレス、ピアスや髪飾りなどが並べられた店内には高貴そうなご婦人が商品に目を配らせ、店員の女性スタッフも丁寧でなおかつ上品な受け答えで客と接している。

 

 場違い感がやばい。

 どれくらいやばいかって言うと、水泳の競争種目のスタート位置に一人だけふんどしを巻いたお相撲さんが混ざっているくらいやばい。

 

 すぐに店を出て、安っぽい服が売られている店に移ろうと、そう思った俺の尻目に赤い髪の毛が映った。

 見るとやはり、それは西木野真姫で。

 

 ゴージャス衣装の婦人達に混じり、高校生の彼女は髪飾りコーナーの一角で棚の商品に目を向けている。

 彼女の雰囲気か、お嬢様感が醸し出される上品な見栄えからか、自然と西木野に場違い感は感じられない。

 

 まぁ、大病院の跡継ぎ娘となりゃ、大海原のようにある家の金で、こんな光煌めく高級店でも際限なく使えるんだろうな。

 

 一人で彷徨うよりは良いだろうと思い、俺は彼女に話しかける事にした。

 

「西木野」

「あら、美雪じゃない。あなたもこのお店で買い物――」

「すると思うか、俺が」

 

 言うと、西木野は若干口元に笑みを浮かべてから「そうね」と答えた。

 

「花陽と凛は? 一緒じゃないの?」

「俺が聞きたいッての。お前ら勝手に走ッて行くモンだから、さッきまで俺が迷子だッたンだよ」

「それ、あたしもよ。凛と花陽ったら、あたしの手を離してどんどん人混みを掻き分けて進んで行っちゃうんだもの。まったく、失礼しちゃうわね」

 

 そう行って西木野は肩にかかる赤髪を背中に回し、再び商品に注目する。

 

「……お前、いつもこンな高価そうな店で買い物してンの」

「まぁね。ママから貰うお小遣いで、目についた服とかポーチとか買ったり、たまにこういうお店でネックレスを購入したりするわ。まぁ、別荘にあるグランドピアノとかは、さすがにサンタさんにお願いしたんだけど……」

 

 ……サンタさん?

 何言ってんだ、こいつ……。

 

 しかし、こいつの家は別荘まで購入してやがんのか、とことん金持ちだな。

 

「何でもアリだな、お前ン家は……」

「まぁ、あたしって小さい時から欲しい物は何でも手に入ったから。基本的に貰えなかった物とかはないと思うし……」

「…………」

「? どうしたの?」

 

 多分、こいつに悪気はないんだろうな。言葉に悪意や皮肉の調子が見えない。こいつ、放って置いたら家のない乞食にまでそんなセリフを吐きそうだな。

 

「俺、ちょっと小泉達を探して来るわ」

「……え? ちょ、美雪? どうしたのよ急に――」

 

 そう言って振り向いた西木野は、なぜか凍てつくように表情を強張らせ、瞳をわずかに揺らしていた。まるで目の前のライオンに怯える兎のように――。

 

 何だ、俺の頭の上に天使の輪っかでも見つけたのか、こいつ。

 

「いや、買い物終わッてから探し出すのも大変だろ。どうせ俺は買うものねェし、今のうちに場所だけでも把握しておくわ」

 

 連絡先にメッセージを送ればいいだけの話なのだが、俺は流すようにそう言い残し、その場を離れた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 新規オープンしたらしいアイドルショップ。プロのステージに立つ成人越えのアイドルの写真が店内に貼られてあるが、商品の約八割はスクールアイドルに関連したグッズだった。北は北海道から南は沖縄まで揃ったスクールアイドル達の直筆サイン(数量限定)のコーナーで、むさ苦しく集う若人の集団に、小泉花陽の姿を見つける。

 

 彼女は、何かと戦っていた――。

 

