笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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『笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…』のAnoter Storiesです。

 本編とは主人公が違います。
 ちょくちょく混ぜていきたいと思っているので、どうか読んでみてください!


AS  File.No1

「はぁ……」

 

 私、夕霧靜霞〈ゆうぎりしずか〉は只今とっても憂鬱な気分……。

いや、まぁいつもの事なんだけどさ。

 

「やっぱり、こんな古臭い学校なんか入るんじゃなかったわねぇ……高校生活の青春を犠牲にしたわよ」

 

 水曜日の休み時間。

 机に突っ伏しながら私は嘆く。

 

「ほんと、今まで良い事なかったわね……」

 

 というか、夢がなかったわ。

 

 高校三年生になってさらに後悔している。

 

 家から近くて、通学にかける時間を勉強に費やせると思ってこの音ノ木坂学園に入学したのが二年前の春。

 

 生徒会や委員会、部活も特にやってこなかった。

 ただ勉強して、それなりに偏差値の高い大学へ行けば将来に心配はないと思ってた。

 私は文系だけど、私立大学の文系生徒がありつける就職先なんてかなり絞られてくるもの。だから国立でもトップクラスに高い大学に進学しようと、これまで勉強だけを頑張ってきた。あぁ、そう考えれば、二年生のうちからでも理系に転成していれば良かったかもしれないわね。大学じゃ法学部卒業して弁護士にでもなろうかしら。

 

 勉強漬けの毎日を送るうちに、私は気づいた。

 

 いくら定期テストでトップの成績を叩き出そうと(たまに絢瀬絵里っていう生徒会長に負けるわね)、いくら自分の容姿が優れていようと(毎朝一時間以上は鏡の前で自分の顔に見惚れているわ)、いくら胸やお尻が大きくてお腹周りが引き締まっていようと(お風呂の鏡で自分の全裸に惚れて鼻血を出した事もあったわね)――

 

 いくら良い大学の進路を決められたとしても……

 

「私の高校生活、全然楽しくなかったなぁ」

 

 結論は、そこに行き着いてしまう。

 

 どうして、こんなつまらない人生になっちゃったんだろう。

 

 高校生活と言ったら、友達と楽しくお喋りして、一緒に勉強会をしたり、放課後に寄り道して遊びに行ったりできるものじゃないの。

 

 

 

『ねぇねぇ夕霧さん。夕霧さんっていつもテストで点数高くて、頭良いよね~』

 ――そうかしら?

『うんうん! わたし、夕霧さんに憧れちゃうな~』

 ――憧れる?

『そうだよ! いつも期末テストじゃ上の方にいるし! 私も夕霧さんみたいに頭良く生まれたかったな~』

 ――それは違うわね。

『え?』

 ――あなた、いつも授業中は周りのお友達とお喋りしてて、全く授業を聞いていないじゃない。あれ、正直目障りなのよ。こっちは真面目に勉強しているのに。あなたなんかに羨望の目を向けてもらいたくなんかないし、あなたが私に憧れる事すら嫌悪感を抱くわね。

『そ、そんな事……ただ私、ちょっと夕霧さんに勉強を教えてもらいたくて……』

 ――その前に自分で努力するのが先決なのだとどうして分からないのかしら? ただ不真面目に呆けているだけの人間に、他人に協力を求める権利なんてないのよ。

 

 

 

「………………」

 

 分かってる。

 私が悪い。

 あそこまで言う必要はなかった。

 懐かしい、一年生の頃の記憶ね。

 

 あの出来事があって、私の高校生活は大分おかしな方向へと傾いていった。

 

 誰も私に話しかけない。

 誰も私の話を聞かない。

 誰も私と目を合わせようとしない。

 

「……はぁ」

 

 そんな日々をずるずると引き摺って、二年が経ち、今じゃもう最上級生。

 

 もう、高校生活はやり直せない。

 

「中学でも似たような経験をしているのに……勉強はできる癖、ほんと、学習しない生き物ね、私……」

 

 そう考えれば、別に音ノ木坂が悪いって訳じゃない。例え、今有名なUTXに編入していたとしても、もしかしたら同じような結果が待っていたのかもしれないわ。

 

 私は机の上にスマホを置き、頬杖を突きながら画面を指でタップする。

 

 中学時代にできた、たった一人の私の友達。

 高校では別れた彼女から届けられた一年前のメッセージを、ふと開いてみた。

 

