あらすじにも描きましたが、原作とは内容が添わない箇所があるのでご了承ください。
俺達μ'sが、ラブライブ予選のエントリーと一緒にPV映像を投稿してから、一ヶ月が経った。
あれから、さらに『START:DASH!!』のPVを撮影し、投稿した。
最初は当然ながら最下位のスタートだったが、ここの所、μ'sの名前がランキングで隆盛に上がってきているらしい。
らしい、というのは聞いた話による所だ。グループ通話で穂乃果や凛、にこが大はしゃぎしていたのを覚えている。
今回の出来事で、PV撮影というのがかなり大変だという事が分かった。
九人が踊るシーンをさまざまな角度からカメラを回さなければならないし、何度も何度もカットを入れて、映像の確認をしなければならない。
幸い、穂乃果達のクラスメートとやらが何人か手伝いに来てくれたお陰で、どうにか撮影の方はうまくいったのだが。
それに――。
意外な事に、俺の『あの発表の場』も、かなりの人気だったようだしな。
まぁ、俺としては人気ではなく、視聴者さえ稼げればそれで良かったのだが……。
そんな事を考えながら、最近の日常となったように、部室へ行く支度を教室で整えていると――。
突然のチャイムが鳴り響き、校内放送が流された。
『三年生の絢瀬絵里さん、また夜伽ノ美雪さん、至急、理事長室まで来てください。繰り返します。三年生の絢瀬絵里さん、また夜伽ノ美雪さん、至急、理事長室まで来てください』
……さて、何を言われるんだか。
絵里が一緒という時点で、毎回のようなお説教ではないと思うがな。
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理事長室の壁には、黄金の額縁に飾られた初代から代々と続くそれぞれの理事長の写真。
何かの部活で獲得した賞なのか、いくつもの賞状やトロフィーが、理事長室の一角を贅で尽くすかのように並べられている。
「まァしかし、見事の昔の時代ばッかだな」
「それだけ、ここ十数年じゃ音ノ木坂の活躍の場がないって事よ」
砂漠のピラミッドのように積み上げられたトロフィーを尻目に俺が言うと、絵里がしょうがないと言った笑い混じりにそう言う。
目の前の、何の輝きもない、ちょっと大きめの素朴な机の椅子に腰掛ける、音ノ木坂学園理事長はピシッと背中を張らせていた。
「最近では、二年の園田さんが弓道部の大会で優勝した事くらいでしょうね。その他の部活では、どれも大会の成績は芳しくありません」
これがトップの地位に達する人間か、と感心できる程の理事長の座り姿に、どこも違和感はない。
だがそう言う彼女の表情は、どこか疲れているようにも見える。
今の音ノ木坂に、かつての話で聞けるような煌めかしい戦果はない。
全国インターハイから名の消えた部活動。
生徒の減少問題に続き、冴えない学力偏差値。
それらによってかかる、他校からの圧力。
歴史と伝統ある学園の最後の理事長という胸の張れない立場。
理事長もそれなりに、苦労とストレスを抱え込んでいるのかもしれない。
……そういやこの理事長、南ことりの母親なのだと耳にしたが――なるほど似ている。
ことりは間違いなく母親似だな、目元鼻筋、そして髪型も。
「絢瀬さん、夜伽ノさん」
そんな理事長は、いつも全校朝会などで壇上から見せるような真面目な表情で、俺達の名前を呼ぶ。
「全校生徒が知っている通り、我が校音ノ木坂学園は、生徒数減少問題により廃校の可能性が上がってきています」
導入から深刻な現実が話題に出された。
絵里はやはり生徒会長としてなのか、直立不動に突っ立ったまま、伸ばした両手をスカートに添えている。
理事長室に入った時からずっとだが、よくあんな姿勢で長時間固まっていられるもんだ。
俺なんざジャージのズボンのポケットに両手を突っ込んで片膝曲げてんのに。
「今まで、絢瀬さんや東條さんを中心とした生徒会、また各先生方にも総力を挙げて廃校阻止にあたってもらいました。ですがやはり、今やUTX学院の日陰に隠された音ノ木坂に新入生徒を集めるという事は、非常に厳しい現状にあります」
ですが、と。
理事長は続ける。
「私はどうしても、この音ノ木坂を未来へと残していきたいのです。何十年と続いて歴史を築き上げてきた音ノ木坂を、私の代で潰してしまいたくはない」
理事長の声は落ち着いている。
