笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 とあるラノベを読んでいた時期とこれを書くのが重なった結果がこれです……。

 ではどうか、読んでみてください!


20話 For friends and the future to spend

 叔母がロシア人のクォーターという影響で、粒子を振りまくような煌めく金髪と、清濁の混じりがない澄みきった水色の瞳を持つ絢瀬絵里。

 

 皆から頼りにされる生徒会長。

 音ノ木坂学園の最後の砦。

 清廉潔白で才色兼備。

 まさに錦上に花を添ったような高校生離れとした女の子。

 

 教室の隅の席に座り、そんな完璧超人のような彼女は深いため息を吐いた。

 

 眉根を上げ、顎肘を突きながら、絢瀬絵里は昨日の練習を終えた後の出来事を思い出していた。

 

(ちょっと、急かしちゃったかしら……)

 

 作詞と作曲。

 ダンスの振り付け。

 絢瀬絵里はそれら話を、アイドル研究部員が使用する更衣室前の廊下で、夜伽ノ美雪に持ちかけた。

 

 結果は真っ向から拒絶されるという最悪なものだった。

 しかも彼女の機嫌まで酷く損ねてしまう結末となり、もしかしたら彼女がμ'sを脱退してしまうかもしれないと心配していた。

 

 他でもない、自分のせいで――。

 

(……どうしましょう)

 

 現在は昼休みを終えた五時間目の授業中。

 昼食の弁当を持って昨日と同様、東條希と矢澤にこを引き連れ、夜伽ノ美雪のクラスへと顔を出した。

 

 しかし、彼女の席は空席となっていた。

 

 例の渡り廊下の階段にいるのかと思ったが、クラスの女子生徒から「今日は夜伽ノさんは来ていない」との情報を受け取り、絢瀬絵里はさすがに頭が重くなった。

 

(完っ全に怒っているわよね……今日休んだのだって、私が昨日下手な事を言っちゃったからかも……いいえ、絶対にそうだわ)

 

 教師の説明など耳に入ってこない。

 板書を取る余裕すらなかった。

 

 いくらメールを送っても返事が来ない。

 生徒会長でありながら、彼女は堪えられず机の下でスマホ画面を弄り、何度もライン画面を開いていた。

 

 新着――一件。

 夜伽ノ美雪。

 

「チカァ!?」

 

 表示されたディズプレイの画面の文字に、絢瀬絵里は思わず声を上げて立ち上がってしまう。

 斜め前の席に座る東條希はもちろん、クラスメートも教師も彼女に視線を向けた。

 

「あ、ご、……ごめんなさい」

 

 しまった、と彼女は思う。

 

 思わぬ羞恥に顔を赤らめながら席に座ると、さっそく新規の受信メッセージの内容を開く。

 

『今から学校行く』

 

 送信主は夜伽ノ美雪に間違いはない。

 

 返信をくれたという喜びと同時、絢瀬絵里は再び深い思念に捕らわれる。

 

(も、もしかしたら……μ'sを抜けるって報告しに来るつもりなのかも……。ど、どうしよう……。いえ、考えるのよ絢瀬絵里。そう、私ならきっと何とかできる。かしこいかわいいエリーチカというお祖母ちゃんから授かったこの異名は伊達じゃないのよ。この女帝エリチカ様なら、最悪の展開を打ち破る事ができるはずチカ!! …………いえ、駄目ね。焦りすぎてて語尾に変なのがくっついちゃったわ。あれ? でも今のって、にこの言ってたアイドルに必要なキャラ作りに向いている……チカ?)

 

 現実逃避するように、脳内で語尾チカの可愛い発音を研究し始めた絢瀬絵里の視線はふと、右斜め前の席に座る東條希の背中へと向けられる。

 

(いざとなったら、希のスピリチュアルパワーで何とかしてもらえばいい話ね。ふふ、エリチカったら何て頼りになる親友を持っているのかしら。エリチカは幸せ者チカ!)

 

 ちなみに絢瀬絵里は、昨日の夜伽ノ美雪との会話の件を他のメンバーには話していない。

 自分達二人以外は更衣室にいたので、誰にも話の声は聞かれていないはずだ。

 

 しかし今日、もし夜伽ノ美雪がメンバー離脱の話を持ち出してくれば、必死に引き留めようとすると同時、当然その理由などを高坂穂乃果辺りがしつこく問い責めるだろう。

 

 そうすれば当然、原因となった自分の事が明るみに出てしまう。

 

 そもそも作詞作曲を夜伽ノ美雪に依頼するというあの件は、絢瀬絵里の独断での行動だったのだ。

 人手と日数が足りていない現状を知り、他のメンバー――親友の東條希にさえも相談なしに、彼女が勝手に持ちかけた話なのだ。

 

 その事実が浮かび上がれば、きっち自分はメンバーに責められる。

 

 そういった内容の沈思黙考を繰り返しているうちに、あまりの焦りや自戒からか――。

 

(かしこい! かわいい! エリーチカ! 略して――K・K・E!!)

