笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 今回はオリキャラ同士の絡みのお話です。

 では、どうぞ読んでみてください!




24話 襲来

  

 

 帰り道を歩いていた。

 

 スマホから伸びたイヤホンを両耳にはめ、耳奥まで届く曲と歌声はμ'sのものだ。

 

 やはり、歌のレベルは高い。

 

 問題として挙げられるのは踊りだと、理解している。

 あとは衣装だろう。

 

 この二つの点を満たす為にはそれなりの時間が必要とされてくるはずだ。

 

 もちろん時間に伴い、身体にかかる労力や精神的な疲労も身体に降りかかる。

 

 それらの確認に、俺は今日、メンバー全員に同じ質問を繰り返してきた。

 

 ――スクールアイドルμ'sとして、どこまで狙っていくのか。

 

 結果、メンバー全員が〈ラブライブ優勝〉と口にしていた。

 

 特に気合いの入っていたのは穂乃果、にこの二人だろう。

 

 穂乃果は学園を救うという目標を掲げながら、自分の青春も全力で楽しみたいという思いが、答えを口に出させていた。

 にこは、どうやら本気でプロのアイドルを目指しているようだった。いや、これは去年の修学旅行の時点ですでに分かっていた事だが……。その為にはまず第一歩として、ラブライブ優勝という覇権を手にする必要がある訳だ。

 

 そう考えると、矢澤にこの方が意識を高く持てているだろう。

 

 どんな場合でもそうだ。

 高校球児で、甲子園に出場できれば満足と思う人間と、本気でプロ選手になりたいと思っている人間では、明らかに後者の奴の方が人二倍努力するはずだ。

 

 だが、俺はまだ穂乃果やにこの事を詳しく知らない。

 今の所は、まだ何も判断できない。

 

 だが、約二名ほど、

 特に曖昧としている奴らがいた。

 

 

 

『かよちんがそう言うなら、凛もそれに付いていくにゃ~』

『穂乃果ちゃんと海未ちゃんが優勝を目指すのなら、ことりもそれに従おうかな』

 

 

 

 星空凛と南ことり。

 

 どこか、自分の意見を濁して明確な目標を示さなかったこの二人。

 

 

 さて、どうなるもんか……。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ンで? 何でテメェが俺の家……しかも勝手に部屋にまで入り込んでンですかァ?」

 

 自室のドアを開けた途端、俺は自分でも分かる程までに引き攣った笑みを浮かべながら、そいつに言った。

 玄関に見知らぬ靴があったから、まさかとは思ったのだが……。

 

 そしてそいつは、俺の顔を見るなり表情を不気味な程に明るくさせた。

 

「あぁ。あぁ、美雪ちゃん! いや、家に上がっても誰もいないし、電気もまったく付いてなかったからさぁ、取り敢えずお部屋にお邪魔させてもらってたよ。というか、帰り遅かったね、学校で何かしてたの?」

 

 左右のバランスが整わない黒い前髪は額を軽く覆うくらいで、そいつの狐目が俺を真っ直ぐと見据える。

 

 あれだ……あの眼が、苦手なんだ。

 

「つか、不法侵入だぞ。通報されたくなかッたらさッさと俺の前から失せてくださいィ」

「あ、大丈夫。美雪ちゃんのお父さんに連絡して、家に上がる許可もらってから合い鍵使ったからさ」

「…………」

 

 あのクソ親父。

 

 でかいため息を一つ吐いてから、俺は鞄をベッドに投げ捨て、スーツ姿で床にあぐらをかくその男に尋ねる。

 

「何の用だ、柊」

「もう、やだなぁ美雪ちゃん。ボクの事は蒼太郎って呼んでっていつも言っているじゃんか」

 

 そいつ、柊蒼太郎は膝に手をつきながら、よっこらせと立ち上がる。

 一七五越えの、体幹は細くも見上げる身長が目の前に現れた。

 

 大学入学時に購入していたスーツを着ている。

 シャツを全体的に出して前を開け、ネクタイを極限に緩めるなどと、だらしなく着崩していた。

 

「それで、何の用なンだよマジで」

 

 苛ついた口調できつく言う。

 すると柊はさらに笑みを深く浮かべた。

 