「こ、これは『ナイト☆ミュージアム』で活躍する静岡県ナンバーワンセクシーアイドルの園崎水守ちゃんのサイン!! あぁ! こっちは京都の『和服蔵人』に所属する金髪美形の結城庵ちゃんの直筆!! あぁ、そんなまさかこれはっ! 最近メンバーを加えて新ユニットを作ったって話題の『GOLDEN ROSE』のセンターで踊る桃ノ川翠ちゃんの直筆しかも手形付き――っっっ!? あぁ、あぁ! こ、ここは天国ですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ……きっとあいつは、主婦になったら安売りバーゲンで揉め合うおばちゃん集団の中でも大活躍できる。

 

 そう確信した俺は同時に小泉がこのアイドルショップを離れないだろうと思い、残る星空の探索に足を動かした。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「――どうした、欲しい服でもあッたか」

「にゃにゃにゃああああああああああああああああああッッッ!?!?」

 

 店の中で外から見えるように展示されている洋服を見つめていた星空に背後から声をかけると、彼女は野良猫のように颯爽と身体を回して距離をとった。

 

「って、美雪ちゃんかぁ……ビックリしたぁ。心臓止まるかと思ったよ」

「いや、悪い。驚かせるつもりはなかッたンだがな」

 

 いや、本当に。

 

 ふと俺がガラス張りの内側に展示された、ピンク色のフリルが全体的に装飾された可愛らしい服に視線を向ける。

 

「……気になるンだッたら店ン中入ればいいじゃねェか」

 

 俺が当たり前のように言うと、なぜか星空は一八〇度回転しそうな勢いで首を横にブンブンと振った。

 

「そ、それは絶対に駄目だよ!」

「……あァ?」

 

 理由は知らないが、彼女のキャラである猫語を忘れる程にまで、相当焦っているのか。 

 

「り、凛なんかがこんな、可愛いお洋服ばっかり売ってる店に入ったら、それこそ笑いものだよ!」

「……何でだよ。別におかしい所はねェぞ。見ろよ、店内にゃ女子高生みたいな歳してる奴らは沢山いるぜ。子供服の店と勘違いしてンのか?」

 

「そ、そうじゃないよ!!」

 

 おっと、これには少し驚いた。

 猫語で普段からにゃーにゃー言っているあの陽気で穏和な星空凛が、ここまで声を荒げるとは思わなかった。

 

 ならなぜ、彼女はそうしてまで否定する?

 

「……店ン中に知り合いでもいンのか?」

「そ、そうじゃないけど……」

「…………」

 

 どうやら、あまり話したくはなさそうな雰囲気だ。

 だが俺が来る以前の星空は興味津々といった感じで店内の洋服を眺めていたが……。

 

 さて、こうなるとどうするか。

 この場に星空を置いて俺は離れるか。

 星空も連れて別の場所へ移るか。

 

 だがあれこれ考えているうちに、星空の方から俺の腕を握ってくる。

 

「え、えへへ……じゃぁ、そろそろ行こっか。凛ももともとは買いたいものなんてなかったし……」

 

 見上げながら俺にそう言う彼女の表情は、分かり易い程に無理をしている様子だった。

 

「……そうだな」

 

 考えるのは後だ。

 

 ひとまず、星空凛をあの店から遠ざける必要があると、俺の直感が告げていた。

 

「ごめんね、美雪ちゃん」

「あ?」

「その……大声出して」

 

 歩きながら俯いて言う星空に、俺は理由を聞こうとはしなかった。

 

 きっと、何か深い訳がある。

 

 無理に聞き出せば余計に気を悪くするかもしれないし、もし、何かしらのトラウマが原因として絡んでいるのであれば、それは他人が勝手に口出しをするもんじゃない。

 

「いや、別に気にしてねぇよ」

「美雪ちゃん」

「……あ?」

 

 今度は、彼女は俺の目を見て告げた。

 

「ごめんね」

「……そりゃ、何に対する謝罪だ?」

 

 訊くと、星空はプイと顔を逸らした。

 

「……今は、教えたくない」

「……そうかい」

 

 それなら、それで良い。

 

 答えをぼかしてはぐらかされるより、堂々とそう宣言してくれる方が気持ちが良い。

 

