笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 さて、今回のお話ではようやく、水浦竜三がメインとなってご登場します。
 皆さん、どうか彼の活躍も応援してください!

 ※本編のラブライブ! のイメージから少し離れたお話となっております。




33話 裁かれる復讐

 

 夜伽ノ美雪。

 

 

 彼女が結城雅人と対峙してから、二四時間程が経過していた、そんな日――、

 

 とある二人の男にも、動きが見られた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 水浦竜三。

 

 先日から彼は二日連続で学校をサボっていた。

 

 だがなにも、家でダラダラと無意義な時間を過ごしている自分の姉の踏襲などはせず、彼は常に外を出歩いている。

 無論、制服では補導される心配があるので、ヴィジュアル系の濃い私服姿で、だ。

 

 ちなみに水浦竜三の姉――水浦凛虎〈みうらりんこ〉という人物は、大学一年生という学歴までを持つ二十歳だが、今じゃ碌に学校へも顔を出さず、バイトもしなければ家の外にも出ないという不良娘だ。

 時たま外出する事があるが、その日は毎度、夜遅くに男を数人、家に上げ込んでくるような人間だ。

 飽きの回るのが早い水浦桃迦は毎回別の男を連れ込み、夜中には抑制もできない喘ぎ声を部屋から漏れさせる日々が続いている。

 

 水浦竜三は、そんな姉が大嫌いだった。

 

 姉と一緒にいる時間を少しでも減らしたくて、平日に学校を休んだとしても、外で太陽の光を浴びる事にしているのだ。

 しかも姉の情事が終了を告げるのは必ず決まって深夜二時。

 それまで水浦竜三は帰宅が許されないのだ。

 

 今日もまた、水浦竜三は街を歩く。

 

 現在時刻は午後九時二十八分。

 

 空一面は真っ暗だが、都会特有の街のライトアップが周囲を豪放に盛り上げさせていた。

 

 散らかった杯盤が窓から覗ける居酒屋が建ち並んだこの地域は、街路灯以外に紅灯が照らされる時間になると、高校、大学生の友達同士――男と女が盛んに入り混じった広場が目立つ。

 

 男が女の肩を掴み、女が人目も憚らずにキスを男へとせがむ。

 

 もう一度言うが、それらは全て学生だ。

 

 その光景は、とても雅趣なものとは呼べない。

 大人しく、清潔感があり、学業も優れたクラスの優等生などがこの場に訪れればたちまちストレスで胃に穴が開くレベル、まさに虎口へと突っ込む行為だろう。

 

 だが、水浦竜三は姉とは違い、そのような酷く紊乱した場所には目も向けない。

 

 基本的、彼は群れる事を嫌った。

 集団行動を主としない、野生の熊のような存在でありたかった。

 

 故に、彼は組織の領袖という立場にも興味はなかった。

 誇れる覇権を手にし、何者にも恐懼されるような存在になろうとは望まなかった。

 

 試合の醍醐味を敢えて避けて通る。

 物語の佳境部分でも平気な顔で本を閉じる。

 

 贅を尽くした栄華を極めようともせず、

 相交互にやってくる禍福をも素通りする。

 

 かといって、彼は徳育を学ぶ訳でもない。

 因習に縛られる訳でもなければ、聡明な人間が手にする絶対の叡知を欲する訳でもない。

 

 

 水浦竜三は、自由でありたかった。

 

 

 気ままに毎日を過ごし、学校という閉鎖空間に囲まれない生活。

 

 たまに、自分でも反吐が出ると思いながら女遊びをしながらも、どれ相手でも本気にはなれない。

 

 手足に繋がる枷を常に外した状態で歩きたかった。

 

 

 だが、そんな彼でも――

 一つだけ、本気に向き合えた存在がある。

 

 

 夜伽ノ美雪。

 

 

 自分と似ているようで、そうでない人物がいた。

 

 彼女は残酷を極め、

 人道に外れ、

 下衆の極意を心得、

 跳梁する悪鬼の如く、

 とてつもなく最凶最悪の少女。

 

 初めは好奇心だった。

 

 しかし――、 

 

 中学からの付き合いである水浦竜三には、それらが理解できていた。

 

 だからこそ、彼は彼女に夢中になれた。

 

 故に、彼は彼女の『過去』を知る事ができた。

 

 その為、彼は彼女を守りたいと思った。

 

 その心の感情が、未だ花を咲かせた事のない、小さな蕾となっている事と知らずに――。

 

 いくら時が流れても、春の息吹が囁かないまま……、

 

 

「悪いが、俺はもう手加減できねぇぞ……」

 

 

 彼はまた、自分『達』の悪へと牙を剥く。

 

 

 それに対し、自らを絶対の正義と考える彼女は嗤う。

 

 

「燐くんもそれが分かっているから、わざわざこのあたしを派遣したんじゃないのかしら?」

 

 

 意外にも、その声は妖艶に響いた。

 

