前までは一日二、三回連続投稿とかいう日があったのですが、今ではもう週一ペース……。
僕が今年受験生じゃなかったらもっと速いペースで進ませているはずですのに……。
まぁそれはともあれ劇場版ラブライブ!の二回目を見てきました!
あぁ、早くCD発売されないかな……待ちきれません!
そんな訳で今回も!
どうかよろしくお願いします!
アナザーストーリー五話目です!
今回は『彼女』が初登場です!
あの後の事は、非常に情けない事なんだけどよく憶えていない。
大股開いて歩いたみたいに途中経過の記憶が飛んでいる。
自分はあの後どういった行動を取ったのか。
そのまま寝てしまったのか。
ならあの日の朝はどうしていたのか。
彼女とどんな会話をしたのか。
一緒に家は出たのか。
そもそも泊めてくれた事に関してのお礼をしっかりと言ったのか自分は。
何もかも憶えていない。
意識を表に返せばすでに翌日の教室にいた。
……まぁ、制服はいいとしましょう。
あの日の私、下着は穿き変えていたのかしら。
でも結局、あの日以来から彼女と話せていない。
そもそも顔を合わせてすらいない。
何だか面と向かって会うのが怖かった。
あの日の記憶がないという事実が、色んな方向へと向かう不安や恐怖、後悔となって行動に移せない。
けれども、一つだけ憶えている。
『そろそろ寝ようかしらって言ったのよ。部屋は一階の奥のやつを使っていいのよね?』
『ありがとね。そんな親しい関係でもない私の為にアドバイスしてくれて。とても為になったし、嬉しかったわ。――おやすみなさい、夜伽ノさん』
これはあの日の晩、私自身が言った言葉だ。
それも、酷く無愛想な態度で。
どうしてあんな態度を取ってしまったんだろう。
親切にアドバイスをくれた彼女に向かって、なぜ突き返すような言い方を口にしてしまったのだろう。
……分かっている。
『どこかの国の、倫理評論家でもある心理学者がこう言ッた。――『人が人に恋愛感情を抱くサインは、その相手の人間の身体を抱きたいと心から願う欲望です』――ッてな』
あの言葉のせいだ。
一瞬でも私の心を、あれは掠めてしまった。
けど理解している。
あの言葉における見解は彼女のものじゃない。
私の知らない、どこかの国の倫理評論家とやら。
決して彼女の意見じゃなかった。
彼女は何か参考となるテキストの一部分を探し出し、それを私に献上してくれたというだけのこと。
けど――。
思い出してしまったものは、どうしようもできなかった。
トラウマともなっているあの夜の事を思い出すと、今にも爪を立てて出血死する程までに頭を掻き毟ってしまいそう――。
「……いいえ、駄目よ私。今は……今は、そんな事を考えるべきじゃない」
ポツリと呟く。
そして顔を上げた。
空は晴天。
外に突っ立っているだけで汗をかいてしまう程の高気温。
佇む私の眼前には、明らかに周囲の住宅一帯から浮いた存在感のある大きな家。
「今まで無意識下でも毎日目にしてきたし、しかも数週間前には中に入っているっていうのに……何なのかしらね、このRPGにおけるラスボスの館に挑む前にある緊張感みたいなこれは……」
やはり父親がプロ野球選手だからという事が大きいのでしょう。
ちなみに――。
数週間前とは。
あの日からずっと会えなかったけど、私はこれでも何度も彼女と話そうと思って努力はしてみた。
何回かクラスをこっそり覗きに行ったり、とある日じゃ家のインターホンを押そうとする直前までいった。
けど、あと一歩が出ないうちに時期はもう――
NA☆TSU☆YA☆SU☆MI!!
夏休み!
受験生じゃなく女子校でもなかったら今頃かっこいい彼氏と海やらキャンプやらお買い物やらのデートに出掛けて最終的にはチュッチュフフフハハハのお楽しみが満喫できるという巷で噂の夏休み!!!!
