笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 友達A「たまにはみんなでメイド喫茶とかに行こうぜ」
 友達B「は? やだよ」
 友達C「ありえねぇし」
 友達D「俺もそういう所はちょっと……」
   
   僕「御意」


27話 南ことりは親友達の一歩後を歩く

「えぇぇぇぇ!? わたし達μ'sの商品が並んでるううううううううう!?」

 

 店の中であるにも関わらず、穂乃果は普段より数倍の声量で叫び上げる。

 

 また彼女が口にした内容は、メンバー全員の注目を集めるには十分だった。

 

「う、うっそにゃあ!? 何で凛達のポスターやキーホルダーが……っ」

「ちょ、ちょっと!? 何であたしの写真に『真姫お嬢様』なんて文字がプリントされてある訳!?」

「真姫ちゃん、うちなんて『音ノ木坂の魔女』やで……まぁ響きはええな」

「ちょっとにこのは!? にこのアイテムは何で置かれてないのよ!?」

「『女帝エリーチカ』? ……どうしてお祖母ちゃんから授かった私のあだ名が広まっているのかしら……?」

 

 メンバー全員が口々に喚き始める。

 こうも騒げばさすがに店員の視線が痛くなってくる訳だが。

 

 ……エリーチカってだから何だよ。

 

 秋葉原に最近新しくオープンしたとされる、スクールアイドルショップ。

 

 その一店舗の中にアイドルグッズを漁りに行ったにこと花陽に付いていってみれば、そこは驚くべき光景だった。

 

「み、ミューズって……薬用石鹸ではありませんよね……? ほ、本当に私達の事なのですか……?」

「わたし達μ'sの事ですよお! はわわ……は、花陽の写真が~っ」

 

 店内の一角には紛れもない俺達、μ'sメンバーに関するグッズが盛り沢山。

 

 企業から商品化の相談は来ていないが……もしかすると学校の方があらかじめに許可を下ろしていたのかもしれない。

 もしそうでないのなら…………アイドルの世界って怖いな。

 

「だがよォ……」

 

 また俺の目も、μ'sグッズのコーナーに飾られる、ある一つの看板を捉えていた。

 

「こりゃ、何なンですかァ……」

 

 

『音ノ木坂スクールアイドル

   μ'sイケメンマネージャー

     夜伽ノ美雪のグッズも近日発売!!』

 

 

 これはまたふざけた冗談だ。

 

「俺はマネージャーであッて、アイドルじゃねェンだぞ……」

 

 この俺、夜伽ノ美雪がμ'sのマネージャーであるという事実は、恐らくラブライブホームページに掲載したプロフィール映像で知ったのだろう。

 

 だが、なぜ俺のグッズまで商品化する必要がある。

 ……まぁ、確かにあの紹介映像じゃ、俺の評判は鰻登りに良かった訳だが……。

 

『美雪ちゃんの映像を見て、女の子のファンが凄く増えたみたいだよ!』

 

 かつて、穂乃果がそんな事を言っていたのを覚えている。

 

 確かにあれからのμ'sは、ラブライブ予選であるランキングで五〇位にまで昇ってこられた。

 

 だがいくら何でも、これはなぁ……。

 

 俺がそんな事を思っていた時だった。

 

「あ、あの!」

 

 聞き覚えのある特徴的に甲高い声。

 

 その声に反応したのは、俺だけではなかった。

 

「このお店に、わたしの生写真があるって聞いて……あ、あれは駄目なんです! 今すぐ取り外してください!」

 

 ベージュ色に近い薄茶髪を揺らし、笛のような声に必死さを醸し出しながら訴える、ぶ厚いメイド服を着た少女……。

 

 あの顔は――

 

「……ことりちゃん?」

「ピィ!? ほ、穂乃果ちゃん!?」

 

 緑色のリボンに黄金色の瞳。

 

 正真正銘、そのメイドは疑いようもない――正体は南ことり。

 

 では、彼女はメイド服なんかを身に纏わせ、秋葉原の街で何をやっている――?