 一人の女――大人びた高校生といった雰囲気だ。

 

 胸元とヘソ周りを大胆に見せつける小悪魔的な服装は、グラビアアイドル顔負けな彼女の肌白い、妖美な身体をよく映している。

 だがそれも、後ろから羽織る真っ黒なコートが、背景を陰湿なものとしていた。

 

 装飾の多いミニスカート……それから伸びる肉付きの良い長い両脚は中途半端なストッキングで覆われているが、水浦竜三にはそれが分かった。

 

 当たると……壊れる。

 自分の身体が――。

 

 彼女の麗姿にかかる、ウェーブの目立った赤混じりの紫色に染めた長い髪を両手で整えるように弄くっている。

 

 彼女の名前は來栖麗羅〈くるすれいら〉。

 

 

 水浦竜三と來栖麗羅は、間隔四メートルの配置で真正面から対峙していた。

 

 

 獲物を見定める豹のような真っ黒に染まる水浦竜三の瞳は、相手を威嚇する獣の目ではない。

 目の前の悪意を叩き潰す――。

 ただそれだけを物語る瞳。

 

「俺は確かに警告したぞ……それを無視して暴走したのはテメェらだ。手始めに、自分達の手で後始末だけはさせてやる」

 

 贖罪では済まさない。

 その言葉に、虚構はない。

 また、それは苛政でもない。

 

 逆に來栖麗羅は、水色に輝く玲瓏たる双眸で相手を見つめる。

 

「怖すぎるわねぇ……えぇ、お漏らししちゃいそうになるくらい怖いわよ、あなた。何が怖いって……そこら辺に転がる不良にはない、わずかな瑕疵すら見当たらない善良と信じる真摯な眼差しで――――あたしを見つめてくれている事よ」

 

 お互い、構えは取れていない。

 

 

「鬼籍に入れてやるよ、どブス女が」

「女に対して見る目もないあなたに、遺徳なんて誰にも残らないわよねぇ」

 

 

 しかし両者は人気のない地面を蹴った。

 

 水浦竜三の腕と、來栖麗羅の脚が擦りながら交差する。

 

「――っ!!」

「ふっ――!!」

 

 一瞬の息を吐く。

 

 最大限に見開いた瞳で相手の身体の動作を察知し、頓知の判断で自分の手足を反射的に繰り出している。

 

 男と女だが。

 

 中国で人気なA級カンフー映画のスタントマンで撮影されるようなぶつかり合いが、現役の学生二人の極端な距離で行われているのだ。

 

 ほんの束の間。

 

 來栖麗羅の長く、またぶ厚い紫髪が動作の反動で舞い上がり、水浦竜三の視界を塞いだ。

 

 しかし、それは一瞬。

 

 だが、それは大きな一瞬だった。

 

(しま――っ!?)

 

 水浦竜三の目に、綺麗な三日月型に描かれる笑みの唇が映る。

 

 直後。

 

 高価そうな高いハイヒールが履かれた來栖麗羅の右脚の踵が、水浦竜三の顎を砕きながら貫いた。

 

「ぐぼァッッッ――!?!?」

 

 強烈な刺激が与えられた顎と共に、極度に角度を曲げられた首にも激痛が走る。

 

 倒れはしなかったが、水浦竜三はよろけて数歩下がる。

 

「あら……」

 

 なぜか、攻撃を成功させたはずの來栖麗羅の方が、意外そうに目を見張った。

 

「あたしの脚を喰らって堕ちなかったのは、あなたが初めてかもしれないわ。大抵は顎の骨が砕けて入院生活、それかこのハイヒールの踵部分が口内まで達する事があるのだけれど……」

 

 それ程、彼女は自分が強力だと言う。

 それ程、彼女は今まで戦果を上げているのだ。

 

 真っ赤なハイヒールを履き直すように、トントンとつま先を地面に叩いてから、彼女を腰に片手を当て、片足に体重を任せた。

 

 その表情は、また嗤っている。

 

(野郎……余裕こいてら……)

 

 幸い顎は破壊されていない。

 瞬時に受け身は取れたが、衝撃の直後はマジで割れたかと、水浦竜三は覚悟していたのだ。

 

(遊びで女を相手にした事は何度もあるが、真剣じゃこれが三度目か……)

 

 女だからと手心を加えるな。

 女の皮を被った野生のライオンと考えろ。

 

 いずれにしても、今まで通りに立ち向かっていけば何も問題はない。

 

(今まで喧嘩じゃ負けた事はなかった……、それに今回はただの喧嘩じゃねぇ……)

 

 水浦竜三は口元の吐血を拭いながら、自らに念じかける。

 

(俺の親友に――美雪に手を出したこいつらに鉄槌を下す――――それが俺の最もな使命と考えろっっっ!!)

 

 彼は再び走り出した。

 

 二人の間で勘ぐり合いに等しい、身体のぶつかり合いが始まる。

 

 素早く、尚かつ強靱な一撃を――。

 

(あくまで俺の目標は梶ヶ谷だ……あの野郎、必ずぶっ殺してやる!)

