夕霧靜霞の送る恋煩い日常の第二弾、是非――
私――夕霧靜霞は、学校のある日は毎朝、シャワーを浴びる事を日課としている。
泡立ったシャンプーを洗い流して目を開けると、視界には鏡の前に立った私の全裸が隠される所なく映し出される。
この間、Fカップにまで成長していた胸――自分の手で触れてみると、柔らかさに加えて抜群のハリも兼ね備えている。
キュッと締まる滑らかなくびれから膨らむお尻だって良い形をしていて、胸と同様どこに文句を付けようというのかしら。
一つの滲みすらない、濡れる事によってさらに柔媚な色気を匂わせる身体。
「スタイルは……結構イケてるわよね」
そう、自覚はある。
バスルームを出て下着を着けると、洗面所の鏡の前でドライヤーを頭上で振る。
制服を着て、母親が用意してくれる朝ご飯をとる。
香水も……少しだけ付けていこうかしら。
今日の授業科目の教科書が詰まった鞄を準備すると、再び洗面所の間に立つ。
艶の輝く黒髪の後ろを両サイドに分け、肩下辺りで重みを感じさせる位置でリボンを二つ通し、身体の前に垂れ飾る。
そこそこ長い前髪には、水色を帯びた大きな瞳が見えるようにヘアピンを一つ留めた。
「顔だって……かなり上位でしょ」
今の時代に流行っている、スクールアイドル。
あれに私がメンバーとして参加してたら、あれよあれよという間にセンターの座を剥奪、全国でも超人気スーパーアイドルになれるわね、きっと。
もしかするとプロからスカウトが来たりして、いえ、グラビアアイドルっていう道もきっと可能だわ。
「ま、もうやる気はないけど……」
小さく、鏡の自分に呟くと、私は家の廊下に置いてある鞄を拾い上げて肩に担ぎ、靴を履いて玄関の扉を開けた。
「いってきます」
今日も彼女に……会えるかしら――。
ーーーーーーーーーーーー
――会えたわ。
というか、見つけた。
昼休みに片っ端から三年のクラスを回っていこうと思って廊下を出た矢先、目立つ銀髪が長い尻尾を振るように歩き去っていく背中が視界に入った。
付いていってみれば、彼女は――夜伽ノ美雪さんは自動販売機に用事があったみたい。
――好機。
「あ、あのっ!」
私は夜伽ノさんに近づくように一歩を踏み出し、胸に手を当てて声を張り上げる。
「…………あァ?」
「っ……」
やや遅めの彼の反応に、私は思わず一歩後ずさり……そうになったが、何とか持ちこたえた。
そりゃ、あんな冷たく鋭い眼光で、威嚇するような声を出されたら誰でもびびるわよ。
すると夜伽ノさんは自分の周囲をキョロキョロと見回すと、今度は身体ごと視線を私に向ける。
「……何、俺に何か用?」
どうやら自分以外の誰かに、私が声をかけたのだと思ったみたいね。
というか……彼女、つい二日前の事を覚えてないのかしら?
私、けっこう人の目に印象強く残る容姿をしている美人だと思ってたけど……あぁ、それは男相手にしか通用しないのかしら。
「あれ……」
ピクリと。
お互いの間は三メートル程開いているが、彼女の眉が僅かに動いたのを私は見逃さなかった。
「お前、確かこの前の……」
「! お、覚えててくれたの!?」
「あ? あァ……まァ」
うっそ……何か今、凄い嬉しい。
思わず大きな声が出ちゃったけど、それすら気にできないくらい、彼女の頭の中に私が残っていたっていう事実に、とてつもなく心が躍っているわ!