「……ふぅ、いけないわ。暑さのせいか緊張感のせいか、私の脳内でうねる優秀思考回路がショートしてる……」
ともあれ、気づけばもう夏休み。
次こそは、次の日こそはっていう受験生の『明日から勉強するわよぉ!』スタイルを無様にも連日貫いた結果、こんな時期まで追い込んでしまったという訳ね。
「今日、こそは……っ」
玄関までを隔てるように造られた西洋風造りの門の隣に設置されたインターホンに、私は震える右手の人指し指を伸ばした。
「今日こそは、謝らなきゃ――っ!!」
ボタンに指が着地する……。
ーーーーーーーーーーーーー
「はぁ……」
お昼を喫茶店で簡単に済ませ、熱中の中を気怠い心情で無気力に歩いている時に通りかかった公園のブランコに揺られ、私は深いため息を吐く。
結果として彼女――夜伽ノ美雪さんには会えなかった。
代わりに彼女の父親と見られる人が出てきて、「美雪の友達か!?」と勢い良く訊かれたもんだから思わず「は、はい!」なんて答えたんだけど……あのお父さん、凄く嬉しそうな顔してたわね……。
けど考えてみたけど、今の私と夜伽ノさんの関係性って何なの?
友達……?
そこまでいかない、知り合い?
お泊まりした仲なんだから、さすがに夜伽ノさんもただの他人とは思っていないはずだけど……。
ただ、あそこまで日数を開けてしまった事を鑑みれば、彼女の性格上そう思われてしまってもしょうがないかもしれない。
「けど、まさか遠征中だなんてね」
今の夜伽ノさんはどこか遠くにお出掛けしているらしい。
どこに行くのか、なんて事は親にも言わずに……。
彼女らしいと言ったら頷けてしまうわ。
あまり彼女の事を詳しく熟知している訳じゃないけど、夜伽ノさんの性格は捉えやすい。
裏も表もない珍種なタイプ。
「暇に、なっちゃったわね……」
ともあれ最優先もとい唯一の目的、行動理由が失われてしまった。
そのまま家に帰ったって良かった訳だけど、なんとなく外をブラブラしたい気分。
こんなに蒸し暑いっていうのに、不思議ね。
――そういえば。
結局、私が抱く夜伽ノさんへの想いっていうのは何だったんだろう。
初めて彼女と邂逅した時、それは間違いなく異例な恋心だと感じた。
でも……どこぞの倫理評論家の意見に縋る訳じゃないけど、私には夜伽ノさんとセックスしたいだとかそういった邪念はないように思える。……そもそも女の子同士のセックスって何なのかしらね? ……はい、清純ぶりました~♪
ただその意見が一〇〇%じゃない。
ひょんな所からの一目惚れで生まれた恋する乙女なんて、そこらじゅうにいるんだと私は思っている。
その人が正常な人間なのか。
またはレズビアンなのか、ゲイなのか。
その問題はおいておくとして……。
「まぁ、日本人でも一三人のうち一人は同性愛者だっていうし……何て言うんだったっけこういうの……」
確か前にテレビで報道されていたような……。
「あぁ、LGBTね」
確かそんな名前だったわ。
それに当てはめると、私はL(レズビアン)って訳ね。
まぁ、まだその可能性が否定できないって所までだけど。
「結局、私自身は今、どうしたいのかしら……」
それを深く思索してみる。
自分の気持ちはどうなのか。
私は、夜伽ノさんの事をどう思って――。
「……いいえ、そうじゃないわ」
私は、夜伽ノさんをどうしたいのだろう――?