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「「こ、ことり(ちゃん)がアキバで伝説のメイド、ミナリンスキィィィィィィィ!?!?」」

 

 ビルのエレベーターを上がった所のメイド喫茶。

 その隅の席に座って申し訳なさそうに俯くことりに目を張りながら、にこと花陽が絶叫した。

 

「ご、ごめんね……別に、秘密にしようとしてた訳じゃないの……」

 

 スカートに完全に覆われた膝元の上で両手を組み、瞳を閉ざしたことりが懺悔するように言った。

 

 秋葉原のとあるメイド喫茶に突如として出現した伝説の――幻の天使と謳われる奇蹟のメイド――。

 

 彼女の本名は、南ことり。

 

 その新事実は、どうやら彼女の幼馴染みである穂乃果と海未でさえも、ご存知ではないようだった。

 

「も、もしかしてことりちゃん……その姿で本物のアイドルやってるの!?」

「え!? ち、違うよ穂乃果ちゃん……わたしは、本当にただのメイドで。アキバのアイドルメイドっていうのは、お客さん達が勝手に呼び始めちゃったものなんだよ」

 

 ただアイルバイトをしていただけだが、無意識のうちにいつの間にか輝く程の注目を浴びせられ、大仰な噂が広まっていったのだと、ことりは言う。

 

「一体、いつからなんです、このバイトは?」

 

 海未の問いに、ことりはしばらく沈黙を守ってから喋り始めた。

 

「わたし達三人で、スクールアイドルを始めたばかりの頃だったの……」

 

 彼女は語った。

 

 街を歩いていたら、メイド喫茶で働いてみないかという勧誘が来た事。

 自分には、メイドなんて華やかな存在になれる器なんて持ち合わせていないと、最初は断ろうとした事。

 

「でも、その人の来てるメイド服がとっても可愛くて……それに目を引き付けられているうちに、あれよあれよとお店に引っ張られていって……」

 

 そこで彼女はお試しにと、この店のメイド服に袖を通したのだと言う。

 

「とっても可愛くて、服を変えるだけで、まるで鏡に映り込む自分の姿が、自分とは思えないくらいに輝いて見えたの」

 

 ことりは話ながら、メイド服越しでも目立つ自分の胸の膨らみの上に両手を置いた。

 

「もともと私は可愛い服を着たり、華のある衣装を作るのが好きだったから……それも理由でμ'sに入ったっていう事もあるし。でももしかしたら、可愛いメイド服を着て、お店でお客さんの為に働いて、もっともっと頑張っていけば……わたしは輝けるんじゃないかって思ったの、それで……」

 

 ことりの告白に、俺は思わず疑ってしまう。

 

 だが、彼女の言葉に嘘はないだろう。

 

『お客さんの為に――』

 

 そうはっきりと宣言できる人間はなかなかいない。

 ましてやメイド喫茶という、特殊な接待職場で働いている人物には。

 

 俺自身、まだ知り合って二ヶ月も経っていないが、南ことりという人物が恐ろしい程のピュアな心の持ち主であり、その中に汚れた邪な感情はいっさい存在しない人間だという事は、よく観察できた。

 

 大抵メイド喫茶でバイトする女子高生なんて――特に秋葉原という街で働く人物など、客と対面すればあどけない、無邪気な笑顔を振りまくが――心のどこかで『給料目当てだし』や『また男達の相手か……』などという、高い料金を払ってまで会いに来てくれる客を冒涜するような感情を、少なからず抱いているはずだ。

 

 その点、南ことりにはそれがない。

 実に珍しい、特殊といっても過言ではない今時の女子高生だろう。

 

 またその事を、幼馴染みである園田海未も分かっているようで……、

 

「なぜ、わざわざそんな事を――」

 

 しっかりと普段のことりを評価しているようだ。

 

「ことりは輝いていますよ。例えば……私が穂乃果と喧嘩をして落ち込んでいる時に、ことりの笑顔を見れば不思議と心の雲が晴れ渡ります。励ましの言葉を唱えてくれることりの声に、自然と勇気が湧いてきたりもしました。ことりのその、眩しいくらいの輝きに、あなたの存在に、私が今までどれ程救われてきたか……」

「海未ちゃん……」

 

 お互い座っている席は近いが、真正面から目を合わせる海未とことり。

 

 離れの席から、メンバーの声も聞こえた。

 

「そうよね、ことりの声って結構癒しに思える事もあるし……」

「真姫ちゃん前に、ことりちゃんの声ってとても可愛らしいって言ってたしね」

「なっ……り、凛!」

 

「けど確かに、ことりちゃんはいつも輝いてるように思えるで? ことりちゃんが笑顔じゃない場面を見た事がないくらいや」

「希の言う通り。ことり、無理して自分を磨き上げようとしなくて良いのよ? ことりの作ってくれる衣装は、メイド服に負けないくらいの魅力が飾ってあるんだから」

 