「あ、えっと……」
緊張しちゃ駄目よ、夕霧靜霞。
確かに、相手は怖面のイケメンフェイスを構えた、しかし女の子。
やっぱりまだ、私が夜伽ノさんに『恋』をしたかどうか判断するのは早すぎる。
ちゃんと、確認しないと。
「この間は、どうもありがとう……夜伽ノさん」
「ン? ……どこで俺の名前を」
「あの日、あなたのジャージの袖に縫ってある刺繍で分かったのよ。それが緑色の糸で作られていたから、同学年って事もすぐに分かったわ」
話し出せば、意外とスラスラ言葉が出て来るものね。
生徒達とは会話はしないけれど、普段から進路相談や時たま私を頼って仕事の依頼を持ってくる教師達と喋ったりしているせいかもね。
「ふゥン……」
訊いておいて、彼女は特別興味も持たないような返事をした。
「で?」
「……え?」
「俺に何か用な訳?」
そう言われて、私はやっと気づいたわ。
……ここからどうするか考えてない。
けどやはり、学年トップの学力(やはりたまに絢瀬絵里に抜かされる)を持つ私の頭脳は素早く閃いた。
「夜伽ノさん、自動販売機で何か買うんでしょう!? こ、この間のお礼に、私が奢ってあげるわ!」
……完璧ね。
「いや、そういうのいいンで」
……おかしいわね。
と、そんな時。
「あれ、美雪じゃない。お昼ご飯食べたらすぐにどっか行ったと思ったら、こんな所で何してんのよ?」
そんな、あどけなさが残る声が聞こえた。
夜伽ノさんが声に振り返り、私も彼女の奥へと視線を飛ばす。
あれは――。
「ン、あァ、にこか。いや、コーヒー切らしたから、補充しに来ただけだ」
「って、あんたさっき部室でブラックを二缶も消費してたじゃない。身体おかしくするわよ?」
あの、黒髪ツインテールのおちびさんは……矢澤にこ。
なるたけ、卒業するまで顔を合わせたくない人物が来ちゃったわね。
どうする……今日は退散しようかしら。
「……あら?」
するとどうやら、向こうも私の姿に気づいたらしい。
あぁ、なるたけ顔を合わせたくなかった人物に――。
そんな表情を浮かべている。
「……どうした、にこ」
「え? あ、いや何でもないわ。というか、私はお邪魔だったかしらね」
矢澤さんの言葉に、夜伽ノさんが、またこちらを振り向いた。
何よ、そんな「あぁ、まだいたのかこいつ」みたいな顔をしなくてもいいじゃない。
何か、このまま退くのは気に食わなくなっちゃうじゃないの。
「久しぶりね、矢澤さん」
私は先制を仕掛けた。
けれど、向こうは特に大した反応は見せずにいる。
「えぇ、久しぶりに会ったわね、夕霧さん」
「……何、お前ら知り合いなの」
少し驚いたように、夜伽ノさんが私と矢澤さんの顔を交互に見合わせる。
そりゃ、私だって……
「私だって驚きよ、夜伽ノさん。矢澤さんとお互い名前で呼び合う仲だったなんて」
「私もびっくりだわ、夕霧さん。あなたも、私の友達と知り合いだったなんてね」
私の――友達?
「そう、友達ね……」
実に素晴らしい響きだわ。
ほんと、そんな事を恥ずかしがりもせず、胸を張って言えちゃう人間に尊敬できる。
私はつかつかと歩き出し、夜伽ノさんの真ん前に立って、一つの自動販売機と向き合う。
財布から千円札を取り出して自販に投入すると、ブラックコーヒーのボタンを連打した。
「はい、これ!」
「は? うおッ!?」
合計八本のコーヒー缶を取り出し口から抱え込み、そのうちの七本を夜伽ノさんに押し付ける。
彼女も予想外の私の行動に目を剥きながらも、その全てを腕に抱えた。
「それじゃ」
「お、おいお前!?」
踵を返して歩き出す私の背中に、未だ名前も呼べない夜伽ノさんの声がぶつかる。
矢澤さんの、どこか痛い視線を感じた。
けれど、今日はもういいわ。
あのままあの場にいても、良くない結果しか残さなかったから。
私は長い廊下をやや速いペースで歩き続け、一目散に教室を目指した。
この日の放課後。
とんでもないご褒美が、神様から授けられるとも知らぬまま――。
懲りないASを読んでくださりありがとうございます!
今回、というかまだ始まったばかりなので、過激な感情表現は控えた夕霧靜霞の語りとなりましたが、いかがだったでしょうか。
次話の三章最終話もよろしくお願いします!