さて、物語は日付が数日飛んで翌週となっております。
そろそろμ'sもラブライブに向けて動き出すとしています。
それでは是非、これからの物語を読んでみてください。
※前話の柊蒼太郎は美雪ちゃんが川へ投げ捨てました。
翌週の月曜日。
俺達は放課後にまた、部室に集まっていた。
「あとは私達メンバーで撮る学校紹介、それにマネージャーの美雪が担当のグループ紹介ね」
俺の席に置かれたパソコン画面をマウスで弄くりながら、絵里が俺の肩上の位置でそう言った。
それに対し、俺は反射的に嫌な風に顔を顰めてしまう。
「やッぱ、やンなきゃ駄目ですよねェ」
「当たり前です」
俺の嫌嫌そうな声に、海未が腰に手を当てながら言う。
「ラブライブ予選エントリーは、早ければ早い程、その分閲覧者の方々に私達の存在を多く知ってもらえるのです。なるたけ撮影も素早く終わらし、一日でも早く投稿してしまいましょう」
と、いうのは……。
先週の二日間で、ラブライブ予選のエントリーと添付して投稿する、μ'sのPV映像が完成したのだ。
使用した曲は『僕らのLIVE 君とのLIFE』という、俺がマネージャーとしてμ'sの一員になる以前に作られたものだった。
この曲では、歌詞も踊りも衣装も、全て完璧に完成されていたので、時間などの問題上、一番初めにネットへアップするという事が決定された。
さて、予選エントリーへと向けてやるべき事は残り二つ。
メンバーによる学校紹介の撮影。
マネージャーの俺自身によるグループ説明の撮影。
と言っても二つめのグループ撮影の方は、先週のうちから順調に進み、映像は完成している。
撮影の行程としては、メンバー全員に挙げられるだけの自己PRを用紙に書いてもらい、俺がその中で選抜した箇条をカメラの前に録画させた、というものだ。
だが未だ、μ's全体に関するアピール文章を、俺は考えていなかった。
「何を話しゃ良いンだ……? 普段、こンな練習をしています、とか……いつも練習している屋上でも撮影しときゃ良いか……?」
「え~? 何かインパクトがないよ~」
これでもそれなりに振り絞った意見に、穂乃果の奴が不満げに眉を寄せる。
「ンじゃ、何か良い案あンの」
「ん~……難しいですなぁ」
……まぁ、だよな。
そこで仕切りを付けるように、校舎のチャイムが鳴り響いた。
「エリち、そろそろ生徒のほとんどは校舎を出たんやない?」
希が言うと、その言葉が合図だったかのように、俺を除いた全員が立ち上がる。
「そうね。それじゃみんな、行くわよ」
絵里が言い、学校の備品であるカメラと小型マイクを手にして部室の扉を開けた。
俺を除いた彼女ら九人はこれから、音ノ木坂学園の歴史や伝統を説明する際に流す映像や写真の撮影、また、メンバーによる校舎案内や部活動紹介を、学校の敷地全体を回って撮影する。
パソコン画面の前で一人首を傾げて唸る俺に、ことりと花陽が心配そうに近寄ってくる。
「美雪ちゃん、一人で撮影、大丈夫? スピーチの文章とか、平気?」
「心配です……」
先週から分かっていたが、特にこの二人は周囲に目を配り、他人を気遣う事ができる――所謂『良い奴』だ。
海未や絵里、希もメンバー全員の事をよく観察してはいるようだが、この二人とはまたタイプが違う。
「あァ、平気だ。もともと俺が指示した今日のプランなンだし、お前らは気にせず撮影に行ッてこい」
まぁ、俺の仕事も撮影なんだが。
二人が部室を後にして、九人分の足跡と声が疎らに交わりながら、廊下の向こうへと遠ざかって行く。
部室には俺たった一人。
「……あいつらには悪いが、やッぱ一人の方が気楽で落ち着ける」
感や心情なんてそう変化しない。
確かにあいつら九人が俺を仲間だと受け入れてくれたのは嬉しく思えるが、やはり俺自身は昔からの習慣――独りぼっちが体にも心にも馴染んでいる。
一匹狼を気取っていた訳ではないが。
一人の方が勉強も捗るし、物静かに思考を働かせてより良い解答を見つけ出す事もできる。
「……?」
待て、今何か掴んだような……。
「そういや、南ことり……あいつが……」
そうだ、あいつは先週に言っていた。
どうも理解できそうになかった彼女のあのセリフの真意が、ほんの少し掴めたような気がする。
「なら、星空凛はどうだ……?」
彼女も似たような事を言っていた。
だが、南ことりのそれとはまた違う違和感が拭えない。
南ことりと星空凛が持っている二人の共通点は――。
「……いや、今はその事を考える時間じゃないな」
そうだ、切り替えろ。
今はマネージャーの俺が担当する、グループ紹介の記事を考える時間だ。
ラブライブ予選にエントリーした、他校のスクールアイドルグループの紹介を視聴して分かった点がある。
二〇〇以上にも及ぶエントリーした学校名の一つを、ラブライブホームページでクリックすると、まず流れてくる映像はマネージャーや監督、顧問によるグループ紹介だ。
まず最初のそれで、どれほどの数の閲覧者の興味を惹けるか……。
二〇〇以上もあるアイドルグループを、一から全て閲覧しようとする人間はいないだろう。