しかし。
そんな沈思黙考はごくわずかな短時間で破られた。
「あいた――っ」
目を瞑った拍子に頭に軽い衝撃が加えられる。
ブランコに座ったまま一瞬の痛覚を感じた脳天を押さえ、目を開けた。
「な、なに――」
視界に飛び込んできたのは肯定しがたい光景。
涎をだらしなく流して荒々しい息遣いを繰り返すそれは『犬』――。
薄茶色の毛並みが綺麗なそれは、子供が久しく再会できた親へと向かって走り出すそれとは全く別物の勢いで、私へと目掛けて突進してきていた。
「…………え、ちょ、嘘で――」
女性の急所は意外にもそのふくよかな胸だったりする。
そこにもの凄く強力な衝撃があれば呼吸困難などではない――即死の可能性だって多いにありえる。
女性が身に付けるブラジャーの本来の役割って実は一種の防御壁。
その効果があったのかなかったのか。
胸囲に強烈なダメージと同時、私の視界は真っ暗になった。
ーーーーーーーーーーーーー
「本っっっ当にすみませんでしたぁ!!」
「だからもういいって言ってるじゃない。お詫びのジュースまでもらっちゃった訳だし、別に責めたりしないわよ」
そう言いながら先程に手渡された冷たい缶ジュースに一口つける。
スッ、と。流されていた汗が一気に引いたような涼しさが感じられた。
同じ公園の中、ブランコから移動してベンチに座る。
私の隣にはついさっき私に激突してきた犬の飼い主である少女が座っていた。
見た所、私よりいくつか年下だと思う。
「けどまさか、おっぱいを犬に触られるとは予想もしてなかったわ」
まぁ、正直な所あれは触るなんて低レベルなものじゃ決してなかったけど……。
顔を俯かせた少女を慰めようと軽く飛ばしたジョークのつもりだったけれど、相変わらずその少女の視線は下方に向いたまま。
「まぁ、そりゃそんなに大きな胸してたら良い的になりそうですけど……」
その少女が何かボソリと言った。
「ん?」
「あっ、いえ! 何でもないですよ何でも! えぇそりゃもの凄く何でもないです!」
……何か変な子。
そう思った。
ちなみにさっきの犬はと言えば、この少女が投げて私の頭に当ててしまったのであろう柔らかいゴムボールを転がして一匹で遊び呆けている。
大丈夫よ、距離は離れているわ。
「あなた、中学生かしら?」
ふと、私は問い掛けてみる。
他人と話すなんて夜伽ノさん以外じゃ久しぶりだと思った。
今の私はクラスメートとは全くと言っていいほど干渉がない。教員とだって必要以上の会話はしないから完全なコミュ症になっているかと思ったけれど……。
あるわよね。同級生とは会話できない癖に下級生となら普通にお喋りできるあれ。
いつか地球人とは交渉できないけど宇宙人となら交渉できるっていう人間が生まれてもおかしくないと思うわ、私。
「あ、はい! 音ノ木坂中学の三年です!」
そしてその少女も、今度は顔を上げて答えてくれた。
「あら、そう。なら私の後輩って訳ね。今じゃ音ノ木坂学院の三年生だけど、私もそこの中学を卒業しているの」
そう言うと、少女は分かり易い反応を示して言う。
「音ノ木坂学院ですか?」
「えぇ、この地域の住人なら知ってるわよね?」
「はい、まぁ……。というか私の姉も、そこに通っているんですよ、二年生ですけどね」
あら、偶然。
と言っても私、学校じゃ親しい知人なんて存在しないから名前なんて知らないけど。
「ならどこかで会った事があるかも。お名前は何て言うの?」
……あれ、どうして私、見栄張ったのかしら。
「あ、すみません。自己紹介がまだでしたね。私は高坂雪穂っていいます。お姉ちゃんは高坂穂乃果って言うんですけど……知ってます?」
と、高坂雪穂とやらは尋ねてくる。
FUFUFU……知っている訳ないじゃない、まったく嫌ね。
……やめましょうこの巫山戯たキャラ。
「あぁ、いえ……初めて聞く名前ね」
「あれ、そうなんですか?」
思わず私の方が首を傾げてしまいそうになった。
なぜかこの高坂雪穂という少女は、私が『高坂穂乃果』という人物をご存知でない事を、少し意外だと感じているような口ぶりをしたから。
「あら……? 有名人なのかしら?」
「いえ、有名というか……少し音ノ木坂では名前が評判だったり~なんて話を聞いていたもので」
そこで初めて、私は焦りを浮かべた。
今まで自分以外のものに興味を示してこなかった私は当然、クラスの連中が会話する中に登場する今時の流行とか最近の出来事については非常に疎い。
私の耳に入ってこない情報なんて多くあるに違いない。
もしかしたら『高坂穂乃果』という人物は、音ノ木坂の中じゃ有名人なのかもしれない。
ならその彼女は何をしたのかしら。
何を持って注目を集めているのかしら。
次期生徒会長候補?