 しかし。

 

 先程の星空の態度といい、店内での西木野の表情といい……。

 

 何か、様子が変だとは感じていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「それじゃーねー!」

「今日はとても楽しかったです!」

 

 そう言って手を振った星空と小泉とは、最寄りの駅で別れた。二人は小泉が買いすぎてしまったグッズが詰められた紙袋を両手に、すっかりと暗くなってしまった道を歩いて去っていく。

 

 それを見送ってから、俺と西木野も並んで帰路につく。

 

 街灯の明かりだけが頼りの細道は小動物の気配も感じられない、薄気味悪いものだった。

 当然だろう、時刻は午後の八時を回っている。あれからまたアウトレットモールを四人で周り、その中で晩飯をとってからの帰宅なのだ。西木野は晩飯を外で済ます事を親御さんに説得するのに時間がかかったそうだが。

 やがて先の道に二手に分かれる分岐路が見えた。俺はここから右に行くが、聞けば西木野は左へ曲がるようだった。

 

「一人で平気か?」

「大丈夫よ。もう五分も歩けば着く所だし」

 

 それなら送っていく必要もないだろうと、俺は彼女に背中を向ける。

 

「ンじゃ、また明日な」

 

 そう告げて歩き出そうとした所を、何かが俺のパーカーの袖を引っ張ってきた。

 見れば袖には白い指。

 視線を辿れば当然、西木野の顔がある。

 

 どこか不安そうに、眉と唇を歪めていた。

 

「……どうした、やッぱ一人じゃ怖いか?」

 

 彼女はゆっくり、首を振る。

 

「ううん、違うの……もっと、もっと怖いものがあるのよ……」

「……?」

 

 彼女はそう言うが、特に身体が震えているなどといった症状は見られない。

 

 夜道に彷徨う幽霊といった類のものを言っているのではないとしたら、いったい何が怖いと言うのか……? 

 

「ねぇ、美雪……あたし、あなたに何か気に障るような事、言っちゃったかしら……」

 

 依然、袖を離さないまま、顔を下に向けながら西木野は言う。

 

 だが、俺には何の事か、心当たりがまるでない。

 

「……何の話だ」

 

 向き合うように身体を動かすと、彼女はようやく俺のパーカーから指を離した。

 

「あなた……今日の、午後……あたしと二人でいたあのジュエリーショップで……」

「…………」

「あたしの事、すごく、冷たい目で見てたわ……。無表情なんてものじゃない……もっと、冷酷で、凍えてしまいそうな……そんな目で、あたしを見てたわ……」

 

 聞かされた途端に、

 

 やらかした――と思った。

 

 ようやく、その時の現場の光景を思い出せた。

 あの時の、西木野真姫の怯えたような表情を、やっと思い出した。

 

 しかし。

 

 どれ程まで、俺は分かり易い表情を浮かべていたのか――。

 

「どうして、あなたがあんな目をしていたのかは分からない。だって、身に覚えがないんだもの……」

 

 そりゃ、そうだろうなと俺は思う。

 あくまでお前には、悪意などなかったのだから。

 

「でも、もしあたしの言葉であなたが傷ついたのだとしたら……謝らせて……。あたし、何度だって謝るから……だから――」

 

 やがて、彼女は顔を見上げさせる。

 

 

 

「あたしの事……嫌いにならないで……」

 

 

 

 夜道より、もっと怖いもの。

 俺に、嫌われる事――?

 

「それが、お前の言う怖いものッてやつか?」

 

 コクリ、と。

 西木野は深く一回、頷く。

 

 

 ……何かが、おかしい。

 違和感がある。

 

 西木野が、俺に嫌われるのを恐れている――?