 励ましの言葉の中に、絵里のセリフはどこか生徒会長を匂わせる。

 生徒会長、絢瀬絵里はどこかで、高校生がメイド喫茶という、執拗に異性と近づく事が必須である場所で働く事に、嫌悪感を抱いているのかもしれない。

 本人は無意識だろうが、彼女の言葉の内容はそう言っている。

 

 なんとなく、それが分かってしまう俺が嫌になるな……。

 

「なァ、ことり」

 

 俺は一人だけ、席に座ってはおらず、壁に寄り掛かりながら突っ立っていた。

 また俺の右手は、A4サイズに印刷された一枚の薄紙を掴んでいる。

 

 ことりは顔を上げ、俺に視線を向けた。

 

「結局、お前が練習を休ンでまで、ここで働きたいと思う本当の理由はなンだ。 可愛い衣装を着たいからか? もっと自分を輝かせたいと思うからか? 他人からの注目を浴びている可愛い自分に酔ッて、優越感に浸りたいからか?」

 

 練習を休んで――。

 この言葉に、ことりが若干、顔を顰めたように見えた。

 

 俺の視界をメインに占めるのは、右手で持った一枚の『歌詞カード』だという事で、はっきりとは見えていないが。

 

「そンなもン、スクールアイドルでも可能じゃねェか。衣装着る事も、ステージに上がッて輝く事も、他人から注目を浴びる事もよ」

 

 なら、南ことりがメイド喫茶で働く理由がない。

 もしお金が必要なのだという理由とすれば、メイド喫茶でなくとも、コンビニやレストランのバイトでも良いだろう。

 

 なら、ことりはなぜ、敢えてメイド喫茶を選んだのか――

 

「……わたし」

 

 全員の――また、穂乃果と海未から特に熱い眼差しで射貫かれながら、ことりは唇を動かす。

 

「置いて行かれたく、なかったんだよ……」

 

「え?」

「え?」

 

 穂乃果と海未が、同時に眉を寄せて疑問を発音した。

 

「だって、だって……穂乃果ちゃんはみんなの、音ノ木坂の太陽で……昔からいっつも元気で、火傷しちゃうくらい熱い思いを自分の心に宿している強い女の子で……、わたしは昔から、そんな穂乃果ちゃんに憧れてた」

 

「こ、ことりちゃん……?」

 

「海未ちゃんはいつもかっこよくて、凛々しくて、堂々としてて……お家じゃ武道をしてる頼もしい女の子だから……わたし、いつもそんな海未ちゃんに惹かれてたの」

 

「ことり……」

 

「でもっ――」

 

 ことりは拒むように頭を横に振った。

 

「わたしには、昔から何もなかったんだよ――!?」

 

 南ことりは、高坂穂乃果と園田海未という親友とは、昔からずっと一緒に毎日を過ごしてきた仲間だと聞く。

 

「穂乃果ちゃんみたいな無邪気な笑顔を浮かべる事はできないの!」

 

 その時点で、南ことりは否定した。

 また、俺の中での南ことりという人物像に亀裂が走った。

 

 メイド喫茶で商品を運び、男性客をご主人様と呼ぶ南ことりの心は、決して無垢なものではなく、女子高生として成長しているものだと、自らの口が証明した。

 

「海未ちゃんみたいに周りから信頼されて、みんなから頼りにされる、そんな完璧で強い女の子じゃないの!」

 

 この時点でまた、南ことりははっきりとした言葉で、二人の親友に告白した。

 

 自分は、二人とは違うのだと。

 

 またことりは、こんな言葉を吐く自分が大嫌いだと言わんばかりに、両肩を抱いた手の指を『可愛い服』に食い込ませ、悲しそうに表情を変える。

 

「昔からだよ……昔からずっと、わたしは穂乃果ちゃんと海未ちゃんに引け目を感じてた。……私には何もない、何もできない、二人と比べて大きく劣っている存在なんだって……」

 

 それに、と。

 ことりは海未の目を見た。

 

「さっき、海未ちゃんは穂乃果ちゃんと喧嘩して落ち込んでいた時って、話をしてたよね」

「…………」

「わたし、その日の事覚えてるよ、なんて言っても、二人が喧嘩したのは一回や二回じゃないしね。それで海未ちゃんがわたしに相談しにきた事も、数え切れないくらいあった」

 

 それは、今も変わらないのだろう。

 

 海未と穂乃果はよく、部室や屋上で言い合いをしている。

 その光景はμ's入りたての俺でさえ、またかと思う程のペースでだ。

 

 それを当然、ことりは昔から見てきている。

 