〈告白成功しました~! 靜霞ちゃんが背中を押してくれたお陰だよ、ありがと~! 今度お礼に何か奢らせてね!〉

 

 一年経過した今でも、その文章には思わず鼻で笑ってしまう。

 

 分かっている。 

 

 決して馬鹿にしている訳じゃない。

 

 ただ、羨ましい。

 

 女の子の友人が送る青春に、嫉妬を抱く自分がいる。

 その事に笑えてくるんだ。

 

「彼氏、かぁ……」

 

 中学じゃ告白された経験は私にもそれなりにあった。

 そりゃ、私の美麗な顔立ちとグラマーな美貌にかかれば、男の一人二人は楽に釣れるだろうと思う。

 勉強に精を出す性格じゃなかったら、きっと女子校なんかには入学せずに、共学生の高校でチャラい男と絡むような遊び人になっていたかもしれないわね。

 

「あの子、彼氏とどこまでいったんだろ……」

 

 今もよくメールでやり取りをしたり、休日に合間を見て顔を合わせたりする。

 その時に彼女はよく、恋人の話を持ち出してくるのだ。あの様子じゃ別れるまでの時間はまだまだ遠いような気もする。

 

「もう、身体を重ねてたりして……」

 

 そう考えると、何か複雑ね。

 

 けどやっぱり、少し羨ましい。

 

 高校生活を、謳歌できている友達が……。

 

 

 チャイムが鳴って、スマホをスカートのポケットに仕舞う。

 

 さて、授業頑張りますか。

 相変わらず予習はバッチリだしね。

 

 それくらいしか、やる事ないし――。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 放課後。

 

 職員室で進路調査をしていたら、随分と遅い時間になってしまったわ。

 けどさっきまで振っていた雨はもう止んでいる。けど相変わらず空の雲は厚いから、油断はできないわね。早めに家まで歩きましょう。

 

「はぁ……」

 

 高校に入学してから、何度目か分からないため息。もしかしたら、星の数ぐらい吐いてたりして。

 

 今日も授業で教師から指名された時以外、何にも喋らずに終わってしまったわ。

 歳を取った時に、声帯の衰えが早くなっていそうで怖いわね。

 

 上履きから通学靴に履き替え、正門玄関を出る。もう随分と桜の色が薄くなってしまったわ。

 

「高校生で見る桜は、今年が最期だったのになぁ……」

 

 そう考えると、やはり寂しい。

 最後くらいは、友達と呼べる存在の隣に並んで、一緒に桜を見たかった。

 

「まぁ、もう遅いか」

 

 私は校門へ向けて歩き出す。

 

 歩みを進める私の後ろから、一際大きい声が近づいてきた。

 

「みんなー! 早く早くー!!」

「ま、待ってよ穂乃果ちゃーん!」

「穂乃果! しっかり前を向いて歩いてください!」

 

 三人の……きっとお友達同士よね。

 

 最初にオレンジ髪の女の子が私の横を追い抜いて行ったかと思うと、直後に二人の女子生徒が横切っていった。

 

 また、後ろから声が迫る。

 

「穂乃果ちゃーん! 待つにゃー!」

「り、凛ちゃんっ、ひ、引っ張らないでぇ!」

「もーう! 雨が上がった直後に……ほんと意味分かんない!」

 

 再び三人の女子生徒が私の横を通り過ぎて行く。

 

 何よ、笑顔ではしゃいじゃって。

 友達のいない私への当て付けかしら?

 

「にこ、本当に良いの? 今日は久しぶりにお母さんが帰ってくる日だって言ってたのに……」

「その日だから大丈夫なのよ。妹達の世話はお母さんが見てくれるし、今日ぐらいしかみんなと遊べないにこ!」

「ふふ、にこっち嬉しそうやね」

 

 またか。

 何、新手の虐めなの?

 

 ――って、今追い抜いて行った三人のうちの一人、あの金髪……絢瀬絵里じゃない?

