お、遅くなりました、非常に……(T_T)
あぁ~、勉強したくないんじゃ~
という訳で、第三章の第一話、どうぞ読んでください!
21話 近づく努力、部室での―
俺は走っていた。
今いる場所はどこだ――?
分からない。
だが、俺は走っていた。
目的地は分かっている。
この方向に行けばいずれ辿り着けるはずなんだ。
だから、俺は走っていた。
腕時計の針は午後五時を回っている。
電話が入ってからすでにこの時は――二〇分は経過していたか――?
いや、どうだろう。
思い出せない。
それからまた、俺は走った。
白い建物の中に入る。
車椅子の子供や点滴器具を転がしながら歩く老人の群れを強引に躱していった。
速度を緩めず、俺は走っている。
階段にさしかかるが、そこを三段飛ばしで上がってやった。
二階のフロアに到着する。
白い廊下を、やはり俺は走った。
途中で、俺と歳の近そうな赤毛の少女とすれ違う。
どうでもいい。
息を切らしながら、俺は走った。
やがて目的の部屋の前に行き着く。
扉を開けた。
数歩進めば、滂沱のように大粒の涙を流しながら項垂れる親父の姿――。
もう、俺の足は止まっていた。
ベッドで微かな呼吸もせずに横たわっている女性の顔は、紛れもなく――。
膝をつき、俺は呟いた。
――――母さん。
ーーーーーーーーーー
ハッとして目を開ければ、視界全体を眩い陽射しが覆い、俺は苦悶に表情を歪めた。
カーテン、開けっ放しで寝ていたのか。
俺は自室のベッドから上半身を起こし、頭で跳ねている寝癖を押さえながらそう思う。
「……しかし、これまた嫌な夢見たな」
額に汗が滲んでいるのが分かる。
寝返りも激しく打っていたのか、シーツや毛布がグシャグシャに乱れていた。
「くそッ……」
何て目覚めの悪い朝だ。
まさに最悪の気分。
俺は毎朝と同じく寝間着のまま部屋を出て一階に降り、台所の冷蔵庫から缶コーヒーを取り出す。
開けたプルタブに口をつけ、そのまま一息も休まずに、中の苦い液体を全て喉に流し込んでやった。
「おっほぉ~、良い飲みっぷりだね美雪ちゃんよ。こりゃ将来俺と酒を飲み交わす日が期待できるわ」
リビングのソファでスポーツ紙を広げていた親父が、首だけをこちらに向かせてそう言う。
「……アルコールとカフェインじゃ全く別物だろうが」
「そうなんだが……って、おいおい。どうした美雪、お前が朝に弱い事はよく知っているが、今日は一層目が腐ってんぞ?」
親父にそう言われ、俺も気づく。
台所の脇に置かれた小さな手鏡を持って自分の顔を映すと、そこには普段より酷い寝起きの表情を浮かべた自分がいた。
鋭利さを極めた目尻はやや垂れ下がり、目下には寝付けたはずにも関わらずの隈が浮かび上がっている。
寝返りを繰り返したせいで生まれたボサボサの寝癖は殺伐とした雑草のように逆立ち、手に負えない状態ともきている。
確かに、一言で言えば腐っていた。
「どうした、おい。まさか怖い夢でも見たとかじゃねぇよな」
親父はケラケラと笑ってからかうように言うが、俺は特に何も答えない。
毎朝のような親父との会話のキャッチボールを交わす事すら、面倒になっていた。
「ま……怖い夢だッたかもな……」
「ん? 何か言ったか?」
「……別に」
俺は飲み干した空き缶を分別されたゴミ箱に入れ、階段を登って自室に戻る。
「はァ……朝から鬱だ」
幽霊の出て来る夢より遥かにタチの悪い。
今更になって蘇ってきやがる。
まるで記憶から忘れ去ろうとする事を、許さないと言った風に。
「昨日も嫌な顔を見ちまッたしなァ」
家の門の前に突っ立っていたあの男……。
様子からして、あいつはインターホンは鳴らしたのだろう。
だが親父がいない事が幸いし、何とか家へ招き上げるという最悪な事態だけは回避できた。親父なら嬉々とした態度であの野郎を家に上げるからな。
まぁあいつも、決して悪い奴なんかではないのだが……。
「いや……、もういい、忘れよう」
そうだ、切り替えろ。
思い直した俺は制服代わりのジャージへと着替え、鞄を手にする。
さて、今日も学校だ。
「お? もう出るのか美雪」
「別に、いつもと変わらねェ時間帯だろ」
「今日帰ってきたら部活の事、詳しく話してくれよ? 中学じゃ頑なに入ろうとしなかった部活にお前が入部したって事に、俺はかなり興味があるんだ」
「……時間があッたらな」
そう言い残し、俺はリビングの扉を閉め、靴に履き替えて玄関を出た。
今日の空は、少し曇っているみたいだ――。
ーーーーーーーーーーーーー