 

 

 いや、やはり何かおかしい。

 

 

 普通、彼女なら今日のバドミントンの時の調子で「何不機嫌そうな顔してんのよ、あたしが何かした?」と軽い口調で聞いてくるはずだ。それは星空と小泉と喋っている西木野真姫からも想像はできる。

 

 彼女は、こういった様子で謝ってくる人間のタイプではない。

 まして、医者の娘でありながら、己の誇りとプライドの高さを持つ西木野真姫なら尚更の事だった。

 

 確かに、俺は彼女と同じμ'sのメンバーとなった。

 だが西木野は「嫌われるのが怖い」と言ってくる程、俺に深入りはしていないはずだ。

 

 俺達は出会ってまだ三日も経過していない。

 なのになぜ、そこまで――。

 

 ふと、俺は彼女が一分前に口にした言葉を思い出す。

 

 あぁ、西木野。お前に言ってやりたいよ。

 

 無表情よりも、凍えるような冷酷な目だと、そう言ったな。

 

 

 

 

 ――まさに、今のお前の目だよ。

 

 

 

 

「……別に、俺はお前の事は嫌ッてねェよ。つか、お前の見たその、俺の目ッてのも、気のせいなンじゃねェの?」

「…………」

 

 さすがにこれだけじゃ納得してくれねぇか。

 

 そう感じていた俺だが、西木野は意外にもすんなりとその言葉を鵜呑みする。

 

「……ほんとに? 美雪、怒ってないの?」

「ン、あァ……つか、別に俺を怒らせるような事なンざ、お前は言ッてねェだろ?」

「で、でも……無意識に……」

「だとしても、俺が気にしてねェッて言ッてンだから、それで良いじゃねェか。逆に俺は、そうやッてしつこく何度も口答えしてくる奴には腹立つけどな」

 

 それで、西木野はピタリと黙り込んだ。

 

 やがて安堵感の色が混じる微笑みを浮かべると――。

 

「ま、なら良いんだけどね」

「ッ……!?」

 

 ケロリと。

 

 今までの態度や表情が全て演技だったかのように、普段通りの西木野真姫へと一瞬で戻った。

 これには思わず俺も、眉を寄せて固まってしまう。

 

 彼女はやがて、腕にぶら下げていた小さな紙袋から、一つの箱を取り出した。黒い長方形に象られた箱に張られたシールには、あのジュエリーショップの店名が見える。

 

西木野はそれを、俺に差し出す。

 

「これ、プレゼント」

 

 突然の、予想などつくはずがないサプライズに、俺はポカンとだらしなく口を開けた。

 

「は、え……何……今日はクリスマスじゃねェよな……?」

「何馬鹿みたいな事言ってる訳? クリスマスはサンタさんからプレゼントを貰うものでしょう? ほら、これ」

 

 ぐいぐいと俺に箱を押し付けてくる西木野に、やむを得ず俺はそれを受け取った。

 

「……つか、これ何?」

「開ければ分かるわよ」

「何で俺に? 別に誕生日は今日じゃねェンだけど……」

「別に良いじゃない? あなたがμ'sの一員になったお祝いものとでも言おうかしら」

 

 くるりと身体を回転させて勝手に歩き出す西木野は、「返品はきかないから」とだけ言って、分かれ道の左に続く夜の暗闇へと背中を小さくしていった。

 

 

 彼女の急遽な態度の変貌に。

 彼女からの突発的なプレゼントに。

 

 俺はただ呆然とその場に立ち尽くす事しかできなかった。

 

「マジで、訳……分かンねェ……」

 

 俺のジーパンのポケットにあるスマホが震動している事にすら気づかない程、俺は数分間、抜け殻のようにただただ突っ立っていただけだった。

 

 その後に帰宅し、自室に入ってから俺はようやくそのメッセージを見る事になる。

 

『ちゃんと明日の学校に付けてきなさいよ』

 

 差出人、西木野真姫。

 

 

 

 





 読んでくれてありがとうございます!

 いかがでしたでしょうか?
 僕からは、この回ではこれしか訊けませんし、書けません……。

 次話のプロットはほぼ埋まっているので、早めに更新できそうです!
 みなさんよろしくお願いします!

 感想や指摘、質問などを、ぜひとも!
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