「好きな女の子に会いに行く為に、理由が必要だと思うの?」

「うげ……何だその甘ッたるいセリフ……」

 

 本気で吐き気がしてくる。

 

「しかも、俺は前にテメェの告白をお断りしたはずだよなァ」

「確かに付き合う事は無理だって言われたけど、その理由をボクはまだ聞いてないよ。しかも今後から会いに来るな、とも言われていないしね」

「タイプじゃねェンだよ。今後俺に関わるな」

「やだ」

 

 そう言うと思ったよ。

 事前に解答が分かっている問題を出したってしょうがなかった。

 

「はァ……まァ、今日はちょッと疲れてンだよ……もう今日は帰ッてくンねェか」

「ん? そういや美雪ちゃん、何でこんなに帰ってくる時間遅かったの? 部活とかはしていないはずなのに。疲れたって?」

「…………」

 

 ここで部活をしていると答えれば間違いなく問い責められる。

 またスクールアイドルのマネージャーなんてもんを務めているなんて言えば、きっと柊は一〇分間は爆笑し続けるだろう。

 

「雨宿りしてたンだよ」

「あぁ、なるほど。外寒かった?」

「少しなァ」

 

 そう言って、俺はベッドに腰を下ろす。

 

「今より遅くなるとさらに冷えるだろうし、お前も風邪引きたくなきゃとッとと帰れ――」

 

 その時。

 上半身全体に暖かいものがあった。

 

「……あ?」

 

 その正体は突然の抱擁。

 

 柊が俺の隣に腰を下ろしたと思ったら、俺の首と脇に腕を回し、身体を密着させてくる。

 

「ほんとだね、身体が冷えてる。風になびかれてジャージがこんなに冷たいよ」

「……」

「けど大丈夫だよ美雪ちゃん、ボクが暖めてあげるから」

「…………」

「あぁ、美雪ちゃん……」

「………………」

「とても、柔らか――」

 

「帰れェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

 

「へぶぅっ!?」

 

 ――あぁ、あまりの出来事に気が飛んじまってたぜ。

 

 だが限界だった。

 叫びながら俺は、柊の左頬に右肘をストレートに突き立てた。

 鈍い擬音と一瞬の叫びと共に、柊はベッドから落ちる。

 

 やがて頬を押さえながら体勢を起こすが、その顔はやはり奇妙にニヤついていた。

 

「い、痛いなぁ美雪ちゃん。酷くない? ボクが優しくしてあげてたのに……」

「そろそろ本気でセクハラで訴えンぞクソが」

 

 あぁ、マジ気持ち悪ィ。

 

 その態度も。

 その声も。

 

 特にその笑顔が。

 

 嘘や欺瞞で張り付いた仮面のような笑みが、俺の背筋に冷たいものを走らせる。

 

「というか、なかなか美雪ちゃんも変わってるよね」

 

 ふと、柊が立ち上がり、両手を広げて「やれやれ」と言った。

 

「国立大学、偏差値八〇越えの法学部でもトップの座に君臨するボクだよ? 大学じゃ女の子にはかなりモテるし、友人も多い。社会から向けられる目も高価なもの。そんなボクが結婚まで前提に考えて君に告白したって言うのに、何でそれを断るかなぁ」

 

 うーん、と腕を組んで顎に手をやり、難しそうに頭を捻らす柊。

 

 しかし、本気で言ってんのかこいつは。

 

 確かに頭は抜群に良いし、こいつは間違いなく日本の将来の宝となり、社会に立つ人間の真骨頂とも呼ばれる地位まで上りつめていくかもしれない。

 それ程の、価値のある人間だ。

 

 だがそこに恋愛関係が絡むのなら話は別だ。

 

 俺は四年前から柊蒼太郎の事を知っているが、昔からこいつの事は大嫌いだった。

 

 第一に、セクハラが多い。

 先程もそうだが、外に出掛ければ人目も気にせず抱き付いてくるし、キスすら無理にせがんでくる。一緒に満員近い電車に乗れば痴漢紛いの行為にまで及んでくるんだ。

 

 この男っぽい俺に、だ。

 