「何もよォ……全員集合しなくッても良いだろうがよ……」
四時間目の授業が終わった昼休み。
俺がいるのは渡り廊下の階段でも、自分の教室でもない。
アイドル研究部――その部室。
マネージャーとして献上された窓側中央の席に座りながら、俺は集まった九人の女子生徒達を見回してそう言った。
「甘いわね美雪。こういった集団での生活の時間を増やしていく事が、イコール私達のチームワーク向上に繋がると思わない?」
「友情も深められる事やしね」
「そうにこね~。にこは友達同士でご飯を食べられて嬉しい。美雪ちゃんは、にこの解禁お昼ご飯タイムを鑑賞できる……まさにWIN―WINの関係にこ♪」
三年生組がそれぞれの笑顔で言う。
部室にはμ'sのメンバー全員が集まり、机には各個人の弁当箱が開かれていた。
誰が言い出したのかは分からない。
だがμ'sメンバーで新しく作成されたライングループの会話で、明日からのお昼は部室でみんなで食べようという事になっていた。
もちろん、俺の面倒臭いという反対意見なんぞ、誰の目にも止まらなかったようだ。
そしてまた――。
「何で俺が矢澤の飯食ッてる姿を拝みたい奴になッちゃッてンですかァ?」
「…………にこ?」
「にこ、じゃねェ――」
「にこにこ?」
「……」
「にこ♪」
「…………にこ」
「うん!」
「美雪ちゃん! 穂乃果の事も名前で呼んでよー!」
「ことりも呼んでほしいかな?」
「美雪ちゃん! 凛も凛もー!!」
「いや……別に用件ねェのに呼ぶ必要はねェだろ」
昨日の部室での一件以来、俺は自分の意志から、こいつらメンバーの事を下の名前で呼び始めた。
俺とこいつらの距離感はまだ遠いから、という話で終わらせはしないで――、
これから距離感の近い、親しい関係性を築いていくという目的からの行動だった。
「なァ……り、凛」
「!! 何にゃ!?」
俺が凛を名前で呼ぶと、彼女は嬉しそうに校則で首を回転させた。俺の事を見る目も、分かり易く輝いている。
距離を縮める為の行為とはいえ、ファーストネームで呼び合う事がそんなにも喜ばしいと思える事だろうか。
「……あァ……その……、こないだのラーメン屋……また連れてッてくれ。あそこ、美味かッたから」
「気に入ったのかにゃ!?」
「お、おう……」
やべぇ、何か名前で呼んだその次の言葉が出にくい……。
「え!? 凛ちゃんそれ何の話!? 穂乃果達知らないよ!?」
「まぁあたしと花陽は、一緒にいたから分かるけど」
「そうだね。ほんっとうに、あそこのお店のラーメンは美味しかったねぇ。へへ……思い出すだけで、涎が……」
「真姫ちゃんと花陽ちゃんは知ってるの!?」
「落ち着いてください穂乃果。それで、美雪。何ですか、そのラーメン屋の話は?」
そのだ……海未が俺に話題を尋ねてくる。
というか、昨日まではさん付けだったのに、いきなり呼び捨てに変わったな、海未の奴。
「いやな……こないだ凛達と出掛けた日、昼食で食ッたラーメンがかなり美味くッてよ。あれから満足に家のカップ麺が食えなくなッた」
「凛でよければいつでも付き合うよ!」
「ならよ、早速今日――」
行こうぜ、と動きそうになる口を閉ざし、俺は外を見た。
「いや、この天気じゃ無理か」
「……結構強いわよね」
若干落ち込んだ声の俺に同調するように、絵里が静かに言う。
外はあいにくの雨。
黒く分厚い雲が空一面を多い、地面を叩き付ける雨音が激しく聞こえてきた。
「これじゃ屋上での練習はできないね……」
「うぅ~」
ことりの落胆した声に、穂乃果が頬を膨らませる。
「希ちゃ~ん、スピリチュアルパワーで太陽を輝かせてよ~」
「ず、随分人間離れした業を頼み込むんやね、穂乃果ちゃん……」
「いや、スピリチュアルなんだから、人並みのパワーじゃ駄目でしょ」
「にこっち、そんな素の表情と口調で痛いとこ付かんといて」
そんな会話のやり取りを耳にしながら。
缶コーヒーを啜り、窓の外の景色を俺は見続けていた。
――そういや、あの日もこんな雨の日だった……。
濡れて重くなる身体に鞭打って、向かい風の強風の中を走り抜けていったんだよな……。
まぁ、あの時は頭の中がいっぱいいっぱいで、全身を打つ雨なんざ全く気にしちゃいられなかったが――。
「――美雪?」
ふと、名前を呼ばれて振り向いた。
見ると俺を呼んだらしい……真姫が、神妙そうな表情を浮かべている。
「あ?」
「平気? なんか、外を見ながら難しそうな表情が、横顔で見えたけど……」
彼女の言葉に、他の全員が俺へと注目を集めた。
難しい顔――?
