笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 最近、暖かい日が増えてきましたよね。

 と言うわけで、本作でも舞台は夏へ入ります――!!

 それでは、どうか。




第四章
31話 夏、突入


 

 ――母親と――そうだ――

 

 

 あの日は――母親と手を――

 

 

 手を繋いでいた――

 

 

 ベンチ――あぁ、

 

 

 緑色の椅子――に腰掛けて――

 

 

 座って、待っていたんだ――

 

 

 何を待って――いたんだっけ――

 

 

 ――忘れた――

 

 

 ただ、あの時――

 

 

 二人――いや、三人か――

 

 

 やっぱり二人だ――

 

 

 男が――顔のない――男が――

 

 

 顔のない男が――叫んだ――

 

 

 叫びながら、入ってきて――

 

 

 そうだ、銃だ――

 

 

 拳銃を――顔のない男が――

 

 

 撃って、撃って――

 

 

 たまたた席を立って――いた、母さんは――

 

 

 そうだ、捕まって――

 

 

 他にも――人はいたのに――

 

 

 母さんが必死で抵抗していた――のを――覚えてる――

 

 

 名前を呼んでいた――

 

 

 誰の――

 

 

 顔のない男が――拳銃を落とした――

 

 

 それは――転がって――

 

 

 気づいたら、――手の中に――

 

 

 その後は――どうだったんだっけ――

 

 

 ――そうだ――

 

 

 オレハソノケンジュウヲカマエテ――――

 

 

 ――気づけば――ミギテ――が、染まっていた――

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「――ウおアァァッッッ!?!?」

 

 荒げた声は短い悲鳴となり、自分でも驚く程の素早さで、ベッドから上半身を飛び起きさせた。

 まるで誰かに背中をグンと、強く押されるような、自動的な感覚だった。

 

 脂ぎった汗が、額から太股までの全身から噴き出ている。

 寝返りが酷かった模様を表す、乱れたシーツ。

 荒い息遣い。

 

「がッ……ァあ……ッ」

 

 突然の頭痛に、右手を頭に当てる。

 突発的なもので、痛みはすぐに治まった。

 

 閉ざされたカーテンの隙間から漏れる太陽の光が、現在が朝なのだという事を教えてくれる。

 

 今日もまた、学校がある。

 

 頭から手を離し、その開かれた右の掌に、俺は目を向けた。

 

「ぐッ――」

 

 撃ち出されたようにベットから飛び出すと、俺は自室の部屋を破るようにして開け、廊下を走り、激しく音を鳴らしながら階段を駆け下りる。

 

 向かった先は風呂場の隣の洗面所。

 

 スライド式の蛇口を開き、お湯を出す。

 

「はッ――はッ――はッ――」

 

 必死に、手を洗った。

 

 左手の五本の指で、右手全体を洗い流すように。

 

 隣の液体石鹸を左手に大量に垂らし、それを右の掌に押し付けるようにして――擦った。

 

 

 ――消えない。

 

 ――残っている。

 

 ――こびり付いている!!

 

 

「くそ……ッッッ!!」

 

 俺はそのまま、手を洗い続けた。

 

 何分経ったかは分からない。

 親父が寝室から出てきた際に出した大きな欠伸に気づき、俺はお湯の勢いを止めた。

 

 

 ――――また、嫌な夢を見た……。

 

 

 いつまで続くのだろうか。

 

 この、悪夢の螺旋階段は――。

 

「クソッたれが……」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 オープンキャンパスの一件から、さらに一ヶ月が経過していた。

 

「にごぉ~」

「もう勉強は嫌にゃ~!」

「海未ちゃんの鬼ぃ~!」

 

 にこ、凛、穂乃果の三人が泣いて喚いたテスト勉強も報われたようで、何とか全員が、一学期の期末考査を赤点回避で終える事ができた。

 俺も勉強が得意な方ではないが、ちょっと教科書をテスト前に見直せば、平均点いくかいかないかくらいの点数は取れた。

 

 一学期終了まで、残り三日。

 

 後に控えるのは、夏季長期休業。

 

 また当然だが、この時期になると――。

 

「あ、暑い……」

「干からびるわ……」

 

 真夏の太陽が灼熱の陽射しで地上を焼き尽くしている。

 街を歩くサラリーマンは地を這うようにして歩き、都会のビル群の大きな窓ガラスがお日様の輝きを反射させ、世界を眩しく照り付けている。

 

 音ノ木坂学園の屋上もまた然り。

 

 現に俺の目の前では、練習着に着替えた穂乃果とにこが猛暑の拷問に堪えきれず、だらけた姿勢で屋上の地面に寝そべっていた。

 

「確かに、こんなに暑くちゃ過度な練習はきついかもしれんね」

「こまめな水分補給も欠かせないわね」

 

 希と絵里の言う通りでもある。

 

 クーラーボックスにはいつもの四割り増しのスポーツドリンク。冷えタオルの準備も万端に仕上がっている。

 

 また問題は、μ'sメンバーには、中学の頃に部活を体験してこなかった奴が多い。

 

 高坂穂乃果。

 南ことり。

 小泉花陽。

 西木野真姫。

 東條希。

 絢瀬絵里。

 

 三年の二人はやはり先輩としての意地か、プライドか――また絵里の場合は幼い頃に打ち込んでいたバレエで磨かれた体力があるのか、未だ立っている事はできている。

 

