今回もまた海未ちゃんの家での四人です。
「つまり、纏めるとこうだ」
円形のテーブルを中心に、俺は絵里、海未、穂乃果のそれぞれの顔を見比べながら説明する。
「未だ予選枠に名前を出してから三週間ともしないアイドルグループ『Sexy・Charm』が、なぜ、三六個という数のPV動画を完成させられ、それも全て異なる衣装を身に纏う事ができたか――――考えられる理由は二つ」
俺は右手の指でVサインを作り、自分の顔の前に翳した。
三人も真剣な眼差しで、俺の話と二本の指に注目している。
「一つは、こいつらSexy・Charmのバックにいる頼れる裏方が手を貸しているのか」
「それって、穂乃果のクラスメートのヒデコ達が、ライブの時に照明の調整とかを手伝ってくれたのと同じ事?」
「まァ、それに似ているな」
穂乃果の発言に、俺は頷いた。
「だが、照明とかマイクの調整やステージの飾り付けだけの手助けがあッた所で、三六ものPV動画の撮影をこンな短期間で終わらす事は不可能だ」
なら、どうしているのか。
答えはすぐに出てきた。
「多分メンバー以外で活躍する裏方役ッてのは……作詞作曲や衣装作り、ダンスの振り付け考案やPV映像の撮影とまでのオールジャンルで協力をしているンだろうな。そうじゃなきゃ現実的に話が通らン」
「あちらの学校ではどうなのか知りませんが、さすがに、それら全ての仕事の手助けを大勢の生徒に依頼するのは、音ノ木坂では少し考えられませんね」
「だろうな。ステージにも上がらない奴らがそうも簡単に面倒事を買ッて出るかどうか……まずほとンどの奴らは協力的じゃねェだろうよ」
その意見はまさにその通りだ。
だがそんな常識すら覆す程の、自分達の学校のスクールアイドルに忠誠を誓っている輩だというのなら話は別だ。
無論、その可能性がないとは言えない。
「そして二つめの可能性が、さッきも言ッたが、“ユニット”による手分け作業だ」
正直、後者の方が有力なものだと俺は考えている。
「Sexy・Charmは、全員でメンバーは一二人。だがお前らに見せたように、さッきのPV動画じゃ三人だけでの舞台もあッた」
俺は自宅で一応、Sexy・CharmのPV動画の全てに目を通してきた。
結果、メンバー全員で歌って踊っているPVは全部で十五個。
残る全体の半分以上は特定された三人のメンバー――計四つのユニット別によって歌が作られていた。
もちろん、全てが違う曲であり、
全てが異なった振り付けで、
全てが異色の衣装だった。
「完全に俺の推測となるが、こいつらは一二人という大勢の人数を戦略として取り入れてきている。三人ずつのユニットを四つに分け、それぞれ各自のグループ内で作詞作曲や衣装作りに専念するッて事だ。これなら数多くのPV動画だッて撮影できる」
ふと、絵里が困ったように言う。
「でも、三人だけじゃ作詞作曲、それに衣装作りなんて……ダンスの振り付け考案だってあるのに――」
「そこで導入されるがさッき話した一つ目、同じ学校の助ッ人の登場だ。いや、これじゃ結局二つの可能性が融合しちまッているな……つまりこれが第三の可能性か?」
「けれどなぜ、Sexy・Charmの方々はそこまでして多くのPV動画をネットに上げようと?」
「海未ちゃん、それは当然だよ。だって見れる動画が多ければ多い程、自分達の事を観てくれる人達が増えるって事でしょ?」
「でもね穂乃果、いくら動画の数が多くても、それなりに高い完成度がなければ、ファンは付いてきてはくれないわよ」
「Sexy・Charmの奴らはその問題点もしッかりと考慮していたンだよ」
三人の会話に、俺が横入りする。
再び全員の視線が俺へと集まった。
「一二人ともなると、踊る人数が多くて豪華なものに見えるが、だが最後尾の一番端で踊ッている奴はあまり注目は浴びないだろう。それは人数が多いが故に、だ。綺麗で可愛い尚かつ色気のある女子高生が一箇所に集まりゃどうしても観客は目移りする。すると結局、一番注目の的として晒されるのがセンターポジションの人間……或いはその近距離に立つ奴らだ。そいつらの顔と身体だけが、視聴者の頭にこびり付く」
少し前まで、芸能世界で話題沸騰だったとあるプロのアイドルグループには、メンバーが全員で四八人も存在したらしい。
だが、そいつら四八人が一つの画面の中――または一つのステージに立った所で、一人の観客がメンバー全員を平均的な時間で注目している訳がない。
必ず、自分がファンとして推している人物、またはパッと一目が付いた相手をどうしても中心的に観てしまう。
そうなれば、最後列の隅で踊る人間なんかはすでにアウトオブ眼中となるのだ。
センターに立って輝ける女の子も、一番後ろで目立つ事なく踊る女の子も。
まったく変わらない、一人のアイドルだと言うのに、だ。
だがかつて、俺は小泉花陽や矢澤にこから、こんな話を聞いていた。
『アイドルという世界は、一つの過酷な競争社会である』