 

 などと、彼女は訳の分からない妄想に浸ってしまったのだろう。

 

 だが、絢瀬絵里は後に全て知る。

 

 杞憂だった、と――。

 

 

  ーーーーーーーーーーーー

 

 

 六時間目の授業だけを受けた後の帰りのホームルーム後すぐに、俺はμ'sのメンバー全員にメッセージを飛ばした。

 

『放課後、部室集合』

 

 別にわざわざ言わなくても勝手に集まるんだろうが、こういったものはやはり形から入るのが妙案だろう。全員が、俺から話があるのだと把握ができる。

 

 まだ一人も姿を見せない部室に置かれたコの字の机の、その窓際中央の席。

 前までは矢澤にこが部長として腰掛けていた席らしいが、数日前に彼女がマネージャーの俺に譲った席だ。

 そこに俺は座って、ただジッと待っていた。

 

 さて、誰から来るか……。

 

 しかし予想に反して、部室の扉が開かれたと思うと、そこからはメンバー九人全員が揃って入ってきた。

 

「あ、美雪ちゃんもう来てる!」

「なんや、随分とお早いなぁ」

「すっかりとその席がお気に入りみたいね」

 

 メンバーが口々に言いながら、俺に軽い挨拶程度の言葉を投げ掛けては次々と席についていく。

 鞄を自分のイスの隣に置き、全員が体勢を直すようにイスを押して座ると、やはり俺に注目が向けられた。

 

「それで、美雪さん……私達に話があるのですよね?」

 

 園田が確認するように尋ねる。なぜか隣の席で絢瀬が表情を青くしながら寒さに耐えるように震えているが、風邪でも引いたのだろうか。

 

「あァ……まァな」

 

 組んでいた脚を直し、上着のジャージのフィンガーを胸元からやや下ろす。

 

 ――さて。

 

 

 こっから先が俺の人生での大一番だ。

 しくじれば後はない。

 

 

 悟られないよう息を吸い、切り替えるように吐いた。

 両手を組みながら机の上に置き、俺は九人の顔を見回してから口を開く。

 

 

「まずは――」

「ごめんなさいっ!!」

 

 

 唐突に。

 何の予告も申し出もなく、狭い部室内に響いたその声は、絢瀬絵里のものだった。

 立ち上がり、腰を九〇度に折って謝罪の言葉を言う彼女に、当然メンバーは愕然とした様子で顔を向けた。

 

「本当にごめんなさい、美雪……」

 

 絢瀬が頭を下げた方角には、俺一人しか存在しない。

 

 いや、まさか――。

 向こうから謝ってくるといった行動に出てくるとは思わなかった。

 

 心当たりのある俺以外は、全員がキョトンとした表情を浮かべている。

 察するに、絢瀬は昨日の事を誰にも話してはいないようだ。

 

 なおも、彼女は言葉を続ける。

 

「昨日の件は、私が愚かだったわ。いくら置かれた状況や人員が厳しいからと言っても、明らかに軽率な言動をあなたにしてしまった……。本当に、申し訳ないと思っているわ」

 

 だから、どうか――。

 

 彼女は未だ頭を下げたまま、懇願を交えた本懐を俺に向ける。

 

「μ'sを――やめないで……」

 

 その言葉でさすがに尋常でない空気を感じ取ったのか、他のメンバーがギョッとしたように俺に目を剥いた視線を向けた。

 

「……え!? えぇ!? な、何で!? 美雪ちゃん、どうしてそんな話になっちゃってるの!?」

「いきなりすぎにゃ!? 凛達何も聞いてないよ!?」

 

 高坂と星空が声を揃えたように言う。

 それ以外も何か言いたそうにしていたが、あまりの急な展開に言葉が出ずといった様子だった。

 

 絢瀬も、観念したように顔を上げた。

 

「ごめん、みんな……黙っていたんだけど、実は昨日――」

「いや、待て」

 

 咄嗟に俺は制止をかける。

 これ以上絢瀬に言わせれば、また後で説明し直す事が面倒になりそうだった。

 

 怪訝に俺を見つめる絢瀬へと、俺も立ち上がって彼女を見る。

 

 

「今回は、俺が謝るべきだ――すまない」

 