 その他の四人は話にならなかった。

 全員が全員、暑さで地べたに這い蹲っている。

 

「も、……もう……だめぇ……」

「ほの、かちゃ……ん……頑張っ……て……」

「だ、誰か……たすけてぇ……」

「こ、こんなだらしない姿……絶対に、あたし……じゃ、ない……わ……ヴェェ……」

 

 一刻も早く乾ききった喉を麗したいという一心で、クーラーボックスに手を伸ばしていた。

 

 矢澤にこは中学の頃、基礎体力作りという名目で運動部を転々としていたらしいが、そんな彼女でさえ白目を剥いて仰向けに倒れ込み、その顔を陽射しで射貫かれている。

 

「まったく、皆さんみっともないですね」

「凛はまだまだいけるにゃー!」

 

 反対に、まったく暑さにダメージを削られている様子がないのが、この二人だ。

 

 海未は日頃からの部活動――だが弓道部ではさほど体力はつかないはず――それを補っているのが、自宅の家元道場で行う稽古なのだろう。

 

 凛は中学の頃に陸上部に所属していた。こんな灼熱地獄が続く毎日でも、練習を怠った事はないのだろう。基礎体力など余る程蓄えているはずなのだ。

 

「けどまァ、これじゃ練習になンねェよな」

 

 いくら二人だけ冴え渡った超人がいた所で、他の七人がしんどい思いをしていては、この先の行く末が不安になる。

 

 吹奏楽部や美術部といった、屋内で活動する部活はいいだろう。今頃、クーラーの効いた冷えた教室で、自らの時間を過ごしているに違いない。

 

 だが、アイドル研究部じゃそうもいかない。

 

 屋内にも部室はあるが、そこで飛んで跳ねて発声練習をして……では、いつか下の階で活動する部活動顧問に文句を入れられる。

 

 俺はジャージのポケットからスマホを取り出し、画面を起動させ、インターネットからラブライブホームページを開いた。

 

 μ's――二〇位。

 

 数日前に投稿した『友情ノーチェンジ』、また『Oh,Love&Peace!』の二曲も人気だったようで、さらに順位が上がっている。

 

 これに気合いを入れ直し、今はまた新曲の振り付けを練習しているはずなのだが――。

 

「……おい、お前らいッたン集合」

 

 このままではやばい。

 判断した俺は、一度屋上の入り口である扉を開け、全員を中階段の踊り場へと避難させた。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 陽射しが届かない分、階段の踊り場はまだ涼しい。

 それでも開けられた扉の外に見える真っ青な空と照り付ける黄金の陽射しは、目にするだけで鬱になりそうなものだった。

 

 俺も比較的インドア派なので、メンバーのこいつらのように、歌って踊ってなどの運動をすれば、とっくに死んでいたろうと思う。

 

「今置かれている状況はかなりやばい、それはお前らも分かッているはずだ」

 

 全員がスポーツドリンクを片手に、俺の言葉に注目を向ける。

 

「夏ッていうのは一番、練習量を確保できる季節だ。朝早くから夜遅くまで活動している部活もある。寒さに凍えて身体が動かせない冬なンかよりはよッぽどマシなはずなンだよ」

 

 だが、地球温暖化の影響か。

 今年は気温の上昇が例年より早い時期に訪れ、今の段間ですでに三〇度を超している。

 夏休み真っ直中となれば、一日の最高気温などとんでもない事になるかもしれない。

 

「そうなれば、このクソ暑い天気の中じゃ、屋上での練習にも限界がくる……お前ら、どッか良い練習場所知らねェか?」

 

 そうは言うが、全員がそれぞれ他人の顔を見合わせる。

 やはり、そう簡単にはいかないか。

 

 そう思っていると、

 

「朝早くから……夜遅くまで……」

 

 一人だけ。

 穂乃果が首にタオルを巻いた状態で、右手を顎に当て、何やらぶつくさ呟いている。

 

 直後。

 

「そうだっ!!」

 

 穂乃果の大声に、全員が顔を顰めた。

 

「ど、どうしたのですか穂乃果、いきなり……」

「穂乃果ちゃん……?」

 

 ついに暑さで頭がやられたか。

 そんな心配でもするように、海未とことりが不安そうに声をかける。

 

 だが当人の穂乃果はそんな彼女達に見向きもせずに、我先へと真姫の前にグンと身体を寄せた。

 

「真姫ちゃん!」

「ヴェエ!? な、何よ……」

「真姫ちゃんちって、別荘とかがあるって前に言ってたよね!」

「え? ま、まぁあるにはあるけど……それが何なのよ?」

 

 キラーン、と。

 先程まで猛暑熱に全身を焼かれ、瀕死状態に陥っていた彼女とは別人のように、穂乃果の瞳が光った。

 

「みんな――――合宿だよ!!」

 

 そしてどうやら、忙しい夏休みになりそうだ。

 

 

 





 友達A「どっか旅行行きたいよな」
   僕「どうした、いきなり」
 友達A「こないだ部活のアルバム見てさ、合宿の時の写真で、ふとそう思った」
   僕「……行く?」
 友達A「超行きてえ! 温泉入って美味い飯食って!」
   僕「いいな友達同士でそういうの!」
 友達A「いろんな奴誘って、夏休みとかに行くか!」
   僕「だなだな!」

 友達B「お前ら受験勉強は?」

 友達A「ナニその単語」
   僕「I do not know」
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