そう考えれば、グループの中に優等と劣等が付けられるのは仕方がない事なのかもしれない。
だが。
Sexy・Charmはそれを許さなかったのかもしれない。
俺だって初めにSexy・CharmのPV動画――一二人全員で踊りを披露している映像を見た時は思わず、意識せずともセンターの女に気を取られていた。
そいつはセンターマイクの前に立つに相応しい華麗なる容姿、柔媚なプロポーション、麗姿に似合う綺麗な歌声、キレの鋭いダンスを見事に兼ね揃えていた。
言ってしまえば、逆に最後尾で歌っている奴の事なんて気にしていなかった。
そんな問題を克服する、“ユニット”作戦なのだろう。
かつて、俺の親父は言っていた。
『どんなスポーツでもそうだが、特に野球ってなぁ全員が一番の主人公なんだよ!』
ピッチャーと外野手では、間違いなくピッチャーの方が観客から注目を浴びるし、歓声も届けられる。
だがその外野手がバットを両手に構えて打席に立った瞬間、全員の観客がその彼に熱い眼差しを向けるだろう。
その瞬間こそが、『彼』が主人公である場面となるのだ。
Sexy・Charmは同じ事をした。
ユニットという形を組む事で、彼女らは全員でのステージ披露ではあまり注目を浴びない背後の彼女らを最前列に繰り出し、『主人公』の立場を目立たせ、優劣のない世界を築き上げようとしたのだ。
三人という少数のメンバーなら、観客は自然的に彼女ら全員の顔を交互に見配ってしまうだろう。
例えそのユニット中に自分の推している人間がいなくとも、『自分がファンをしている子と同じメンバーの女の子だから』という気軽な気分で目を通し、耳を傾けると考えたのだ。
結果、メンバー全員が全国から注目を浴びる。
おかげで、自分達の全てを全国にさらけ出せる。
故に、人気が爆発する。
人間の心理を上手く捉えた。
Sexy・Charmの人気は、間違いなくここにあると、俺は目を付けたのだ。
「という訳で、だ」
俺はエナメルバッグから『くじ引きアイテム』の玩具を取り出し、それをテーブルの中心に置いた。
さすがに、三人も俺の考えを悟っているようだ。
「なるほど……私達もユニットを組む、という事ですか」
「確かに良い――面白い挑戦だわ」
「むしろこれは、九人で踊るμ'sだからこそできる事だよね」
三人がくじ引きの玩具に手をかけた時には、俺も思わず怪しげな笑みを浮かべているのを自覚してしまった。
「スポーツもアイドルも同じッて事だ……敵の参考になる良い所はどンどン奪ッていけ。それが世界で言われる競争社会で生き残り、また勝ち上がる為の絶対的手段だ」
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「さて、決まッたな」
俺の区切る一言に、三人は満足そうに頷いた。
「結構バランスの取れたグループに分けられたと思うわ」
「そうですね、ただ私と一緒の二人には手を焼かされると思います」
「楽しそうだな~! ことりちゃんにはお菓子をいっぱい食べさせてもらって、花陽ちゃんには美味しいご飯を炊いてもらおうっと!」
ふと、絵里が思い出したように俺に問い掛ける。
「そういえば美雪、どうして代表として招集されたのが私達三人だったの?」
その疑問には、海未も同じ事を思っていたようだ。
「そういえばそうですよね。少なくとも、穂乃果は間違っていたと思います」
「ひどい!?」
「さァ……、何でだろうな」
実を言うと、俺はユニット編成の案を、こいつら三人より先にまず、東條希に相談していたのだ。
彼女は俺の発案を快く引き入れ、するといきなりタロットカードを持ち出したかと思ったら、
『うんっ……リーダーの選抜にはエリちと海未ちゃん、それに穂乃果ちゃんがええってカードが言っとるよ』
と、笑顔でそう言っていたので、俺はありがたくそのアドバイスに乗っからせてもらったという訳だ。
そしてやはり、希というのは不思議な奴だ。
先程のくじ引きで決めたユニット編成のメンバー構成。
あらかじめに……というか試しに占いを依頼した所、希が予見した結果とまったく重なっているのだから。
「さすが、μ'sの名付け親ッて所か……いや、あまり関係ねェか」
「? 美雪、何か言いました?」
「いや、何でもねェよ……あァ、それよりよォ」
「はい?」
ユニット編成の話も纏まった。
あとは他の奴らに今日の事を話すだけだ。
それは絵里や海未に任せよう。きっとにこ辺りが「勝手に決めて~」などと文句を垂れそうなので俺はその役は勘弁したい。
代わりにと言っては何だが、俺はさっそく『もう一つの仕事』の下準備――土台作りの作業に取りかかる事にする。
「海未……是非ともお前から、お前の両親に話しておいてもらいたい件があるンだが――」
あれよあれよとユニット編成が決まってしまいました。
あと数話で四章も区切りが良い……かもしれませんね。
それでは次回もよろしくです!