笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

47 / 138
 
 受験勉強忙しい……そしてもうやりたくない……。

 
 私用で遅くなりましたが、タグを追加しました。
 あくまで仮のタグです。
 追加・変更する予定アリなのです。

 それでは今回も、どうかお願いします!




42話 団欒の時間

 一つの袋を両手で提げ、西木野真姫は彼女の一歩後ろを歩く。

 

 行きの道とは違い、互いの間に会話は広がらなかった。

 

 別荘の入り口の前まで来ると、西木野真姫は立ち止まる。

 

 前を歩いていた銀髪のマネージャーは振り返り、病院を営む自分の家が建てた別荘をただただ見上げる彼女を窺う。

 

「おい、どうした真姫」

 

 その言葉に特別、西木野真姫は反応を見せなかった。

 

 幼い頃、父親が一人娘のためを思い、大金を使って建ててくれたその別荘の全体を見回してから、彼女はポツリと言う。

 

「ううん、ただ……ずっと待たせていたんだなぁって、思っただけ」

 

 その待ち人は、人ではない。

 

 しかしそれは、彼女自身なのだと西木野真姫は言っていた。

 

 

「――ただいま」

 

 

 別荘という――普段は使われず、だれの目にも留まらないその建築物に、彼女はそう挨拶をする。

 

 夜伽ノ美雪に握られなかった――。

 自分の右手だけが、異様に冷たいな、と。

 

 西木野真姫は感じていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 時間にして、午後六時五〇分。

 

 真姫の家の別荘の台所に立つ俺とにこは、晩飯の準備のためにそれぞれの作業を行っていた。

 

 と言っても、ほとんどもう終盤だ。

 

 カレーライスに野菜盛り合わせという、日本人にはよく馴染んだ一般的なメニューを作るのに、時間は必要ない。

 米の方はその道の専門家と言っても過言ではない(凛談)花陽に任せている。

 

「あぁ~、良い匂いね…………ん、味も最高」

 

 鍋でグツグツと音を立て、食欲そそる匂いを広めるカレーの味見をしたにこが、そう言った。

 

「美雪、あんたも味見してみる?」

「いや、いい。お前が美味いッて言ッてンなら、それは美味いンだろうよ」

「あら、随分とこのにこにーの腕を信用してるんじゃない?」

 

 にやけた笑顔でふふんと胸を張る彼女は、それでも手際が良い。身体の意識だけは料理……というか火元から外していない。

 

 俺もマカロニサラダをお洒落な大皿に盛り付けた後、落ち着いた両手を水に浸しながらにこを見た。

 

「随分と手慣れたもンだッたな。長い事、料理の経験でもしてたのか」

「まぁね~。家じゃほとんど私が作っているもの。今時の女の子は、料理の一つくらいできなくちゃ立派になれないのよ。それにアイドルで可愛くて愛嬌があって、さらに家事までできるなんてかなりハイスペック狙えるじゃない?」

 

 にこの理論では、結局そこに行き着く訳だ。

 

「それにしても美雪、私はあんたが料理できるっていう方がかなり意外だと思ってたんだけど? あんたも家で料理とかする訳?」

「たまにだ、たまに。仕事の都合上で親父は家に帰るのが遅いからな。永遠とインスタント食品ばッか食い続けても身体に悪ィし、何より飽きる」

 

「へぇ……あんたの家って両親、共働きなのね」

 

 思わず、手を止めた。

 

 しかし、そう解釈されてもおかしくないだろう。

 

「まァな」

 

 そう、短く答える。

 

 ならば逆に、にこの方はどうなのか。

 

 自宅での食事はほとんどが自分の手料理だと言う風だったが、彼女の両親はどうしているのか。

 

 一つ言えるのが、それは俺と同じ境遇ではないのだろう。

 もしそうだとしたら、今のような言葉が彼女から飛び出すはずがない。

 

 そしてまた、彼女の珍しいものを見るような口調から察するに、共働きでもないらしい。

 

 ならば、矢澤にもの両親は何をしている?