 

 真摯な姿勢で俺が謝罪の言葉を口にしたのは、何年ぶりだろうか。

 いや、今までの人生に一度でもそんな事があっただろうか。

 

 呆然と立ち尽くす絢瀬に、またも状況が呑み込めそうにないメンバー。

 

 頭こそ下げてはいないが、俺は真面目なつもりだった。

 

 手で着席するように促すと、絢瀬は戸惑うようにしながらもイスに座る。

 

 ――さて、さて。

 

 仕切り直しだ。

 

 俺は正面――九人の顔が視界の隅から隅にも映るように身体ごと向ける。

 やはりいつもの癖が出たか、ズボンのジャージのポケットに両手を突っ込みながらも、俺は話し出す。

 

「まずは、だが……あァ、その、何……ぜ、全員、俺の招集に応じてくれてありがとう……?」

 

 ……あれ。

 

 何か違う。

 最初に何言えばいいか分かんねぇ。

 

「い、いや……、違うな……こうじゃない。大事な話がある……いや、それは分かるのか? いや、一応言ッておかないと……その……」

 

 あやふやに口籠もる俺に、全員が?マークを頭に浮かべているのが分かる。

 

 しかし、これはやらかした。

 今まで大勢の前に立ってスピーチなどをする機会や経験なんざ全くない俺は、話の導入部分をどう入れていけばいいのかがさっぱり分からん。

 

 コミュニケーション不足がここにきて仇となるとは……やはり人との会話は社会に出ててからとても大切なので、これからはちゃんと勉強しようと思う。

 

 そこで。

 上手く言葉が出て来ない俺を察したのか、東條がクスリと笑う口元を手で覆い隠しながら言ってくる。

 

「無理して形を取り繕うとせんでも、そのまま本題に行って構わへんよ?」

 

 ストン、と。

 その言葉で、どれ程俺の気が楽に落ち着いたか。

 

 そうかと頷き、俺は口を開く。

 

「俺は――」

 

 改めて気づく。

 

 九人全員が、絢瀬の言葉でメンバー辞退の疑惑がかかった事を勘案するように、俺へと鋭意な眼差しで視線を集めてくる。

 

 今まで、惰性を続けてきた俺に目をくれる者などいなかった。

 脅しのきいた外面を警戒し、横目で距離感を確認してくる視線だらけだった。

 対面して真っ直ぐから俺の目を見てくる者なんて、ほとんどいなかった。

 

 水浦竜三。

 統堂英玲奈。

 

 この二人以外に、いったい誰が俺の相手をしてくれたか。

 今までの小中学、高校二年間で過ごしてきたクラスメートの彼ら彼女らの中で、いったい誰が俺と親しくなろうと近寄ってきたか。

 

 いつの間にか一匹狼を気取っていた。

 

 自分は学校じゃ一人でも平気だと。

 むしろ孤独が清々しいとさえ。

 

 その、俺が背負った気負いを見事にぶち壊してくれた目の前の九人は、今、俺を真っ直ぐ方向から見てくれている。

 誰一人、顔を背けようとはしていない。

 

 ――やれやれ、見事にお人好しばかりが集まったチームだよ、ここは。

 

 だから、

 

「まずは、これだけは最初に言ッておこうと思う」

 

 俺も彼女らをちゃんと見よう。

 

「俺をマネージャーとして引き入れてくれて――」

 

 ありがとう――と。

 

 ちゃんと言おう。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「俺は今まで、小学中学、そして高校二年間をずッと独りで生きてきた。

 男みたいな口調に憂虞を抱かせる悪人面、乱暴な態度を常に取ッてきた俺に好んで近づこうとする奴なンざいなかッた。だからこそ、俺はお前らから一緒のアイドルグループに入らないかッて誘われた時、高坂から勧誘のチラシをもらえた時……本当はかなり、嬉しかッたンだと思う。いや、自分でもよく分からないンだが、お前らから話しかけてもらえた事自体に、心が躍ッていた事は確かなンだ。

 けど、今までずッと独りで人生過ごしてきた俺は、どうも素直になれなかッた。独りぼッちの世界から抜け出す事を嫌がッていたのかもしれない。何だかんだ、俺は孤独を辛いとか、悲しいとか思ッたりはしなかッたからな。むしろ誰との約束にも縛られない得した気分だとも感じていた。だから俺は一度、高坂……お前の事を強く拒絶してしまッた事があッた……本当にすまないと思ッてる。

