笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 担任「君のいける大学ないよ?」
  僕「またまたご冗談を」
 担任「はい、これ模試の結果。見てごらん」
  僕「はっはっは、まさかそこまで酷い訳が――――――What!?」

  という訳でそろそろ第四章も終わりです!(次話辺りで……)

 今回もよろしくお願いします!


38話 集

 

「くそったれ……矯正と一緒に四日も病室に閉じ込めやがって……」

 

 西木野総合病院の本館であるロビーの長椅子に腰掛ける水浦竜三は、今ではもうすっかり痛覚も違和感も残されていない顎を右手で撫でながら、舌打ちと共に悪態を吐く。

 

 

 來栖麗羅に打ちのめされて、数日間。

 

 

 どこかの誰かが病院に運んでくれたのか、はたまた吐血が酷い様子で倒れた彼の発見者が救急車を寄越してくれたのか…………目を覚ました水浦竜三は、西木野総合病院の病室のベッドに寝転がっていた。

 

 頭にぶ厚い包帯を巻かれ、重傷を負った顎には大規模な矯正が付けられたが、今ではそのどちらも外れている。

 ベッドに一日中寝転んでいる日々ともおさらばだ。

 

 それでも最初、彼は勧められた入院を頑なに受け入れようとはしなかった。

 すぐにでも、もう一度あの女――來栖麗羅を見つけ出し、自分の親友に被害が出る前に何とか手を打とうと、行動に出たがった。

 

そんな時だった。

 

 病院の敷地を満身創痍の状態のまま、強行突破で脱出しようとする水浦竜三に、西木野総合病院の院長と見られる人物が来たのは。

 

 彼はこう言った。

 

『あんな酷い有様で、しかもあのような人気のない場所で発見された君は、少なからずとも何かの事件に関連、巻き込まれているのだろう。こちらとしてはその事について君から詳しく聞き出す必要がある。また内容次第では警察の方にも連絡を回さなければならないんだ。……そこで、もし君がこの病院で、大人しく治療を受けてくれるというのなら、我々は何も訊かない事にしよう。君の身にいったい何が起きたのか、我々は一切質問も何もしないと誓おう。無論、君の両親には連絡を入れさせてもらうが、警察には何の報告も入れないだろう』

 

 水浦竜三はすっかり参ってしまった。

 前科がいくつかある彼にとって、警察に連絡がいくという前に、事情を聞かれるという事から厄介な問題に発展する。

 

 結局、水浦竜三はその条件を呑み込む事しかできなかった。

 

「強制入院……監獄に収容された思いを味わったぜ」

 

 やがて、彼の名前がアナウンスで呼ばれる。

 

 受付の看護婦から退院手続きに必要な最後の書類を受け取り、彼は荷物を取りに自分の病室に戻ろうと、足を動かした。

 

「しっかし、でけぇ病院だな」

 

 馬鹿は風邪を引かない。

 

 その言葉の真意は分からないが、水浦竜三も風邪を引くという事が少なかった。

 例え風邪を引いたとしても、彼は絶対に病院へは行こうとしない。

 

 六歳の頃、インフルエンザの予防接種で受けさせられたあの注射器の針が、水浦竜三の脳裏にトラウマとなって残っている。

 以来、水浦竜三は病院という建物を見る度に両肩を小刻みに震わせている…………という、夜伽ノ美雪にも明かした事のない恥ずべき思いがあるのだ。

 

 そんな水浦竜三でも、西木野総合病院という名前はよく耳にする。

 

 優秀な内科医や外科医。

 執刀医の腕は本物である。

 建物の規模がでかい。

 最新科学を駆使した前人未踏の医療開発を発展させている。

 

 つい最近にテレビで拝見したが、西木野総合病院では今、ロボット技術を使用した手術方法を開発しているという。

 

 例えばの話、重傷を負って緊急手術が必要とされる患者が、もの凄い田舎の町の、碌な執刀医も手術も不在な環境で生まれたとした時。

 田舎の病院に置かれる一台の緊急手術専用アームロボットの下に患者を乗せ、そのアームロボットを西木野総合病院にいる一級執刀医が巧みに操作し、遠隔手術を行うという方法だ。

 

 そんな未来型医療技術が現実に再現される時は、そう遠くないと西木野総合病院は宣言していた。

 その医療方法の名前を何と言うか、水浦竜三は覚えていないが。

 

 しかし。

 そんな大それた方法で患者の命を救おうと励む大病院でも、命を落とす患者は当然のように存在する。

 

 水浦竜三は、ある事を思い出した。

 

「そういや、この病院なんだよな。美雪のお袋さんが亡くなった場所って」

 

 それはかつて、夜伽ノ美雪本人の口から聞いた事。

 彼女が水浦竜三に心を開き、初めて口にした真実。

 

 当時は、彼女自身の辛い過去について話してくれた夜伽ノ美雪に、水浦竜三は嬉しいなどという感情を抱いた。

 

 ようやく自分は、彼女の友達になれたのだと。

 

「今、思えば……あの時の俺の気持ちは少し不謹慎だったかもな」

 

 病室へと伸びる白い廊下を歩きながら、彼はボソリと呟いた。

 

 なぜ、中学の頃の自分は積極的に夜伽ノ美雪に迫っていったのか。

 なぜあそこまで必死になって、彼女と友達になろうとしたのか。

 

 今となってはその理由は分からない。

 だが、きっと大した理由でもないだろう。

 

 最も正解に近い答えと言えば、それは好奇心かもしれない。

 

 だが、今は理由なぞどうでもいい。

 

 今の夜伽ノ美雪は、水浦竜三にとっては親友なのだ。

 その親友が、もしかしたらこの先の道で、危険な目に遭うかもしれない。

 

