第五章、二話です。
ただ主人公と真姫ちゃんがお話するだけです。
まだまだ未熟者ですが――文章の真ん中から最後の方なのですが、けっこう作者好みの描写表現――文体(?)の傾向がありますので、もしよければですが、注意深く読んでくれたら幸いです。
それでは今回もよろしくお願いします!
何の種類かは分からない。
俺は生物に関しては詳しくないのだ。
だが、海辺の空で羽を広げて旋回するように飛び回る鳥類の鳴き声はその場の雰囲気を作り出し、押し寄せる波の音と見事に調和しているように感じる。
「初めて見たな、こンな夕陽……」
水平線から一八〇度包囲に輝きを見せる暁の光線と燃える夕陽に、俺は思わず感嘆するように息を漏らした。
「東京じゃ見られないものね。あたしも、この場所で夕焼け空を眺めるのは小学生以来かもしれないわ」
車道側に位置する俺の隣で、歩道の内側を歩く真姫も、その意識の奥底から吸い込まれそうな空の紅景色を見上げて言った。
食材の買い出しの為のスーパーへ向かうその途中の道。
目の前にはリゾート気分を満喫できる海が広がるというのに、その周辺には飲食店やグッズ販売店、住人がいるような家も少ない。
時々に道路を走る数台の車が、俺達を前から後ろから抜かしていくぐらいが、波打つ音以外の存在だった。
心地良い風が吹き、パーカーの長い裾をはためかせる。
俺は普段の休日から着ているようなパーカーの中に半袖シャツ一枚とスラックス。
真姫の方は無地の赤い長袖シャツを一枚と、下はホットパンツを穿いている。
「真姫」
進行方向を向いて歩きながら、そう声をかけた。
「今回はサンキューな、別荘の件。おかげで合宿が叶ッた」
「別にいいわよ。それに今回の合宿は、ほとんど穂乃果が強引に決定した事じゃない」
「それでもだ。他の奴らも喜ンでた」
「凛や希とか、確かにそうね」
けど、と。
真姫は足を動かしながら、俺の顔を覗き込むように腰を折り曲げる。
「いきなりどうしたのよ? あなたがお礼を言うなんて、知り合ってから一ヶ月、一度もなかったのに」
そう言われれば、そうかもしれない。
こいつらが俺の事をμ'sに迎い入れてくれた時も。
穂乃果が家に招待してくれた時も。
真姫が遊びに誘ってくれた時も。
英玲奈が俺を励ましてくれた時も。
俺は一度も、礼というものをした事がなかったように思える。
「……別に。マネージャーとして、代表としてそう言ッただけだ」
「……そう」
また、俺達は前を向いて歩き続ける。
「――あの別荘はね……」
ふと。
真姫がそう語り出した。
「あたしのパパが、あたしの為に購入してくれたものなの。あたしが小学生の頃、土地から何まで一気に買い取って、誕生日プレゼントとして買ってくれたのよ」
いきなりどうしたのかと思ったが。
その言葉に俺はいきなりド肝を抜かれた気分だった。
「誕生日のプレゼントとして別荘を購入? しかもまだ小学生の娘へかよ? ……ンな事ありえンの」
「事実そうしてもらえたのよ。当時のあたしがどんな反応をしたのか、それはあまり覚えてないけど」
腕を後ろに回し、尻の位置で両手を組んだ真姫は首を見上げ、空に視線を送る。
ペタ、ペタと鳴るお互いのサンダルの足音のペースに、遅れはなかった。
「でも、どうして別荘なんてプレゼントしてくれたのってパパに訊いて、その答えをもらった途端、あたしは酷く焦った事を覚えてるの」
「……焦ッた?」
「えぇ、それはもう酷く。できる事なら、今すぐ両手をついてパパに謝ろうと思ったぐらいに」
想いに耽るような表情は、水平線から届く暁の光りで紅く染まっている。
「当時のあたし、パパに……両親に嘘をついてたの。とっても大きな嘘よ」
「嘘? なンだ、自分は宇宙人と交信できますとか言ッてた訳?」
「そんな子供がふざけて言う見え透いた冗談だったなら、どれだけ良かった事か、みたいな感じね」
あたし……、と。
凪がれる風に言葉を乗せ、彼女は告白する。
「友達ができたって――嘘をついたの」
オレンジ色の輝きを浴びる真姫の表情から、わずかに光りが失われたように感じる。
