自分が書いた小説に感想が来るのがこれ程うれしいとは知りませんでした。
勇気を出して友達にも見せてみると、このまま書き続けてもいいんじゃないかと(もちろん指摘やダメ出しもありましたが)言われました。おかげでやる気アップです。
まぁ、それで文章力や物語構成力が上がった訳でもないけどね♪
結局、昼まで眠ってしまった訳だ。
「やべ……背中痛ェ……」
仰向けの体勢で固い地面に寝転がっていたのだから当然といえば当然だ。
上下ジャージ姿で廊下を歩いていると、忙しく道を行き交う生徒達が自然と視界に入ってくる。
時間的には四時間目の終わりから数分。
購買に行く者や弁当を持って中庭か他教室に向かう者がほとんどだろう。
「さて……コーヒー買いにいくか」
ズボンのジャージのポケットに財布が入っているのを確認して、俺は階段を降りていった。
一風変わった渡り廊下の自動販売機でブラックコーヒーを買う。
俺は苦みが効いた飲食物が好きだが、逆に甘いものは少し苦手意識があった。
教室で女子達が集まって雑誌を手に「ここのケーキ屋さん今すっごく評判なんだって!」とか写真を見せ合いっこしている光景を見るだけで――いや、ありえねぇだろ――と嫌悪感が差してくるまである。
隣の自動販売機にはパンや菓子袋が売ってある。生徒のほとんどは購買を利用するから、こっちの自動販売機で飯を買う者なんざそうそう見かけない。
俺は二つ入りのサンドイッチのパックを買い、缶コーヒーと一緒にそれを持ち出して場所を変えようと歩き出した。
「きゃっ――」
「うおっ」
ボスン、と。
軽い衝突だったが、俺は誰かと正面からぶつかっていた。ちょうど身体を反転させた直後だったから気がつけなかった。
「あ、ごめんなさい」
女子生徒は顔を上げ、すぐにそう言った。
くせっ毛のある赤い髪の毛。紫がかった瞳はやや吊り上がっているように見える。
ん……この女、見覚えがあるな――。
「いや、こっちも悪かった」
「え、えぇ…………?」
怪訝顔で俺の顔や全身をキョロキョロと瞳だけを動かして窺う――もとい警戒している様子の彼女は意識せずにそうしているのだろう。
俺と初対面の女は大抵全員がそうする。
「お、男の人……?」
だが、こう実際に尋ねてくる奴は珍しいのだ。そして彼女はハッ、としたように両手で口元を押さえる。無意識に声に出ていたという感じだった。
俺は女だ――。
そう言おうとした時、俺の背後から声がかかった。
「おーい真姫ちゃーん! 何で凛達を置いて行っちゃうにゃー!」
――にゃぁ、だと?
人間の言葉を喋る化け猫でも現れたのかと思い、自分の背後に尻目を向けた。
オレンジかがった髪をショートカットに揃えた女子生徒が手を大仰に振ってこちらに走ってきている。
そいつは今、真姫ちゃんと呼んだ。
多分、この赤毛の事だろう。
やっぱりなと、俺は思った。
「ま、待ってよ凛ちゃ、ん……わたしもう走れないよ~」
その後ろからもう一人、同じくショートカットの女子生徒が走ってきている。なんとも体力なさげなか弱いイメージがあった。
(ま、いいか……)
どうやら向こうはお友達同士が揃ったようだ。邪魔になる俺は退散すべきだろうと、俺は足を動かした。
俺と交差する際、赤毛の女子生徒がジッと視線で俺を追っていたが、まぁそういった視線にももう慣れた。
「かよちん体力ないにゃ~。そんなんじゃ絵里ちゃんのダンスレッスンにはついていけないのにゃ」
「ふえぇぇ……やっぱりそうかなぁ……」
「――……はぁ、凛。アンタまた花陽を連れ回しながら廊下を疾走してたの? いい加減にしなさいよね」
三人の会話が耳に入ってくる。
その内の一人。
西木野真姫。
間違いない。去年の新入生説明会の日から校内で噂になっていた。
西木野総合病院の一人娘。
そうだ、西木野総合病院……。
この辺の地域じゃ規模も敷地面積もトップクラスに大きい病院だ。
西木野……西木野総合病院……。
「チッ、クソ……」
嫌な名前を思い出したな。
ーーーーーーーーーーーーー
今日はいつもより、人と目を合わせる回数が多いような気がする。
つっても、俺の両目はほぼ前髪で隠れているから相手が見えているのかどうか分からないが。
だが、今。
俺が目の前にしている相手にとっては、見えていようがいまいが、そんな事は些末な事らしい。
なぜならそいつは――。
「にっこにっこにー♪ あなたのハートににこにこにー♪ 笑顔届ける矢澤にこにこー♪ にこにーって覚えてラブにこ♪」
きっと、宇宙人なのだから。
「……で、つまりいくら欲しいンだ?」
「も~! そういう意味じゃないにこよ~。にこにーはただ、あなたに笑顔になってほし――ってちょっとあんた! 何で本気で財布からお札出してんのよ!? しかも五千円! さっさとしまいなさい!」
どうやら金目的ではないらしい。
……んじゃ何だったんだ、あの茶番とも言えない理解不能な行動は。
「ンで、結局、何がしたい訳?」
「はぁ、あんたねぇ……卒業するまでずっとそんな感じでいくわけ?」
先程からの態度とは打って変わって、両手を腰にあててため息を吐いた黒髪ツインテールの女子生徒――矢澤にこは呆れたようにそう言った。
「……何が。つか、今、昼飯の途中なンですけど」
「そんなもん知った事じゃないわよ」
上から目線でそう言う彼女はトスン、と俺の隣に腰掛けた。
現在地は俺が昼飯の度に決まって訪れる、もう一つの渡り廊下へと続く無人の階段。
その段差に腰掛けてサンドイッチとコーヒーを味わっていた所なのだが、こう邪魔が入った。
「やれやれ……人の食事を邪魔する事しかできない幼稚園児ですかお前は」
「そういう態度よ!」
ビシッ、と。
矢澤にこはピンと伸ばした細い人指し指を俺に向けた。何? 骨折願望者? 小枝のようにポキッとやっちゃっていいの?