二年の中で特にずば抜けた頭脳を持つ成績優秀者?
学園祭の大一番で何かド派手な事をして一躍儲けた?
……いえ、今年の学園祭はまだだったわね。
「え、えーっと……あなたにお姉さんって、どんな人なのかしら?」
強がっていた事を悟られまいと冷静さを装う事を身体に強要させながら私は尋ねる。
高坂穂乃果の妹、高坂雪穂は特に表情を変化させるでもなく、何か特別な雰囲気を纏わせる事もない様子で口を開く。
「音ノ木坂のスクールアイドルをしているんです」
――けど、聞かされた内容は予想の壁を遥かに超越していたかのように感じられた。
そんな『気のせい』は一瞬で消し去れたが、現実と認識するのにやや抵抗があったかのように感じた。
でも――。
「スクール……アイドル……」
「はいっ。音ノ木坂じゃ結構評判らしいですよ? ネットに上げられた動画だって好評を集めていますし、今も活動しています」
ふと、高坂雪穂は不思議そうに私を見た。
「ご存知じゃないですか? あ、スクールアイドルは知ってますよね」
もう体裁を気にする事すらなかった。
その単語を聞いただけで、自分の中のトリガーとなる部分に力が込められたような感覚を覚える。
「えぇ……知ってるわよ」
知っている。
私はそれを知っていた。
矢澤にこ。
彼女が新しいメンバーで再び音ノ木坂学院でスクールアイドル活動を始めた事も。
そのグループの名前が『μ's』とかいうものだって事も。
私は――知っていた。
「そう、お姉さん……μ'sの一員なのね」
「あっ、なぁんだやっぱり知ってるじゃないですか、μ'sのこと!」
そう。
私はμ'sという名前は知っている。
でもそれだけ。
後の事は興味がなかった。
廊下でお喋りする同級生がその話題について話していたのを通り際に小耳に挟んだだけ。
一人一人のメンバーの名前にも、その後の矢澤にこの事に関してだって情報を欲したりはしなかった。
関わりたくないと思っていた。
いつもの日常通りに余計なでしゃばりはせず、ただ静寂とした自分だけの空間で学校生活を送っていれば、何の関係も持たずに済むと感じていた。
「久しぶりに聞いたわね、スクールアイドル――いえ、『アイドル』って言葉。ここ二年くらいは耳にしてないと思っていたけれど……」
そうじゃない。
耳に入らないように意識してきた。
無意識下での意識は理性なんかじゃ止められない。
それがやっと自覚できた。
「あ、あの……?」
私の、何かふと変化した雰囲気を察したのか、高坂雪穂が眉を寄せて声を掛けてくる。
「あっと……そういえば私はまだ名前を言ってなかったわね。私は夕霧靜霞っていうの。ねぇ、雪穂ちゃん」
「あ、はい……?」
無意識に彼女を名前で呼んでいた。
その事に彼女も少し困惑したような様子を見せる。
「雪穂ちゃんは、お姉ちゃんに習って音ノ木坂に入学するの?」
「あ~、……どうでしょう。いくらお姉ちゃん達がアイドル活動を頑張っているからと言って、今の音ノ木坂には廃校問題が――」
そこで、高坂雪穂はハッとしたように両手で口を塞いだ。
私は一瞬その行為の意味が分からなかったが、すぐに察せた。
「ご、ごめんなさ――」
「いえ、いいのよ事実なのだから。今の音ノ木坂学院は廃校の危機に直面している。だから音ノ木坂学院への入学はまだ躊躇っているんでしょ?」