きっとそれは、彼女が顔を俯かせた事だけが原因ではないだろうと思った。
「学校には沢山の友達がいる。自分はみんなと仲が良い。親友とも呼べる相手がいるって、嘘を言ったのよ。小学三年生の頃だったかしら。本当は友達どころか、まともに会話ができた人すらあたしにはいなかったのに」
「……そりゃ、虐められていたッていう訳じゃないのか」
「そうじゃないの、むしろその通過地点。虐められるどころか、相手にされなかったのよ。クラスでのあたしはまるで、その空間に必要のない置物みたいなものだった」
つまる所……。
西木野真姫には友達がいなかったという訳だ。
ここで考えられる。
人間、虐められながらも他人から『いるもの』として扱われるか。
虐めなどは存在しないが、また同じように自分までもが『いないもの』として存在すら認識されなくなるか。
その二つでは、どちらがマシか。
「でも、恥ずかしくて話せないじゃない。学校じゃ友達もいないから、いつも独りぼっちで過ごしている、だなんて。幸いあたしの親は病院の方が忙しくて、授業参観の日とか運動会にも来れずにいたから、学校で孤独にいるあたしを見られる事もなかったの」
そこで真姫は、足を止めた。
つられて、俺も立ち止まる。
「あたしが吐いた嘘は、パパとママを喜ばしたわ」
歩道内側にある白い柵の手すりに腕を乗せ、体重をかける。
彼女は真っ直ぐと、海の彼方から届けられてくる夕焼け色の光源を見つめた。
「それで、買われてしまったのよ。あの、別荘を……」
あぁ、と。
俺もそこで話が見えた事と同時、納得した。
白い手すりに尻を乗せ、俺も暁の景色と潮の匂いを混ぜた風と向かい合うように、真姫と同じ方向を見る。
「今みたいな夏休み、友達と一緒に泊まりで遊べる環境を親父さンが作ッちまッた訳か」
他でもない、娘の喜ぶ顔が見たくて。
「えぇ、そうよ。……本当にあの時は、やらかしたって思ったわ」
しかし、娘の表情は晴れるものとならなかった訳だ。
むしろ、困らせた。
「やむを得ず、あたしは事実を話したわ。本当は友達なんて一人もいない、一緒にお喋りをしたり放課後に遊べるような間柄の相手は存在しないんだって」
真姫は嘘を、そこで告白したと言う。
人間が嘘を吐く理由については、大きく分けて三つあると俺は思う。
相手を思いやって吐く嘘。
その場から逃れようとして咄嗟に吐く嘘。
自分でも気づかないうちに口から出てしまう嘘。
その場から逃れようとして吐く嘘というのは、世界のどこでも常に使われているものだと思う。
叱られたくない、責任を負わされたくない、嫌われたくないといった感情――とにかくその場から解放されて楽になりたいと思えるものが、人間に嘘を吐かせるものだ。
自分でも気づかない嘘というのは、あまり考えれない話に聞こえるが、実はそういった類は多く生まれている。
特に、自分が一番に正しいんだと信じ込んでいる人間によく見られる傾向がある。
そのために、正しい自分が嘘を吐いているとは疑わないし、それが嘘だという事を認めようとしないのだ。
そして、相手を思いやって吐く嘘だが。
これは、真姫が吐いた嘘に最も近い種類かもしれない
これは単純だろう。
親に心配をかけたくない。また自分の娘が友達一人も作れない不器用な女であるという事を知らされ、気分を落とさせる事を避けようとして吐いた嘘かもしれないのだ。
当然、それ以外――つまり真姫がただの意地っ張りの性格からきたつまらない嘘だという可能性だってある。
そこは問い詰めるべき点ではない。
問題は、人が吐くその嘘に、悪意があるかどうか――という点だ。
「なァ、真姫」
そもそもにおいてだが。
「嘘を吐かない生き方……なンて不可能だ」
「えぇ、分かっているわ、そのくらい」
これは誰にも当てはまる事だ。
それはμ'sでさえ、当然だろう。
一見、何の考えもなしに突っ走る高坂穂乃果も。
子供の純粋さが具現化したような星空凛も。
真面目な顔をして優しい性格の小泉花陽も。
精神を磨き上げられた園田海未も。
誰しも必ず、きっとどこかで嘘を吐いている。