 

 ――他でもない、自分のせいで。

 

 

 そう思うと、水浦竜三の歩行速度はゆっくりと速くなっていく。

 

 危険とマークできる人物が多い。

 

 梶ヶ谷燐桐は勿論だ。

 自分を倒した來栖麗羅。

 結城雅人や氷室亞月という男もいた。

 

 水浦竜三が耳にした名前はこれくらいだ。

 後はせいぜい数だけが取り柄の取り巻き共。

 

 だが、水浦竜三は一人だ。

 

(いや、いいさ……何だって構わねぇ。とにかく俺の使命は美雪を守る、それだけだ)

 

 水浦竜三はそう心に決める。

 

 全ては彼の心に渦巻く恐れを現実に晒さない為。

 

「もう二度と……俺はあんな夜伽ノ美雪を見たくはない……それに――見せたくないからな」

 

 その言葉の終わりと同時に立ち止まり、彼は自分の病室である扉のノブに手をかけ、それをスライドして開ける。

 

 広い病室は壁一面が真っ白。

 黄金の額縁に飾られた芸術的な絵画。

 やや皺が目立つ白いシーツ。

 大きなベッド。

 

 それ以外に――。

 

 この数日間では見慣れなかったはずの異色が、その光景を映す水浦竜三の視界に捉えられる。

 

「……誰だ……お前」

 

 警戒心を最上限にまで達せられた状態で、彼は重々しくそう尋ねた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「うん、ありがとうパパ。…………えぇ、高校に入って初めてできた友達だもの、大切にするわ。……いやね、もちろん勉強だって頑張るわよ、パパやママの期待を裏切るような真似は絶対にしないわ。……うん、ありがとう。それじゃあたし、もう行くわね」

 

 父親との会話を終了させ、私服姿の西木野真姫は部屋を出て、その大きな両開きの扉をガッチリと閉めた。

 

「……ふぅ、意外と簡単に許可が取れたわね。少しは苦戦するかもと思っていたけど」

 

 西木野総合病院の白い廊下の上を歩き出し、彼女は言う。

 

 西木野真姫。

 彼女の今日の仕事は、親から別荘の件について最終的な確認をもらう事。

 その仕事は難なく終了させられた。

 

 数日前、彼女は自分の両親に『お友達とお泊まり会を開きたいから、別荘の一つを貸してほしい』と頼み込んだ。

 

 彼女自身、束縛された未来への道が絶対の人生に、両親はそんな暇があるなら勉強しろだの何だのと文句を付けてくると睨んでいた。

 

 だが、西木野真姫の予想は大きく外れる。

 

 両親の反応は嬉々としていた。

 

 ――友達ができたのか、良かったな。

 ――嬉しいわ、今度お家に招待しなさいよ。

 

 笑顔でそう頷いてくれたのだ。

 

「案外、心配をかけていたのかもね」

 

 それでも西木野真姫は、自分がスクールアイドルに所属しているとは言わなかった。

 

 両親には、放課後に帰りが遅いのは校舎内で特別補習を受けているから、と言ってある。

 そんなもの、学校に連絡して尋ねられてしまえば一発で嘘だとばれる訳だが、西木野真姫の両親というのは、どこか自分達の娘の事を過剰に信頼している面がある。

 

 今までのテストやピアノコンクールなどで、両親の期待を裏切らなかったからか。

 

 その理由は分からないが、故に、西木野真姫は未だにスクールアイドルの事は一切、両親に明かす事なく生活している。

 

 彼女が熱心に打ち込んだピアノを捨てろと、無慈悲に言った両親の事だ。

 娘が勉強もせずに、スクールアイドルの活動をしているなどと知れば、何て言ってくるかは火を見るより明らかとなっているはず。

 

 西木野真姫は病室が並ぶ廊下をカツカツと足音を鳴らして歩きながら、その表情の口元を微弱に笑ってみせた。

 

 彼女にとって、音ノ木坂スクールアイドルの全員で行く合宿は胸を躍らせるものだった。

 

 無論、友達と一緒に寝食を共にし、長い時間を共有でき、歌と踊りに打ち込める――勉強漬けの毎日から抜け出し、楽しい時間を過ごせるというのが理由だ。

 

 今まで、自分の不器用な性格のせいか、心から通じ合える友人というのが作れなかった西木野真姫。

 

 彼女は今の高校生活に、可能性を感じているのだ。

 

 きっと何か大切なものを掴める。

 きっと何か重大なものを発見できる。

 きっと今までで最高な青春を送れる。

 

 そんな思いが、西木野真姫の胸を期待で膨らませる。

 

「もしかすると、美雪と何か進展があるかもしれないしね♪」

 

 珍しく見せる、彼女の妖艶な笑み。

 

 その言葉は自分でも無意識だったのか、彼女は思わず足を止め、自らの口元を右手で押さえた。

 

「何……言ってるのかしら、あたし……?」

 

 そんな時。

 

 ダアァン!!

 

 何かがぶつかる、衝撃音が彼女の耳に入る。

 

 反射的に彼女は音の方向に顔を回した。

 右隣に、一つの病室がある。

 

『どういう事だテメェッッッ――!!』

 

 その、扉越しに聞こえた怒号に。

 西木野真姫はビクッ! と、肩を跳ねさせた。

 

「え……、なによ……?」

 

 彼女は扉の隣の壁にかけられてある、名前が入力されたネームプレートに目を向かわせる。

 

〈204  水浦 竜三〉

 

 

 





 第五章から合宿編にいきたいと思います。


 今回も僕の作品に目を通していただき、ありがとうございました!

 次回は第四章の最終話です!(多分……)
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