「あんたとは去年の修学旅行で初めて喋った訳だけど……私、あんたの笑った顔をまだ一度も見た事ないんだけど」
何を言うかと思えばこの小娘は……いや、同級生だったな。
周りより特別小さいから年下と間違われるのもおかしくないと思うぜ俺は。
女の俺が周囲から男と勘違いされるように、矢澤にこも中学生と思われる事だってあるんじゃねぇか?
「ちょっと! 聞いてんの!?」
「ッたくうるせェな中学生が」
「ちゅっ!? ――あ、あんた……言ってはならない事を言ってしまったわね……っ」
プルプルと小さい身体を震わせながら拳を握り締める彼女は次に怒号の一つでも飛ばしてくるんだろう。
面倒な事になる前に、俺は空になった缶コーヒーを片手に腰を浮かし、歩き出す。
「あっ!? ちょ、ちょっとお!? どこ行く訳!?」
「教室戻るンだよ、ギャーギャービービーうるせェ奴だな」
「ねえ! 夜伽ノ美雪!」
フルネームで俺を呼ぶ彼女の声に、俺は立ち止まった。
「覚えてる? 修学旅行最終日の夜の事」
そう、彼女は本題らしき話題の切り口をそう開いた。
あんな変な踊りなんかせずに最初からそう来てりゃいいのによ。
「旅館の部屋でさ、私があんたに言ったセリフ」
「………………」
修学旅行最終日。
夜の旅館の部屋。
ぼんやりとだが、覚えている。
そもそも俺は修学旅行なんてものに行く気力などなかった。
絶対にサボろう。おはようからおやすみまで学校の決めた行程に縛られるなんざ御免だと。
だが、あの時期は状況が状況だった。
どうしても、この街から離れなきゃいけない理由があった。
だから仕方がなく――というかむしろ良い機会だと思い、俺は修学旅行に参加した。当日の朝、校門前に来た俺を見て、出発のバスの近くで絢瀬絵里と東條希が唖然としていた様子もまだ覚えている。
しかし、最終日の旅館……。
いや、覚えてはいるんだ。俺は確かこの矢澤にこと同じ部屋だった。
伝統も歴史もある音ノ木坂が泊まりに来るという事で、旅館もかなり大きなものを貸し切り状態で予約できていた。
部屋割りは一部屋に二人。
俺は矢澤にこと同室になった。
一晩中、好きなアイドルグループとかスクールなんちゃらといったものを矢澤が話していたが、そこらへんの会話の内容はまるっきり覚えていない。
――あぁ、そうだ。
確かこいつは言っていた。
『この超スーパーウルトラハイパーアイドルのにこにーが、いつか絶対にあんたの顔に笑顔を咲かせてみせるから!』
修学旅行最終日。
旅館での会話。
あぁ、鮮明に思い出したわ。
「忘れたとは言わせないわよ」
見計らったように、背後で矢澤が言う。
「卒業までに――ううん、そんなに時間はいらないわね。近いうちに必ず、あんたを笑顔にさせてやるから」
アイドルはお客さんを笑顔にさせるのが仕事だと、修学旅行の旅館でこいつは言っていた。
(俺は客でも何でもないんだけどな……)
その言葉は心の内に留めておいて。
俺は黙って再び歩き出した。
「あ、ねえ! この残ってるもう一つのサンドイッチ貰っていいの!?」
……勝手にしろ。
取り敢えず主人公はメインキャラ全員と顔を合わせた訳ですが……。
――あれ? これからどうするつもりなんだっけ?
物語を作るのが結構大変なのだという事を実感しました。
読んでいただきありがとうございました!