 

「……まぁ」

 

 私には、関係ないけど。

 

「……さっさと帰ろう」

 

 明日もまた嫌な学校。

 けど、学園から推薦をもらう為には欠席なんてできない。

 はぁ……鬱ね。

 

 私は歩くスピードを上げた――その時。

 

 足下の水溜まりに気づかず、

 

「きゃっ――!?」

 

 足を滑らせる。

 やば、転ぶ――。

 

 そう直感して思わず目を瞑った私。

 

 けど、私の身体に転倒した衝撃はなかった。

 代わりに背中から回されて左肩を掴まれる腕と掌の感触に、私は目を開けた。

 

「……平気か?」

 

 視界に飛び込んできた顔は、初見のものだった。

 

 曇り空を背景に煌めく銀髪に、ヴァンパイアのような不思議な魅力を放つ赤眼。

 整った鼻筋に薄い唇。

 ちらと見えた細い眉はキリッと長く際立っている。

 

 ――かっこいい。

 

 そう、思った。

 

 そしてどうやらこの人物は、地面に倒れ込みそうになった私を咄嗟に抱えてくれたようだった。

 彼のものと思われる鞄が、後方遠くに離れた水溜まりの上に落ちている事から、私に所まで即座に走ってきてくれたという事が分かる。

 

「……おい、大丈夫か?」

 

 ボーッとしている私に、彼がそう言った。

 

「あ、は、はい……大丈夫です」

「……そうか」

 

 彼はそう素っ気なく言うと、私を立たせる。

 踵を返して歩き出すと、水溜まりに落としてびしゃ濡れとなった鞄を肩にかけた。

 

「あ、すみません! 私が転んだりしたから……」

「いや、別に良い。つか謝るより先に言う事があンだろ」

 

 そう指摘され、私もハッとする。

 いつもの冷静な私ならすぐ気を遣った所に、今は頭が回らない。どうやらそうとう動揺している自分がいるらしい。

 

 ――何に、動揺しているんだろう?

 

「あ、あの……ありがとうございました……」

「……ン」

 

 短すぎる答えの後に、彼は歩き出す。

 そのまま通り過ぎて行くのかと思いきや、彼はそのまま私の真正面に立った。

 

「え!? あ、あの……」

 

 狼狽える私に、彼は手を伸ばし――

 

「桜、付いてる」

 

 私の髪の毛から、小さい一枚の、ピンク色の花びらを取ってくれた。

 

「あ、……ありがとう」

 

 二度目の感謝の言葉。

 自然と、敬語はなくなっていた。

 

 ふと、彼が私の隣で見上げながら、言った。

 

「もう、桜も大分散ッたな……」

 

 その言葉に、私はドクンと胸を打たれた気分になった。

 

 一緒に見上げてみると、確かに木々に桜色は薄い。

 

「そう……ね」

 

 名前も知らない初対面の彼……いえ、彼女と並んで桜の木を見つめる。

 

 音ノ木坂のジャージを着ているという事は、この銀髪赤眼の人物は、自分と同じこの学園の女子高生なのだろう。

 そして右肩に刺繍されてある『夜伽ノ美雪』という名前の色で、自分と同級生である事も理解できた。

 

 最後くらいは、隣に友達を並べて桜を見たいと思っていた。

 

 けど、

 

 別に、友達である必要はない。

 隣に誰かがいてくれるだけで、確かな変化を感じる事ができる。

 

「……それじゃ、俺はここで」

 

 そう言い残して、彼女は歩き出す。

 

 私は……その場から動かなかった。

 

 ただ彼女の遠ざかる背中に視線を釘付けにしながら、自分の体温がぐんぐんと上昇していくのを感じていた。

 

 心臓が激しく打たれている。

 顔が熱い。

 彼の銀髪から目を離せない。

 

 久しぶりに誰かと会話をした。

 久しぶりに誰かと目線を合わせた。

 久しぶりに誰かの身体と接触した。

 

 この、昂ぶる気持ちは――

 

「いえ、もう分かっているのにね。また誤魔化して、なかった事にしようとしている……」

 

 実に単純だと思う。

 

 桜の木を見上げた彼女の横顔に。

 一瞬だが間近に迫った彼女の瞳に。

 自分へと向けられた彼女の声に。

 

 三年間同級生として同じ校舎で生活してきたはずにも関わらず、今日初めて出会ったがかりの『夜伽ノ美雪』という人物に……

 

 

 私は、一目惚れしたんだ――。

 

 

「女の子に対しての恋心、か……」

 

 青春のスパイスにしては、随分と味が濃いものね。

 

 

 




 アナザーストーリーを読んで頂きありがとうございます!

 これは作者である僕の100%完璧な我が儘から生まれた別サイドのお話なのですが、みなさんどういった感想を持ったでしょうか?

 主人公の夕霧靜霞についてもっと詳しく知りたい、という人がいてくれれば、削除せずそのまま本編の間間に書き進めていきたいと思います。

 こんな別ストーリーいらねぇよゴラァ!!という人もいるかも……ハハ

 次話の本編もよろしくお願いします!
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