「羨ましいって思ってた。わたしは穂乃果ちゃんとも、海未ちゃんとも喧嘩なんて一回もした事がないよ。喧嘩するほど仲が良いって言うから、最初は二人が本当に仲良いんだなぁってくらいしか思わなかったの。なのに中学生くらいの頃から、海未ちゃんがわたしに相談しに来るたびに、わたしは喧嘩ができる二人に羨望の思いを抱いてたの」

 

 いくら親友という形が出来上がっているとしても。

 三人で集まる人間の集団に、そういった問題は必ず生まれるものだ。

 

 物事を深く考えない猿などの動物は、仲間との共存意識、また本能のままで行動する事から、同族同士の争いは少ない。

 

 だが人間という生き物は、動物とは違い、理性がある。

 だが、天空の神様のような全知全能の存在ではない。

 

『人間は考える葦である』

 

 かつて読んだ本に、そう書かれていた。

 

 不完全でありながら考える――――思考する意識を持っている事が、人間の特性であり、また尊厳だ。

 

 親友と仲良くしたい。

 恋人と結婚したい。

 

 そういった自然の、欲望とも呼べる感情とは反対に、関係性の近い人間同士にいざこざは嫌でも発生する。

 

 特に強い感情が、嫉妬だろう。

 

 まさに、南ことりの事なのだ。

 

「二人に置いて行かれてるような気がして、どうしてもわたしだけ仲間外れにされてる気がして…………、それからわたしは、今までずっと、二人の背中を追い続けるだけにしたの。それでもやっぱり海未ちゃんと穂乃果ちゃんが大好きだから、一緒にいられれば満足だったから」

 

 かつて、ことりはこう言っていた。

 

『穂乃果ちゃんと海未ちゃんが優勝を目指すのなら、ことりもそれに従おうかな』

 

 やはり、南ことりは二人に付いて行っていた。

 ただ闇雲に、二人の背中を追い続けようとしていた。

 

 だが、どうも繋がらない。

 俺の見ている、この『歌詞』に――。

 

 ことり以外のメンバーは複雑そうに、またもどかしそうに顔を下げていた。

 

 ことりの力になってあげたい。

 少なからず、そう思っている事だろう。

 だが、ことりの悩みはあまりにも大きかった。

 今年初めて知り合ったばかりの自分達に、昔からのことりの悩みを解決してやれる考えなどない。

 

 だとすれば――。

 

「ことりちゃん」

「ことり」

 

 この二人しか、もう残されていない。

 

「ことりちゃん、穂乃果は久しぶりに――怒ったよ」

「えぇ、私も穂乃果と言い争いをした時よりもさらに――頭に血が昇っているようです」

 

 高坂穂乃果と園田海未。

 

 幼馴染みである南ことりを見下ろすように、二人は仁王立ちを極める。

 

「ことりちゃん、わたし達は、今日――」

「初めて、あなたと『喧嘩』をしたいと思います――」

 

 正面からの宣戦布告。

 

 お互い何の布石も打っていない状態でのぶつかり合い。

 だがそれは、穂乃果と海未の二人の喧嘩でのケースと同じだった。

 

 昔からの大親友である二人は、いつも自分らの間を確保していた一人にへと対峙する。

 

 俺を含めたそれ以外のメンバーは、ただ見守る事しかできないだろう。

 

 昼から夜バージョンへと店内を改装する、約一時間の客がいない空白時間。

 

 穂乃果と海未が喧嘩に費やした今までの時間に比べれば可愛らしく見える六〇分の数字だが――。

 

 さて、俺も立ち位置を外すタイミングを失った訳だが。

 

「それじゃ海未ちゃん、どーぞ!」

「台無しですよ、穂乃果」

 

 呆れた表情は一瞬。

 

 俺は久しぶりに、知り合って間もない頃の園田海未の表情を、再び拝見した。

 

 

                     




長い文章を読んでいただきありがとうございます!!

 そういえばついこないだですね……

 友達「お前の作品の主人公、アイツに似てるんだよなぁ」
  僕「アイツ?」
 友達「いやほら、Cの奴が超大好きな……俺はあのアニメあんま知らないんだけど……何て言ったっけ      なぁ……ほら、アイツだよ! お前も結構気に入ってるキャラだとか言ってたじゃん! モデルにしたっ    しょ?」

   僕の(中学時代の)友達は誰の事を言いたかったんでしょうね。
   ちなみに今の学校では僕はボッチです自分で笑った。

 それでは次話もよろしくお願いします!
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