――あぁ、それは多分、今朝見た夢を思い出したからだ。
……そう言った所で、こいつらには分からないだろう。
――夢。
怪訝顔を浮かべる真姫。
真姫――マキ、西木野真姫……西木野――――西木野……病院――西木野総合病院……。
あそこで――。
「大丈夫、美雪ちゃん?」
そこでまた、俺はハッとした。
穂乃果が特に、心配そうな眼差しを俺に向けている。
「どうしたの? 何かボーッとして……、眠いの?」
「……あァ、いや。別に何でもねェよ」
「ほんとに? 何か悩みがあるとかじゃない?」
「いや、別に何もねェッて」
そこまで言われる程に呆然としていたのか、俺。
だがこれ以上、下手に追求されても面倒臭いから、俺は別話題へと持っていく。
「そういやお前らよ、こンな大雨の日はどこで練習すンの?」
その質問には、絵里が答えた。
「体育館は他の部が使っているし、廊下も運動部が室内の走り込みで結構通るのよね。講堂は基本的、何かのイベント事とかじゃないと格部活に使用許可は下りないし……」
「……ッて事は?」
「おうちに帰るわね」
雨の日は帰宅……覚えておこう。
とすれば、今日の俺の活動は必然的に絞られてくる。
「ンじゃお前ら。今日は放課後、全員が音楽室集合な。あそこならどの部活も使用していないはずだ、うちの学校にコーラス部とか軽音部はないからな」
俺が宣言するように言うと、全員がキョトンとした表情を浮かべる。
まぁ、こないだまで仕事やる気ゼロだった奴がいきなり命令しても効果の波長は薄いか。
そしてまず最初に、海未が手を挙げた。
「何をするのです?」
そう尋ねてくると思っていた。
予想ズバリ。
「まず、話が齟齬するようだが、俺と海未と真姫の三人は、いつも通りこの部室に集合する。鍵は俺が持ッている」
やる事といえば――
「海未は作詞の、真姫は作曲の事について、俺に教えてくれ。いろいろ勉強したいからな」
そう俺が言うと、海未と真姫はほんの少し呆気に取られた顔をしたが、それもすぐに自身の満ちた笑みになり、頷く。
「はい、任せてください」
「まぁ、当然よね」
「ンで、その他は音楽室で柔軟だ。人数的にも、あの教室じゃ広がッて体操するぐらいのスペースに問題はねェ。絵里、お前がリーダーとなッて色々指南してやれ」
絵里はどちらかと言うと、俺の命令に嬉しそうに頬を緩ませた。
「えぇ、了解よ」
さて、話は纏まった。
「美雪ちゃん、ようやくスイッチが入ったようやね」
「嬉しいにこ~」
「……ふん」
だが、これからの仕事はかなり多い。
作詞作曲、踊りの振り付け考案。
それ意外にも、メンバー紹介のビデオ撮影や曲のPV撮影。マネージャーの俺と、部長であるにこによるメンバーPR撮影。学校紹介の為の校舎案内撮影。それらに使うカメラなどの機材の準備。
衣装デザインの考案、それに伴う材料集め。ラブライブ予選へのエントリー。それらにはいずれも費用が大事なものになってくる。このアイドル研究部に生徒会からの予算はいくら入るのか……それは後で絵里か希に尋ねてみよう。
学校紹介には、音ノ木坂学園の伝統なども調べた方が良さそうだ。高い関心や興味を持つ閲覧者がいるかどうかは放っておいて、まずは文面の量と紹介に当たる時間の確保を優先する方が大事だからな。
それ以外にも、やる事はある。
まぁ、それらの仕事の前に、
まずは『あの事』について俺が把握していなければ、何も始まらない訳だが――――。
特に物語は進まないまま終わってしまいました……。
zyukenbenkyouと一緒にこちらも頑張りたいと思いますので、どうかこれからも応援よろしくお願いします!
次回は海未ちゃんと真姫ちゃんの二人ですかね?