実は作者、秋葉原なんてほんの二回しか訪れた事がありません
――だから何だ、ですよねわかります。
それでは今回、短いですがよろしくお願いします!
「そう……えぇ、分かったわ、私はもう止めない。伝説のメイド、ミナリンスキーとして華やかな終止符を打ってきなさい」
「は、はい……ありがとうございます!」
深いお辞儀を示す南ことりの言葉と同時、メイド喫茶の扉が開き、性別年齢問わずを構えた多くの客が来店した。
「――お帰りなさいませ、ご主人様♪」
南ことりこと、ミナリンスキー。
彼女は今日をもって、ファンの人達への接客を最後の仕事とする。
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「けど、本当に良かったのですかことり。確かに私もきつく言ってしまいましたが、何もやめる事は……」
海未の不安そうな、また申し訳なさそうに言われる声に、ことりは無理をしているような素振りもなく、笑顔を向ける。
「これで良かったんだよ、海未ちゃん。もともと私がメイド喫茶で働き出した本当の理由は、力を持っている海未ちゃんと穂乃果ちゃんの背中へと、必死に手を伸ばそうとしてたってだけだから」
そんな二人の会話に、俺は無遠慮に立ち入った。
「なァことり、俺が頼ンだあの事、ちゃンとやッてきてくれたか?」
「あ、うん! 店長も喜んで受け取ってくれたよ!」
秋葉原の歩道の一隅で固まるμ'sメンバー一〇人は、同時に大きく息を吐いた。
もちろん、ことりと俺を除いて、だが。
「ほんと、いくらなんでも急すぎるわよ。時間はあと一週間しかないのよ?」
絵里の文句に、俺は一枚のビラ紙を翳す。
「逆に一週間もあるじゃねェか。お前らは作詞作曲も衣装準備も踊りの振り付けも全く考える必要がねェ手段なンだぞ。歌詞と曲調を覚えて歌えるようにすりゃ良い話なンだ」
そのビラには、九人の少女達の特徴を細かに書き写された可愛らしいイラストと――
『音ノ木坂スクールアイドルμ's
~秋葉原路上ライブやります!!~』
と、色ペンで書かれている。
「幸い俺達にはすでに一人、今回の歌詞を完璧に歌えて、人前で披露した経験まである奴がいるンだ。かなりのアドバンテージだと、俺は思うがなァ」
今回の歌詞――
それは先程のメイド喫茶の中で、偶然俺が見つけられた薄紙に記されていた歌のものだ。
作詞作曲、ミナリンスキー。
つまり、南ことりの事だろう。
これなら行ける、と俺が直感した。
一週間後のオープンキャンパスに間に合えばいい。
来校者を集められる為の情報を広め、またμ'sの存在を秋葉原という大規模都市に知らしめるキッカケになれば良い訳だ。
なら、この歌ならいける。
曲名――『Wonder zone』。
ことりは言っていた。
『本当の自分を誤魔化してメイド服を着ていたわたしなんかでも、この街なら何でも受け入れてくれる』
多分だが、そんな思いも、この歌の歌詞に込められているはずなのだ。
ならば、この『Wonder zone』という曲を秋葉原で歌わずしてどこで歌う。
「ま、結構良い考えなんじゃないの?」
にこが唐突にそんな事を言った。
「そうだよね、オープンキャンパスが間近に迫っていて、それにあの理事長までわたし達に期待しているんだから……」
「やらない手はないにゃ!」
花陽も凛も、俺の考えに乗ったようだ。
「路上ライブなんて面白そうやし、ええんやない? エリちは?」
「まぁ、そりゃ私だって大丈夫だけどね」
賛同の意を胸張って見せる希と絵里の隣で、真姫は癖のように赤毛を指に絡ませながら言う。
「まぁ、別に歌うだけっていうのなら、路上でも構わないんじゃない?」
「そ、そうですよね。少し人が多すぎる気もして緊張しますが……しかし、学校の為にはやるしかありません」
恥ずかしがり屋の海未でさえ、やる気を見せた。
「頑張ろうね、ことりちゃん」
「うん!」
穂乃果とことりが頷きあったその時、二つの大きな紙袋を両手に抱えたメイドさんがこちらに走ってきているのが見えた。
まさか、ミナリンスキー引退のお祝いという形で、衣装が無料で手に入るとは思わなかった。
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そこから先は順調に物事を運べていった。
九人それぞれのメイド服の試着。
無論、こんなものは一日あれば十分だった。
放課後、また各自自宅での、歌詞の暗記と曲調の掴み。
全員が集中して行ってきたのだろう、これも二日足らずで全てのパートを九人で合わせられる形まで完成した。
ビラに書き込んだ開催日時に、二日後と迫った日。
この日は学校敷地外へと持ち出す音響機材の点検を、俺を含めた三年生組で行った。
そして、本番一日前。
「最近、音ノ木坂のスクールアイドルの都内予選順位が大幅にアップしているようだが?」
「嫌味かよトップ。さッきも目を通してきたが、まだ四二位だ」
放課後の練習を早めに切り上げ、帰宅した俺は再び訪問してきた幼馴染みの統堂英玲奈と話したりしていた。
「やはり、お前のあの紹介映像……いや、『閲覧強要映像』が効果を表しているのか?」
「マジ、その話はやめろ。……それはそうと、A―RISEのPV映像、見たぜ。今更だがお前、かなりアイドルやッてンだな、正直かなりびびッた」
「何だその日本語は……まぁ、UTX学院のスクールアイドルだからな。私達も簡単には負けはせんぞ」
「その前に、俺達μ'sは予選の四位以内に入れるかが問題なんだよ」
そして翌日。
やって来た、本番の日だった。
今、俺の目の前には歩道の通行人の進行を妨げる程の人だかり。
これ以上集まると警察のお世話になりそうなので、俺は人々の山を越えた先に立つ、九人のメイド服少女らに合図を送る。
センターポジションに立つ、南ことりがマイクを口元に翳した。
『それでは、聴いてください。わたし達、μ'sでお送りします――「Wonder zone」』
やがて、曲が始まった。
メイド服なんぞ人生で着た事なんてない海未と、
ハイテンションでフリフリのカチューシャを頭に装着した穂乃果。
彼女ら二人に挟まれて、幸せそうに麗しい歌声を奏でる南ことり。
たったの一曲。
短い時間だったと思うが。
A―RISEのおひざ元である秋葉原でも、
μ's路上ライブは、大成功だったと言えよう。
短い文章でしたが、いかがだったでしょうか?
次回もよろしくお願いします!