「ですから協力してほしいのです。あなた達が決して遊び半分や、生半可な気持ちでスクールアイドルをやっているとは思っていませんが、改めて学園の理事長である私から、生徒会長である絢瀬さんと、我が学園のスクールアイドルのマネージャーである夜伽ノさんにお願いします」
だが瞳が揺れる、焦りや不安の動揺は隠せていない。
「あなた達μ'sの活躍が、我が校の存続にかかっていると思っています。今や部活動でも学力でも、世間の目に留まる事のない音ノ木坂を――どうか助けてください。 私達教員も、最大限の総力を掲げて協力に当たらせていただきたいと思っています」
藁にも縋りたい思いなのだろう。
理事長は椅子から立ち上がり、俺達二人へと頭を下げた。
「そ、そんな! 頭を上げてください理事長!」
戸惑うように声を上げる絵里の言葉に、理事長は立ったままで姿勢を直す。
絵里もそんな理事長と向き合った。
「私達、μ'sの目的は第一に、スクールアイドルの大舞台である第二回ラブライブに出場し、注目を集め、音ノ木坂への入学希望者を増やそうというものです。最初から私達は、音ノ木坂の為に活動しているのです」
だから何も理事長が改まって頼み込んでくる必要はないと。
絵里はそう言いたいらしい。
「いえ、絢瀬さん……それでは遅いのです」
だが、理事長から押し付けられた言葉は、あまりに現実を急かさせるものだった。
「一週間後のオープンキャンパス……その日の学園への来訪者数が規定に満たなければ……その時点で来年度の生徒募集の打ち切りは決定してしまうのです――」
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俺と絵里は並んで、外から聞こえてくる部活生の威勢が良い声を耳にしながら、無人の廊下を歩いていた。
「一週間後……」
重たく、何か強力な吸引力が働くかのように表情を難しくさせる絵里は、短く呟いた。
「ねぇ美雪、どうすればいいと思う? あと一週間で、音ノ木坂のオープンキャンパスに来てくれる人を集めるには……」
そう言われ、俺も考えた。
そもそもオープンキャンパスなんてものは、その学校に強く惹かれる……または興味があるなどといった理由でしか人は来ない。
そして主な対象となるのは現在の中学三年生だろう。
中学一年や二年では、まだ夏休み前の一学期では高校受験に対する意識が薄い。オープンキャンパスなんてものなど考えもしないだろう。中にはその時期から意識を強く持った生徒もいるだろうが、そんな奴らはどいつもこいつも勉強ばかりしている成績優秀者で、顔を出すといったらそれこそUTXに引っ張られる。
「なら、やッぱ対象は中学三年生……こいつらをいかに集められるか――」
その方法はなんだ。
音ノ木坂を、一週間以内で、人の頭に強く印象づけられる事が可能な方法は――。
「やっぱり、またPV動画をネットにアップするしかないかしら。最近じゃ私達μ'sも、ネットの世界じゃ注目されつつあるし……」
顎に手をやりながらそう言った絵里に、
「いや、それは不可能だろ」
俺は即反対する。
「え、何でよ?」
「考えてみろ。今までネットに上げたPV動画を完成させるのに、どれだけの時間と人員がかかッたと思ッてる。あの二曲は俺がμ'sに入る前から練習していた曲だったから、二週間かかるかかからないかで終える事ができたが、お前ら他の曲の踊りはまるっきし駄目じゃねェか」
当初の問題が解決していない。
いまだこいつら九人のテンポがどうも合わさる事ができていないのだ。
そんな事すら考えられないくらいに、絵里も焦っているらしい。
「とても一週間じゃ間に合わねェよ」
「そ、そうよね……けどどうしたら……」
俺と絵里は再び、頭を捻らせた。
そんな時だった。
いつの間にかすぐ目の前と迫っていた部室の扉の向こうから、花陽と思える甲高い叫び声が聞こえた。
「ちょ、何かあったの!?」
すぐさま絵里が扉を開ける。
部室の中には見る限り、ことり以外の全員が集まっていた。
花陽の叫喚に耳を塞ぐ者もいれば、何かと彼女に駆け寄る者もいる。
ふと、穂乃果が俺達に目を向けた。
「あ、二人ともお疲れ~、何話してたの?」
「何話してたの、じゃないわよ……どうしたのよ花陽、ん?」
怪訝そうな声を出す絵里に、俺もつられて、部室の壁際に立てられた棚の横にいる花陽に目を向けた。