 

 ただ単純に、料理ができないからという訳でもあるまい。それなら娘が料理を覚える道筋が立たないだろう。

 事実俺だって、案外と家庭的な親父から料理の手解きを受けたのだから。

 

「ご飯、炊けました!」

 

 台所にひょこっと顔を出した花陽の声に、にこが息込んだ笑顔を見せる。

 

「さて、それじゃ――晩ご飯の時間よ!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 晩飯の時間は、色々と騒がしかった。

 

 花陽がご飯とカレーを別々の皿に盛り付けていた事にみんなが疑問を抱いたり。

 絵里が「ボルシチの色違いかしら」とか訳の分からないポンコツ発言をしたり。

 穂乃果が「カレーは飲み物だよね!」とか言って海未に叱られたり、など。

 

 九人分。

 全員が女子だが、それでもかなりの量を作ったつもりだったが。

 穂乃果や花陽、凛のおかわり連発の甲斐があったのか、カレーもご飯もサラダもペロリと片付いた。

 

「美味しかったねぇ~、ことり、二杯もおかわりしちゃった~」

「穂乃果も普段、野菜は食べられないけど、今日のマカロニは最高だったよ美雪ちゃん!」

「まァ、そう言ッてもらえンのなら良かッたわ」

「にこのカレーも、とってもハラショーだったわ」

「当然でしょ!」

 

 それからは凛が花火をやりたいとか言い出し、海未はこれから練習だとか言い張り、結局、希の今日はもう寝ようという発言から、次なる行動は風呂に決定した。

 

 

「ふわぁ~~~、良いお湯だね~」

 

 

 湯気の立つ、緑色の温泉に浸かっていると、穂乃果の気の抜けた声が聞こえてきた。

 

「にしても、すごいわね真姫の別荘って。まさか温泉まであるなんて」

「男湯と女湯の掛け軸まであるんやから、かなり本格的な構造やね」

「この温泉は特に美容の効能があるのよ。お肌の意識はアイドルに欠かせないでしょ?」

「アイドルである前に、女の子としては欠かせない事ですよね」

 

 そんな会話が、柵越しに俺の耳へと入ってくる訳だ。

 

 確かに、この温泉は最高級なものだろうと言える。

 今日の俺は海で遊ぶメンバーを遠目で見ていただけだが、それでも都外までの遠出の電車旅を味わったのだ。

 その疲労を全て、この沸き立つ温泉が癒してくれる。

 

「でもさぁ……やっぱりおかしいよねぇ」

 

 ふと、そんな疑いの色を持つ穂乃果の声が聞こえてきた。

 

 それから誰かが温泉に沈む身体を立ち上がらせ、バシャバシャと歩いて行く音が聞こえる。

 

「ちょ、穂乃果? どこへ行くのです?」

「穂乃果ちゃん?」

「のぼせちゃったにゃ?」

 

 海未、花陽、凛の声が聞こえた。

 

 俺からは向こうの状況は分からないが、どうやら穂乃果が何か行動を取っているらしい。

 怪訝そうな彼女らの声から察するに、穂乃果は周囲の状況からどこか逸脱した行為に走っているのか。もしかすると温泉をプールか何かと勘違いしているのかもしれない。穂乃果ならありえそうだ。

 

 そんな時だった。

 

 俺の入った『男湯』の扉が開かれ、そこにいていいはずのない姿が見えたのは。

 

「何やってるのさ美雪ちゃん!」

「テメェ……覗きで訴えンぞ」

「男湯に入っちゃった美雪ちゃんの方がよっぽど訴えられるよ!?」

 

 やれやれ、まさか穂乃果にツッコミを入れられる日が来るとはな。

 

 それに当然の事ながら別荘には俺達以外に誰もいないんだから、別に女が男湯に入った所で問題にはならないだろう。

 

 まぁ、それはさておきひとまず――。

 

「一旦でも風呂から上がるンだッたらバスタオルくらいはしろォ……全裸は非常識だわァ」

「なんとっ!?」

 

 こいつも相当かもな……。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「どうしてみんなが同じ部屋で寝るって事になっているのよ?」

 

 風呂から誰よりも先に上がり、しばらく部屋に籠もっていた絵里が一階の広いリビングルームに降りてくると同時、そう尋ねてきた。

 

「俺だッて反対したンだよ……だが、穂乃果と凛、あと希がそうしたいッて聞かないからなァ」

「希……あなたまで」

 

 額を覆うように手を当て、深い息を吐きながら絵里は隣に立つ希を見る。

 

「ええやんええやん。というか部活の合宿って大抵、みんなで一緒に寝るっていうのが普通やろ?」

「だからと言って…………あぁ、もういいわよ、好きにしなさい」

「ふふ、は~い」

 

 一理あると思ったのか、器用な仕草で髪をまとめながら微笑む希の言葉に、絵里が折れた。

 