 だがそれが余計に困る。

 初対面じゃ髪の長い男にしか見えない俺が「キャー痴漢ー」などと言った所で、周囲の反応は「は? 何あいつ頭おかしいの?」で済まされるだろう。最悪のケースで俺の方が職務質問にかけられるまである。

 映画館に行けば怪しい手つきで太股を触ってくるし、遊園地のお化け屋敷に入れば「うわー怖いー」とわざとらしく転げて、俺の尻に抱き付いてくる。酷い時じゃ、未成年の癖に酒飲んで酔っぱらった挙げ句、その勢いで俺の胸を鷲掴みにしたまま一晩離さなかった、なんて事もあった。

 

 それ意外にも様々と事例はあるのだが、全て話すんじゃ夜が明ける。

 

「ねぇ美雪ちゃん、どうしてもボクじゃ駄目なの?」

 

 しかも本人に罪悪感など存在しないので余計にタチが悪い。

 

「はいはい駄目駄目、帰れ帰れ」

 

 シッ、シッ、と追い払うように手を振ると、柊はようやく諦めたのか、

 

「はぁ……まぁ、確かに今日は結構冷えるし、そろそろおいとまさせてもらおうかな」

「お前マジ何しに来たンだよ」

 

 と、柊が床から立ち上がる。

 

 ようやく帰るのか、と。

 しかし俺はその一瞬の油断が自らを陥れたのだと、すぐに後悔する。

 

「うわっ!?」

 

 何も障害物などない場所で、柊が足を絡ませた。

 転倒するように身体を傾けさせた柊は即座に手を伸ばし、脇の俺の座るベッドに両手をついた。

 

 ただし、両手の間に座る俺を挟む形で。

 

 勢いを殺しただけで、柊の身体はなお倒れ込むように落下してくる。

 

「わぷっ」

「……あ?」

 

 柊の顔の着地地点は、見事綺麗に俺の両太股の間――つまり股へと位置する。

 

「……」

「……」

 

 数秒の沈黙が部屋を支配する。

 

 

 だが即座に、俺は両脚で柊の後頭部を押さえ込む。

 そのまま締め上げるように力を込めた。

 

「んんっ!? んなあんなん!?」

「黙れ」

 

 ギチギチと、俺は容赦なく柊の頭を締める。

 

 奴の鼻が丁度良い具合に俺の股へとダイレクトに当たっているが、別に構いやしない。

 ただこいつの、いつまで立っても学習、反省しない態度が気に入らないのだ。

 

「はにゃ!? ふぉくのはにゃがひゆいしゃんのおみゃたにあちゃっててぇりゅ!?」

 

 ……あぁ?

 ボクの鼻が美雪ちゃんのお股に当たってる? 

 そう言ったのか、なるほど。

 口元も押さえられてうまく喋る事が不可能な様子だが、柊はそう言いたいらしい。

 

「うるせェ」

 

 だが今更、そんな事に羞恥を感じる俺だと思ってんのか。

 

「ほれ柊、すみませんでしたは?」

 

 さらに脚に力を込めながら、俺は見下ろして言う。

 

「ふぁひゃ!? ひゅふぁふぁにゃ!?」

「何言ッてンのか分かンねェよ。ほれ、何度目かも分からないセクハラ行為に及んですみませんでしたッて言いなさい」

 

 取り敢えず謝るまで離さん。

 

 そう思っていた俺の耳に、今度は随分とはっきりとした声が届く。

 

 

「あ、何か良い匂い……」

 

 

 刹那。

 

 ゴキャッッッ!!

 

 俺が固めている両脚の角度を変えると、柊の首から目を瞑りたくなるような音が響く。

 

 解放するように脚を開くと、柊はそのまま床へと横向けに倒れた。

 

「へ……へへ、へへへへへへ……」

 

 ……きもい。

 だが息はある、大丈夫だ。

 

 失神して泡を吹きながらも狂った笑みを絶やさないこいつの姿を見れば、大学で柊に迫る女共も幻滅するだろうに。

 

「……はァ」

 

 さて、この後処理は誰がするんだ?

 

 

 




 
はい、読んでいただきありがとうございました!

 初セリフの柊蒼太郎でしたが、いかがでしたでしょうか?

 次話もよろしくお願いします!
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