 

 その為には――。

 

(こんな女一人、すぐに……っ)

 

 刹那。

 

 水浦竜三の腕が、弾かれる。

 

(――――力負け、だと……っっっ!?)

 

 女より、男の方が筋力的に上だという事は世界の基本だ。

 それこそ、女の身体がボディビルのような筋肉マンでなければの話だろう。

 

(力負けじゃない……この女、相当な技術――勝負においてのテクニックが……っ!!)

 

 バギャッッッ!!

 

 そんな豪快な音は、水浦竜三の側頭部から割れるように響いた。

 たまらず、彼は吹っ飛ばされるように転倒する。

 

 大股を開き、気にしないように派手柄の下着を覗かせながら左脚を高く上げた來栖麗羅は、水浦竜三の事を逆に心配そうに見つめた。

 

「あ、あ~~~……大丈夫、あんた? 多分、今のじゃ間違いなくひび割れには到達したと思うけど」

 

 それからまた、クスクスと肩を揺らした。

 

「グ……くっ、――――クソ、野郎……っっっ!!」

 

 すぐさま地面から回転するように起き上がった水浦竜三は歪な構えを取り、瞬間的に距離を詰める。

 

 が……。

 

「いくら男でも、それ以上の経験した年数を詰んでいる女の子には敵わないと思うわよ?」

 

 そう言う彼女の顔面めがけ、拳を打ち出す。

 

 スルリと。

 軽快にその拳を回避した來栖麗羅は、伸ばされる腕を掴み取り、相手の身体ごと自分の元へ引き寄せる。

 

 流れる動作で水浦竜三の頭を両手で抱くように捕まえると、彼の顔を自分のその豊満に実った胸の谷間へ着地させる。

 グニャリ、と……彼女の胸が形を変えた。

 

「あん、可愛い♪」

 

 興奮したような声の直後。

 

 水浦竜三の身体を捕まえたまま、自らの右膝を、大砲から撃ち出される弾の如く、彼の腹へと叩き込んだ。

 

「ガハッ……ァア……ッッッ!!」

 

 かつて体験した事のないような鈍重な痛覚に、水浦竜三は目を見開く。

 体内に流れる液体という液体が全て逆流する感覚に陥った。

 

「あん、もう……汚いじゃないの、まったくぅ」

 

 自慢でもある自分の綺麗な胸へと吐かれた液体に、彼女は忌憚するように表情を歪めるでもなく――苦痛に悶える相手の表情がまたそそると言うように、唾液の濃い長い舌を唇に這わせた。

 

「お仕置き、ね☆」

 

 もう一発。

 今度は左膝を突き立てる。

 

「ごぼあッッッ――ガハッ……っっっ――」

 

 來栖麗羅の透き通るような胸元が、水浦竜三の吐血によって真っ赤に染め上げられる。

 

 もともと、來栖麗羅の攻撃手段としては、自らの脚に自信を持っていた。

 彼女が今まで、その艶めかしく誘惑する両脚で、幾人もの男を屠ってきたか。

 

 水浦竜三は、彼女の事を知らなかった。

 

 故に、その脚を数発喰らった。

 すでに彼は満身創痍の状態なのだ。

 

「あぁ……あぁ、水浦くん、可愛そうに……こんな血だらけな顔になっちゃって……」

 

 突如、來栖麗羅の態度が豹変する。

 

 傷ついた我が子をなだめる、母親の顔になっていた。

 

 そんな彼女に、もはや水浦竜三は顔を合わせていられない。

 彼ともあろう人物が、すでに意識を朦朧とさせているのだ。

 気を抜けば、今にも倒れてしまう。

 

「痛いわよね……? 苦しいわよね……? もう眠たくなってきたわよねぇ……?」

 

 彼の頬を両手で挟むように支えながら――それはまるで、女性が相手の唇を強引に奪おうとするワンシーンにも見えた。

 

 だが――、

 

 

「楽に、してあげるわ」

 

 

 それは悪魔の囁きへと変貌する。

 

 突き返すように水浦竜三の顔を押し離したかと思ったら……、

 

 助走も何も必要ない、自らの力量、技術の集大成が込められる右脚を浮かせ……、

 

 絶対の強度を誇るハイヒールの靴底で、水浦竜三の顔面を叩き潰した。

 

 

 血反吐を吐きながら宙を飛ぶ彼の……、

 

 リタイアは、明らかだった――。

 

 

 





 主人公の夜伽ノ美雪が全く出て来ない回となりましたが、いかがでしたでしょうか?

 主人公が出て来なくとも、今回の水浦竜三のお話は後ほど重要なものとなってくるので、ここまで読んでくれた皆さん、とてもありがとうございます!

 さて、次話の事なのですが、
 皆さんは覚えていてくれているでしょうか、あの『変態男』を――

 次回もよろしくお願いします!
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