言葉に、高坂雪穂はまだ遠慮がちにだけど素直に頷いた。
「私のお母さんもお姉ちゃんも音ノ木坂学院の生徒だったから、正直な所じゃ私も同じ学校に通いたいって思ってるんです。でも、私達が入学すると同時に翌年からの生徒募集を打ち辞めにされて、後輩ができない高校生活を送るっていうのもちょっと……」
「というか、このままいけば音ノ木坂は今年中に新入生募集を打ち切りにするわよ?」
「え?」
「知らなかったの? つまり、あなた達の代が高校に進学する頃には音ノ木坂はすでに一年生がいないって状態になる訳」
「そ、そうなんですか!? お、お姉ちゃん……また嘘ついたな……」
また、そこで、と――。
私は一つ、お勧めをする。
「雪穂ちゃんって、音ノ木坂で何かやりたい事とかある?」
「へ?」
答えを待とうとはしなかった。
期待しないまま私は続ける。
「それがないのだったら、別の方向を目指した方がいいわ。確かに何にも目的を持たないまま高校に入学して、酔生夢死と似たような高校生活を送るのだってアリ。けど雪穂ちゃん、人生に一度しかない高校生活を無意義に過ごすっていうのは嫌でしょう?」
「そ、そりゃまぁ……」
「音ノ木坂は確かに昔からの伝統とか歴史とかがあるけど、今時の生徒からしたら校風が超古臭いって感じなのよ。そもそも私から言わせてもらえば全国の学校で女子校って時点がもう論外。確かに女の子同士で仲良くできるかもしれないけど、華のある女子高生ライフの代名詞でもある彼氏すらできないのよ?」
……久々に見た気がした。
久しぶりに私を見た気がした。
学生の本分は学業である、なんて真っ直ぐな言葉を信念に構えて自分を誤魔化し続ける、その前の自分――夕霧靜霞はいつの事だったか、そんな心情を必ずどこかしらで持っていた。
前の私が口と喉を動かしている。
隣の高坂雪穂はすでに困窮一歩手前の所まで追い込まれた表情だった。
「い、いいんですか? 自分の母校をそんな悪く言っちゃって……」
「自分の母校だからこそよ。話した事すらない相手に向かって『あいつはキモいんだ』なんて陰口を叩ける? 多少は理解していないと抵抗があるでしょ、度を過ぎた愚か者でない限りね。私は音ノ木坂学院を実際に目で見て、肌に感じてきたからそう言えるのよ」
これは『嘘』。
音ノ木坂学院は何にも悪くない。
人との付き合いが苦手な――そもそもそれ事態を否定してしまった自分が悪い。
自分も相当な愚か者という訳ね――。
「そう、ですか……」
……少し、言い過ぎたかもしれない。
また自分の悪い癖が出てしまった。
何かの核心に触れられるとコントロールが制御できなくなって、感情や言葉が脳の命令を無視して作動する。
夜伽ノさんの件でも、失敗したというのに――。
「……でも、夕霧さん」
萎んだ声や細められた瞳が、高坂雪穂から消えた。
「私は、やっぱりそうは思えませんよ」
……?
…………え?
「あ、あら……そう?」
「はい」
高坂雪穂は逆に胸を張って頷いた。
「音ノ木坂学院は、もっと面白くて素晴らしい学校だと私は思います」
「……えっと、だからそれはあなたが音ノ木坂に通った事がないから――」
「それでも分かるんです」
……?