「以来、あの別荘はただの置物――あたしと同じになっちゃったのよ。あたしが吐いた嘘で建てられたあの家は、今まで長いこと使われずに放置されていたの」
教室の中でも、ただの飾り物のように過ごしてきた自分と似たように。
あの別荘という名の建物も、その土地の中でただポツンと建てられただけの、必要とされない虚しい存在になったのだと。
「あたし自身なのよね……あの別荘は」
だから、と。
真姫は視線を上げぬまま、『顔を上げた』。
「今回、μ'sのみんなとあの別荘に来れた事は、本当に良かったと思ってる。高校で初めて作れた友達とお泊まりしたいからあの別荘を使いたいってパパに頼んだら、かなり驚かれたわ」
「喜ンではくれなかッたのか?」
「まさか。同じくらい、喜んでくれたわよ。楽しんできなさいとも言ってくれた」
真姫の言葉に、俺は思わず眉を寄せた。
それが本当にあった事だとすれば、かなり意外な事だと思える。
真姫の両親は医者だ。
総合病院を経営する、いわば荊が撒き散る苦難の道を歩んできた努力者であり、また成功者だ。
当然、娘の真姫には将来的に医者になってもらい、病院を継承させていきたいと思っているはずだ。それは真姫本人の口からも言っていた。
高校生になっても友達同士でお泊まりなど。
勉強をほっからかしてまで、だ。
そんな事を、医者の両親がそう簡単に認めてくれるものなのだろうか。
「美雪、あたしね――」
暁の夕陽から目を離し、真姫は俺の顔を見つめた。
横に振り向く。
俺と彼女の視線が交差した。
「あたし、μ'sのみんなとこの場所に来れた事、本当に嬉しく思ってるわ」
彼女は素直にそう言った。
やけに素直だと、そう違和感を覚えないでもなかったが。
その言葉に悪意があろうがなかろうが、そもそも嘘を混ぜる理由などないだろう。
「……あいつらにも、同じ事言ッてやれよ」
素っ気なかっただろうか。
視線の下にいる彼女に短くそう言うと、真姫はフルフルと首を横に振った。
「みんなには内緒よ。あたしは、あなただから素直に言ったんだから」
それはきっと、俺がマネージャーだからだろう。
マネージャーには正直に言うと、彼女なりにそれでも努力した結果かもしれない。
「ねぇ、あなたはどうなの?」
唐突に、真姫が俺に尋ねる。
「あ? 何が?」
「友達関係とかよ。小学とか中学とか、仲の良い友達とかはいたのかしら?」
……何を寝ぼけた事を言っているんだと思った。
こんな見た目と性格をした女に、好きこのんで近づこうとする人間なんてそれこそお前らμ'sくらいだろう。
そう、言おうとしたのだが。
脳裏に思い浮かんだ二人の人物。
その男のおかげで、俺から出た言葉は全く異なった内容となる。
「いるには、いる」
「……意外って言ったら怒るかしら?」
「別に言ッてくれても構わねェけど」
「正直、あなたがあたし達以外の同姓と仲良くなる姿は思い浮かばないんだけど……その人って男の人かしら?」
「男と女、一人ずついる。一人は中学で出会ッて、もう一人の女は幼馴染みだ」
その幼馴染み、実はお前らμ'sが憧れとして見ているUTX学院のスクールアイドルをやっているんだと言った所で、こいつは信じるか否か。
しかしどうやら真姫は、幼馴染みと言った女友達という情報には端から目も付けていないように言う。
「男の人って、まさか恋人?」
「俺がそういうものを作る人間だと思うか」
「それもそうね」
クスッと、真姫は笑う。
「……まァ」
さっきは、真姫が素直に話してくれた。
確かに次は俺の番なのかもしれないと、息を吸う。
「親友では、あるかもな」
異性の間に友情は成立しない。
どこの誰だろうか、そんな事を言ったのは。
友情、という言葉が必要なくなるのは、大人になってからじゃないかというのは俺の考えだ。
学生のうちに行う異性同士の恋愛事情は、ただの大人の真似事でしかない。
外国の心理学者はそう言った。
なら、学生のうちにある異性との付き合いの間に生まれるものはなにか。
友達関係――友情――。
綺麗に纏めようとしなくても、そう結論づけても文句は言われないだろう。