 それからは敷かれた一〇枚の布団の上を子供のように転がり遊ぶ穂乃果、凛、にこの三人を俺と海未で引っ剥がし、薄い毛布を被せ、ようやく就寝の準備が整った。

 

「お話しようよ!」

 

 時刻は午後一〇時ちょい過ぎ。

 

 明日も早いから、といよいよ消灯しようとした直前にそう口火を切ったのは言うまでもなく穂乃果だ。

 

「いきなりどうしたの穂乃果ちゃん」

「ちょっと、遊びに来ている訳じゃないのよ?」

 

 ことりは自前の枕に埋めていた顔を離して不思議そうに、真姫は文句を垂れるように言う。

 

 依然、仰向けで寝そべりながら見上げる天井は電気の光が明るい。

 

「確かにせっかくの合宿だもんね! このまま初日を終わらせちゃうなんてもったいないにゃ!」

「だよねだよね!」

 

 穂乃果に便乗するように凛も言い張り、それによってさらに穂乃果も調子づく。

 

 穂乃果の隣を位置して布団に転がる海未が、天井を見上げながら瞳だけを横に向ける。

 

「あなた達……今日は練習もせずにさんざん遊び通していたじゃありませんか。早く寝ないと明日に響きますよ、早朝からのトレーニングなのですから。そうですよね美雪」

「ン? あァ……まァそうだな」

 

 いきなり海未から話を振られたが、言っている事は間違っていない。

 

 しかし、早起きからのすぐさま練習か。

 

 俺はこいつら九人のように身体を激しく動かし、発声練習などはしないが、それでも真夏の炎天下の中に放り込まれるという事は同じだ。

 

 朝練と何ら変わらないと思うが、学校のある日は授業中に爆睡して疲れを癒していた。

 だが、今回は合宿だ。

 朝のおはようから夜のおやすみまで練習。

 

 さて、これはきつい。

 よって、俺は早く寝たい。

 

「そういえばわたし達って、お互いの昔の話とかって全然知らないよね?」

 

 唐突に、穂乃果が思い出して言う。

 

「昔のお話って……赤ちゃんの頃とか?」

「それは極端すぎでしょ花陽」

「……あれ? にこちゃん、何で顔にキュウリ貼り付けてるにゃ?」

「キュウリじゃないわよ! 美容法!!」

「きもちわるい」

「ぬわぁんですってぇ!?」

 

 ……あぁ、こりゃしばらく寝られそうにねぇな。

 

「赤ちゃんの頃とかじゃなくって……例えば小学校とか中学校時代の頃のお話とかだよ」

 

 穂乃果が提案するそれは、つまり昔の思い出話だろうか。

 

「ええんやない? なんか面白そうやし」

「また希は……」

 

 希と絵里。

 この二人はちょうど、俺の身体が乗る布団を挟む形で寝ていた。

 一人ソファに横になろうとした俺を、二人が半ば強引にこの位置取りを決めていた。

 

 そしてなぜか、議題は決まる。

 

「よし! それじゃあ第一回! μ's昔話大会を始めまーす!」

「にゃーっ!」

 

 何だよ昔話大会って――人の思い出に優劣つけるのかよそれ最低だな。

 

 分かってはいたが、会議において皆の意見を無視し、強引に話を自分の流れに持っていく高坂穂乃果のようなタイプは絶対に生徒会などには入れない。

 いや逆に、そんな穂乃果が生徒会長とかを務めればそれこそ面白い結果が生まれるかもしれないのか。

 

 そんな事を考えながら、俺は薄いタオルケットのような毛布を腹の所まで捲る。

 

 

 

 もし。

 もし仮に。

 

 

 

 人の思い出とやらに優劣を付ける世界があるというのなら――。

 

 

 

 俺は間違いなく、最下層のさらにその地層深くまでランクが堕ちる、最低の人間だろう。

 

 

 

 

 




 さて、更新が遅くなりましたが今回も読んでくださりありがとうございました!

 そして次回は続くように、皆の昔話編です。
 無論、ただただ思い出話をするだけという訳じゃございませんよ!

 ちなみにコレを書き終わった時間にちょうど僕は『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』をTVで見ていました。

 頑張れポルナレフ! 負けるなポルナレフ! 
 その右手に白銀の剣を煌めかせて――!

 おっと、この作品はいつの間にジョジョの感想欄になったのだか……笑

 次回もよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。