 それでもお前らは頑なに俺を諦めようとしないで……いや、俺だけじゃない、他の生徒らにも呼びかけは続けてきたンだろうが……あの日、音楽室で西木野の伴奏と歌声を聴いて……その後の、綾瀨達との合唱を聴いて、俺はあそこで間違いなく、心を打たれたンだと思う。一度強く突き返しちまッた高坂も、後からちゃンと来てくれて……だからあの時の俺は、その場の気分みたいな奴で、お前らのμ'sに加入する事を決めたのかもしれない。名前だけを貸してやるだなンて、変に言い訳してな……。

 次の日の朝練でも、たまたま朝早く起きたから行ッてやるかの気分だッた。けど、お前らの練習を見てて正直に酷ェッて感想を抱いたよ。矢澤は無駄に可愛い子ぶるし、西木野はろくな柔軟もできねェし、踊りの練習だッて絢瀬と園田、星空くらいしかまともに踊れてなかッたじゃねェか。まるで息が合ッてない様子だッた。こンなンでこれから先やッていけンのかよッて呆れてた。

 それでも、高坂の家で饅頭ご馳走になッて、園田と二人で話せて、高坂が俺をμ'sに引き込もうとするその執着心が伝わッてくるノートを見て……俺も、少しお前らに興味が持てた。多分そこで、初めてな。その場のテンションじゃない、本物の意味でだ。

 次の日の西木野、星空、小泉の三人とで行ッた運動施設でバドミントンをした時、かなり疲れたけど……楽しかッたよ。誰かと街に遊びに行くなンてなかッた俺には、とても貴重な体験ができた。西木野とのダブルスじゃ全く息が合わなかッたけどなァ……それでも、誰かとペアを組むッて事自体に、俺は心の中でニヤついていたかもしれない。三人で一緒に食べたラーメンはすげェ旨かったし、アウトレットモールで、今日も俺が髪に付けているヘアピンを西木野から渡された時、いきなりの事で混乱したが、親以外の誰かにプレゼントを貰うッてのも初めての事だッた。家に帰ッてから、時間差で喜びが込み上げて来やがッた。

 ……お前らと関わッてから、俺は初めて体験する事ばかりだッた。まだ一週間と経ッてないが、俺にそういう経験を味合わせてくれた事には、素直に感謝できると思う。絢瀬達が俺と一緒に弁当を食べるッて言ッてくれた時、本当は嬉しかッたし、矢澤や東條から面と向かって友達だからと宣言された事も照れ臭く感じてた。

 けどやッぱりよ、そンな俺の素直な言葉を口にはできなかッた……。どこかで、お前らとの関係を最初から『面倒臭く』思ッちまう性格が邪魔してた。だから、昨日絢瀬から受けた作詞作曲の件も、最初から諦めて反対した。何も、絢瀬が俺一人に押し付けている訳じゃないのにな……その事にも謝らせてくれ。本当に、すまなかッた。

 けど俺、昨日、一人の知り合いから聞いたンだよ、俺の本当の真髄ッてのを。そいつは幼馴染みで、昔から俺の隣にいた奴で……園田と高坂と南の関係と似たような奴でさ……そいつから話されて、俺もやッと理解できたンだ。

 ……俺は、お前らともッと仲良くしたい。俺の事を友達と――仲間と呼んでくれたお前らに協力してやりたい。名前だけの存在じゃなく、俺もμ'sの一員として、音ノ木坂のスクールアイドル活動をお前らとやッていきたい。だから、その…………俺を――――」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 必要として、くれるか――。

 

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーー 

 

 

 

 

 微笑みの拍手が、俺を包んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

『――――そんで晴れて、お前は音ノ木坂学園のスクールアイドルとなった訳か』

 

 スマホの向こうから聞こえる声は水浦竜三のものだ。

 

 帰宅路の夜道を歩きながら、俺は片手にスマホを耳に当てながら歩いている。

 

 ――今日の練習は、とても疲れた。

 

「まァ、そういう訳だな」

『驚きだよ、マジで。ついこないだまでスクールアイドルの存在さえも曖昧程度の理解だったはずの美雪が、まさか本気でスクールアイドルなんてもんを始めようとするたぁな』

「言ッておくが、俺はマネージャーだ。フリフリの衣装着てスポットライトが浴びるステージなンかで踊ッたりはしねェからな」

『前は見てみたいなんて冗談言ったが、実際にお前がそれやっても気持ち悪ぃだけだもんな』

「黙れ」

 

 もうそろそろ家に着く。

 

「だが結局、またあいつらを騙しちまッたなァ」

「ん? 何がだよ?」

「……あァ、いや、何でもねェ」

 

 一息置いてから、俺は竜三に言う。

 