急な展開の変化に頭が追いつけなかった。
さっきまでの様子が一八〇度まるっきり違う彼女の姿にも。
なぜ彼女がそこまで自信ありげにそう言い切れるのかという疑問にも。
なぜなのかという答えが見つからない。
「確かに今時の世代に音ノ木坂の印象に古臭いだとか、伝統だけの学校とか、そんなイメージが植えつけられているのには否定しません」
ですけど、と。
彼女は私の言葉も待たずに続けた。
「私はいつも聞かされているんですよ。お姉ちゃんに、音ノ木坂学院の良い所を」
思わず息を詰まらせた。
音ノ木坂に通う生徒の知り合いが、彼女には確かに存在していた事を、今更になって思い出した。
「いつも口うるさく聞かされるんです。今日は音ノ木坂でこんな所が楽しかった、こんな所が面白かった、意外と見えない所があんなに綺麗だった……とか」
それは私が口にした事のない単語ばかり。
同時に聞き慣れないものでもあった。
「音ノ木坂学院はこんなに良い学校なんだ、だから雪穂もおいでよって、いつも言うんです。たまに晩ご飯の時とかに調子に乗って語りすぎて、お母さんに叱られるくらい」
また、私は思った。
高坂穂乃果とかいう音ノ木坂学院の生徒は、今までどういった環境の中で生活してきたのだろうか、と。
「私のお姉ちゃんはいつも元気ですけど、スクールアイドルを初めてからさらに鬱陶しくなって……何だか今の高校生活が自分の人生の全てなんだーっていうくらい、楽しんでいますよ」
話を聞いただけでは分からない。
高坂穂乃果という人物がどんな性格をして、どんな表情を浮かべて、どんな人達と関係を持っているのか。
羨ましいなどとは思っていない。
ただ現在に隣に座る高坂雪穂は、姉の高坂穂乃果によって音ノ木坂学院に何かしらの魅力を感じているのかもしれない。
輝かしい高校ライフを送る姉に羨望の目を向けているのかもしれない。
なら……私がその領域を犯していい理由はどこにあったんだろう――?
「……そう」
短くそう答えた。
これ以上、高坂雪穂の顔を真正面から見ていられないような罪悪感があった。
「そういえば……」
思い出したように顎に指を当てて言い出す彼女。
今度は何かと耳だけを傾けた。
「そういえばお姉ちゃん、前に新しくμ'sのマネージャーが三年生でできたって話を――って、ちょお!?!?」
いきなり、高坂雪穂が声を上げた。
驚いて耳を塞いだ後、私が目にした光景はきっと彼女と同じもの。
彼女が連れていたあの犬が、砂場で遊んでいた子供達からひったくった玩具を咥えて公園の外に飛び出していた。
「ちょっ、何やってんのさー!! あ、すみません夕霧さん! いきなりですけど失礼します!!」
そう言って軽いお辞儀を済ますと、高坂雪穂は「こらー!!」と両手を上げて飼い犬を追いかけていった。
「……ふぅ」
そんな彼女の遠くなっていく背中を見つめながら、私は目を細める。
「スクールアイドルのマネージャー、ねぇ……」
そんな事を彼女は言っていた。
ふと思う。
それは口に出ていた。
「あの自己中心的な矢澤にこ、それにきっと天真爛漫で鬱陶しいと妹に言われる程の高坂穂乃果のいるメンバーをまとめるのは大変そうね、マネージャーさん」
飲んだ缶ジュースは少し、温くなっていた。
今回も最後まで読んでくれてありがとうございます!
さて、今回のお話は高坂雪穂ちゃん初出演だった訳ですが、いかがでしたでしょうか?
絢瀬亜里沙ちゃんは無事に出演できたけど、相棒の雪穂ちゃんの参上シーンはどうしようかと迷った挙げ句のコレでした。
もしかしたら口調などに違和感が感じられたりするかもしれませんが、その点のご指摘なども是非、お願いします。
そして今回の夕霧靜霞――あっはっはっ、彼女は色々と苦労しそうです。
過去にトラウマと言ってましたが、それは後々となって明らかにしていこうと思います。
それでは、次話の本編もよろしくお願いします!
……さ~て、映画三回目は一人で見に行ってみるかな(^o^)