何やら戦くように驚愕しているみたいに、両目と口を大きく開かせている。
その手には、一枚の板紙が握られていた。
「花陽ちゃん、それがどないしたん?」
希の単純な問い掛けに、花陽は身体を小刻みに震わせながら、手に持つ――色紙らしきものを見つめながら口を開いた。
「こ……これ、は……あ、あの、伝説のアキバのメイド……み、みみ、ミナリンスキーさんのサイン色紙じゃないですかああああああああああ!?!?」
声を荒げてキャラをも忘れる花陽の声に皆が眉を潜めたと思うと、一人だけ――矢澤にこが自慢気な笑みを浮かべながら席を立った。
「ふっふっふっふっふっ……どう、花陽? この私がネットで見つけて誰よりもいち早く購入できた、ミナリンスキー様の直筆サインよ。かぁなりお値段はしたけどねぇ」
ふふん、と。
黒髪のツインテールを右手で靡かせるにこの姿に、花陽は思わずといったように両膝をついた。
「ま、まさかにこちゃんは、ここまでのコレクターだったなんて……。ライブを講演するアイドルだけじゃなく、秋葉原のとあるメイドカフェに突如現れ、幻の天使と呼ばれる程の超人気を得ている、アキバのアイドルメイド――ミナリンスキーさんのサインまで持っているとは……っっっ」
「ふっふーん!!」
……やれやれ、何かの演劇か、これは。
目の前で繰り広げられている二人の茶番劇に、俺は間に入って手を上げた。
「ンでェ、何だよその、ミナリン、スキー? ッてのは……」
「知らないのぉ!?」
「うおッ!?」
可愛らしい顔で鬼のような迫力で迫ってきた花陽に、俺は思わず一歩後ずさる。
それからしばらく、俺を含めたμ'sメンバーは、花陽からミナリンスキーとやらについて説明を受けた……かなり長いのを。
まとめてみると、ミナリンスキーというのは、所謂メイド喫茶で働くメイドさんらしい。
その麗しい声色と、高層ビルの最上階にある最高級レストレンから眺める夜景に匹敵する程の煌々とした笑顔を拝む事ができるのは、実に稀な事らしい。
にこも花陽も、彼女が働くという秋葉原でいくつものメイド喫茶を尋ね歩き回っているらしいが、未だ本物のミナリンスキーとやらに出会った事はないようだ。
「そのミナリンスキーって人、ほんとに存在するのかしら?」
「そうですね……そこまで姿を見せないというのはあまりに不自然ですね」
「もしかすると、そのサイン色紙もデマな噂を流した人が描いたお金儲けの道具だったりしてにゃー」
真姫と海未、それに凛が口々にそう言う。
「い、いますよ、ミナリンスキーさんは!」
「そうよ! 何も知らない癖に口出してくんじゃないわよ失礼ね!」
彼女ら三人の意見には、俺も同じような事を考えていたので反論できない。
だがにこと花陽はその可能性を頑なに受け入れようとしなかった。
そしてやはり、そんな途切れの知らない会話の中には彼女が混ざれる。
「じゃあさ! みんなで会いに行ってみようよ! その伝説のメイドさん、ミナリンスキーに!」
そして、一度勢いづいた穂乃果の言動を、結局誰も止める事はできなかった。
海未や絵里が「練習の方が大事」と言って聞かせたのだが、穂乃果の我が儘に乗じて花陽とにこも、彼女の意見に賛同し、今日は練習どころではなくなった。
だが、お陰で俺に閃いた事もある――。
「んもぉ、一週間後のオープンキャンパスについて話さなきゃならないのに……」
それぞれ出掛ける準備をし始めるメンバーを眺めながら嘆く絵里の肩に、俺は手を置いた。
「いや、今日はそのオープンキャンパスに向けて、かなりの収穫が手に入りそうだぜ」
「……美雪?」
秋葉原――。
少し強引なやり口になりそうだが……まぁこの際仕方がない。
後戻りはできないという覚悟を示す意味も含め、俺は自信ありげに笑みを浮かべる。
「俺に、考えがある」
短期間で曲を完成させられ……
また短期間で人前に出す事のできるライブが――。
そういや、今日はどうして、ことりは来ていないんだ?
不定期投稿の作品を待っていただき、また今回も読んでくださりありがとうございます!
最近、学校で溜まる疲労とストレスが原因なのか、何事にもやる気がなくなっているような気がするのです……ふわぁ。
いえ、けどこの作品には真剣なつもりです!
だって本来これを書いている時間には僕は受験べn――グハッ!
それでは、次話もよろしくお願いします!