それこそ血肉に飢えたハイエナのような、筋金入りのスクールアイドルオタクでもなければ、全校閲覧は精神的にも体力的にも無理がある。
だが、最初の五分。
上限とされる五分間の、マネージャーなどによる紹介スピーチだけなら多く見られる。
五分間でそれなりに出来の良い紹介映像を見せる事ができれば、閲覧者は当然、その先の学校紹介やメンバーによる歌と踊りの披露映像にも、目を通してくれるはずだ。
逆に、五分間による紹介映像の出来が芳しくなければ、それだけでそこの高校のアイドルグループのページは閲覧者によって閉じられてしまうだろう。
すなわち――
「俺の発表、かなり重要……」
かなりの大役を任されたという事だ。
何か良い案、ねぇかな……。
「いや、一つあると言えばあるンだが……」
だが、その俺の考えている方法で投稿するには、かなりの勇気が必要とされると思うがな――。
ーーーーーーーーーーー
「ただいま~!」
「ただいま帰還したにゃー!」
まず一番に、開け放たれたドアから穂乃果と凛が部室に転がり込んできた。
声は元気に聞こえるが、二人ともすぐに机へと突っ伏す辺り、かなりお疲れのようだ。
「三時間もよく頑張ッたな」
俺が言うと、二人は身体を机に乗せたまま顔だけをこちらに寄越す。
「ほんとだにゃ~、撮影場所を言ったり来たりの何重往復で……」
「にこちゃんが何回も自分のシーンだけやり直しするからぁ……」
……なるほど、確かににこはそういう奴だ。
無駄に可愛い子ぶって、自分の撮影されたシーンを幾度となく見返しては、『納得いかないわ!』とビデオカメラを突き返している場面が、安易に想像できる。
きっと他にも、海未や真姫辺りが恥ずかしがって、カメラの前に出て来られないといった事態も起きたのではないか。
まぁ、俺も今、部室に帰ってきたばかりなのだが。
背後の窓から外を見れば、空が綺麗な夕焼け色に染まっている。今週は頭から快晴が続くようだ。
開けっ放しの部室のドアから残る他のメンバー全員もぞろぞろと入ってきた。
それぞれが「疲れた~」「もう動けません~」「いみわかんない……」などと腰を年寄りのように曲げながら口々に言っている。
……撮影だけでそんな疲れる事もねぇだろうによ。ずっと校舎の敷地を歩きっぱなしだったのか?
最後に部室に入ってドアを閉めた絵里が、俺の座る席の机にビデオカメラを置く際、口を開く。
「美雪、どう? スピーチの方はうまくいきそう?」
その質問に、俺は即答する。
「あァ、もう撮影も終わらせた」
途端、絵里だけでなく、他のメンバーも「えっ!?」と驚愕の表情で声を揃えた。
「ひ、一人で済ましたの、撮影……?」
「あァ。つか、カメラ一台持ッて屋上に上がッて、そこで一人喋ッただけだがな」
たった一人の屋上で、カメラと向き合って言葉を発するのは少し変な感じがしたが。
「案外やるじゃない」
イスに座って腕を組みながら、真姫が偉そうに言う。
「なら、後は映像を編集して終わりなの?」
「まァ、そうだな。残るは投稿のみだ」
そんな時だった。
「それじゃ帰る前に、美雪ちゃんのスピーチ映像を見せてもらおうかな?」
希の言葉に、俺の両肩がやや跳ねる。
「…………え、今?」
「ん? 何かまずいん?」
まずい……という事ではないが。
俺の予定では帰宅した後、スマホから全員の携帯に、その俺の独占映像を送信させようと思っていたんだが……。
「確かに、そうした方が良いわね。一応、私達も目を通しておかないと」
「そうですね。いったい美雪がどのような発表をしたのか、気になりますし」
μ'sのリーダー格である絵里と海未の賛同意見によって、俺の予定は切り崩される。
「おお! 美雪ちゃんの単独インタビュー!」
「是非とも見てみたいにゃ!」
さらにノリノリの穂乃果と凛の発言によって、俺は机の上に置いてあるビデオカメラを鞄にしまう事を許されなくなった。
「ほな、ちょっと拝見……」
希がビデオカメラを掴み取り、画面を開いて電源を入れる。
良いのか、あれ見せて……いや、まずいって事はないんだが……あの発言内容を、こいつらが許すかどうかなんだよなぁ……。
そうあれこれ思案している間にも、俺以外の九人のメンバー全員が一箇所に集まり、ビデオカメラの小さい液晶画面を覗き込むように目を向けていた。
「それじゃ希、再生してみて」
「ほいな~」
にこの合図に、希が動画再生の赤いボタンを押す。
まず映り出されたのは、PV映像にも使われた、音ノ木坂学園の裏校庭に広がる一面の芝生。どこかの部活が使用しているようだが、当日は許可を得て場所を提供してもらったのだ。
ビデオカメラから、声が流れ始める。
マネージャーである俺による、一人一人のメンバー紹介。
言葉には一つの濁りもなく、その場面は順調に進んでいった。
やがて、スピーチは中盤にさしかかる。
茜色の空を背景に、屋上に独り立つ、俺の姿が映し出された……。
『お前ら――――』
ようやくラブライブに向けて始動し出した……という所でしょうか。
読んでいただきありがとうございます!
次話もよろしくお願いします!
※川に投げ捨てられた柊蒼太郎は善良たる野良犬に助け出されました。