「……いいわね、親友って」
悟るように、真姫が呟く。
「凛と花陽みたいな事を言うのよね」
「あァ……そりゃ、確かにあいつら仲良いしなァ」
あの二人は、幼馴染みなのだろうか……彼女達の関係性については、仲が良いとしか分からない。
穂乃果、海未、ことりの三人のように、昔からお互いを知っている幼馴染みなのか。
絵里、希のように、高校に上がってから親睦を深めていったのか。
真姫は言う。
「あたしが高校に入って、本当に初めてできた友達は、あの二人なの」
「同じ学年だしな」
「えぇ。……それでもね、たまに思うのよ」
また彼女は、顔を水平線の向こうへと向ける。
「あたしと花陽、あたしと凛の仲より、明らかに凛と花陽二人同士の仲の方が、圧倒的に深いんだなぁって」
どこか、夕焼けの眩しさを増したようなその光景に目を細める真姫は、そう感じている。
それは無意識下の階級分けなのか。
友達。
それとは別の親友という関係。
その段差を、千円札と一万円札のように、位の違った価値観と同じ目線で見ようとする人間がいる。
決してそれは、間違いとは言えない。
それでも。
千円札は一万円札にはなれない。
だが、友達という関係性は、親友というさらに深く、価値のあるものへと変化できる。
それを、西木野真姫は望んでいるのかもしれない。
「別に、大丈夫だろ」
故に、俺はそう無責任に言える。
投げやりな気持ちで放った言葉でない。
そもそも俺は、友達とか親友とか、そういうランク付けには興味のない人間なのだから。
「今さッき俺に話したような素直さがありゃ、お前だッてあいつらと仲良くできンだろ……という気休めの言葉しか俺は言えない訳だが。結局の所、全てはお前の気持ちと行動にかかッてる訳なンだからよ」
悪いが、その程度の言葉しか俺からは言えない。
きっと穂乃果や希なら、また違った別の言葉で、真姫を元気づけられる事もできたのだろうと思える。
俺はとことん、こういった役には不向きなのだ。
「それじゃあ、あなたとも――」
真姫は白い柵から腕を放し、身体をこちらに向けた。
柵に座りながら、俺は彼女を見る。
「……何だ?」
一言目が、よく聞こえなかった。
真姫は先程と同じように、また首を振る。
「あなたには、酷い事をしたわ」
「……あ? 何の話だ」
「ねぇ、美雪」
その夕焼け色に染まった表情は、真摯な姿勢と合った真面目な表情だった。
思わず俺も柵から降りて、自分の足で立ち、彼女と対峙するように向き合う。
そして、状況が動いた。
「あなたとも、もっと仲良くしたいと思ってるわ。友達以上に、もっと深い関係をあなたと持ちたいと、思ってる」
その状況は、俺が恐れていた一つのケース。
まるで今までの会話は、拳銃に弾丸をリロードされている動作の最中で――。
たった今、その拳銃の引き金を引かれた思いだった。
虚構のない言葉。
愛嬌は感じられない真っ直ぐな瞳だが、それでも目の前には一人の女の子。
今回ばかりは、頓知が働いてくれなかった。
西木野真姫は、普段口にしないような素直な思いと一緒に――指を開いた右手を差し出してくる。
それは一目で分かる一つのサイン。
以前に俺は、園田海未から同じサインを受け取った事がある。
だが、茜色の空の真下に立つ俺の手の中に――。
切り札でもあったジョーカーのカードは存在しない。
「……真姫」
そして俺は、嘘を吐く。
その場から逃れたいが為に、咄嗟に作るデタラメを披露するはめになった。
「――それでもやッぱ、右手はやめておけ」
ただし、俺に虚言癖は身についていない。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ここで初めて書くのですが、僕はラブライブ!をアニメでしか見た事がありません。ですのでストーリーもアニメでの物語に合わせて進行しているのですが……。
僕「アニメじゃ合宿についてあんまり詳しくやってないな、困った」
という状況です。
なので合宿編は作者の完全なオリジナル(偏見)で物語を書いていきますので、どうかご了承ください……