「何の確証もない予想なンだが……俺はあいつらと一緒に進んでいけば、何かが変わるような気がするンだよ」

『……マジで、普段のお前からはまず出ない言葉だよな』

 

 不意に、竜三の声に感情が乗った気がした。

 

『何かが変わるだと……? 男らしい、乱暴で冷血な愚直者で、イカサマがデフォな性格した、いくら美辞麗句を並べようとしても綺麗になれないお前が、いったいどう変わるってんだよ――?』

「そンなモン、これから次第だ」

『中学じゃ何も変わらなかった』

「そうだ。だが俺は今、高校生だ」

『そいつらと過ごせる時間はあと一年もねぇんだぞ』

「その短い間で何かが変われれば、それで十分だろ」

 

 μ'sの目標。

 ラブライブ優勝。

 学園存続。

 

 確かに大事だ。

 

 だがこれは、俺自身にも――。

 

 何か、影響を与えてくれるかもしれない。

 

“お前は昔から――――優しいんだ” 

 

 統堂英玲奈のあの言葉が、理解できるのかもしれない。

 

 やはり俺は、μ'sに――。

 あいつらに、どこか期待している。

 

「……ン?」

 

 ふと、俺は立ち止まる。

 

『? ……どうした美雪』

「いや……俺の家の前に、誰かいる」

『っ――!!』

 

 竜三が息を詰まらせたような反応を受話器越しに見せたが、俺は目を凝らし、シルエットの浮かぶ人影を見た。

 

 統堂英玲奈ではない。

 彼女にしては、髪が短すぎる。

  

 ――男?

 

『美雪、そこから離れろ』

「……あ?」

 

 焦ったような早口が、耳元で呟かれた。

 

 だが竜三の声は次の瞬間、ガソリンに火が引火したかのように爆発する。

 

『今すぐそっから離れるんだよ!! 相手に気づかれていないようなら足音を忍ばせながら逃げろ! 気づかれたようなら全力で走れ! 急いで俺ン家の方面まで来い!!』

 

 なぜ、竜三はこんなに焦っている?

 竜三は、そいつと知り合いなのか?

 

 人影が向きを変え、こちらへと歩いてくる。

 

「――ッ!!」

 

 そこで俺は、人影の正体が分かった。

 

 分かったと同時、俺は真横の電柱の影に身を隠し、息を潜めた。

 

『おい美雪! どうした!!』

「うるさい黙れ……静かにしてろ……」

 

 人影は真っ直ぐ、こちらへと歩いてくる。

 ひた、ひたと足音が接近してくるのが分かった。

 

 見つかると、まずい――。

『あいつ』に見つかると、かなり面倒な事に巻き込まれる――!

 

 人影と俺の間を隔てるのは、頼りない一本の電柱のみとなった。

 人の気配を感じられれば、俺は終わりだ。

 

 頼む――通り過ぎてくれ。

 

 目を瞑り、息を殺し、必死に気配を消す。

 

 ――――――――。

 

 やがて……。

 

 人影は遥か遠くに歩き去っていき、

 夜道の暗闇へと姿を消した。

 

「――ッぶねェ……」

 

 見つからずにすんだ。

 俺の安堵の深いため息を聞いたのか、再び竜三がスマホの向こうで声を荒げている。

 

『おい美雪! どうなった!? 今どこにいるんだよ! そいつは!?』 

「……うるせェ、何を死に間際の断末魔みてェな声出してやがる……。まァあの人影、もう行ッたよ。多分お前は知らない奴だろうぜ」

 

 そうは言ったのだが、

 

『知り合い、なのか?』

「あァ、かなり迷惑のな……」

『……名前は?』

 

 と、執拗に竜三は尋ねてくる。

 

 仕方がなく、俺も答える。

 

 

「柊蒼太郎〈ひいらぎそうたろう〉――大学生だ。確か今年で二十歳になるはずだ」

 

 その男の事を――。

 

「女の欠片もないこの俺に、本気で惚れているので付き合ッてくださいとか迫ッて来る、頭のいかれた野郎だよ」

 

 家の門の前には、薔薇の花びらが数枚、証拠を残すかのように散っていた。

 

 

 




 これにて第二章は終わりです!

 皆さん、今までお付き合いしていただき誠にありがとうございました!

 そして活動報告にも載せたのですが、これからこの作品の投稿はかなり不定期に乱れます。
 理由は僕がExamineeで、Studyを頑張らなくてはならないからです!

 でも、できる限りで投稿は続けていきたいので、皆さんどうかこの作品を見捨ててやらず、これからも読んでやってください。

 今まで本当にありがとうございました!

 感想や指t……)ry

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